*星空文庫

風邪

nanamame 作

  1. BTOB、ウングァン編
  2. VIXX、レオ編
  3. Seventeen、ウォヌ編

BTOBとVIXXのお話は以前、FC2で公開したものと同じ。Seventeenのも書けたので、こちらでもUPします。
増えていく予定ですが、誰のものになるか、いつになるかは、例のごとく未定。

BTOB、ウングァン編

BTOB、ウングァン編

「ゴホッゴホッ」

ウングァンは一昨日から咳をしていた。

伸びのある歌声と声量が持ち味なのに、昨日から全然いつもどおりに歌えていない。
風邪ではないと本人は言い張っているが、日が経つごとに咳はひどくなっているし、今日に至っては少し顔も赤くて、明らかにしんどそうだ。

「お前、風邪だろ? やっぱり、休んだら?」

ミニョクは同い年の気安さで言う。

「ゴホッ、大丈夫だよ。それに、カムバックも近いのに、休んだらダメだよ」

へらっと笑ってそう答えた。

普段はリーダーという役割を重荷に思ってるのに、リーダーだからと責任感は強い。
あまりしつこく言っても、余計に見栄を張って、どうせ休む気はないのだろうし、とりあえず様子を見ることにする。

ミニョクはなぜか、「俺が見とかないと」と思う。



カムバックが近い。Teaserも出て、ファンたちもメンバーたちも期待が高まっている。
毎日深夜まで練習をして、疲れもあるが、そうは言っていられない、と皆が思っていた。

だが、無理をしすぎると、ウングァンのように倒れることになる。



「わぁー! ヒョンが倒れた!」

ソンジェが大声で喚いている。他のメンバーもおろおろして、リーダーの周りに集まる。

ミニョクが抱き起こすと、ウングァンは「ご、ごめん…」とか細い声で誰にともなく謝った。赤い頬に手を当てると、熱が高いことがわかる。

「ウングァンは今日は休ませようよ。俺が宿舎まで連れて帰るから」

さすがに倒れるまで行くと、マネージャーもダメだとは言わなかった。
ダンス練習を終わりにして、個人練習に切り替えてもらい、それぞれ歌やラップのパート練習をすることになった。

みんな普段はリーダーをからかって遊んでいるが、病気になったり、倒れたり、いつもの場所にいないと不安を感じてしまう。
誰もがリーダーの人柄に甘えているだけなのだ。

ミニョクは当然のように、ウングァンに上着を着せて、背負って車まで運ぶ。
弟達は心配そうな顔で、全員が宿舎まで付いてきそうだったが、マネージャーが諭して練習室に返した。


 ***


2人しかいない静かな宿舎。
マネージャーはミニョクにウングァンの世話を任せ、再び早々に練習室に戻っていった。

寝間着に着替えさせる。
ウングァンも普段から鍛えていて、筋肉はそれなりに付いているが、ミニョクと比べればまだまだ細い。

ぐったりして、熱で荒い息づかい。「大丈夫だよ」とミニョクが何度言っても、車の中でも、着替えさせている間も、何度も「ごめんね」と謝ってきた。

真面目で責任感の強いウングァンは、カムバック前という一番忙しく大変な時に、病気になったことに罪悪感を抱いていた。



インスタントのおかゆを温めて持っていくと、布団の中でウングァンが泣いていた。

「どうしよう…、もう来週なのに…、ゴホッゴホッ。」

声がかすれている。咳と熱のせいで、顔を近づけないと、ちゃんと聞き取れない。

「このまま、ゴホッゴホッ、風邪が治らなくて、歌えなくなったら…。ゴホッゴホッ、ゴホッゴホッ」



「プッ」

情けない顔で泣いているウングァンを見て、悪いと思いつつ、笑いをこらえられなかった。

「ひどいよぉ」

ウングァンはなぜミニョクが笑ったのか理解できない。
自分自身が情けなくて、メンバーに申し訳なくて仕方がなかった。歌えなくなったら、BTOBのメンバーでいられないどころか、生きている意味さえなくなってしまう、と思っている。

「ごめん、ごめん」

ミニョクは親友の頭を、出来るだけやさしくなでる。

「ただの風邪だよ。ご飯食べて、薬を飲んで、寝てたら治るよ」

「…治らなかったら?」

「治るよ。ちゃんと治るから」

同じようにみんな練習しているのに、自分だけ風邪をひいてしまって、ミニョクや他のメンバーに比べて自分がひ弱な気がしていた。
数日に迫ったカムバックステージまでに治らなかったどうしようと、そればかり考えてしまっていたが、彼に言われたら、今夜にでも治りそうな気がしてきた。

ミニョクの言うことなら、素直に受け入れられる。それが不思議で、だけど当たり前のように感じた。

彼の言うとおり、おかゆを食べて、薬を飲んで、再び横になる。

「おやすみ」

熱で朦朧とした頭に、ミニョクのやさしい声が響く。頭をなでるやさしい手に、すべてを委ねたくなってくる。
自分はダメだなとウングァンは思う。
ミニョクの方がよほどリーダーらしく、しっかりしている。彼に甘えっぱなしで、申し訳なかった。

「ありがとう」

ミニョクの笑顔を見ながら、ウングァンは眠りについた。


 ***


「ただいまー! ヒョーン、ウングァンヒョーン、大丈夫ー?」 ソンジェが大きい声で言いながら玄関を開ける。

その後ろから続々とメンバーが帰ってきた。

「ソンジェ、うるせぇ! 寝てるかもしれないだろ!」 イルンが叱った。

「2人ともうるさい」とチャンソプとヒョンシクは心のなかで思う。

「ウングァンヒョン、大丈夫かなぁ」 プニエルがつぶやいた。

5人は我先に寝室に向かい、ドアを開けた。



「寝てるね^^」

ウングァンは額に冷却ジェルシートを貼り、しっかり布団をかぶって口を開けて寝ていた。
その横で、ミニョクもすやすやと寝息を立てていた。

普段見られない長兄2人のリラックスした寝姿に安堵する。弟5人は静かに部屋を後にして、寝かせてあげることにした。



End.

VIXX、レオ編

VIXX、レオ編

傍から見ていてもわかるくらい、レオの動きが普段と比較にならないくらい鈍い。
歩く速度も遅い。その割に、椅子や机によくぶつかっている。

カムバックが近づき、いつもに増して練習量が増えている。だが、レオがこのような状態では、ダンスを合わせるなど無理な話だ。

エンは朝から調子が悪いらしいレオについて、しばらく様子をみていようと思っていたが、いい加減ダメだなと思った。
曲の途中でダンス練習をやめて、レオに声をかける。

「レオ、どうしたの? しんどい?」

レオはしゃがんで、荒い息を整えている。いつもなら、2、3回踊っただけでは息が上がったりしない。
レオは自分でも調子が悪い、と感じながらも、迷惑や心配をかけてはいけないと思い、エンの質問には首を横に振って答えた。

「…大丈夫」

レオ以外の5人は全員「絶対、大丈夫じゃない」と思った。それを口に出したのは、やはりエンだった。

「絶対、大丈夫なわけないね!」

レオの目の前にエンもしゃがみ、目と目を合わせる。

「体調悪いの? どっか、痛い?」

子どもに接するときのように、やわらかい声で話しかけた。レオは再び首を横に振るが、エンにはその顔が、なんだか赤いような感じがして、額に手を当てた。

レオはびっくりして身を引く。エンの手はすぐに離れたが、その意味を考えたら、自分の不調の原因がわかる気がした。
逆になぜ気づかなかったんだろうと、自分で不思議に思う。
気づきたくなかったのかもしれない。カムバックにはいつも力が入る。休みたくなかった。

エンは一瞬触れたレオの額の熱さに、やっぱりと思った。

「熱がある! やっぱり風邪でしょ! 大変!」

休みたくなくて、レオは「大丈夫」と言おうとしたが、その前にエンが大きな声で宣言した。

「レオ、休まなきゃ。僕が看病してあげる!」

エン以外の5人は全員「なんでそんなに嬉しそうなんだ」と思った。だが、それを誰かが指摘する前に、エンはマネージャーのところへ行き、すべて話をつけてしまった。


 ***


病院へは行く必要はないと頑なに言うレオのために、仕方なく市販の解熱剤やおかゆ、ゼリーなど食べやすいものを買い、宿舎へ帰った。
背が高く体格もいいので、ふらつくレオを支えるのはエンには大変だった。マネージャーにも手伝ってもらいようやく、寝室まで連れて帰ることができた。

自分で看病すると宣言したエンに、マネージャーもレオを任せて他のメンバーの元へ戻って行った。

エンははりきっていた。レオはあまり体調を崩すことがない。弱っている姿はとても珍しい。苦しそうな様子はかわいそうにも思うが、その滅多に見られない姿を前にして、悪いなと思いつつ、なんとなく喜びにも似た気持ちがあることを否定出来ない。

チームメイトで同級生で親友で、いつも対等な関係ではあるが、エンはどこかレオに敵わないと感じていた。
具体的にどことは分からない。言葉にするのは恥ずかしいものだが、惚れた方が負けというものだろうか。



熱がある、と自覚した途端、意識がふわふわとして、苦しくなってきた。
カムバックが近いのに、年長の自分が引っ張っていかないといけないのに、休みたくないのに、体がいうことを聞かないことが、もどかしく、メンバーにもエンにも申し訳なかった。

それにしても、なぜエンは笑顔で自分を見つめているのだろう。俺が風邪なのが嬉しいのか?



「レオ、あーん^^」

スプーンにすくったおかゆをレオの方へ差し出す。エンはどこまでも笑顔だ。レオは冷たい目で見つめる。
自分で食べる、と言いたいのだが、かすれた小さな声しか出ない。無理やり話すと喉をさらに痛めそうで、ためらわれる。
手をお碗に伸ばし、エンの手から奪おうとしたが、簡単に阻止された。

レオは仕方なく、口を大きく開けた。

「おいしい?」

レトルトでまずいわけがない。
答えるのも面倒だ。本当は食べるのも面倒で、早く横になりたかったが、薬を飲むのは何か食べてからだと言うエンに従っている。いろいろと世話を焼いてくれているのは、やはりありがたい。
だがせめて自分のペースで食べたい。もう一度、お碗の方へ手を伸ばすと、今度はすぐに渡してくれた。数回「あーん」を繰り返し、エンも満足したのだろう。

薬も飲んで、ベッドに横になる。エンが布団を肩まで引き上げてくれた。

「吐き気とかある? 一応、袋置いとくね。水もすぐ横に置いとくからね。喉乾いたら飲んでね。薬も置いとこうかなぁ。ねぇねぇ、あと何か欲しいものある?」

矢継ぎ早に話しかけてくる。
声があまり出ないので、制止することもできない。
寝たいという意思を示すために、レオは目を閉じた。

「あ、ねぇねぇ、熱を冷ますときには首を冷やすのもいいって、ネットに載ってるよ」

スマホ画面からレオの方へ向くと、レオは目を閉じて、すでに寝ているようだった。

ちょっとうるさかったかな、とエンは少し反省した。
風邪には寝るのがいいだろう。この機会に、普段の疲れも一緒に癒して欲しいと切実に感じた。

額にだけ、冷たいタオルを載せる。
ベッドの横に座り、しばらくレオの寝顔を見つめる。以前に比べて、痩せたように感じる。ダイエットの成果ではなく、やつれたように見えることが辛い。
目を閉じていると、鋭い眼差しの印象が消えて、やわらかい雰囲気になる。
見ていても全然飽きない。
愛しさと感謝がこみ上げてきて、自然に笑顔になった。

「いつもありがとう。ゆっくり休んでね^^」

立ち上がろうとしたとき、レオが目を開けた。目の前のエンの目を見つめる。レオの眼差しは、熱のせいで蕩けたようになっている。

「寝てたんじゃないの?」

エンは気恥ずかしい気持ちを押し隠して、おどけたように言った。

布団の下からレオの手が伸びる。エンはそっと、いつもより熱い手を取る。お互いがその手をきつく握りしめた。

「エンも。ありがと…」

熱でかすれた小さな声が、静まり返った部屋とエンの心に染みこむ。
一瞬泣きそうになったが、すぐに嬉しさに変わり、再び笑顔がこみ上げた。


 ***


エンは昨日から調子が悪い。
レオの風邪が一晩で治まったのは良かったが、引き換えにエンに伝染ってしまったようだ。
1曲全力で踊ったら、頭がふらふらして、エンは座り込んでしまった。

「レオ~しんどいよぉ。風邪ひいたぁ」

レオはエンが見えない方を向いて、水を飲んでいた。自分が伝染したのはまず間違いがないので、罪悪感がないわけではない。
看病をしてもらったのも感謝しているが、逆に自分がエンの看病をするとなると、何をしたらいいのかわからないので、戸惑ってしまう。

