地の濁流となりて #4

第一部 海の民編 長老カルヌグ

 アスワンを先頭に,マンガラとパガサ,そして少し離れてカタランタと,海の民の若者たちが夕闇の中を歩いている。工房を出た一行は,開け放たれた扉からまっすぐに,先ほど通り抜けた市の終わりを横断する。傍目から見れば,デモ行進か何かを思わせる。とくに皆の眼に宿る一種異様な熱が,そのような推測を許すのみか,助長していた。 
 相変わらず白壁の建物が続くが,いたるところに,木製の箱が,重ねられている。パテタリーゾの箱よりもやや大ぶりで,板と板の間に隙間が設けられている。灯に反射している光は,水滴のようだ。あの市の台車に溢れかえった,魚のような生き物や貝などを運んだのだろうか。パガサが観察していると,アスワンが振り返った。 
 「すまないが,長老に会う前に,寄りたい場所がある。ついて来てくれ。」
 先ほどの工房での口ぶりにはそぐわない,ふと悲しみを含んだ眼をしていた。
 案内された場所は,高さも広さも工房とは比較にならない小さな平たい建物だった。全体が錆のような赤い汚れを帯びている。ずいぶん前に建てられたのか,そこだけ何かを浴びたのか,マンガラたちには分からない。側面に設けられた窓からは,おそらく人だろう,動いている影が見えた。
 アスワンに率いられて入ると,灯の中に多くの人と物がひしめいていた。思い思いの姿勢で,生き物を金属で裂く者,水で洗う者。あの箱に揃える者。貝も,裂け目に金属があてがわれ,二つに開かれている。慣れているのだろう,手際が良い。あちらでは,小さい貝を糸でつないでいる。装飾品だろうか。パテタリーゾの民が,パテタの皮をむき,リーゾの穂を刈る姿を思わせる。しかし,なぜこの作業場のような場所へぼくらを。
 「パガサ,あれ。」
 マンガラの声に注意されて,パガサは眼を凝らした。働く人々に何か違和感を覚える。そうだ,そうなのだ。この光景はずっと目にしてきた。首の根元がいびつに腫れている中年の男,片眼の老女,両足のない若者。自分の身が支えられないのか,座って壁にすがりながら作業をする者。生き物を裂く手には,指のない者が何人もいる。ぼくらの里と。
 「あんたたち土の民のところでも同じか。やはりな。「輝石」が害をなすのは,他里でも変わらない,そういうことか。」
 パガサとマンガラの深刻な表情から,それと察したのだろう。アスワンが,悔しそうにそうもらすと,歯ぎしりをした。
 「ここでは,海に出られない者が集められて,干物や装飾品を作っている。俺たちが漁を終えた後,こんな宵まで。この病が出る前は,皆で海に行き,皆でこの作業をした。それは賑やかだった。子どもながらに,とても楽しかった。若者は大声で豊漁を誓い,年寄りは海の畏怖を諭した。今では,このように,民が別れ別れとなっている。ここにはもう。」
 昔のイスーダは,昔の海の民の姿はない。アスワンの言葉に,多くの若者がうなだれた。パテタリーゾもそうだ。パガサは思う。土を耕す者と種を蒔く者を除いて,パテタを干す者,リーゾを焼く者,乾燥したリーゾの穂を編んで縄や籠を作る者,すべては里の総出で行ったことが,今は病によって分かたれている。自分も子どもの頃は,それに混じっていたのに。
 物憑きのシャクがあの日に「告げて」くれなかったら,同じ光景が当然のように,ずっと繰り返され,「別の光景」,ぼくらが「そう望んでいる,かつての里の光景」を見る可能性は与えられなかったはずだ。この光景の原因を探るため,この光景を覆すため,ぼくらは里を出たのだ。病を治して以前の里を取り戻したい。いや,取り戻す。何が何でも。 
 「じゃあ,あの市の人たちは。みんな元気そうだったけど。」
 マンガラがアスワンの顔を覗き込んだ。たしかに,マンガラの言うように,あの市の活気を見ているときは,ここのような「輝石」の害は想像しようがなかった。それほどに,人々の生命の力に満ちていた。同じ印象はパガサも持っていた。あの眼を釘付けにした,台車の群れと物の充溢。
