高値の華

高値の華

結構前の話なので、今は無い場所や営業時間など多々、古い事が多いです。
法律的には問題がある物も多々あります。あくまでフィクションとして閲覧下さい。
不快になったりするようでしたら、読むのを中止して下さい。

歓楽街

歓楽街

時代の流れは、川の激流のごとく速い。

新宿歌舞伎町。

いつの間にか現れたゴジラ。

そこには、もう、コマ劇場という姿も形も跡形も無く消えてしまった。

形あるモノは、いつか消えて無くなってしまう。

この歌舞伎町という不確かな街に、確かなモノなんてあったのだろうか。

私の名前はァミ。

キャバクラ嬢だった。

この街を離れてから、意図的にかな。
近寄りたくなかった。

私の中で栞を挟む事無く閉じてしまった厚くも薄くも無いアルバムの様な本は、目につかない暗くて深い場所に大切にしまってあった。

それが私にとっての、この場所での記録だったのかもしれない。

歌舞伎町には、夢があった。

年齢も性別も学歴も不問。

自分の身一つで、どこまで上に上がれるか。
腕試しが出来る場所の一つの様に思えた。

金の雨が降る。

それがアジア一の歓楽街。歌舞伎町だ。

I am

小さな頃から、女優になりたかった私は、ある時気付いてしまった。

芸能界という特別な世界で生きていく事の厳しさを。

私には特別優れた容姿は無い。それは芸能人としてはという事だ。

そこらの子に芸能人は務まらない。だから諦めた。
テレビから目を背ける様になり、夢から覚めた私は夢が見れない退屈さから、新たに夢を見られる場所を探した。

そんな時、非日常の様に見える歌舞伎町に私は心を鷲掴みにされた。

だってさ、夢から覚めた平凡な毎日に飽き飽きしてたんだよ。

金の雨が降る街、歌舞伎町。

キラキラ光るネオンに誘われるように、吸い込まれて行った、あの頃。

欲しい物があったからでも無い。

チヤホヤされたかった訳でもない。

お金が無かった訳でも、お金が欲しかった訳でも無い。

ただ、私は、ナンバーワンになりたかった。


何かの特別になりたかった。

誰かに必要とされたかったのかもしれない。

いや、夢を見たかったんだ、諦めない夢を。


そんな私は18歳の春。夜の世界に足を踏み入れた。

ペンと剣

あれから何年が経ったのだろう…

夜の世界から足を洗い、新しい世界へと進出したんだ。


走り続けて二年が経ち、久しぶりに友人のカノンと西麻布のBARで語っていた。


「うちらも大人になったよなー。

色々あったけどさ、なんかあの時は若かったよね。
久しぶりに振り返りキャンペーンでもするべ!!」


相変わらずカノンは酒が強くて、なかなか酔わない。

でも、こんな風に今でも酒を飲めるなんて、最高だなんて思ったりもした。

「よっしゃ~!行こうぜ!行こうぜ!

クレイジーコンビの復活祭だ!!まだ時間も早いし!」

西麻布の交差点でタクシーを止めて歌舞伎町に向かう私達は、なんだか新鮮で久しぶりの事にテンションが上がった。


歌舞伎町に着くと相変わらず胡散臭い街だな~とか思いながらも、やはり、この空気感は最高だとも思う。

でも再び過去に戻りたいとは思わない。


不思議だな…


月日が人を変えたのだろうか…

歌舞伎町を散策しながらフと思いたつ…


自分では後悔していないと言い聞かせて来たけれど、本当は過去から逃げていた私。


久しぶりに来た歌舞伎町は、新鮮で私が、この街で存在していた事すら夢だったかの様に思うくらい時の流れは早かった。


だからこそ…


全てを振り返って、過去の自分と向き合おう。


自己満足でも良い。

あの時の私と、もう一度出逢いたくなった。


そして、私はペンを取る事にしようと思った。


剣の様にカッコ良いペンではなく、全ての自分と向き合う為のペンを取った。

「ねぇ、アミさ、うちチョット知り合いのBAR行きたいんだが良い?」


「あ、二、三時間別行動しない?

