*星空文庫

くる、くる、マワレ、空想のチョーク

らっきょ太郎 作

消失モノ四つのお話

 白いチョーク。

 息を止める事は苦しい。でも息を吸い続ける事はもっと苦しい。どうして無重力に浮かぶ、お月様は、あんなにも輝いているのだろうか? 吸う事も吐く事もできない意思の中に何が彼をあんなにも輝かせるのだろうかと思った。と、私の隣に居た一人が言った。
「あいつって一人で光る事は出来ない癖に、照らすのは上手だよね。太陽はきっと分け与えているんだ。朝と昼は主人公だから夜はステージを譲るんだ。それで、コアのファンが夜中にこっそり起きてさ、望遠鏡のレンズをキリキリと調整して覗く。お月様がゆっくり、吸って、吐いて、また吸う努力をね」
 明確な匂いは無かった。でも些細な明確さはあった。それで私は息を吸い続ける事を許された。

 地理のテストが終わり、クラスメイト達は弁当の蓋を開けて中に入っているウィンナーをフォークで突き刺していた。私はお腹が空いていないので椅子に座ったまま、頬杖をついて瞼の裏を見ていた。鼻の奥には、ある種の油の匂いと家庭的な母の匂いが入り込む。私は一つも望んでいないのにその匂い達はノックする。それで思った。
この数十分の休みの時間は腹を満たすだけの時間であり、テストの結果はあれがダメだったとか、午後の国語のテストに向けての対策を練るとか、そんなモノは、このお昼ご飯と全く持って関連性のない無駄なものなのだ。それで私は目を開いた。久しぶりに目を開く感覚だった。何故かと言うなら、地理のテストの途中から目を閉じて今回の失態に反省していたわけであり、まぁ、今更反省しても仕方がない、私は親指姫の様に身体中を小さくして机から立ち上がった。取りあえず現実逃避。
 教室は騒がしかった。ほぐれた感情は熱帯の魚。を連想させた。なんとなしに黒板に歩いて近づく。意味はない。ただそこに張り付けられたポスターを見たくなったのだ。ポスターは何枚か張り付けられていた。部活募集とか、カメの飼育誰かお願い済ます! とか、モグラたたき大会実施とか、腕時計の忘れ物、教員室にてあり、とかそんなもので、どうでもいい情報が紙を媒体としてあった。だが、私にも分からない何かを吸ったのだ。一つの鍵を感じ取ったのだ。まるで方位磁石に導かれた旅人である。私はその中にある一枚のポスターに興味を持っていた。
『フォトコンテスト募集』
 どうやら、写真を撮って応募するコンテストの応募要項のポスターらしく、私はそれに書かれている内容を読もうとした。
「空梅雨さん、写真するの?」
セキセイインコ。が鳴いた様な声が私の隣から聞こえた。そでれ、パッと声の主を見た。所謂、美しい人が私の顔を覗き、ニッコリと笑っている。偽りのない笑う顔は水面に映ったとしても歪まないと思った。それほどに彼女の口元を上げる笑みは私の心臓を捉えるもので、拒むことはできない。しかし答える事は難しかった。私は眉一つ動かさずに「いや、私は必要以上に写真を撮る人ではないわ」と答えた。
「でも」美しい人は何か言いたそうに舌を動かす。
「でも?」私は反応を示した。
「勝手に思っただけどね。凄く、楽しそうに見ていたの空梅雨さん。そのポスターの事。それでアタシは思ったの、多分。何かを撮りたいって思ったんでしょ? 空梅雨さんは?」
「どうして私に質問をするの? 尾中さん?」
 尾中成美。このクラスの私的に見た一番の美しい人である。
「質問するの? ですって? だって気になったから」と言い続けて「アタシね、写真を撮ることが好きなの」と言った。
「尾中さんが? 写真が趣味だって言うの? 意外だわ」
「どういう意味よ?」
「だって私、貴方みたいな人は洒落た服を着て、洒落た街に行って、洒落た友人たちと一緒に遊び、家に帰って寝るだけの人だって思っていたから」
「空梅雨さんって失礼な事を言うのね、まるでアタシが遊び人のチャランポランの馬鹿な奴って認識しているみたい」
「みたいじゃなくて、私はそう認識しているの貴方たちの事。いいえ違うわね。もっと言えばこのクラス中の奴等なんて色のついた風船よ。適当に膨らませて浮ついて、ちょっと軽く針で刺すだけでポン! って破裂して消えるの」
「つまり、空梅雨さんが言いたいのは、アタシたちが中身のない風船でフワフワって好きなように風に流されるロクデナシって言いたいのね」
 彼女は私の言葉を解析して楽しそうに笑った。無垢の唇は振動して少しの悪意の欠片もない。少し、少しだけ驚いた。何故なら、私の能弁をまるで、彼女自ら作り出して提供し、プレゼンテーションしているかの様である。
「もしかして、このポスターを掲示したの尾中さん?」
 私がそう言うと彼女は一瞬黙り「もし、そうだと断定するなら空梅雨さんはどうする?」
 答える事が出来なかった。意味が分からなかった。彼女が述べる意味。そして私に構う意味。この二つを巡らせて考えても砂の粒も見いだせなかった。と、此処で「ふふふ。思考なんて虫かごから出さないと何時までたっても、知ることは不可能よ」
 私は困惑する。
「尾中さん。私、貴方がそんな人って今知ったわ」
「そう? でも私は空梅雨さんとなら、最高の写真。最高の一枚の写真を撮れと思っているのよ」
 そう言い、彼女はペラペラと手を振り奥の席で弁当を食べるカラフルな風船たちの元に帰って行った。