 「あそこにいる海の民は,ごく一部だ。海産物を商う者はそうだが,それ以外の物を売るのは,他の里や別の地から寄港した商人。モレスコの幸いを巻いているのは,それがこの里へ足を踏み入れる者に課された義務だからだ。みな通行手形と交換して頭に巻いている。」
 そうだったのか。ぼくとマンガラは他の里やルーパ以外の人たちを見たことがない,だから区別できない。この白い布を巻いていれば,みなが海の民だと思ってしまう。だが,そうだとすると,あの丘陵で出会った「時を旅する人」の話と食い違う。イスーダも他里との「往来は禁忌」になったと話されていたはずだ。それなのに往来しているとは,どういうことだろう。
 それに,と別の海の民の若者が言った。あの売り子の人たちも,どこかに病を持っている。病状の差はあるが,ここと同じなのだ。でも,一番心配なのは,とアスワンを見やる。
 「ああ,子どもたちさ。この頃,生まれる子どもたちの中には,あそこで魚をさばいている子のように,指が揃わないで生まれたり,頭が極端に大きかったり,言葉が覚えられなかったり,奇妙な子が増えている。以前はなかったことだ。」
 パテタリーゾではまだ,そのような子どもは生まれていないが,それも「輝石」の害なのか。ここイスーダでは,生まれる者にすら「輝石」が影響を及ぼすのか。もし「そのような子ども」の生まれる原因が,同じ「輝石」にあるとすれば,とパガサは考える,イスーダにあってパテタリーゾにない,特別な要素があるのだろうか。
 アスワンたちは,作業している人々に深く一礼すると作業場を後にした。再びアスワンが先頭になり,はや陽が暮れようとしている街を歩く。やがてマンガラたちは海の見える通りへと出た。と,先ほどまでは感じなかったが,空気に何かが混じっている。灯がまばらで分からないが,微かな異臭が鼻をつく。マンガラはと,パガサが横を見ると,マンガラは指で鼻をつまんで,しかめ面をしている。この匂いは。
 「臭いだろう。海に異常が生じているのだ。本来は,沿海から吹く風が運ばれて,清々しい潮の香りがするのだが,あの病が現れ始める前から,満ち潮になると,この臭い風が吹くのだ。魚の,貝の,海藻の,生き物の,死んで,腐敗する匂いだ。」
 アスワンの視線は,そう説明する海のずっと遠くへ向けられていた。
 長老の家は,イスーダで見られるふつうの白壁の建物のなかにあった。特別な建物を予想していたパガサは,妙な気分だった。長老は,里の民の代表者であり,長老評議会のメンバーでもある。パテタリーゾでは,長老は祠に住んでいる。代々の長老が,そこで民の代表者から訴えを聴き,相談をし,調停を図ったという。
 橙色の灯に照らされた階段を登っていき,一つの青い扉の前でアスワンが足を止めた。目の前には,ひもで結ばれて,いろいろな形の貝が,互い違いにぶら下げられていた。アスワンは指でそれに軽く触れた。貝同士がぶつかり合い,さらさらと音を立てた。パガサは,川のせせらぎにも似た響きに,魅せられてしまった。
 「綺麗な音だね,マンガラ。里の川を思い出したよ。もう少し複雑で,軽やかな感じかな。貝と貝が当たって,こんな音を出すなんて。」
 そう言うパガサを,カタランタが笑みを含んだ顔つきで見ている。そういえば,カタランタは工房で口を開いて以降,一言も発していない。それに,マンガラやぼくのように,歩きながらイスーダの街を見回したりしていない。道を知っているかのように,そう,初めてではないように,ただ淡々とアスワンについて来た。海の民ではないとしても,一体何者なのだろう。
 そのとき,青い扉が開いて,白髪に白い髭,褐色の肌の老人が,長めの青い衣を引きずりながら現れた。イスーダの,海の民の長老,カルヌグだった。彼は,アスワンの顔を一瞥し,その向こうの,階段まで続く海の民の若者たちの群れを見渡すと,用件が分かったと見え,深いため息をついた。
 「工房の若者らか。また例の鉱石のことで談判に来たのだな。里の討議会を通すのが,正しい手順だとはお前たちも知っているだろう。」
 アスワンが,後ろに控えた若者たちに頷いて見せ,一歩前に出た。
 「長老,あの鉱石が,モレスコの東奈辺(なへん)に見つかってから,海は腐り,多くの者の体に異変が起き,子どもたちは指を失って生まれています。すべて,鉱石が見つかってからのことです。それは長老もご存知のこと。今こそ,長老評議会にかけて,手を打っていただきたいと思います。」
 口調には隠しきれない切実さと積み重ねられた悔しさが混じり,眼は信念の強さを切々と訴えていたが,肝心の長老は,話の途中からすでに目をつむっていた。アスワンの言葉が終わると,おもむろに答えた。
 「先にも皆の前で申したはずだ。あれは,業の病だ。命を奪って生きる民の背負う業が,形となって現れたもの。ここモレスコの辺(ほとり)に住まい,海の生き物を殺生する限り,避けては通れない宿命なのだ。あの作業する者たちを見よ,皆がそれぞれの宿命を背負い,訴えもせず,生きておるではないか。」
 この長老は,あくまで「輝石」の害を認めないつもりなのだ。パガサはあの日のことを思い出していた。長老マトゥーアも,最初は知らない振りをした。若者衆の皆でこんな風に詰め寄っても。あのとき,シャクの「語り」がなければ,今でもぼくらは里に留まっていた。そして,「それぞれの宿命を背負い,訴えもせず」生きていかねばならなかっただろう。
 「長老は「輝石」の害をどうしても否定されるのですね。では,お教えください。なぜここにいる土の民のところでも,同じ病が現れているのですか。この者たちは,モレスコの幸いを締めていますが,はるばるパテタリーゾから参った者たちです。さあ,パガサ。頼む。」
 パガサの両肩に手をかけて,アスワンは強い語気で言った。
 「なに。土の民。お前たちは土の民だと言うのか。ならば,お前たちは「境抜け」の禁を犯したのだな。それがいかなる大罪か知っての行いか。何故に土の里を抜けたのだ。」
 土の民と聞いた長老は,厳粛な面持ちをしたが,パガサはその白髪の長い眉の下に,不審の影が光ったように見えた。禁を犯した大罪。それは,今この時の問題ではない。パガサは胸に沸き立つたぎりを感じて言った。
 「土の里より参りしパガサとマンガラにございます。海の民の長老様,私たちは,たしかに「境抜け」の禁を犯しました。ですが,これは,土の民の総意にもとづくもの。長老マトゥーラ様も許されたことにございます。」
 パガサは土の民の儀礼として,片膝をついて答えた。マンガラも慌ててパガサに倣う。マトゥーラの許し,という言葉に,カルヌグは驚いていた。土の民の長老が,長老評議会で決めた禁忌を自ら許すとは。しかし,あのマトゥーラが。
 「いかに土の民の長老が許したとはいえ,禁忌を決めたのはマトゥーラ一人にあらず。長老評議会の決定だ。許す権限は,評議会にのみ委ねられる。これは早々に評議会を招集するよう評議会長に具申せねば。だが,その前に,一つだけ答えよ。なぜ「境抜け」をマトゥーラは許したのだ。」
 言葉使いこそ長老の,評議会の権威をまとっているが,カルヌグの口調には,隠しきれない驚きが響いていた。
 「長老様にお会いする前に,ここにいるアスワンさんたちから,作業場を見せていただきました。パテタリーゾでも同じように,病を持つ者は,もはや耕作も収穫も困難であるため,一箇所に集め,干しパテタや焼きリーゾ作りにのみ,従事しております。その数は増えるばかりです。土の民は,その原因をあの「輝石」にあると考え,その真相を探るべく,私たちを里から出したのです。」
 分かった,と話が打ち切られると思っていたパガサの想像と異なり,長老はしばらく何か考えているようだった。あご髭をひねりながら,再び目をつむっている。
 「マトゥーラも,病の原因は「輝石」にあるかもしれぬと,そう認めたのか。」
 しばらくして長老の口から出たのは,どこか悩ましそうな感じのこもった言葉だった。パガサは「はい」と大きく頷いた。
 長老は,二人の土の民の儀礼の姿勢を見ながら,しかし,アスワンに向かって尋ねた。
 「仮に,お前たちが言うように,病が「輝石」の害に依るものとしよう。だとして,どうするのだ。お前たちが建てた「工房」などと称するものに引けをとらぬ巨大な「輝石」。それを取り除けようとでも言うのか。」
 遠目で見ても,パテタリーゾの小さな丘ほどの大きさもあったと,里では伝えられていた。「輝石」は,あの工房ほどの大きさもあるのか。パガサは,そう考えながらも,長老の口ぶりに,先ほどの頭ごなしの決めつけとは違う,微かな困惑が混じるのを感じていた。
 アスワンが手でなにやら合図をした。後ろから四人ほどの若者が,アスワンの左右から前に出る。その一人が筒状に巻いてある紙らしきものを持っている。皆して無言でそれを広げ,四人がそれぞれの隅を持った。上下に二つの線を重ねたものが描かれている。地図ではない。
 「それは。なぜ,それを。お前たち。どこで。」
 一目見た長老が,明らかな驚愕を顔一面に浮かべた。そして,体を小刻みに揺らしている。狼狽えているのか,それとも怒りによるのか。長い袖から両手を抜き出して,胸の前で握った。その手に力を込めている。
 「そう,方舟です。マクレアの伝承にある。大洪水を逃れ,ルパング・パンへたどり着いた巨船です。ご存知ですよね。以前,マクレアで商いをした者から,聴き出して,イスーダの造船技術を改良したものです。」
 あれは,船を描いたものだったのか。マンガラが,「どれが」という顔で覗き込んでいるので,パガサはその腕を引っ張って下がった。大事なところで,マンガラが邪魔をしては意味がない。
 「では,お前たちは方舟を造り,イスーダを,海の里を「抜ける」と言うのだな。分かったぞ,あの「工房」はそのために建てたのか。巨船を造るために。だが,お前たちは間違っている。そもそも,その巨船を造る木材はどこにある。資材がなければ,方舟なぞ夢物語に過ぎん。」
 長老の言う通りだ。アスワンはどうするのだろう。船を造るのにどのくらい木材が必要なのかパガサは知らないが,巨船というからには相当な量が要るのだろう。ここら辺りにはそんな樹は生えていない。
 「そこで,長老様にご相談したいと思って参りました。今,木材は専売会が手がけ,仕入れの必要数を決める権限は,長老様に一任されていると聞きます。どうか,方舟の造船に用いる木材を買い入れてはいただけないでしょうか。お願いいたします。」
 アスワンはそう言うと,深々と頭を下げた。他の海の民の若者たちも,それに同調するように皆が頭を下げている。
 木材購入の権限を唯一持ち,一方で「境抜け」の禁忌を許さない長老に頼む。そんな無理な願いが通るものだろうか。パガサには,長老の返す言葉が予想できた。おそらく,いや,必ず却下されるに違いない。
 長老が口を開く,ほんの寸前だった。長老の背後から声がした。
 「カルヌグよ,そこら辺りで矛を収めたらどうだ。」
 皆がその声の主を求めた。長老は不意を突かれたような,驚愕の顔で振り返った。光に包まれた人物が,長老の横に歩み出た。あれは,見たこともない,いや,あの色には覚えがある。不思議な色の衣を重ねた人物がすぐ側に立っている。パガサは思わず「時を旅する人」とつぶやいた。カタランタが驚いた表情で,パガサを見やる。
 「そなたは。家には私しか居らぬはず。何処から。」
 長老は,途切れ途切れに,そう言うので精一杯だった。その人物はさも可笑しそうに表情をくるくる変えながら,固まってしまった長老カルヌグに悠揚に答えた。
