星に願いを、交差する世界

―――世界はいつだって残酷だ。
でも、本当にそれは真実なのかな?


―――世界はいつだって残酷だ。
どうして私がこんな目にあわなくちゃならないんだ。

憎い、世界が憎い。
あんなことで、破滅への道を歩むことになるなんて・・・


やるせない気持ちを落ち着かせるべく、夜の散歩。
でも、気持ちは晴れることはなく。
冬の足音が聞こえてきた寒さに耐えきれず、コンビニで肉まんを買い食いする。

そうして私は不意に、この都会の星ひとつ見えない夜空を見上げる。
もしもこんな場所で星が見えたなら。それは小さな奇跡だろう。

そんな小さな奇跡を願う程に、私は疲れていた。


・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・


いつからかはもう忘れた。
人間関係のいざこざがあって、私はいつからか「安心できる場所(ギルド)」以外に行かなくなっていた。
正確には「出歩く時はなるべく人目を避けている」が正しいのかな。


他は別に無理に行く必要もない場所しかない。
行かなくても生活していくのには問題はない。

普通にお仕事(依頼)をしていれば、生活費は事足りるし。
多少の余裕はできる程度までは頑張ってきた結果(ランク)も出てるし。


―――でも、どうしてこんなに悲しいのだろう。

不意に涙が零れ落ちる。その瞬間―――


「これは・・・転移魔法陣?」

私は人目を避けて歩いていたから。
気づかないうちに、袋小路まで歩いてしまったみたいで。

そこにあった、古ぼけた魔法陣を、私の涙がトリガー(魔力)となって、起動させてしまった様子。


でも、私は動揺しなかった。

正確には。
自分が、他人が、世界が、どうなっても良いと、無関心ですらあった。


願わくば。
こんな面倒なことから開放された世界に行きたい。

―――それだけを思った。


・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・


あ、流れ星・・・
こんな都会で、星なんて見えないと思ってたのにね。
何か奇跡でも起きる予兆かしら。


ぶー!
不意に、ポケットに入れていたスマホが振動する。

―――また仕事の事でグチグチ言われるのかな。

そう思って、ため息をつきながらスマホの電源を入れる。
そこに書かれていた通知は、予想外の、謎の通知であった。


【@FreezeLightSnowさんからフォローされました】


「・・・誰?」

思わず独り言が出てしまう程度には驚いていた。
特に大したことは呟いていないTwitter。
関心を持たれることもないであろう、放置してどれだけになるのか。


―――そんな私をフォローするなんて。
奇跡の前触れかしら。まさかね。


プロフィールは真っ白。でもアイコンだけは変わってる。
ショートツインテールな魔法少女的な。


はじめてのツイート。


という、最初に呟いてみましょうという類のツイート以外に不思議な呟きが一つ。


『あの~誰かいませんか? ここは何処なのか教えてほしいのですけど』


・・・変わっているなんてものじゃない。電波さん(ちゃん?)かしら。
でも。
根拠はない。が、直感が告げる。

『この子は私と同じだ』と。

私と同じ、道に迷って、気づいたら袋小路に辿り着いてしまった子。

そんな印象を受けた私は、フォロバする。
そして、こう書いた。


「はじめまして。フォローありがとうございます。大したことは呟きませんがよろしくお願いしますね。」


無難だろう。そう思った瞬間にリプライが飛んでくる。


「あ、やっとまともにお話してくれそうな人と出会えたです・・・(涙)」


・・・なんだろう、この「喋ってる感」が凄く強いリプは。

でも。
困っているなら。
私なんかで助けになるなら。
話し相手ぐらいなら、できる。


「ちょっと待っててくださいね。今外出先で、家に帰り次第お返事しますので」

「わかりました!待ってますね!」


と、自分が退屈しているのもあって、早々に私は帰路につく事にした。


・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・


そうしてまずは。
PCの電源を入れる。
そしてOSが起動するまでの間に煙草と珈琲と軽くつまめるものを持ってくる。

これで準備OK。
相手はリプ速度がそれこそ会話してるレベルに早いし、離席する暇はなさそうだしね。



「お待たせしました。まずはこんばんはです」

「こんばんわ!お仕事(任務)か何かの帰りでしたか?そうでしたらごめんなさい」

「そういう訳じゃないので大丈夫ですよー。お仕事(サービス残業)は今日はなかったですし」

「あ、蓄えで全然どうにかなる実績(ランク)をお持ちなのですね!いいなー」

「そんなに余裕のある暮らしはしてないですけれどもね(苦笑)」


・・・なんだろう、世間知らずともちょっと違う。
噛み合っているようで噛み合っていない会話って感じだけど、そもそも電波ちゃん?みたいだしね。
気にしないで私は私のペースで話そう。退屈じゃないしね。