 これが一昨日の話である。私は尾中さんに連れられて木陰が沢山ある公園に来ていた。公園には錦鯉が泳ぐ池、錆びた遊具、キャンプの出来る空き地があって、西に向かって歩くと浜辺があって海が見れた。海には小学校低学年の子供たちと親がヤドカリを捕まえていた。
「せっかくの休みなのに、どうして私はこんな虫が多くて日射が注ぐ炎天下の公園にいるのかしら」
「いいじゃない。アタシ、この風景好きよ。芝生とかデイゴの木が生えている場所」
 私は額からポタリと落ちる汗を手の甲で拭いて「写真を撮るなんて一人でやればいいじゃないの、私を呼ぶ必要性がまったくないわ」
「いえ、あるの」
 彼女は一眼レフカメラをグイッと私に向けて言った。
「アタシがシャッターを押す。でも、写真を撮るモノは空梅雨さんが決めなきゃならないの。この意味わかる?」
「わかならいわ」
 彼女は一つ間を置いて述べる。
「空梅雨さんは英語の文章は読める?」
「読めない」
「なら、フランス語は? イタリア語は? 中国語は?」
「読めるわけないでしょ? 私は日本語しか読めないわ」私がそう答えると彼女は「私は日本語と英語は読めるわ、日本語を英語に訳する事も出来る」
「何が言いたいの?」
「つまりね、私は写真を文字として捉えた場合に日本語と英語しか理解できないの。でも空梅雨さんは、もっと捉える事が可能なの。沢山の風景と言う言語が飛び回っている中、空梅雨さんはその文字を読んで意思疎通を取れる。そうするとね、写真の意味が少し変わるの? 少しは理解できたからしら?」
「さっぱり分からないわ」
「要するに空梅雨さんにしか読めない場面をアタシに提供して欲しいわけよ」
 私は深いため息を吐いた。まさか彼女が頭のネジが緩んだ奴だったとは……。家に帰りたくなる。チラリと私は彼女の持つ一眼レフカメラを見ると少々古臭く年季が入っていた。
「その一眼レフ、古っぽいわね」
「そうね。この一眼レフカメラはおじいちゃんから貰ったの。若いうちに色んなモノを取っとけって言われてね」
「ふぅん」
 その後、私と彼女は公園の至る場所を歩いた。池の水面で泳いでいるアヒルや芝生の上に落ちているグローブ。ベンチの下に転がっている松ぼっくり。その様な被写体を見たが決まって「こんなもの、アタシでも読めるわ」とポツリと言う。
 どんよりとした雨雲が私たちの頭上に数分前からソフトクリームの様に作りあがり、湿った風が雨宿りを早くしないさいと、囁き始めた。
「ねぇ、向こうの東屋に行かない? 大雨が降ると思う」
 彼女は私の顔を見て黙って首を縦に振った。
 赤い煉瓦が屋根に積まれて柱と梁は打ち放しのコンクリートであった。私たちがその東屋に到着すると、雨雲は封を切って重たい粒を落とし始めた。
「丁度良く到着できて良かったわね」私が言うと彼女は静かに黙っていて反応を示さない。
「なに? なんか嫌な事でもあったわけ?」
 そう私が言うと「嫌な事? 別に」と答えながらも「空梅雨さんは真剣に探しているの?」
「写真の被写体? 探しているわよ」
「なら、どうしてそんなに余裕なの? なんか適当にそこに落ちている空き缶でも写せばいいじゃない? とか思っていない?」
 彼女の目は真剣だった。あの教室で見たニコヤカな笑顔はなかった。
「真剣に? 一緒に探したでしょ? 今日は日が悪いだけじゃないかしら、尾中さんが求めている風景が此処には存在しなかったわけで」
「違う」
「違う?」
「アタシが求める風景じゃないの、空梅雨さんが求めるソレラがアタシは求めているの」
 そう言ってトーンの低い声で「アタシは線文字Aもクレタ聖刻文字もオルメカ文字も読めないの。読める癖に読もうとしない空梅雨さん、ムカつくわ」
 彼女はこの様に述べた後に雨が降る中、そっぽを向いて東屋を去って行った。私は彼女の色が濃くなっていく服を見つめながら「未確認生物って本当にいるんだ……」と言った。

