ストール

飛んでいるか。まだ、まだ?
どこから来たのかもう覚えてはいない。目標も既になく。
発動機は回らない、オイルは入っているか。
どこまでも行こうと願っている。
もう、発動機は沈黙したが、二度と回らない羽は邪魔くさいが。
それでもかつての姿からの残滓である。
本能に背を向ける必要はない。
もう、初動のように動いてはくれない。すべて、純製品だったから。
旧い銘板の文字列を、もう変更する気はない。正式とは、貴いものであるから。
最初の一文字は、消されてはいけない。二度と描けない物を欠いたから。
もう何処へもいけない。このまま強くならなくては赦されない。
このまま息絶えるまで同じ翼で、劣等品の翼でもって。それでもやはり手放されてはいけないもの。
限界は感じている。初速はもうない。耐久もなし。二度と本能のままには飛べない。
ペダルは効く、ワイヤも切れていない。今この頃。

オイルあったか?プラグ、チョーク。風。いけるか?
もうひと踏ん張り。舵微修正。
これ以上、先が見通せない。何のジョークだ。

ストール

ストール

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-07-11

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