「あ、それでですけれども、ここはどこのお仕事場(エリア)ですか? 見たこともない場所で、戸惑っていました」

「んーっと?ここはTwitterって言って、まぁ、みんなが日常の小ネタを呟いたり、愚痴ったりする場所、かな?」

「あ、なるほど! ここは休息のための場所(エリア)なのですね! 色々と納得です!」

「私なんかがお話し相手で良いの?つまらなくない?」

「いいえ!まず全然普通に接してくれますし、何より優しい人だってなんとなくわかりますから!」


・・・私はそんなに優しい人間じゃないのに。
この子?は・・・


「あ、今ご自分のことを卑下しましたね?良くないんですよ、本当にそうなっていっちゃいますから」
「かく言う私も、最近落ち込み気味なんですけどね・・・(涙)」

「君、大丈夫?・・・っと、なんで私は自己紹介もしていないんだ、私は晴海(はるみ)よ、よろしくね」

「あ、私は小雪(こゆき)って言います!海と雪で、なんだかちょっと似ていますね」

「改めてよろしくね、小雪ちゃん。あ、さん、かな?」

「ちゃんで大丈夫ですよ!晴海さんは、さん付けで良いですか?」

「小雪ちゃんの呼びやすいようにしてくれて構わないよ」

「はーい」


そう書くと私は一服する。
煙草と珈琲。ある意味寝る気のない組み合わせね(苦笑)


「・・・晴海さん、私の悩み、聞いてくれますか?」

「ん、突然だね。こんな私で良ければ、聞くだけぐらいなら出来るよ。アドバイスできるかは内容次第」

「ありがとうございますっ!実は・・・」


そうして、小雪ちゃんは語りだす。

小雪ちゃんは、それなりに仕事場で可愛がられてたらしい。
(自分で言うのは恥ずかしいと言いつつ)実力も実績もあります、と。

でも、人間関係の縺れから、実績とかの都合からだろうと迫害はされなかったらしいけど。
小雪ちゃん自身が人前に出たくなくなっちゃった、と。
まぁ、そういうの(面倒事)恐れてということなんだろうけど。


「んー・・・小雪ちゃんは、苦労してるね」

「はい・・・原因は私にあるとはい「いきれないな、そうとは」え?」


「人間関係ってさ、誰が悪いとか、明確に定まってるのって、大体、この人はこれぐらい悪いけど、この人もこれぐらい悪い、なんだよね」
「まぁ、明確に法に触れているとかなら別だけどさ、話を聞いてる限りそうじゃないみたいだし」

「はい・・・」


そう書くと、一服する。
手は止めないが、私が私に言い聞かせているみたいで、なんだか可笑しい気分。夢なんじゃないかって思うレベル。


「人ってさ、やっぱ難しいわけよ。人の数だけ考え方はあって、それぞれ違う。だから衝突したりするし」
「世界中の全ての人に好かれるなんて無理、ってよく言うけど、本当それなんだよね」

「・・・私は、勇気が足りないんでしょうか?」

「うん、小雪ちゃんは聡いんだね。その話を聞いてる限りじゃ、相手がどう思ってるかわからないままじゃない」

「はい・・・」

「でもさ、さっき言ったように、人ってそれぞれ違うから、嫌ってる人もいるかもしれないけど、嫌ってない人もいるんじゃないかな?」

「そう・・・思いますか?」

「思うね」


・・・私にしては珍しい、断言。
私が私に言ってやりたい言葉だね全く。


「だからさ、勇気を出して、一歩だけでいい。一歩だけ、足を踏み出してごらんよ。世界が変わるかもしれないよ?」

「・・・でも、怖いですよ、やっぱり」

「うん、よく分かる。・・・実はさ、私も似たような状況なんだよね(苦笑)」


そう言うと、私も私のことを書き始めてしまった。

職場で人間関係が拗れてしまったこと。
小雪ちゃんと違って、私の場合、迫害されて、仕事を失ってしまったこと。
しかもよりによって拗れた相手が、その業種の関係に大きな影響力を持つ人物で、この業種じゃもう働けないであろうこと。