久しぶりでさ、行きたい所ありすぎるから、後程合流しね?」


カノンは快くokしてくれて私達はミスタードーナツの前で一瞬だけ解散する事にした。

月と太陽

私は特に宛もなくフラフラと歩いた。


私の生きてきた全てが歌舞伎町だった、あの頃…


気付けば私は、自分がバイトしていたカラオケ店の前にたどり着いていた。


高校生の頃バイトしてたっけ…


そのまま卒業までバイトして、大学卒業まで続けたりしてたら今とは何か変わってたかな?

何年も前すぎて、知ってる従業員なんて、居やしないや…

私は再び区役所通りへと戻った。

深夜まで営業しているカフェアヤの前に着くと、カフェアヤは無くなっていた。
久しぶりにオバチャンが、いないか覗いてみようと思ったけど、いつも他愛のない会話や愚痴を話していた金髪のオバチャンの姿はなかった。

当たり前だ。お店が閉店してしまって無いのだから。

でも確かに時代の流れは変わって居る事を身を持って実感した。


仕方なく別のカフェに入りアィスティーを頼み、窓際の席に腰掛けた。


道行く人を目で追いながら暫くの間、私はボーッとしている。

窓の外から驚いて私に向かって手を振る男の人が居た。

私がカラオケでバイトしていた頃から仲良くしてくれていた他店の石本だった。
思わず飲み物をかたして、外に出た。


「久しぶりじゃん!!また働き始めた?」

相変わらず変わらない彼は歌舞伎町という町に居る時間は、若いのに、きっと長い。

「ううん。久しぶりに来てみただけ!皆、元気?」


キャッチのメンバーは、あまり変わっていないらしい。


なんて定着率が良いんだろう。

きっと、あのマネージャーが良い人だから定着率が良い所もある気がしたよ。

「そういえばさー、たこ焼き屋のオジサンまた戻って来てたよ!

ァミ仲良かっただろ?久しぶりに顔出したら、きっと喜ぶよ!

じゃ、俺仕事だから、また適当に連絡して!」


この緩い感じが私は大好きだ。


この人は変わらない。


何年歌舞伎町に居たとしても、彼らしく年を重ねるであろう。


そんな風に思うよ。


私は石本君に手を振り歩き始めた。


おじちゃんに会うのは、どれくらいぶりだろう…


沢山話したい事あるな…

たこ焼き屋に向かう途中、懐かしい後ろ姿を発見した。

それは…
とてもとても懐かしい後ろ姿だった。

襟足長めに控えめに盛った髪…

身体のラインが綺麗に見える、あのスーツ…


間違いない…


私は彼の後を急いで追った…

見失わない様に人混みを掻き分けて…


ドンキホーテを曲がりセントラルの真ん中で、やっと、その男は止まった。


息を切らしながら、私は後ろ姿の彼に話しかけた…


「ハル…どうして、ここに…」


振り返った彼を見て、私は驚いた。


恥ずかしい事に人違いだったんだ…


「すいま…せん…間違えました…」


キマズさ満載すぎ。マジで。


「俺、ハルって名前じゃないけど、その担当より楽しませられる自信あるよ?

どう?初回来ない?」


担当…か…


ふざけんなよ。


何が初回だし。正面から見るとハルとは一ミリも似てない。


似ても似つかなかった。

「あー、遠慮しとく!私にとってハル以上の担当は居ないからさ!」


担当と口に出し胸が苦しくなり、今は無きデカマックの路地に逃げこんだ。


そして私は、涙で前が見えなくなっていた…


この街を、懐かしむには少し早かったのかもしれない…

立ち上がれない…


まだ立ち上がれないんだ…

ハル…逢いたいよ…


私には、やっぱりアナタしか居ないんだよ…


泣くな自分。歯をクイシバって立ち上がれ…


私は強いから大丈夫…


気付けばアイネという友達に電話をかけていた。


「お客様がおかけになった電話番号は現在つかわれて…」


"プチッ"


