*星空文庫

詩集 六月

桐原歌子 作

*六月の梅雨で具合が悪い時に執筆しましたので、ちょっと暗いです。

六月の詩

   六月

 梅雨は闇 
 あれは死の季節
 遺体を腐らせる雨が
 視界を奪って、泣く
 四角い窓に切り取られて
 ずぶ濡れの雲をずっと
 追いかけさせられた
 あの季節は、やはり
 死人が多かったと、
 大人になった私が
 部署に報告している

 だるく、憂鬱で、
 気が遠くなっていく
 死について考えるのが
 楽しくなってくる
 こんな夜は
 ただ、ただ、
 一人になりたくないと
 発狂して
 誰かそばにいて
 愛しい人、愛しい人、と
 誰もいないくせに
 空気の通らない部屋で
 ずっと泣いている私の
 同類、を
 せめて泣かさないために
 出来ることは、あるだろうかと
 生きながらえて、
 今の仕事にたどり着いた、のだ。

 あなたが泣いたのは
 六月のせい
 こんな季節の、鬱陶しい闇が
 見せただけの、幻だと
 思えばいいじゃないですか
 紫陽花の下に這う カタツムリを
 見なければいい
 それだけの話ですよ

 時は踊る
 いたずらにかき回して
 雨が終わる 
 滑稽なショーのように
 死んだ人を
 照らすように
(でも、あざ笑うように)
 生き残った、私を
 連れて行くために
 六月が過ぎ
 梅雨が、明け
 空が晴れる
 罪が
 雲に吸い込まれ
 激しく燃えさかった後は
 ひたすら明るい光、が
 新しく、新しくなれ、と
 世界の復活のように
 歌い、
 何もかも、が生き返る
 
 間に合わなかった人たちを
 六月の闇に、放り込んで
 一緒に埋めてくれないか
 光に当てられない
 私たちが
 この世に生息すること
 ばらまいて、ばらまいて、
 いつか国葬のように
 世界中が、死んだ私たちを、
 涙で、送り届けられるように
 生きて欲しいよ
 みんな


   Baby Face

   童顔遊ビ(または、狂気)

 帽子を 深く
 被って みれば
 ほら、もう完ぺき
 無邪気な 子ども

 あなたは
 微笑み
 抱きしめて
 くれる
 何も
 知らず
 生まれない
 まま

(可愛い 子ども)
 優しい 手
(すぐに はしゃぐ)
 弟 扱い
(一緒に 遊ぼう)
 気づいて ない

「坊や」
「とっても」
「楽しい子どもね」
「愛嬌のある」
「いると安心」
「見て」
「今日は会えた」
「今度はいつ」
「お目見えになるの」
「年頃の」
「男の子」

 ああ
 ずっと
 そう
 見えて
 いたの?
 ねえ
 もし
 僕が
 ××
 だったら・・・?

 少し 態度を
 強めて みれば
 ふいに 揺れる
 空気
 微かな 動揺
 
 信じている
(子ども だから)
 平和がいい
(シアワセ、に なりたい)
 きっと怖いだけさ
(早く どうして、)

「どうしたの」
「かわいい坊や」
「キュートな」
「チャーミングで」
「あなたは」
「そばにいたい」

 ああ
 そう呼んで、いれば
 いいよ
 ねえ
 いつまでも
 幼い
 まま、では
 大人に
 なりたく
 ない、の・・・?

 大好き
 愛してる
 優しく、する
 ひどい 男じゃ、
 ない、よ

「お兄さん」
「かわいいお兄さん」
「坊や」
「少年」
「・・・の、ような」
「形を」
「している」
「だけの」
「悪魔?」
「いや・・・」
「まだ」「何も」
「分かった」「気で」「いる」
「私?」
「君は」
「君、は」

 ねえ、僕はどう見える・・・?


   恋愛美人

 すみれ
 みたいな
 ひと
 でした
 恋が
 何かも
 分からず
 焦って
 いました

 花を 
 抱いた
 ときの
 ような
 めまい
 の
 ごとく
 落下
 して
 あとは
 ただ
 照りつける
 愛
 が
 愚かに
 眩しい
 だけの
 命乞い
 でした 

 とても
 素敵で
 哀しい
 あなた
 だから
 私、が
 私、が
 いつも
 追いかける

 どんな
 優しい
 優しい
 顔を
 しても
 あなた、は
 冷たい
 でも、振り向かす

 ひまわり
 の
 生まれ変わり
 に
 なりたく、て
 踊って
 みたけど
 足は
 付かず
 まだ
 こうし、て
 もがき
 足掻く
 だけの
 痛み
 ですが
 やはり
 あなたに
 会いたい
 と
 想う
 だけの
 余力、が
 私を
 生きさせ、て
 離さない
 から
 また
 会いたいな
 と
 感謝
 して、います

 たとえ
 明るく
 明るく
 演じて
 いても
 私の
 心は
 闇に
 濡れてる

 素直
 に
 誰でも
 誰でも
 受け入れる
 ほど
 私の
 身体は
 正義に
 向かない

 のに・・・、

 綺麗に
 なりたい
 心
 も
 隠してる
 けど
 愛する
 力
 は
 信じて
 欲しい

 苦しい
 思い出
 傷跡
 誰も
 消せない
 けど
 私の
 勇気は
 それより
 深い

 あらゆる
 涙
 孤独
 さえ
 流行らない
 けど
 私は
 知ってる
 愛の
 言葉を

 いつか
 あなたの
 気持ち
 と
 通じ合った
 なら
 二人で
 笑って
 手を
 繋ぐの


 いつか振り向かす


   林檎

 綺麗に整列された林檎が全てだと
 あなたは私に言った
 一つを手にして齧って言った
 これで安心が少し削がれてしまったと
 そうやって世界は廻っていると
 ならば 林檎を齧る輩を
 排除しなければならないと

 やめて それは林檎よ
 ただの林檎なの
 たとえ歪な形になっても
 林檎はそこに「在る」わ
 そのことに気づいて

 美しくなくても
 気づいて

 儚く小さな林檎は見ていて痛々しいと
 あなたは私に言った
 一つを手にして明かりに翳した
 光が当たれば影は必ず出来ると
 そんな疎ましさに何の意味があると
 いっそ 影そのものが無ければ
 どんなにいいだろうと

 やめて それは林檎よ
 ただの林檎なの
 影が無いところには光も無い
 儚い林檎も「林檎」だわ
 そのことに気づいて

 強くなくても
 気づいて

 光だって
 闇が深いほど
 まっすぐに
 強く、輝くでしょう・・・

 お願い それは林檎よ
 ただの林檎なの
 捨てられた粗悪品でも
 林檎は生まれていくの
 私たちのために
 私たちの代わりに
 そのことを認めて
 醜くても
 美しい
 林檎の在処を
 祈る
 その場所を
 無くさないで
 林檎のために
 
 林檎のために


 礼賛

今この胸が不安ではちきれそうでも
今この足がもつれそうに震えても
誰もさわらないでね
誰も分からないから
何もしなくていい
何もいらない
傍で笑っていて
傍にいてしょうがないなあって笑って見守って
戦いにも駆り出されないのは
戦う力もないのと同じだから
私には冗談などいらないわ
私が生まれるわ みんなのために
言の葉に乗せて 音の波に乗せて
言えない嘘も暴言もすべて伝えるわ
愛してると歌うわ
愛などいらないと歌うあなたに
最大の仕返しをしてやるの
最も尊いのは何かって
世界じゃなくて
世間じゃなくて
誰かがそこにいることじゃないの
誰にも分からないはずの気持ちが
人に伝わった時じゃないの
人間なんてそんなことで嬉しいのよ
孤独がどれほど深いか考えないで
孤児の存在をもっと言いふらして
与える愛を知れば
与えられる愛に成り得るわ
恋の魔法にかからなくても
恋の行方は知っているでしょ
報われない男は 
報いを受けた女
二人で同じ役を演じていたの
二番手の幸せは帚星になり
一度別れても
一つの道に繋がるでしょう
語って
語られる物語を
唄って
唄われる詩を

そして すべてが解き放たれる歴史を見守る 確かな礼賛



   十代の君たちへ

 今、限りなく死の淵をさまよっている君たちへ、送る、言葉は、世界が簡略化した、勝手な記号ではなく、ただ、ただ、苦しく、悲しく、憎たらしく、殺したくてたまらない、あの男たち(そして、女たち)を、八つ裂きにできるような、その頭を、決して、決して、卑下してはならぬ、と、格好つけた文で、終わりたい、私も、頭の中では、たくさんの人間を、惨殺、した愉快な脳味噌です、から、今まで何とか生きていけた、証を、君たちに見せたい、どうしても、伝えたい、メッセージを、持って生まれてきた、宿命の下、君たちを死なせない手段を、いい年した女が、と笑われながら、昨日も、今日も、おそらく明日も、ずっと、ずっと、考えている。
 背負うなかれ、正義。捨てるべし、綺麗、な言葉。爪を、研ぐ、日々の、一瞬を、生きろ、生きろ、生きろ、十代の君たち。

『詩集 六月』

詩を載せたのは初めてなので、どんな出来になっているか自分で全然分からんのですが、楽しんでいただければ幸いです(^_^)

『詩集 六月』 桐原歌子 作

六月は闇の季節だ。魔のような湿気と雨が降り注いで、弱い人間を食い散らす。これは梅雨が明けなかった年の、夏の少しの輝きを死にもの狂いで浴びていた私を記録した、日本一憂鬱な詩。

  • 自由詩
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-07-15
Copyrighted

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