背後からエンが抱きついてきた。

驚いてエンの顔を見る。弟たちの手前、引き剥がしたいが、体調が悪いのは見ていてもわかるので、乱暴にもできない。

「レオが看病して~」

戸惑いどうするべきか悩んでいるレオを見て、エンは内心喜んでいた。半分ふざけているのもあるが、半分はレオに甲斐甲斐しく看病してもらうことを期待していた。



「エンヒョン、しんどそうなのに、何か楽しそうだね」

ホンビンがしみじみ言う。ラビやヒョギもうんうんうなずく。

「何か伝染るようなことしたのかなぁ」

ケンが笑って言う。だが聞きとがめたレオに睨まれて、ヒョギの後ろにそそくさと隠れた。



「ねぇねぇ、レオ~。僕、レオに看病してほしいなぁ^^ いろいろお世話してあげたでしょ?」

エンはまだレオに抱きついたままだ。
レオはため息をついて観念した。エンには敵わない、と今日もまた思った。



End.

Seventeen、ウォヌ編

Seventeen、ウォヌ編

収録を終えて控室に戻った後、みんなでいつも通りお喋りをしながら、着替えたり、メイクを落としたり、帰る準備をしていた。そこにウォヌが加わっていないことに気付いて、ミンギュは彼がどこにいるのか部屋を見渡す。
彼はソファに座って、眼を閉じていた。疲れてうたた寝をしているようにも見える。メンバーたちの後ろで、控え目に立ち、ただ笑っていることも多いウォヌである。
1人でいることも、いつも通りと言えた。
だが、彼を観察していて、ミンギュは何かいつもと違うな、と感じた。静かに息をつく様子や、時折眼を開けて、またすぐに閉じる所も、寝心地の良い体勢を探すためだろう身じろぎも、何だかいつもよりも色っぽい。
危険なサインだ。
単にミンギュがウォヌに恋愛感情を抱いていて、それで彼の仕草の1つ1つに敏感に反応している、と言うだけではない。それは大いにあるが、今のようなあけっぴろげなセクシーさは、別の意味の危険だ。
即ち、体調が悪いサイン。
着替えを終えて、ウォヌの隣に座る。それに気付いたのか、ウォヌが眼を開けて、ちらっとミンギュの方に流し目を送る。
そんな眼で見られたら、勃っちゃうよ、と思ったが、まだテレビ局なので、我慢する。そもそも告白すらしていない。

「ヒョン、着替えないと。もう宿舎に帰れるよ」

「ああ、うん…」

ウォヌは低い声で呟いて、身を起こす。だが、中々立とうとしない。ウォヌの私服をジュンが持ってきた。まだ着替えが終わっていないことに、彼も気付いたのだろう。

「ほら、服。早く着替えて、早く帰ろう。俺、お腹空いた」

ジュンはグミを食べながら、言った。ミンギュにも1つ差し出してくれたので、口を開けて直接食べる。ノロノロとした動作で着替えているウォヌにも、ジュンはグミをあげようとしたが、ウォヌはやはりノロノロした動作で首を横に振って食べなかった。

「体調でも悪いのか?」

ジュンはウォヌの前でしゃがみ、彼の眼を覗き込む。ミンギュは、自分が言おうとした台詞を取られて、ちょっと悔しい。年下の自分より、同じ年のジュンの方がよりウォヌと親しいことは分かっている。親しさに年齢は関係ないが、そこは変えることのできない差異だった。
ジュンの言葉を耳聡く聞きつけたスンチョルが、側にやってくる。

「どうした? ウォヌ、いつもより静かだと思っていたら、体調が悪いのか? どうなんだ?」

「え、いや、悪いって程じゃなくて…。単に疲れているだけで…」

ああ、だから俺が言おうとしたのに、とミンギュは思ったが、せめて、ウォヌの隣という場所は誰にも譲らない気概を持って、話に加わった。

「でもウォヌヒョン、いつもより色っぽくなってるよ。顔も少し赤い気がするし、きっと体調が悪くなってるんだよ。熱、計ってみようよ」

「ええ~?」

ウォヌは少しうんざりしたような表情で、ミンギュを睨んだ。だが、色っぽさの方が勝っていて、怖さも迫力もない。
大事にしたくない、周りに心配をかけたくない、そんな思いで、ウォヌは辛い、しんどいということを言わないことがある。だから、体調が悪い時にセクシーさが増す、というサインがあることは、分かりやすくていいことだ。ミンギュにはある意味、毒でもあるが。
ジョンハンが突然、ミンギュの肩をバシッと叩く。