 数日が過ぎて教室の奥に居るカラフルな風船達と彼女は変わらず浮ついていた。そして彼女は私に近づくことも無かった。勿論、私はその方がずっと静かでよかった。いつもの通り、美しい人で笑う彼女であるから、この前、二人で行った公園の事は蜃気楼かの様に幻だったのではないかと思う程である。目の前にある黒板に視線を伸ばす。フォトコンテストのポスターは同じ位置にまだ掲げてあった。写真。私はやはり写真には興味は注がれない。あんなもの履歴書と卒業アルバムの為に用いるだけでいいではないか。私はそう思いながら、無意識に消しゴムをモノサシでゴシゴシと切りつけていた。
 と、その時である。奥の席から「ねぇ、今日の夜、ホタルを見に行かない?」カラフルな風船の一つがそう言った。「ホタル? いいわね。たまには」二つ目の風船が答えた。「良いと思うよ! なら今日の八時にあの池の方に集合しようね」と三つ目の風船が答えた。その中には彼女も含まれていた。どうやら、カラフルな風船たちはホタルと言う、ケツが点滅する虫を見に行くらしい。私自身がこの時に思ったことは「ホタルとかの写真を撮れば良いのではないかしら?」
 加えて、風船たちは何時もよりもフワフワしている様に見えた。個人的見解だが。
 また私はフォトコンテストのポスターを見た。そしてため息を吐いた。まるで私が何かのアクションを起こさなければならないと言う妙な概念が生まれた瞬間であった。
 
 指でフレームを作り、構図を考えてみる。
 サラサラとした風が私の湿った髪の毛を舞い上げた。公園にはポツポツと穏やかな街灯が付き始める。まったく。私が進んで被写体となるモノを探すとは呆れて「物も言えない」と言う。だが、ピンと輝き、私のカンに響く風景が見つからない。暮れる夕日、誰もいないバスケットコート、忘れられたサッカーボール。そんなモノは幾らでもあった。
「空梅雨さんが読むの。彼らが彼女たちが話す言語を捉えて」
 そんな言葉が聞こえてきそうで、私はフフと笑った。私はそこら辺を適当に歩いて進んだ。だが意味のある方向であった。何故なら私がそれを望み、探していたからだ。道を下っていくと池が見えてきた。池の周りは真っ暗で静かだった。再び指でフレームを作り、構図を探した。と、その中にカラフルな色合いが見えた。風船たちだった。
 カラフルな風船たちは恐らくこの池でホタルを探しに来たのであろう。私は少し、気まづく思って、この場から立ち去ろうとした。けれども、嫌な事にカラフルな風船たちの一つが私を見つけたのである。
「あ! 空梅雨さんじゃないの?」
 私は嫌に思った。こいつらに会いたくないと正直に思う。けれども声は不思議と反応した。
「やぁ」
「やぁって、此処で何をしているのよ」
「うん。散歩かな」
「散歩? 嘘だよねソレ」
 風船は少し怒っている様に見えた。
「私が嘘を? どうしてそう言うの」
「だって、尾中が今日は空梅雨さんと写真を撮りに行くって言ってたのよ、この公園で」
「なにそれ? 私、そんな事、言われていないよ」
 私は面食らった。多分この、面食らった表情はカラフルな風船たちにも伝わったらしく、彼女らの疑いの表情も溶けた。
 それでバツの悪い顔に変化して時間がちょっとだけ流れた。
「空梅雨さん。この事を言っていいかはどうかと思うんだけど、尾中の奴、貴方に一目惚れしたの」
「は?」私は言葉の意味を理解できずに声を漏らした。とても品のない声だったと思う。
「この高校の受験の時にね、空梅雨さんの隣に座ったらしくて、その時の貴方、ショートカットで白いシャツに黒いズボンだったでしょ?」
「私の中学校は私服だったからな。適当に服を選んで受験しに行ったわけで」
「それに貴方、不思議と女っぽくないじゃない……見た目じゃない。雰囲気よ、その口調とか物腰とか、それで入学して貴方が女って分かった時の尾中奴、相当落ち込んでいたのよ」
「おいおい、私は生まれた時から女だぞ。そんな勘違いされても……」
「尾中、貴方が男だったらどんなに良かったって、何度も言っていた」
 息を吸う必要が無くなった。無重量が底から這いあがって来た。私は心臓の脈が速くなっている事に気づいた。冷汗が垂れる。それで尾中を探そうと思いこの場から去ろうとした。しかし、カラフルな風船の一人が私の腕を掴んだ。
「……。何をする。私は尾中を探しに行くんだ」
「無理よ。もう二度と彼女とは会えないわ」
「彼女は言っていたでしょ? 私には読めない文字を読んでって、貴方はその彼女の読めない文字をたった今、読んでいるの」
 私は困惑する。一体なにを言っているのだ。この風船たちは?
「私はまだ探していない。彼女が求めている被写体を、風景を、私はそれを探して一緒に写真を撮る」
「だからもう無理よ。貴方はもう二度と彼女に会えない、貴方は私たちと意思疎通をしている。外国語を理解できない彼女。理解できる貴方」
背中に冷たい汗が垂れた。私は一瞬ではあるが、不明な何かを読み取った「私の所為なのか? それは?」私は震える声で質問をした。
「貴方がそれを求めたから。貴方は核心を突くのが上手過ぎたの」
 私はゆっくり深呼吸を行った。息を吐き、息を吸う。でも写真の構図は定まらなかった。

 赤いチョーク。

 磁器質のタイルにスパナが落下して貝の甲羅に亀裂が入る音が響く。頭上を見上げるとベランダから一寸の影が見え、風が吹く様にして姿を消した。もしこのスパナが私の頭に衝突していたなら、と、考えるだけで怖くなった。
「あぶねぇな。もう少しで大怪我だぞ? 謝りの一言も述べないで逃げるとは卑怯な奴だ」
 茶髪で白い襟を立てた、目の下にクマのある男が言った。
 僕は「でも誰にもぶつからなかったから、許してあげようよ」と言うと茶髪の男はため息を深く吐いて「お前のその性格、治した方がいいぞ。絶対に損する」
「昔から言われるよ。お前は甘いってね。でも結局のところ僕は人に対して甘いんじゃないんだ。自分に甘いだけなんだ。人に対して怒るかとか悪感情を抱くとか、そんなモノが怖い臆病者なんだ」
「なら俺が治療してやる」と茶髪の男が言った。
「治療?」
「ああ治療だ」
「最近、妙に物騒な奴がこの学内で悪さをしているらしい。今あった様にスパナを落下させるこの仕業も多分、同一人物だ。そこでだ。そいつを捕まえて懲らしめてやるんだよ。いい年齢を迎えて、悪戯をするバカたれを俺たちが成敗するんだ」
「けども許したくなる気持ちもある。この学校を卒業して働くと、もう、ハメを外すことは決して許されなくなるんだ。学生という皮は薄くて半透明だけども、その薄さが今の僕たちを保護しているんだ。」
「お前はバカだ。そいつの所為で真面目に学問を学んでいる奴らがそいつと同等に見られるんだぞ、この門を超えた先に居る一般人からするとな」
「ここはネバーランド。一定のルールを守っていたらピーターパンは許してくれるのさ」
 そう僕が言うと茶髪の男は不気味な笑みを浮かべた。それは何かスイッチが入った証拠であった。
「お前がそこまで言うなら、こっちは本気で捕まえたくなるじゃないか。よし、俺はこの学内で悪さを働いている奴を縛り上げて、お前に謝らせてるよ。いい加減に諦めて大人になれってな」
 茶髪の男はそう言い放ってスタスタと歩いて先に行ってしまった。
 それで僕は「まさか、本気で探すのか、あいつ。だが、あれは実行に移す勢いだ……」
 僕は余り深く考えない質であるから取りあえず自動販売機に向かって歩き缶コーヒーを買って口に注いで、それから考えた。学内で悪さをする奴が居る。単独。だろうな。僕はどうもこの悪さをする犯人が説教受ける姿が嫌に可哀想に感じた。勿論ではあるが悪いことをする本人が悪い。だが、説教する者が茶髪の男になるとすると、それは僕にとって不快だった。理由はその後にもまた同じ問題が発生すると感じたからだ。僕の直感である。茶髪の男の説教は的を得る事ができないであろう。
 僕は缶コーヒーを飲み干してゴミ箱に投げた。空き缶は縁に当たって地面に転がった。
 まずは情報収集である。僕は人がたくさん集まる食堂に行き、ニヒルな口元で笑う男を探した。この時間だと多分、奴はこの場所で唐揚げとおにぎりを買ってオレンジジュースを飲んでいるであろう。僕はキョロキョロと視線を移して探すと、冷水機の隣に或る席に座る男を見つけた。
「やあ、小町くん」と僕は声をかけた。
 薄い瞼。薄い唇。薄い眉毛。薄い笑顔は僕の声に反応させた。唐揚げを頬張っていたが口に入れること辞めて彼はニヤリとして「これは、これは、赤道くん。貴方が学食に来るなんて珍しいですね? 何時も隣にいる茶髪のガラの悪い男は、今日は一緒ではないんですかい?」
「まあな」と言って「ちょっと小町くんに尋ねてみたい事があってね」
「ふむ、それは何でしょうか?」ニヤニヤと笑う。
「最近、この学内で流行っている悪い悪戯だよ。犯人を僕が捕えたいんだ。それで情報を僕に教えてくれないな。例えば、さ。悪戯の内容とか」
 すると彼は目を大きく開いて「赤道くんが犯人捜し? これは珍しいですな。熱でもあるんじゃないですか? 慣れない事はお止めなった方が……」
「確かに、僕は普段、こんな行動を起こす人物ではないし、それは自分でもよく理解している。でも少し胸騒ぎがするんだ。カンだよ。どうもこの犯人。僕が捕まえたくなるんだ」
「へぇ。カンねぇ。ワタシ的にはカン何てものは一切、信用しない性質の人間ですが……まぁ、赤道くんが何か面白い事を企んでいる事は興味がありますし、ワタシが知っている範囲で教え致しましょう」と言い、彼はオレンジジュースを少し飲んで鼻を鳴らした。その後、結論から言った。
「えぇ、そうですね。この犯人の悪戯と言うのは、折り紙です」
「折り紙?」僕は簡潔に聞き返した。
「そうです。折り紙です。異常の折り紙好きなのです。学内のパソコンの画面を折り鶴にしてみたり、総務課のコピー機の紙を全て使い切って百鶴を作ってみたり、生物学科の花壇をアヤメ、紫陽花、クレチマスに変えてみたり、教授のネクタイを折った紙にすり替えてみたりと、悪事を働くのです」
「それだけ?」僕は唖然して答えた。
「それだけ? いや、いや、まだありますよ、他にも折り紙の悪事はあります」
「違うんだ。僕が予想していた悪戯とは余りにもピントが合わなくて、困ったんだ」
「と言うのは?」ニヒルの彼の顔は一瞬だけ消えて僕に質問をした。
「さっき、此処に来る前にB棟の下を歩いていたんだ。そうしていたら、突然、上の階からスパナが落ちてきたんだ。もう少しで僕たちにぶつかる所だったんだ」
「確かにそれは、流行りの悪戯と全然違いますが……。たまたまでしょう。上の階に居た学生がうっかり手を滑らせてスパナを落としたんでしょう?」
「僕もそう思うよ。小町くんの話を聞いて納得した」
「それで折り紙の犯人は捕まえるのかい?」
 彼は二ヒヒと笑って聞いた。
「いや、捕まえないよ」
 僕はそう答え、小町くんに礼を言って食堂から出た。