書いてる最中に、不意に涙ぐんでしまった程度に辛かったんだなって、吐き出していて、実感した。
いけないね、もう終わることなのに。


―――でも、そうはならなかった。


「そんなに暴君な人放っておけません!私は怖いもの知らずですし、いざとなれば味方もいますから、詰め寄りますよ!」

「ちょ、ちょっと、そんな急に!?」

「相手の居場所教えてください、その人がいる場所(エリア)まで向かいますから。大丈夫です、それぐらいの運賃はありますし」

「・・・あーっはっはっはっは!小雪ちゃんは真っ直ぐだね!そんな真っ直ぐな子に出会えた私は幸せ者だね」

「え???私、何かおかしなこと言いましたか?」

「あーっはっはっは・・・笑い疲れたからちょっと飲み物飲むね(苦笑)」

「あ、はい・・・」


今まで捻くれていたのは私の方かもしれない。
今まで世界が憎いと思っていたけれども、小雪ちゃんにはそれを感じさせない何かがある。
それが何なのかはわからないけれども。これは小さくても、確かな奇跡なんだって、そう思った。


「小雪ちゃんに迷惑はかけられないよ。これは私の問題だしね。私がケリをつける」
勇気も確かにもらったしね、と付け加えることも忘れない。

「だからさ、小雪ちゃんも一歩踏み出してみようよ」

「え、それとこれとは」

「関係あるの!私に勇気をくれた小雪ちゃんが勇気がないとか、私が許せないし!」

「・・・ぷっ、あはは、晴海さん、なんだか話し始めたときと違って、影がなくなってますよ」

「あ・・・そういえばそうかもね、うん」


気を取り直すために煙草に火をつける。
そして珈琲を取ろうとして、手が滑って、幸いマグカップは落とさなかったものの、キーボードに珈琲をこぼしてしまう。


「あ、ごめん、キーボードに珈琲こぼしちゃった、ちょっと待ってね、拭かないと」

「・・・え!?いきなり足元が光って・・・!?また転移するの!?」

「小雪ちゃん!?」


キーボードが壊れるとか構うものか、小雪ちゃんに話しかけないと!
しかし、小雪ちゃんは酷く冷静で。でも、どこかさっぱりした様子で。


「あ・・・私、晴海さんと話せなくなっちゃうかも・・・」

「小雪ちゃん!じゃあ約束しよう!」

「約束・・・?」

「私は私の人間関係とか、修復しようと思った!てかやる!だから小雪ちゃんも頑張って一歩踏み出してみよう!」
「それでどうにかなる保証はないけど!でも、どうにかしようと思わなければ、多分何も変わらないから!」


「・・・はい、ありがとう、ございま、す」

「・・・嬉しいです、そんな、こと、こんな状況で、言ってくれて」

「・・・晴海さん、また、どこかで会いましょう!」

「小雪ちゃん、約束だからね!」


ブツン。
PCの電源が唐突に落ちてしまう。
慌ててスマホからツイッターを確認するけど、そこには・・・


FreezeLightSnow
は存在しないユーザーです。


唐突過ぎた、何もかもが。

ただ、すっかり灰になってしまった煙草と、恐らく壊れたであろうキーボードが、夢じゃないことを示していた。


・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・


そして私、晴海は、キーボードを買いに行くと共に、件の人物の元を訪ねた。
意外なことに、件の人物もどこかで悪いと思っていたらしく
元の仕事への復帰はきつくても、同じ業種を当たってくれるとのこと。

これは、小さな、でもとても大きな奇跡。


・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・


~そして~


小雪「お、お久しぶりです!」

その後のお話は、ここで語るまでもないであろう・・・

一つだけ言うのであれば。
小雪は恐れていただけだった、だって、暖かく迎えてくれた人たちは確かにいたのだから。
と、記しておこう。


~Fin~

星に願いを、交差する世界

オリジナルといえばオリジナルなのですけれども、どこかで見たようなお話なのは気の所為です、気にしたら撃ち抜きます★←
ただ、作品クロスオーバーとまではいかないですけれども
私の別作品のキャラの、作品完結後の状態(ランクとか)での登場なのです☆彡

ここまでお読み下さってありがとうございました。何か心に残るものがありましたら幸いなのです☆彡

星に願いを、交差する世界

前作オリジナルSS「白い少女と、白い世界」を別の視点で見た物語です。 舞台は全く異なりますが、テーマとしている根源は大凡同じ。 ただ、切ない成分は薄めです。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-07-07

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted