七月を往く

有り合わせの水分が蒸発してゆく
ヒグラシは鳴かないが
たしかにめぐる、めぐる

タチアオイの道で増幅する色彩は
放物線のかたちをとる
エントロピーの中間地点に
留めておきたい夏がある


青びかりを控え午後六時、
貼りついた歯茎音を剥がす湿度の下り坂を
透明に阻まれながら歩いてゆく
そうだ、日付のない定期券を持った気分だ
噎せかえる緑を映して鏡が抜ける
知らぬ景色を探しだすには凪がねば、常に
過ぎた日の草いきれは変わっていない

さそりの心臓の午後九時、
掌に落としこんだあかりはさやか
蛍光灯と白熱電球とを選ぶ余地はなく
二時間前の燃えたつ西空は、既に
懐旧的な香りがすると言う
崩れた縁石のかけらを積みなおしていた、
背中の記憶は境目にたゆたう


掴まえておかなければ、
逃したって良いと思えないのなら
点在する赤と白は惑わさない、
眩んだ頭のぶれた視界だからだ


留めろ、と聞かずとも決まっている
決めている
もっと夏を、越えられないほどの夏を


けぶり始めた午前零時、
土星の光り、膨張した月は追いかけてくる
甘酒缶の水滴でベゴニアを濡らす、夢を見た

七月を往く

七月を往く

夏は好きできらいだ、

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-07-22

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted