抑鬱ナイトメア・ラヴジュース
真新しい人生を彼女は「悪夢どうしがえっちする愛液みたい」と言った。
それは彼女が僕にくれたニットキャップからはじまった。
「抑鬱」という名前のついた僕の寂しさのガソリンが燃焼する、こんな黄昏時に、
彼女を待っている、僕とイクことなど知らない彼女のママのいるおうちへ向かうまでの最後の40分間、
僕の車は他にありうる人生の可能性を大量に轢殺してゆく。
彼女に向かってこの世の最後の一瞬の祈りのような怒涛のおしゃべりを吹き込む僕。
気高い神のごとく祈りを聴くようにして、残酷なまでに音楽しか聴いていない彼女を乗せて、車は走る。
気分変調が絡みつく僕の口ぶりは とても病んでいて、おまけに金にも職にも縁がない。
薬局の窓口から排出する彼女のほほえみは、月給16万円分だけ小刻みに人々へ配られる。
「人生なんてバランスじゃない？」と、バランスの整った情欲の彼女が軽々と笑う。
彼女の吹かしたパーラメントの煙が目に染みながら、つられて笑う僕の欲動には際限がなかった。
彼女と僕は会うたびに必ず貪りあうSEXの回数のみを計上しながら、人生のバランスは重なりあう声と息に代謝される。
あれほど濡らし、馬乗りにしがみついて僕のペニスに貫かれたことなど、彼女はバランスの人生によって溶解させる。
真新しい人生によってひとへの切ない気持ちの平衡を失いながら、脱力していく僕は数十億年も老け込んだ心地がして、
真新しい人生はいつもたった2時間だけ会う時に、局部の切なさのみを貪る彼女と僕がさんざん刹那に流し合った体液、
あの抑鬱的なナイトメアに沈殿したラヴジュースの匂いがする。
抑鬱ナイトメア・ラヴジュース
ナイトメア（nightmare）は悪夢のこと。ラヴジュースは愛液の隠語。
昔のセフレのことを書いた。
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