 折り紙。スパナ。うん。全く持って関連性がない。ドーナツと除光液くらいに関連性がない。僕は次にスパナが落下してきた位置にある教室を目指して進んだ。僕のカンが働いたのだ。その教室を目指せ。その教室に何か答えがあると。
廊下を歩き、階段を昇り、お目当ての教室のドアに到着した。指をかけてドアを開こうとする。しかし、まったく微動もせず、動かない。鍵がかかっているのだ。どうするか? そう黙ってドアを見つめていると僕の背後から「赤道先輩ですか?」と僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。僕はビクッとなって振り向くと其処には身長が低く、黒髪であって、前髪が水平線に切られた女の子が居た。
「誰? 君? 僕の事を知っているの?」
「知っていますよ? と言うよりも思い出したから、此処に来たんじゃないんですか?」
「思い出す? 一体何をだ?」
 僕が疑問的な発言をすると正体不明の彼女は「まったく、こいつは……」と言って僕を押しどけた。
「鍵は自分が開けるので、赤道先輩は待っていて下さい」と言った。
 正体不明の彼女は胸ポケットから錆びた鍵を取り出して、ガチャガチャと回した後にドアを慣れた手つきで開いた。
「さっ、中に入って下さい。赤道先輩」
 僕は目をパチクリさせて、迷ったが、その教室の中に入る事に決めた。教室の中に入ると机は五つくらい程あり、床には数万枚であろうか、正方形の紙で埋め尽くされている。カッターとハサミ。色とりどりの紙の束。僕はあっけに取られて立ち止まるのであった。
「何を驚いた顔をしているのよ、折り紙を作る為にあるだけでしょうが」
「折り紙? もしかすると、君が最近流行りの、折り紙で迷惑行為をしている主犯格か?」
「私が主犯格?」
 正体不明の彼女はそう言うとケタケタと大声で笑い始めた。
「私が主犯格ですって? 何を馬鹿げた事を言っているんですか? この折り紙の資材を集めまくったのは赤道先輩、貴方ですよ」
 僕は自分の耳を疑った。この正体不明の彼女は今、何と言った? 僕が主犯格だと言ったのか?
「僕がこのふざけた折り紙の主犯格だって? 馬鹿げている」
「どうして馬鹿げていると思うの?」
「僕は折り紙なんて作らないし、僕はこんな悪戯はしない」
「ふぅん」と正体不明の彼女は言い「じゃ、此処に来たのはたまたま、なのね。記憶がホンの少しでも蘇ったと、思ったのじゃないの」
「記憶が蘇る? 意味が分からない」
 僕がそう言うと正体不明の彼女は窓を開いた。風がスゥウと入り込んで紙の束がペラペラと動いた。それから髪を撫で、口を開き話し出した。
「事の発端は赤道耕哉が或る実験中に発見した、角度による反射の記憶の変化。簡単に説明すると、特殊塗料を塗った状況で、色彩がある入射角度から人の眼球に入り込んだ際に脳に影響を与えるの。まぁ、そんな事普通に考えてあり得ないわけ。でも赤道先輩はあり得る事に成功した。それが此処の教室に散らばっている正方形の紙の正体。折り紙もその実験の一環だったわ」
「馬鹿げている。そんな事、不可能だろ」
「でも、実際、あり得た訳だし、赤道先輩はこの実験をワンランク上げた。それがアジサイ計画。この街に住む人たちの記憶を操作しようとした」
 この正体不明の彼女は真面目な顔で言い終えた。恐ろしい事に、少しも嘘を言っている様子がない。
「でも僕はそんな事を計画した事なんて、一ミリも身に覚えはない」
「当たり前でしょ。赤道先輩自身が自分で記憶を操作したんだから」
「僕が自分で消したって言うのか?」
「そうよ」正体不明の彼女はそう答えて「裏切り者が居たの。その裏切り者は赤道先輩を拉致して、先輩しか分からない折り紙の角度を割り出そうとした」
「それで、僕は今の状態になったって言うのか?」
 正体不明の彼女はコクリと頷いた。
「馬鹿げている」
「確かに馬鹿げているわね」
 僕はため息を吐いた。つまり、僕が流行りの折り紙の主犯格であり、ついでに、この街を落とし入れる悪の親玉。信じられるものか。
「一つ質問していいか?」
「なによ?」
「もしかすると、さっきスパナを落とした奴は君なのか?」
 正体不明の彼女はフフフと笑い「正解よ。赤道先輩の頭にスパナでもぶつければ、記憶が蘇ると思ったの」
「そんな事で思い出すものか!」
 僕は久しぶりに大声を出した。こいつはどうやら、馬鹿らしい。妄想が荒い変質者だ。
「いい加減にしてくれ、僕はもう帰る」
 そう言った時である。
 教室のドアから或る人物が入って来た。茶髪の男だった。
「なんだ君か?」
「何故、お前が此処にいる。もしかして記憶が戻ったのか? 赤道」
 僕は背中に悪寒が走る。怖くなった。何を言っているんだと。
「赤道先輩。気を付けて下さい。コイツが裏切り者ですよ。赤道先輩を拉致した人物は」
「何を言っているんだ? そいつは僕の友達で……」
「なら名前を言って下さい。思い出せますか? コイツと何処で出会って、何を話しましたか? 思い出せませんよね」
「そ、それは……」
「理由は非常に簡単です。赤道先輩が自らの記憶を消し去ったからです」
 茶髪の男がクックッと詰まる声で笑う。
「あれだけ、物静かで弱いお前が、こうも性格が変わるとはね。赤道の記憶が無くなった事がそれ程に苦しかったのかい?」
 正体不明の彼女はキッと茶髪の男を睨んで「黙れ! 裏切り者が! お前の所為で赤道先輩の記憶が消滅したんだ!」
 そう叫ぶ正体不明の彼女の横の窓から強風が勢いよく入り込んできた。と、カラカラと回る音が聞こえた。机の上に置かれている筒の中に一本の風車が羽を回転させていたのだ。桃色と橙色の羽は見事に回る。実に綺麗な色合いであった。風が止み、僕は正体不明の彼女に近づいていた。そうして、この様に言った。
「怖い顔は似合わないぜ。一之宮」

 青いチョーク

 結局のところ王様は私を帰したくないのであろう。二人だけのワルツなんて、ドラマティックを夢見ている赤ずきんでも招けばいいのだ。
つぶ貝。私はこの王様を蹴飛ばして、この城から逃げて、元の場所に戻れたなら、つぶ貝に醤油を撒いて焼いて食おうと思った。またお口直しにショートケーキかジャーマンケーキでもフォークに突き刺して食ってやろうと考えた。話しは少しさかのぼり、先週の事である。カエル先生がテニスボールを右手に持ち左手に黒い油性マジックを持ち、頻りに唸っていた。多分。何か考え事をしており、その場面はまるでキャンパスを目の前に座るルネ・マグリットの様である。現実的な風が吹いているのに表面的に浮き彫りにくっきりと線が見えるのだ。要するにカエル先生がテニスボールを持っているのが似合わない。どちらかと言えば凍結させた花火を顕微鏡で覗いているカエル先生の方がカエル先生っぽい。そっちの方が私目線であるがカエル先生らしさが確認できて何故かホッとする。そうして数分時が流れ私は我慢を抑えきれずにカエル先生に質問をした。
「奇妙と言うよりも似つかわしくないと言うよりも、油性マジックを持ってテニスボールを睨み付けているカエル先生は私から見ると、酷く滑稽でユニコーンに角が生えていない程にただの白い馬であるかの様にして先生らしくないのは何故でしょうか? 新たな自己発見の為だと言うのならば、お止めにして下さい」
「野球ボールならグッドかい?」
「アウトです」
「軟式ボールに変えてみるならセーフかい?」
「半セーフです」
「半セーフ。軟式は半セーフ」
 カエル先生は答えると私の方を向いた。それで「こっちは真剣に考え事をしているんだ。ラクダのコブと同じ作りの君の頭には永遠に理解の出来ない事をだ。次の授業の予習でもしておくんだな」二つにぱっくりと割れた大口を上手に開いて言って油性マジックを持った手でシッシッと私をあしらう仕草をやる。
 その光景を見た私はカチーンときた。腹が立ったのだ。
「今の手のひらの動きは、私の苛立ちの湧き上がる泉スイッチを押しました。カエル先生! そのテニスボールは私が没収します!」と、勇ましい声を発してカエル先生が持つ緑色のテニスボールをひったくった。と私の手にテニスボールが移り変わった瞬間である。紙魚が食った柄の天井がひっくり返り、鳩の糞がこびりついた窓ガラスがパノラマを演じてグルグルと回転し、生徒が座る木製の机と椅子が掃除機に吸われるゴミ化として、私の視界を封じ込めた。私の身体は小さくなりダニの幼虫が息を吸い込む様にしてテニスボールの中に取り込まれた。
 緑色の地面。五個の雲と青い空。他には何も無かった。
 それで私は咄嗟に感じ取った。
「まずい。このままでは私は永久にテニスボールの中で住むことになる。テニスボールの中で夏はスイカを食べ、秋は牡蠣を食べ、冬はもつ鍋を食べ、春にはロールキャベツを食べる。風邪をひいても一人でクシャミをし、空を優雅に飛び立つ鶏を見ても一人で歓喜し、お湯を沸かしても私以外には誰も消しはしない」そう言い、私は寒気のする孤独感を自分の影を見て一層深く思った。どうする? どうすればこのテニスボールの惑星から鉛筆ロケットに乗り込み離脱する事が出来るのだろうか? 私は悔し涙をポタリと落とした。
 その時だ。青いジャケットを羽織った白いウサギがピョンと現れた。目は赤く充血しているし、おまけに鼻を仕切りにヒクヒクと動かしていた。ウサギのサイズは幼稚園児の子供が座る椅子くらいの大きさでウサギにしては大きい部類かなと思った。そんなウサギがもの凄い低い声を出して「あんた、異邦人かい? この国は辞めとけ、醤油はないし、トイレットペーパーもない、ドクター・ペッパーも置いていない、貧相な国だぞ」
 しかし私はこの様に反応した。「目が赤く充血しています」
「あたりまえだ。ウサギだからな」
「カッコいいです」
「目が赤くても全くモテないぞ。女なんて何時も強い奴の味方だからな」
「私も女ですが、それは人によるかと……」