 「ブッフォと言えば分かるかな。イスーダの長老に会うのは,久しいからな。お主の何代前だったろうか。」
 長老は何かを思い出したようだった。転移の旅人(りょじん)ブッフォ。時が時に重なれば現れる理を逃れし翁(おきな)。長老たちに受け継がれた伝説だと思っていたが。その方が,ここイスーダに。
 「カルヌグ,この若者たちの想いを一番分かるのは,お主じゃないかな。長老でありながら,自分たちの決めた禁忌を犯してまで,他の里の者が湾に入り込むのを許しているのだから。」
 この言葉には,アスワンをはじめとした若者たちは,みな耳を疑った。一人長老だけが,一瞬はっとして,それから微かにうなだれた。
 「そう,こやつは長老でありながら,往来の禁をひそかに破り,他里の船が入るのを許した。なぜか。ここイスーダは交易の街。交易なくしては民が滅ぶのにも等しい。海の民を守るために,評議会の決定を裏切ったのよ。」
 アスワンが驚きを顔に貼り付けたまま,両膝をついた。カルヌグが,ゆっくり口を開いた。
 「そうなのだ。工房の者たち,いや,海の民の若者たちよ。私は長老でありながら,禁を破った。評議会は,いや,評議会長が,「境抜け」に加えて,他里との往来を禁じた。だが,交易の街が交易を止めては,いずれ禁が解かれた時に,大きな支障を来す。里の未来を考えて,禁を破ったのだ,私は。」
 評議会長。パガサは初めて耳にした。すべての里の長老たちで決めたことではないのか。評議会長が禁忌を定めた。他里では生きて行けないから,「境抜け」は禁忌とされたと考えたこともあった。里の長老たちが決めたのなら,と。でも,そうではなかった。
 「カルヌグ,お前の言う「未来」も,この若者たちの「未来」も,形こそ違うが,イスーダのことを,海の民のことを思ってのこと。病に罹っておらず,大海へ漕ぎ出そうとする勇気ある者たちを,後世に遺すことも大事ではないか。」
 長老は顔を上げた。そこには,諦念とも快哉(かいさい)とも分かち難いような表情が浮かんでいた。ブッフォと名乗った,あの人物は,しかし,鋭い表情に戻った。それを見た長老は,誰につぶやくともなく囁くように言った。
 「あなたが現れたということは,時が動く。そういうことですね。そこの土の民たちから,マトゥーアの決断を聞いた時,私は悟りました。他里でも,もう動きが出ているのは承知しております。そうでなければ,交易は成り立ちませんから。往来の禁を犯し,それに乗じて,他の里は「境抜け」の禁を犯しています。あなたはご存知でしょうが。この若者たちには,方舟を造らせます。いえ,造ってもらいます。海の民の未来を賭けて。」
 この言葉を聞いて,アスワンたち海の民の若者が,長老の周りに押し寄せた。その波と勢いに弾かれて,パガサとマンガラは部屋の外へ追いやられた。
 「ねえ,パガサ,あの人だよね。これからのぼくらのこと,訊けないかな。また教えてくれると助かるじゃない。この前の言葉の中身だって,まだよく分かってないのだし。」
 マンガラの言葉にパガサは頷いて,あの人物を呼ぼうとしたが,すでにどこにも姿はなかった。前のとき,あの窪地のときと同じように,最初からいなかったかのように消えていた。
 「おい,お前,さっき「時を旅する人」と言ったよな。あのブッフォという人物とどういう関係だ。」
 パガサの隣に,いつの間にか,またあの鋭い目つきをしてカタランタが佇んでいた。

地の濁流となりて #4

地の濁流となりて #4

海の民アスワンたちと長老の元を目指すマンガラたち。長老を説得して方舟の建造に取りかかれるのか,それとも「境抜け」の禁忌を咎められるのか。その命運はパガサに委ねられた。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-07-20

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