私は電源ごと落とした。


分かってる…


分かってるよ…


繋がらない事…


分かってるけど、かけちゃうんだよ…


私は地面に座り込み動けなくて…

涙が止まらなくて苦しくなった…


「ちょっ…ちょっとアミ!どうしたっての!」

顔を上げると、そこにはカノンが心配そうに私を見つめていた。


「ハルが居て…うぅ…でも別の人で…アイネに電話したら繋がらなくて…分かってたるけどアイネの声が聞きたくなって…

でも…でももう…

カノン…うち全然ダメだ…
きっと何一つ変われてない気がする…

もう、無理だよ…

もう無理かも…」


どうして、この街は、私を狂わせるのだろう…


どうして、こんなに思い出が詰まった宝箱みたいなのだろう…

浦島太郎みたいに年老いて驚いても構わない…


戻りたいよ…


七年前に…


「とりあえず、何処か入ろう?

うちらには、まだ早すぎたのかな…

歌舞伎町に遊びに来る事…」


私は、なんとか立ち上がりマスカラで、ぐちゃぐちゃの顔をハンカチで拭き、ゆっくり歩き始めた。


「デカマック…無くなっちゃったね…

ここでバレンタインの日…偶然カノンと会ったよね…
ハハ…あれマジで気まづかったし…

私制服だったしね。」


フラフラと歩きながら、花道通りを抜け、お店を探していたはずなのに私達がたどり着いたのは、たこ焼き屋の、おじちゃんの所だった…

「おじちゃん…アミとカノンだよ!
久しぶり覚えてる?

石本君に、おじちゃんの復活聞いて、思わず来ちゃった…」


このオジチャンとは、五年ぶりの再会だった。


そう。私が二十歳の時、オジチャンは薬物と屋台を出すのに許可を取っていなかったらしくて逮捕され、五年程塀の中に居た事は風の噂で聞いた。


オジチャン…


五年ぶりに見たオジチャンは、オジイチャンに変わっていたよ。


「娘達よ…会いたかった…まさか、また会えるなんて…」


五年の月日が経ったはずなのに不思議だな、今ここの空間はまるで七、八年前にタイムスリップしたような感じなのだ…


太陽は、とっくに消え、とても綺麗な満月の夜、私は過去への旅に出る事にした。

「私の話、長くなるけど聞いてくれる?

カノンにも…全て聞いて欲しいの…」

アミ18歳

「ごきげんよう」決まってこの挨拶の女子校。


自由きままなお嬢様達との庭園で食べる、お弁当。

お弁当に飽きた翌週は学校のカフェテリアでランチを楽しむ。


放課後はカフェテリアで、デザートを楽しむ。


そんな平凡な毎日が当たり前とされる学校で私だけはカラーが違う。


それが私だった。


ハッキリ言って、中の上くらいの私立の女子校。

だから別に一流ではない。


私はね、平凡って言葉が大嫌いで、常に非凡で居たかったんだ。


みんなと同じは嫌だ。


でもさ、平凡って一番難しい事なんて、この時は知らなかった。


誕生日を迎え、私は18才になった。


周りにアルバイトなんてしてる子は、ほとんど、いない中で私はカラオケ店でバイトをしながら、18才になる日を待っていたよ。

うちの学校では世の中を知っている方かもしれないが、社会的には世間知らずな事、私は全く気付いていなかったんだ…


この時は…

憧れの蝶々

五月になり、私は誕生日を迎えた。

そう。時は来た。

カラオケ店でのバイトを辞めて、ずっと憧れていたキャバクラ嬢になる気で面接に向かった。

場所は歌舞伎町。

前に、予備校の帰り道、私は、たまたま私服で歌舞伎町を通った時に、歌舞伎町一番街辺りでキャバクラのスカウトを受け、18才になったら連絡すると伝えていて、18才になった、その日に連絡をしていた。

だからスカウトに店の紹介は任せている。

なにせ私は、キャバクラの内情なんて何も知らないからスカウトに任せるのが一番良いと思った。

ドンキホーテ前に着きスカウトマンと合流した。


「条件は、メールで話した通りでokだよね?」


夜の仕事の仕組みなんて良く分からない。


とりあえず私はキャバクラで働きたかった。


平凡な毎日を変え、中学生から興味があった夜の仕事をするんだ。

いつもより濃いメイク。

うちの学校は厳しいから黒髪だけど、春休み明けに黒染めした髪の毛は、色が少し落ちて焦げ茶色くらいにはなっていた。


自分なりのキャバクラのイメージで身なりを整えて面接へと向かう。

区役所通りの付近にあるCLUBルナという店に私は案内された。


白を基調とした店内に硝子張りのVIPルーム。


うん。とっても気に入った。

時間が早かったせいもあってキャストは、まだ出勤してきていない。


簡単な履歴書を書き、面接がスタートされた。


「どうしてキャバクラをやろうとしたんですか?」


面接官の質問に私は目を見て笑顔でハッキリと答えた。

「夜の世界で自分を試したいからです!

そして、やるからにはナンバーワンになりたいからです!

宜しくお願いします!!」

精一杯の自分をアピールした。


私の中で店はドコでも良くて、とにかく働きたい!それ一心だから。


「そしたら、まずは体験入店からしてみようか!!

頑張れば頑張る分だけ稼げる世界だから、自分を試すには良い場所だと思うよ!」


渡された名刺を良く見たら面接官は店長。


急に緊張しはじめてしまった。

体験入店時給は2500円。


私が今までしていたアルバイトの時給は900円。


あまりの差に私はビックリしたよ。


時給の上がり方などの説明を受けて更衣室の鍵を渡され、更衣室がある階に向かう。


入り口までボーイさんは、ついてきて来てくれ、私は更衣室の扉を開く。


「おはようございます!!」


メッチャデカイ声で挨拶した。


だけど凄く空気が重い。

そんな中私は、一人ずつ挨拶と自己紹介をする。

「おはようございます!!今日から入店したァミです!宜しくお願いします!!」


私は深々と頭を下げた。


目の前には足を組み鏡に向かって化粧を直すキツメな雰囲気のキャスト。


私の挨拶に反応はなく、化粧を続ける。



声小さかったかな?


私は、二度程挨拶をしてみた。

三度目の挨拶をしようとした時だった…


長い焦げ茶色の髪の毛がサラリと揺れ、こちらを振り返った。

「あんた…何回も挨拶するなんて根性あるじゃん。
二回も私シカトしているのにさ。

アハハハ。ちょっとミドリ見た今のやりとり?」


…シカト?


やべぇ…マジ怖いんですけど…


「シカトしてたなら言ってくれなきゃ困ります!!
すいません。なんか…私…本当鈍感で…」


完全に恥ずかしくて、穴があったら入りたいよ。マジで。


「サユリ!あんたが、そうやって新人イジメるから新人が続かないんだからね?
全く~こうだからサイトでお局は怖いって言われるんだから…

それも私までセットでお局扱いだし!


あ、ごめんね。自己紹介遅れたはね、私はミドリ!

で、この、お局はサユリ!

怖くないから仲良くしようね!」


おいおい。明らかに怖いだろ。


確かに更衣室内にいるキャスト達はグループに別れているのは確かだが。


しかし…


まてよ。


この二人は、お局セット…

嫌われるのは非常にマズイ。

せっかく入ったキャバの世界…


どうせならトップに立ちたい。


いつだって私は上を目指して生きていきたいから…

いずれかナンバーワンになりたい。


この店のナンバーワンは誰だか分からないけれど、いつか絶対に掴み取りたい。

という事は、周りから固めよう…


敵ばかりの戦は負け戦の確率が高いだろうよ。


ならば出来る限り当たり障りのない味方を作らなくてはいけない。


どんな仕事だって、そうでしょ?

「私、キャバクラ初めてで、迷惑かけてしまうかもしれませんが、良かったら色々教えて下さい!」


私は深々と頭を下げた。

味方が必要だ。


それも強力な。


嫌われるより好かれた方が特だよ。


間違いなくね。


媚びずに生きろって?


私にだってプライドがあるさ。


今はね、ただ、必要のないプライドだけ置いていくだけ。


テッペン目指す為に…

「可愛いね!ミドリ、変な事教えるなよ~!


分からない事があったら何でも聞いて?


私、意地悪だけど、ァミちゃんとは仲良くしよ~。」


私の腕を組みながらハニカム、サユリ。


スーツからでも良く分かる綺麗なクビレのライン。

ストレートな焦げ茶色の髪に気の強そうな瞳。


この女を落としたくて男達は、店に通うだろうね。

だけど、彼女の真似をしたくても私では、きっと無理。


全てが違い過ぎるから…

他愛ない会話をしながらヘアメイクを待ち、生まれて初めてキャバクラのセットをしてもらった。


ハーフアップのカブセ。

たちまち、ただの冴えない黒髪の女子高生から、夜の女へと変わった。


うん。ただ髪型だけね。

「ァミちゃん似合うじゃーん!

でも、なんか初々しい!

女子高生みたい~。

な訳ないか~。」


返す言葉が見当たらなかったので笑顔でスルー。


ドライブスルー。


と心の声が頭に流れ、なぜだか笑いそうになる私。

マジでバカ。

店の中に戻り、入店説明を受ける。


水割りの作り方、灰皿の交換のタイミング。


全てが初めてで私は夢中で話を聞く。


もっと教えてよ…


私の頭に経験値、刻み込ませてくれ。


ヘルプの、つき方、必要な持ち物、シッカリと説明してくれた。


心地良く流れるBGM…


とうとう私は夜の蝶々になる…


華麗に飛び回ってやるよ!

蛾が蝶に変わる瞬間を…


誰にも何も言わせない様なトップになってみせる。

昇る背中

入店説明が終わり、早速指名なし、フリーという席に案内された。


「本日入店のァミさんでーす!」


膝をカクリとする。


ニールダウンというらしい。


綺麗に見せる挨拶。


ぎこちなくニールダウンをして席に座る。


「珍しいね~!黒髪なんてねー。」


好きで黒髪な訳じゃないんだけどねー。


初めて着いた席は50代前半のスーツを着た男。

「今日入ったばかりで、至らない所もあるかもしれませんが、宜しくお願いします!!」


これはマジな話だから仕方ない。


どう背伸びしたって所詮は新人。


プロには程遠い。


だけど、新人には新人の良さがあり、プロにはプロの良さがあるはず。


私なりに今出来る接客をやるだけ。

絶対に指名に変えてみせる!

他愛ない会話をしながら時間は過ぎ私はボーイに呼ばれ、私は、オジサンの携帯番号をGETした。


私は待機席に戻り、今ついた客を観察してみた。


私の後についたのは、栗色のセミロングの可愛い系の女の人。


確かに容姿は悪くない。

いや、むしろ可愛い。


更衣室では会わなかった人だ。


だから挨拶は、まだしていない。


客の顔を見ると非常に楽しそうに見える。


私が、ついていた時より数千倍。

クソ…


スキルの差を身を持って知らされる。


だてに年食ってないってか?


私より多分10才は違うであろう、あの彼女。


笑顔が田舎臭く見えるよ。

決して東京育ちには見えない、あの感じ。


別に地方出身者をバカにしてる訳じゃないよ…


ただの私の…


負け惜しみだ。

年齢が違うからなんて言い訳は必要ない。


この世界、学歴、年齢、前職不問。


自分の腕一つで、落ちこぼれにも、勝ち組にもなれるはず。

時間が来たのだろう。


ボーイは私と同じ様に、彼女を呼んだ。


客は名残惜しそうな顔をし、すぐにボーイを呼んだ。

「彼女を場内で!」


場内指名というやつか…


あの20分で、あの客に、あんな顔をさせる彼女は、どんな会話をしたのだろうか…


私は、それに比べて…


何軒目ですか?

仕事帰りですか?

今日天気悪いですね?

良くキャバクラとか行くんですか?


こんな事情聴取みたいな質問を投げかけるくらいしか出来なかったよ。


クサレな会話しかしてない。


初めてだから仕方ないと言えば、それまでの事だけどさ、店に来る客には、体入であろうが、プロであろうが関係ないんだよ。


ここで出会う以上、働いた長さなんて関係なく、キャバ嬢なのだから。

平日という事もあり、店は、暇だ。

客の数よりもキャストの数のが明らかに多い。

携帯をいじりながら、隣に座るキャストと会話が盛り上がるキャバ嬢や、ひたすらホストのサイトを夢中で検索するキャスト。

今更必死に客にメールをするキャスト。

待機してるキャバ嬢は、決して見本にはならない事が良く分かる。

間違いなく悪い見本。

サユリさんも、ミドリさんも指名客であろう客と笑顔で話している。

出来るキャストと出来ないキャストでは、一目瞭然なんだね。

私は、場内指名された、あの彼女を見続けた。

彼女は売れてるのか?それとも、たまたま指名されたのかが気になったから。

時間が経つにつれて、次々と客が入店してくる。


やはり22時過ぎが一番混むのかね?

「ァミさん!ハルカさんご指名二名様のフリーつきます!」

早口で何言ってんだ?もっと、ゆっくり話せよ!と言いたかったが、そこは、グッと我慢。


ハルカさんご指名、フリーというのは聞き取れた、私は、フリーにつくのだろう。

だから名刺を渡してOKって事だ!

ハルカさん指名か…

ってかハルカって誰だし。

とりま、この店で名前覚えたのは、ミドリとサユリだけだっつーの!

「新人のァミさんでーす!!」

テンション高めにボーイが私の紹介をする。

私は教えられた通りのニールダウンをして挨拶をして席についた。

「うわっ!あか抜けねー田舎のネェちゃん来たなぁ!


化粧も薄いし、かろうじて髪型だけは良いけど…


そこらのあか抜けない女子高生連れて来ちゃいましたって感じか?」


あ…あ…あか抜けないって…


それも二回も言わなくたって良いだろーが。


私は東京生まれの東京育ち!


こう見えても小学校から私立なんだけど?


「そんな本当の事言ったら可哀想じゃない!!

あ、お酒飲める?

若そうだし、ソフトドリンクだけにする?」

なにこのバカにした、フォローになってないフォロー。

睨み付けようとした先には、さっきの場内指名を貰っていた女が微笑んでいた。

オメーさんがハルカか。

ほーほーほー。

言ってくれるじゃん。

本当の事言ったら可哀想ですって?

笑わせるなよ。

お前の生まれ育った街の名を言ってみろよ。

お前の生い立ち言ってみろよ。

私は怒りで手が震えた。

「いえ、お酒、いくらでも飲めますから大丈夫です!」

本当は酒なんて鼻くそくらい飲んでも酔っぱらうよ。

でもね、私にだって私なりのプライドがある。

これは捨てる訳にはいかないんだよ。

氷が足りなくなってハルカが背を向けて手を、あげた。

うわっ…この女、あっち系の人の女?

彼女の背中には綺麗な昇り龍が刻まれていた。

その龍が昇る背中…


お前の根性や生きざまの現れか?


私には、昇り龍を刻む勇気なんて、きっとない。


だけど、今の怒りをブツケル矛先は、アンタなんかじゃない。


自分だ。


私はさ、昇り龍を刻む気なんか、さらさらないけど、アンタの位置まで昇りつめてあげる。


アンタの背中の龍よりも高い位置まで昇りつめる。


その時のアンタの顔を見る為だけに私、どんな事だってしてやるよ。


目に物をみせてやる。


頑張れ俺。


負けてたまるか。

キャバ嬢らしく

見た目は中身。良く中学の頃私の学年主任の先生が言っていた言葉。

見た目を派手にすれば、いくら中身が良くてもイメージが悪い。

見た目を派手にしなくても中身で勝負出来る人間になって欲しい。

先生は良く私に、そうやって話してくれた。

どんなに外れた事をしても、彼女は、親の次くらいに私を信じようとしてくれていた人だった。

そんな事を突然どうして思い出したかって?

見た目は中身という事が必要だなと感じたからなんだ。

見た目が良ければ良い訳じゃない。

キャバクラ嬢は綺麗だけで成り上がれる訳ではない。

そんなんドコの世界だって一緒だと思う。

綺麗でも仕事の成績が悪ければ、ただの置物だからね。

そんな置物を必要とするのは、少ないだろうけど…

まぁ、ゼロではないはず。

でも思わない?

同じ飲むなら話上手な見てくれが良い女の方が良いって。

綺麗だけが良い訳じゃないっていうのは悲しいブスの遠吠えとしか私には思えないね。

私は別にブスでも綺麗でもないけど、自信はあるよ。

自分にね。

だけど気付いたんだ。

右に習えは大嫌いだけど、ほんの少し取り入れる事が必要だという事を。

悔しいけど仕方ない。

ナンバーワンになれば、ある程度許される何かがあるはず。

その時に本当の自分らしさを出していけば良いのだから…

体験入店をしてから、昼職を落ち着かせたいと適当な言い訳をして夏休みから働く事になった私。

夏休みになれば髪の毛が染められる。

髪の毛を染めて、メイクの勉強すれば、なんとか朱に交わる事が出来る。

私自身、黒髪が似合わない事を良く分かってるから、体験入店以来、容姿的に少し自信がなくなっていたから、好きな髪型にしてみようと思った。

終業式が終わり、私は美容院に向かった。

そして、キャラメルブラウンに髪の毛の色を変えてエクステをつけた。

うん…なんだか、とっても良い!!

ただ問題点は、少しポッチャリな所。

まぁ、これは仕方ない。

徐々にダイエットしよう。

そして、帰りにドンキホーテに寄り、久しぶりにツケマツゲを購入した。

これで完璧!!

後は明日を待つだけ。

翌日、私は気合いを入れてメイクをした。

私のマツゲは元から短い。

それに魔法をかけるべくツケマツゲ。

アイラインは濃すぎない程度にひく。

下マツゲは、しっかりとマスカラを塗る。

うん!なかなかメイク濃くなってきたよ!

雑誌片手にメイクをして、なんとか完成。

よし、後は着替えればOK!

ダメだ。リビングに忘れ物をした!

私は急いでリビングへ。

「おい!ァミ!そんな飲み屋の、お姉ちゃんみたいな格好して、ドコに行くんだ!!

それに、髪の毛まで、また染めて!

お父さん、もう知らないぞ!全く。」

うわぁ。非常に面倒臭い…

「大丈夫だよ!真面目にしてるから~!!

それに、カラオケのバイトだから!」

まさか、キャバクラのバイトなんて言えないでしょう!?

一応、一人っ子だしさ。

私は、とっととリビングを後にして家を出た。

少しは変われたかな?

ドキドキしながら歌舞伎町に向かう。

今日は美容院でセットしていこう。

待つの嫌だし…

気合い入れて盛ろう!!

私は美容院に行き、巻き下ろしにしてもらう事にした。

セットが完了した私の姿は誰が見てもキャバクラ嬢だと分かる姿へと変わっていたんだ。

これで良し!私は笑顔で美容院を出た。

「おはようございます!!今日から宜しくお願いします!」

「え??ァミちゃん??うわー!

なんだか別人みたいだぁ!!

来てくれて嬉しいよ!今日から宜しくね!」

やっぱり…

多少流れに従うのは、有りだった。

見た目も大事な部分もあるよね。

最後は中身としても!

それから更衣室に行き着替えを済ませ、フロアに戻った。

サユリさん、ミドリさんは既に同伴で入っていたようだ。

多分、相番でね。

「ァミさん!場内です!」

…場内?お客さんなんて居ないけども…

「今日から本入おめでと~!!

私とミドリの、お気に入りの後輩ちゃんだよん~。」

柄の悪そうな中年の二人は私をマジマジと見た。

「前はドコで働いてたんだ?」

歯…


前歯が無い…

なんて、イカしたオジサマなのかしら。

「あ、いえ、私この店が初めてなんです…」

「あれ?ァミちゃん髪の毛の色もメイクも変えたよね?
そっちのが絶対良いよね!ミドリ~!!」

タバコを片手に私の髪の毛を指差すサユリさん。

「サユリは、下品だぞ!指差すな!」

「うるせーよ!歯抜け!とりあえず飲んどこう?」

さ…サユリさん…歯抜けはマズイですよ…

歯抜けだなんて事実…

指名は使命!

まずは、ヘルプを覚えた。

大嫌いなナンバーワンのハルカのヘルプも、それなりに頑張った。

団体の席につけば、売れてるキャストの仕事を盗もうと思った。

マネだけでは指名が取れない。

良い所を盗み、自分なりのオリジナルに変える。

簡単な事ではないんだ…

毎回違う客と話、気に入られる率は極めて少なかったから。

キャバ嬢=チヤホヤされて、お金が稼げる。

頭のどっかの片隅で、きっと思っていたのかもしれない。

時間が過ぎるのは早いけれど、流れ作業の様にフリーの客に、ついては新しい席に回る。

時にはヘルプにも着く。

私が思っていたキャバ嬢ライフとは明らかに違う。

そんなある日の事だった。

「ァミさんフリー三名様です!一番左側の人で。」

ボーイに案内され席に。

「お邪魔しまーす!!」

私は、いつもの様に笑顔で席についた。

「全然お邪魔なんかじゃないよ~!」

四十代前半の少し気難しそうなオジサンが私の接客する相手だった。

他の二人は多分三十代前半だと思う。

間違いなく、このオジサンが連れてきたのだろう、という事は、大蔵省は、この人だ。

大蔵省につける事はラッキーな事。

少しでも楽しんでもらえる様に頑張ろうと思った。

「私、まだありきたりな話しか出来ないですけど、楽しんで貰えたらなって思います。

改めましてァミです!良かったら、お名前聞いても大丈夫ですか?」

すると、ポケットから名刺を取りだした。

「これ、飲み屋用の名刺!仕事のやつもあるけどとりあえず。」

名刺を見ると、そこには"あなたのハートをキャッチ飯田"

と書いてあった。

うむ。非常にフザケタおじさんだ。

って事は、そんな堅苦しい人ではないのかもね。

「面白いですねー!ってか初めて名刺貰いました!
ありがとうございます!!
凄く嬉しい!」

キャバクラで働いて初めて貰った名刺で私は嬉しくて仕方なかった。

「え?そうなの?じゃ、こんなふざけた名刺じゃ悪いから、これあげるよ!!」

渡された名刺を見る。

"◯×銀行支店長"

銀行の人なんだ…

なんか凄いな…

「支店長って…凄い方なんですね!!」

だって、普段学校じゃ出会えないからさ。

「いやいや、私は、そんな良い身分の人間じゃないよ!

ハハハハ。なんだか君は新鮮な子だ。

気に入ったよ!指名する!」

突然の事で少し混乱したがボーイさんを呼び、場内指名を伝えた。

「私、飯田さんが初めての指名してくれた、お客様です!

ヤッバー。メッチャ嬉しくて鼻血でそう。」

すると飯田さんはケラケラと笑い始めた。

「ァミちゃん、本当に面白い!

変わってる子に久しぶりに会えて、なんだか嬉しいなぁ。
ァミちゃんの事を沢山知りたくなってきたよ!!」

初指名…

ドリンクを頼むのも遠慮して言えなかったけど、初めて取れた指名。

お金を使わせてやるというより、大切にしたいと思った。

「はい!!ご飯とか行きたいです!!

そしたら色々な話とかできるし。」


「そうだね!そしたら同伴しよう。

基本的に、いつ出勤してるんだい?

平日なら合わせられるよ!」

マジかぁ…

チョットチョット…

なんかラッキーな展開すぎてビビるー。

「来週の月曜日とかは、どうですか??」

月曜日。

お客さんが週の初めという事もあるから少ないから、そんな日に同伴するのが良いかなと思った。

「よし!月曜日にしようか。

今日は木曜日だから、もうすぐだね。

名刺にメールアドレス書いてあるから、後でメールしといてね。」

あっという間に時間は過ぎ、飯田さん達は帰って行った。

最初の一歩、出せた気がする。

今日は、キャバクラの仕事を始めて初めて心から笑えた気がした。

高値の華

高値の華

真実の愛を探して歌舞伎町に辿り着いたんだ 私の名前はアミ。 あの頃の私は、世界一幸せで世界一不幸だった。 夜の世界にまみれた私の青い春。 ただ言える事。 あの時の私は、世界一幸せで世界一不幸だった。 最高で最低な君に恋をしたからなのかもしれない。 だけど君に出逢えてボクは幸せでした。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-08-16

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  1. 歓楽街
  2. I am
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  5. アミ18歳
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