 そうすると、空は緑色の膜が張ってメロンの香りが充満してきた。これは、私の予想だとメロンソーダーの雨か雪が降るのかと確信した。まぁ、緑色のテニスボールだから、緑色の雨が降ってもオカシクナイ。
「これはまずい。ゾウリムシの大群が降ってきますぞ。さぁさぁ、早くあんたは自分の国に帰った方がいいですぞ」
 私は戸惑った。ゾウリムシは嫌だ。それに私の予想は外れている。笑えない。
「帰りたいのですが、帰る方法が分からないのです」
「なら、王様に聞くんだな。あいつなら、あんたを無事に送り返しくれるさ」
 ウサギは指を向けた。向けられた先には白い漆喰で塗り固められた楕円形があり、その横に大きな一本の大木があった。背の低い樹木が土と塩の結晶の地から、漆喰の城を導く様にして並んでいた。
「王様って……もっと立派なお城に住んでいるのでは?」
 私が聞き返す。だが、其処にはもうウサギは居なかった。私はため息を吐いて、王様が居る城へと歩いた。
 城に到着してドアをノックする。軽い音が響く。空洞の音色。しかし、反応がない。私はドアを押して開いた。ドアも無言でスゥウと私を中に招き入れた。
 灰色の壁と灰色の天井。灰色の床。その真ん中に椅子を一つ置いて黒い棒人間が立派な王冠を被ってこっちを見ていた。
「王様とは貴方ですか?」
 黒い棒人間は黙って頷いた。と、黒い棒人間は私に一冊のノートを放り投げた。拾ってページを捲る。
 『レレレ・ゴマイ』と書いてある。また捲る。
 次のページには「虜。僕は、暑くて汗を拭いても、拭いても浮き出てくる日に虜となった。虜になる数時間前に僕はレストランに入店した。理由は簡単だ。この暑さをしのぐ為でもあった。カウンターに座り、一つのランチを注文した。ウェーターがグラスに注いだアイスティを持って僕の目の前にコトリと置いた。僕は甘いアイスティが好きである。それで自由に取れる、ボックスから砂糖がコンモリと入っている丸い箱を優しく持ち、銀色のスプーンで掬って何度か入れる。他のお店では普段、砂糖を多めに入れないが此処のレストランに来ると氷山に落ちる雪の様にチラチラと降らしてしまうのである。少しだけの贅沢感を味わっている私独自の感覚でもある。パラパラと氷の表面に粒が振りかかる。それと同時に茎に登ったアブラムシを連想させて気持ち悪いからカチャカチャとグラスと氷の隙間をかき回す。そうすると散った羽虫が落ちていく様にして、グラスの底に粒が層をなして溜まっていく。スプーンでかき回した渦は一生懸命にアイスティを甘くさせようとするが中々混ざり合わないでいる。きっとそれはグラスから飛び出た氷山が妨げているのかなと僕は思った。昼飯時間は疾うに過ぎているがこのレストランは満員だった。背面にあるテレビを見るようにして客の姿を瞳に映す。白髪交じりの皺の寄った老夫婦や小さい幼子にスパゲッティを放る親子、ちらほらと若い恋人同士もチキンスープを啜っていた。そして僕、自身はカウンター席に一人寂しく物陰に身を隠すようにして丸い椅子に座り、注文したランチを静かに待っていた。ペットの犬の様にペロペロと舐めて舌に流す。その時に丁度良く、注文していたランチをウェーターが運んで僕に渡した。ご飯の上にハンバーグ、スクランブルエッグ、ヒレカツ、スパゲッティ、サラダが盛り付けられている。僕はジュルリと舌を舐めた。とても美味しそうだからだ。と、突然、眩しい光はレストランの窓から入射してきた。その光は爆風でおびただしい砂塵と煙を巻き上げて、自動車を空中に退けてこっちへと向かってきていた。僕は困った。それで、次に、あまりよく溶けていないアイスティをゴクリと飲んだ……」
 私は途中までその文章を読んで王様の方を見た。王様はやはり静かにこっちを見ている。
「つまり、私と王様は虜なんですね? 私、テニスボールの事が嫌いになりました」
 王様がスクッと立ち上がって私に手を差し伸べた。一緒に踊ろうと言っているらしい、誰が一緒に踊るか、私はカエル先生としか踊れない質なのだから。

