カタストロフ

いろいろな曲をもとに作っています。
割とギリギリラインかなぁと思ったり…。

『人類は、滅亡しました』
mikは、その文字を前に愕然とした。
だれへも送られることのなかったメールの下書き。広い広い海の、砂浜に打ち捨てられた家屋の中。勉強机と安物のベッド、ラジカセの転がるこの部屋には、17、8歳の白骨化された遺体が寝っ転がっている。その隣には、箱型のスマートフォン。iPhone4。
「まじか」
iPhoneを再起動させるためアダプタをつなぎ、ハッキングまでしたというのに面白そうな情報は何も見つからず、ただただ淋しいその文面だけがmikの目に映った。
「mikちゃん?なんかあった?」
何処かの部屋からクマのぬいぐるみを持ってきたgumがmikの手元を覗き込む。
「これ」
mik、つまらなそうにgumにスマートフォンを投げ渡す。ふーん…という表情で文面を見る。
地球という星はどうしてか、星自体が廃墟になってしまった。
太陽の光が降り注ぎ、水も潤沢にあり、酸素も、窒素も、炭素もある。こんなに素晴らしい星は、どこを探しても無いというのに。
「不審死、って言葉、知ってる?」
gumはmikの問いかけを不審に感じながら、クマの首をうまく傾げて、知らないよ、と。
「そんな感じだよ。自殺でも他殺でもない、謎の死を遂げた星」
gumは不服そうに唇を尖らせる。mikの言いたいことがよくわからない。
「そうかなぁ、死んでるのかなぁ」
わからない。gumには何も。
2人は、根本的に全く違う。好みも、意見も。真っ向から対立するが、そのおかげかヘマをすることは少なかった。
gumはティッシュケースからティッシュペーパーを抜き続けながら言う。
「なんでかな、めちゃくちゃ綺麗じゃない?全部が、キレイで」
mik、あーそれか、と。
「だから、不審なんだ」
gum、ちょっと違うな、とクマに頬を寄せる。
「不審、というより不自然。全部が全部、小道具みたいで」
腐敗した星は大抵、もっとごちゃごちゃしている。ここは、すべてが完璧だ、と2人は思う。平均気温は20℃と少し。たっぷり息を吸い込んで吐けば脳がスッキリするほどの酸素濃度。
「誰かがいたのかも不思議な」
mik、机の上のカレンダーをめくる。真っ白なまま。
gum、大量のティッシュペーパーを握りしめる。
「生活感すら演出みたいで」
2人、なんていうか…と考え込む。つまり…
「「作り物みたい」」
2人、顔を見合わせる。使われていないノート。陽に当たっているのに日焼けしていない、全巻揃った漫画。
まるでミニチュアみたいな、誰かの部屋。
gum、机の引き出しを開ける。色とりどりのラバーバンドと、チケット。その中に一つ、シャーレが。
「mikちゃん、これ。なんだろ」
ベッドメイキングされていた布団をめくっていたmik、机に近づく。ちょっと、おそるおそる、といった感じ。
「シャーレ?gumさん、同じ色」
mik、gumの髪色とシャーレ内の生き物を指差し、笑う。gum、グネグネと垂れた髪の毛をいじりながら、
「むむ…、葉緑体か…」
mik、笑っている。
「開けてみたら?」
gum、机にクマを置く。クマがちょっと、gumを見る。興味津々、といったように。
「敵国のスパイ、とかじゃないといいけど」
何言ってんの、とまた笑うmik。
「あいた」
蓋のあいたシャーレを机に置く。また大事そうにクマを抱きしめる。mikはいつも思う。gumは、なぜそういうことをするのか、ということを。別にぶりっ子ってわけでもない。何か、ということが何もない。単に、そういう性格なのだ、と思うことにしている。
《わたしは人類》
シャーレから聞こえる謎の声。
わたしは人類。
わたしは人類。
「人類は、滅亡しました」
mik、漠然と答える。gum、あまりにも死んだ魚のような目をするmikにぎょっとする。mik、iPhone4を窓ガラスに投げつけると、いとも簡単に窓ガラスは砕け散る。
《滅ん》
「《じゃった」》
gum、笑う。懐かしさに、笑う。虚しさに、嗤う。人類はすでに、嗤われるようになったマネキン。
「巫山戯てるよな」
mik、乱暴な口調。誰に言うでもない独り言。
「巫山戯てなんかない。大真面目だよ」
シャーレから流れる音楽に身を委ねるgum。
「ジクジクと忘れる」
mik、割れた破片を見つめる。
gum、顔を上げ、mikを見つめる。
「それでこそさ」
gum、mikの肩に手を置く。
大丈夫だよ、と思う。大丈夫、私たちは打ち捨てられた高速道路なんかじゃない。どこかに向かって進めるわけでもない。光なんかない。同時に、逃げる対象もどこにもいない。逃げなくていい、無限の世界。
「朽ちないんだよ」
gum、クマの手でmikの頭を撫でながら。mik、落ちていく夕日を見つめる。赤い、ただただ赤い陽。
「思い出だからでしょ」
gum、バツが悪そうに乾いた笑いを漏らす。
2人はまた、歩き始める。誰もいないこの星を。2人を生んだ、この星を。恨むこともせず、愛することもなく。記憶が廻るのに任せて。

カタストロフ

もとにした楽曲(敬称略)
やくしまるえつこ わたしは人類 (https://m.youtube.com/watch?v=92Dcp9Fbdac)
MI8k アクシデントコーディネイター (https://m.youtube.com/watch?v=XyJFug1jLrQ)
kuroji maymay (http://sp.nicovideo.jp/watch/sm17742927)
kuroji WASABINICOFU (http://sp.nicovideo.jp/watch/sm24276088)
他にも気付かず要素を入れている気がしますが…。意識して書いたのはこれらの作品です。すべて好きな作品なので、聴きながら読んでいただけたら…とも思います。もしくは、聴きながら思い出していただけると幸いです。

自分のTwitter(@kamenewura)

カタストロフ

シナリオと小説の中間みたいな書き方になりました。楽しんで読んでください。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-07-22

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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