「変な目でメンバーを見るんじゃない! ウォヌが困ってるだろ」

「変な目じゃないよ! 心配しているんだってば」

いつの間にか、周囲にメンバーたちが集まってきている。その後ろからマネージャーがウジに体温計を手渡すのが見えた。熱を計れ、ということだろう。今回の活動が終われば、ツアーが始まる。その大切な時に、ただの疲れだとしても、体調管理には万全を期さなければならない。
ウジからジュンに渡った体温計を、ミンギュは当然のように受け取り(奪い取り)、ウォヌの口元に近づける。

「あーんして」

ウォヌは相変わらず不機嫌な顔だが、それさえミンギュには色っぽさの一部だ。子供にするような扱いが嫌なのだろうが、そういうものは無視する。
舌の上に体温計の先端を乗せて、口を閉じて、2、3秒。ピッと言う音がして、体温が表示される。

「38度1分?!」

数字にミンギュはびっくりした。微熱程度だと思っていたら、とんだ熱である。メンバーたちもびっくりしている。

「嘘だろ? ウォヌ、お前、本当に熱があったのか!」

「こんな高い熱があるのに仕事していたのか? しんどいだろうに、言えよ、それは!」

「通りで食が細いと思った。ウォヌヒョン、駄目だよ、言わなきゃ」

「夏風邪はバカが引くっていうのは、ウォヌヒョンには当てはまらない言葉だね」

次々と責められて、ウォヌは戸惑う。朝起きた時から、だるい感じがしていたが、でも仕事はあるし、穴を開けたくなかった。一度開けてしまった穴の、その寂しさを分かっているから。それに、数字にびっくりしたのはウォヌ本人も同じだった。

「いや、そんなに高いとは思わなくて…」

早速マネージャーの「帰るぞ!」という声が飛ぶ。食堂に寄ってご飯を食べる予定だったが、それはキャンセルして、宿舎に直行だ。出前の夕食になるけれど、みんな文句は言わない。
13人+スタッフでぞろぞろ、ウォヌを取り囲むように、廊下を進む。もちろん、ミンギュはウォヌの隣を死守する。スタイリストが持っていたカーディガンを彼に着せて、肩に手を回して、並んで歩く。

「ミンギュ、暑いよ」

肩に回した手とカーディガン、両方を指してウォヌが文句を言う。だが、ミンギュはめげない。

「暖かくしなきゃ。半袖だけじゃ、だめ。帰ったら、すぐに薬を飲んでね。おいしいお粥を作ってあげるから、それも食べて、すぐ寝るんだよ」

「…ピザ、食べたい」

正直、食欲はないが、ウォヌは強がりでそう言った。ミンギュが自分を特別に大切に扱ってくれることは、年上として歯がゆい気もするが、実のところ満更でもない。

「だめ。俺のお粥の方がおいしいから」

否定できない。拒否できない。その時点で、もう2人の間の駆け引きは終わっている。それは分かっているのだが、ウォヌはまだ何も認めていないし、許していなかった。


 ***


6人一緒に使う部屋なのに、1人きりベッドで寝ている。扉の向こうでは、賑やかな声がしていて、きっと12人で楽しく出前で頼んだご飯を食べているのだ。
いいな、と感じる。その輪に加わりたい。でも1人だけ、熱が高いから、風邪をみんなに移すといけないから、1人で寝ている。それでも、いいなと感じる。
仲間外れにされているわけではない。そんなことは一度もない。むしろ、以前1人活動に参加できなかった分、より一層、体調を心配してくれて、無理のないように気を使ってくれている。それもまた申し訳ない。
どうして僕1人だけ、こんなにひ弱なんだろう。みんなと同じ分だけ働いて、活動して、一緒にいたい。それだけなのに。
考え始めると、悪い方に思考が偏ってしまう。特に、熱がある時は、通常よりも悪い方へ行きやすい。それも分かっていることだけど、自分では止めようがない。

「はあ…」

少し暑いけれど、蒲団をしっかりと肩まで被って、身を丸める。漢方薬は飲んだ。暖かくして、汗をかいて、熱を出し切って、明日の朝すっきり目覚められたらいい。
それでいいのだ。



「ラーメンいる人!」

キッチンでミンギュが言うと、「はい!」と数人が声を上げる。ウォヌが、お粥よりラーメンが良いというので、彼の分を作るついでに、メンバーの分も作ってあげるのだ。出前料理があるので、手を上げた5人分とウォヌの分、6人前のラーメンを作る。

「鍋が通りますよ~。気をつけてくださいね~」

気分と仕草はレストランのシェフのつもりだ。テーブルの中央に鍋ごと乗せて、ウォヌの分だけ器に取り、後は欲しい人が適当に取れというスタイルだ。
盆の上に、ラーメンと少し盛った白飯、切ったスイカとオレンジ、市販の風邪薬と水をのせて、彼が寝ている部屋に持っていく。
一応ノックして、部屋に入る。2人きりだなんて、なかなか無い機会に、相手の体調が悪いというのに、ミンギュはちょっと浮かれる。
寝ているらしいウォヌの側に近付く。

「ウォヌヒョン、ラーメン作ったよ。ご飯、食べて」

彼の顔を見て、ミンギュは驚いた。ウォヌが泣いているのである。

「え? ちょ、ちょっと、ウォヌヒョン、どうしたの? 何で、泣いているの?」

ミンギュは驚いて、慌てる。そんなに熱が辛いのだろうか、と心配になる。

「ふぇ、だって…、僕だけ、風邪引いて、みんなと一緒にいられないから…。何で僕だけひ弱なのかな、って…考えたら…」

なんてかわいいんだ、とミンギュは理性を失って、襲ってしまいそうになった。実際、ウォヌに蒲団の上から覆いかぶさって、ぎゅっと優しく抱き締める。ウォヌがそれに戸惑い、泣き止んだのには、すぐには気付かなかった。

「ひ弱なのは、痩せすぎで、筋肉がついてないからだよ。偏食しないで、ご飯をしっかり食べて、身体を作っていけば、きっと大丈夫。免疫力はすぐに上がるものじゃないけど、気をつけていれば、良くなっていくはずだよ」

そうしていれば、体調を崩す回数も減るだろう。忙しすぎる仕事のために、体調管理は時に疎かになることもあるが、ウォヌの場合、それは疎かにしてはいけないことだ。いやウォヌだけでなく、みんながそうだ。1つしかない身体は、大事にしないといけない。
ミンギュの言葉に、ウォヌは安心した部分が大きかった。単純明快なただの事実で、泣くほど悩むことではない。
やはり、熱のせいで、メンタルまで弱っていたみたいだ。ウォヌは抱き締められていることも含めて、急に恥ずかしくなってきた。

「ただの風邪だよ。何で泣くの~? かわいいんだから」

「は?」

おまけに「かわいい」とまで言われたら、顔も赤くなる。

「離れろ。暑い」

「あはっ、照れてる~^^。あ! ラーメン、食べて。伸びちゃう、冷めちゃう」

ミンギュは素直に離れたが、「照れてる」という余計な一言がついていた。
ウォヌは身を起こして、ラーメンを食べる。いつも通り、おいしい。辛くて、余計、暑くなる。だけど、風邪の時は、汗は出る方がいい。熱は、ウィルスをやっつけるために、身体が戦っている証だと、昔、母から聞いたことがある。

「おいしい。…ありがとう」

ミンギュはすぐ側に座って、にこにこと笑顔で、ウォヌが食べるのを見ている。ラーメンを食べ終わるとフルーツの乗った皿を手渡される。それも頑張って食べ終わると、今度は水と薬。
再び横になるまで、ミンギュはずっと笑顔だった。見ていて飽きない笑顔だ。もう涙はない。ウォヌも自然に微笑んでいた。

「ねぇ、ウォヌヒョン。俺、ヒョンに言いたいことがあるんだけど、また今度にするね。ヒョンが元気な時にするよ。だから、早く元気になってね」

「うん、分かった」

ウォヌはいつになく素直で大人しい。弱っている時に付け込むのは、ミンギュの主義ではない。泣かれたのは、ちょっと危なかったけれど。弱っているセクシーさに加えて、涙まで、それはちょっとではなく、大分危なかったかもしれない。
だがやはり、正々堂々と、正攻法で。それでこそ、意味があると言うものだ。

元気になったら、今度こそ、言ってしまうからね。ずっと、あなたが好きだったと。



End.

『風邪』

『風邪』 nanamame 作

風邪っぴきさんのお話。オムニバス形式。各話完結。K-Pop、BL、FF。 BTOB、VIXX、Seventeen。増えていく予定。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-07-20
Copyrighted

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