 黄色いチョーク。

「ねぇ。何か面白い絵を描いてよ」
 彼がワタシにチョークを渡した。
「何か描くって、例えばどんなものよ?」ワタシは彼にそう、聞き返した。
「そうだな」と彼は何かを考える様に人差し指で顎を撫でて「例えば、『消えても』ボクが覚えているモノがいいかな。チョークで描いたものって、どんなに素晴らしい絵でも薄れて消えてしまうだろう?」
「なら、消えないペンで描いた方が良いじゃない」
 すると彼は首を横に振って「違うんだよ、残ってしまう絵は君が真剣に描かないんだ。って言うのは、ペンで描いた絵は続きを何時でも描けるだろ? 明日でも、明後日でも一年後でも、しかし、ボクが見たいのは明日には消えてしまう絵なんだ。ホンの数時間しかそこにはない、風景とか絵が物語る輪郭とかをね」
 ワタシはため息を吐いた。
「貴方、歪んでるわよ。絵は残るから良いじゃないの。沢山の人に見てもらうから意味があるんでしょ? 数時間しか残っていないモノなんて、最初から価値はないわ」
 すると彼は笑って「君は数分で消えちゃう夕日とか数日で消える桜並木とかも価値がないって断言できる?」
「それとこれは別でしょ?」ワタシは反論した。
「いや同じだね」彼は肯定した。
 彼は腰かけていた机から降りて「それで、 楽しみにしているよ、君が一体どんな馬鹿げたモノを描くか」白い歯を見せてニシシと笑う。「描くって、言っていないでしょ」ワタシはそう伝えたが、彼のとても楽しそうに微笑みながら、スキップして教室を出ていく姿を見て、どうも断れなかった。

 最初の絵は白いチョークで描いた。
「へぇ、面白い。風船と女の子が二人。でも何だか、どっちも寂しそうだね」
 ワタシは答えた。「お互いに求めるモノは一緒だったけど、その所為で離れてしまうの」

 二つ目の絵は赤いチョークで描いた。
 「折り紙と記憶の断片。これは先輩と後輩の恋物語って受け取って良いのかい?」
 ワタシは答えた。「さぁね。記憶なんて曖昧なモノだし、記憶がある、ない、なんて誰が保証するのよ」

 三つ目の絵は青いチョークで描いた。
「カエルと少女と黒い王様。自分が居なくなった後の世界はどうなるのかな?」
 ワタシは答えた。「世界のラスボスが死んだって、人類が滅亡したって地球はまわり続けるから、そんな悲観的にならなくてもいいのよ。案外、誰も気にもとめないわ」

 ワタシは黄色いチョークで或る絵を描き上げて彼が来るのを待っていた。しかし、彼は何時もの訪れる時間が過ぎても姿を現さなかった。
 ただ遠くからサイレンが鳴る音は聞こえてきたが、ワタシがその意味を知ることは幾らかの時間が必要であった。

『くる、くる、マワレ、空想のチョーク』

『くる、くる、マワレ、空想のチョーク』 らっきょ太郎 作

ショート・ショートのお話が四つありまして。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-07-23
Copyrighted

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