知りたい?見たい?触れたい。

BTSからテヒョン×ジョングクのお話。
ちょっと変わった性癖を持った彼に愛されちゃうテヒョン。

1.

小説とか自叙伝だったり、そういう活字だらけの本は苦手だ。
図書室に来る目的は、雑誌がただで読めるからっていうところが大きい。
そして、昼休憩のこの時間は基本的に人がいない穴場でもある。

(…?)

雑誌をめくっていると、後方で本が落ちる音がした。
人がいたのか、そう思って振り向くと赤い痕の残る白い手が本棚の隙間から覗いた。

好奇心で足が向かう。
本棚と本棚の間、そこに横たわる男子学生が一人。
すやすやと寝息を立てている。
すごく整った鼻筋、やわらかそうな肌、はっと息を飲むほどきれいな寝顔だ。

「おい、起きて。」
「…ん?」

さすがに冷たい床の上では体も痛いだろう、っていう気遣い。
肩をぺしぺし叩くと、目をこすってゆっくりと起き上がる。
まるで眠りから覚めた白雪姫みたいに見える。

「…ジョングク…?」
「え、何で名前知ってるんですか。ていうかその赤スリッパ、浪人生?」
「そうだけど…ってお前だったんだ…」
「ここ図書室です、静かにしましょう?」

眠そうな目で、じっと見つめる視線が熱い。
不覚にもどきりとしてしまった。
卒業する年だったか、入学生にすごい美男子がいると話題になっていた。
ちらりと見たことはあったけど、こんなところで出会うとは。


「名前、教えてください。」
「え、…キムテヒョン。」
「そっちも有名でしたよ、すごくモテるし女子が尽きないって。」
「むっ…それはちょっと誤解だ。」
「ははっ…顔赤い」

笑ったその顔につい目を離せずにいると、 制服の裾をきゅっとつかまれた。

「待ってください。」
「え?何、っわ!!」

力強く引き寄せられて、その体に向かって倒れこむ。
引き込まれる真っ直ぐなかわいらしい瞳。

「テヒョン先輩、俺と友達になってください^^」
「…は、い?」
「ここで出会ったのも何かの縁だし。」
「…あ、あぁ!うん!もちろん!」

学校の有名人と友達だなんて、そう思ったらうんうんと頷いていた。

「俺浪人してるけど、学校生活困ったことあったら相談のるから!」
「ありがとうございます。」

そう笑った顔に少しだけ影を感じたのは気のせいだろうか。
その後で、ジョングクはあくびをひとつしてまた今度と図書室から出て行った。



帰宅後。
携帯電話に入ったその連絡先を見てにやける。
久しぶりにおもしろそうな友達が増えた。
そうしていたら、さっそくというのか彼から電話だ。

「もしもし?ジョングク?」

電話に出る声は少し焦っていた。

「あの、SD カードとか拾ってませんか?」
「え、SD カード?」
「その、今探したらなくって。あれないと困るから、」
「いや、知らない。てか何で俺?」
「今日は先輩とくらいしか接してないし、もしかしたらって。」
「ん~ちょっと待ってて。」

かなり困った様子だったから、こっちも焦って探す。
カバンの中、衣服のポケットの中、しまいには参考書の隙間。
ばさばさと漁っていると、今日借りた雑誌からぽろりと何かが落ちた。

「もしかして透明のケースに入ってる?」
「はい!ありました?」
「たぶん…あとで写真送るわ。」
「お願いします!よかった、先輩が持ってて…先生に渡ってたらどうしようかと思って。」
「そんなにばれたらやばいやつ?」
「あ、そ、こまではないんですけど…とにかくありがとうございます。」

嬉しそうな声にほっとする。
それから写真を送ると、本人のものだと言うことが分かった。
明日渡すことを約束して、携帯画面を閉じる。

「先生に見られるとやばい?」

小さなケースを天井にかざしてみた。
悪魔が囁く、今なら彼はいないよ、って甘い声。
思わずにやりとしてしまった。

「で、でもっ!人は必ずしも1個や2個秘密ってものが…!」

ごろごろと布団の上を転がって、葛藤する。
目線を横にずらすと、見ようといわんばかりにパソコンが置かれていた。
こういう時、自分の旺盛すぎる好奇心を恨む。

「い、言わなきゃいいだけだ…テヒョン。」

ゆっくりと体を起こしてパソコンの電源を入れた。

「あのイケメンを知るためだ、それだけ!」

ぎゅっと目を閉じて、言い聞かせた。
カチリ、カードを挿入する。
フォルダを開く前に、少し辺りを見回して一息。

「本当にすいません!おじゃまします!」

誰も見ていないし聞いていない。自分だけ、だ。

カチッ…


それが後悔につながるかはたまた好意の助長になるのかまだ分からない。まだ気付かない。

学校のうわさの有名人とはいえ誰も彼の事を深くは知らず、ミステリアスな存在となっていた。
知れる気がした。顔を覗かせた好奇心が、また囁く。
クリックする指がわずかに重たく感じたこと、
並ぶそのファイルの表示から少なからず狂気を感じたこと、すでに違和感はあった。
それでも立ち止まらなかったのは、意識の奥で彼のどこか闇を持った甘い笑顔が焼き付いて離れなかったからに違いない。

2.

『え~っと、今日は△月□日です。今さっき学校から帰ってきたところ。』

フォルダ内にあるのは全部が動画だった。
1番上にあるものをとりあえず開くと、制服姿で疲れた表情の彼。
1日の出来事、考えたこと、面白かったことを喋っている。
動画投稿とか?最近流行っているみたいだし。
まあ、先生に見られるのは恥ずかしいか。
カチッ、
次の動画を再生する。
そして始まってすぐ、目に映るその映像に違和感を覚えた。

『これでいいかな?ちょっと、ドキドキしてきた。』

制服のネクタイをするりと外して、それを目隠しに使う。
恥ずかしそうに、それでいて楽しそうに笑う。
固定されたカメラに向かって、ぺろっと舌を出す。
ひらりと手を振って、テーブルにあごを乗せた。

『ちゃんと僕の事、見てて。』

俺、ではなく僕、一人称が違うこともおかしく感じる。
そうしてすぐに、甘ったるい息が漏れ始めた。
今から何をするのか、嫌でも想像ができてしまって思わず一時停止する。
何となく、危険を感じた。
本能からなのか、とりあえずイヤホンを装着する。
好奇心が止まない、すぐに再生のアイコンをクリックした。

『ん、っあ…っこ、れ、気持ちいいっ』

へたりと頬をテーブルにくっつけて、体を震わせる。
それでも顔しか映らないせいで何をしているのかは分からない。

『え、へ…ここね、ぎゅってしたら、んぁッ…すぐ、出ちゃ…ッ!』
どこにその手はある?
どこに触れて、気持ちいいなんて言ってる?
そんなに身をよじるほど感じる?
見えない部分は、こちらの想像で補うほかない。
まるで、それが目的かのように言葉で煽られる。

『ん、っと…キスしたくなってきた…あ、』

画面から目が離せなくて、間接的なのに耳から流れる声が全身を這う。
浸食されていく感覚。
下半身に力を入れていないと、緩めばすぐに溢れそうでずくんと重たい。
痛いほど、中心が主張し始めるのを感じた。
キスがしたいと言って、自分の腕に唇を押し当てて歯を立てて吸って、痕をつける。
ぺろりと自分の肌を舐めては興奮して、涎がこぼれているだらしない口元が誘う。
わざとらしく激しめにリップ音を立てて、にやりと微笑んだ。

『ん、んッ…っは、あ…ぁ』

その姿があまりに妖艶で、大人で、怖くなる。
これ以上見たらどうにかなりそうで
一瞬だけ、動画を停止しようとマウスに手をかけた。

『だめっ、やだ。ちゃんと見てるって、言った…』
「っ!?」
『まだ、気持ちいい途中っ…やめたら、嫌…』

タイミングを分かったように、甘くて色っぽい声が終わらせようとした手を止める。
これ以上はだめだと、見てしまっては何かが壊れていくような気がして止めたいのに。
それなのに、体が熱を持ってしかたない。
じんわりと濡れる感覚、まさか男子のそういう姿を見て
こんなに体が興奮してしまうなんて思いもしなかった。

「何なわけ、これ…!?」

画面の先、怖いくらいに妖艶で大人な少年がひとり。
学校での噂も、イメージも、すべてが覆る。

何とか指に力を入れて、一旦閉じた。
だけどすぐに次の動画をクリック。
そのカメラの先に誰がいると思って、そんなかわいいこと言うのか。
まるで「相手」がそっぽでも向いたかのように、自らカメラを寄せたりもする。
こちらが押し倒したと錯覚するように、ベットに倒れこんだりもする。
それでも、決して顔以外は見せない。
想像が止められない、暴走していく。
脳内で犯される姿を、嫌でも描いてしまう。
めちゃくちゃにしたいほどの恍惚とした表情に理性が崩れていく。







知れたはずの彼の裏の顔。
けれど、ますます分からなくなった。
知りたい。
もっと見たい。触れてみたい。
わずかな再生動画の中にいる彼に、あっという間にはまってしまった。

「グク…ジョン、グク…!」

その名前を声にして、イヤホンから流れる生々しい声を同時に聞いて想像は自分の手を操る。
知らない、こんな気持ち良さ。
あっという間に果てた、その脱力感にうつむく。
汚れたぬるい手を見て、ため息が出た。


「明日、会えるんだ…」

渡すだけの約束が、重く甘く感じて体が震えた。
何かが始まる予感に、しばらく表情を管理できず
目を閉じてジョングクの笑顔を反芻していた。




「…まだ、見ててくれる…?」



誘われるまま、ひとつひとつ再生してしまう手を止めることなんてできるわけもなかった。

3.

午前中だけの補講を終えて、図書室へ急いだ。
誰もいない 12 時の静まり帰る室内。
昨日と同じ、本棚の間で眠る白雪を見つけた。
あどけない寝顔、まるで子どもだ。
でも、すぐに昨日の欲に濡れた声を、顔を、ぶわりと思い出す。
ぞくりとして思わず一歩後退した。

「ん…?あ、テヒョン先輩!」
「お、おう!持ってきた、これ。」
「あ!ありがとうございます!」

体を起こして、手を伸ばす。
小さなそれを渡そうと、指が触れた瞬間。
また、記憶から引きずり出される光景。
反射的に、手を払いのけてぽとりと落ちる。

「どうしたんですか?」
「ん?いや、静電気かな?うん!それだ!」

気になる様子で下からのぞかれるけれど、今そういうのは止めてほしい。
その目は、怖い。どうしたって思い出してしまうからだ。
ふわり笑われるとくらりとめまいがするようだ。
ここにいたら危ない、早くここから出よう。

「じゃ、じゃあ今日はこれで帰る!」
「え!もう行くんですか?」
「あ、…っ!」

寂しそうな目、行かないでっていうすがるような目。
裾を引っ張る手を視線でたどると、手首に赤い痕が目に入る。
どきりとして、気付けばそっと指で触れていた。
あの時の、だったのか?
そう思うと、また体が熱くなるようで震える。
「気になりますか、これ。」
「え、」
「この赤いの、知りたいですか?」

ジョングクが愛しそうに自分の手首の痕を見る。
その視線を追っていると急にぎっちりと手首をつかまれて、
痛みで顔を歪めれば楽しそうに笑って力をこめた。
そして、想像もしなかった力で体勢が反転する。
視界がぐるりと回って、床に背中を打ち付けた。

「いってえ!…何すんのグク!」
「テヒョン先輩、もう気付いてるんですよね?」
「は…?」
「ほら、心臓すっごいドキドキいってるし…顔、赤いですよ?」
「知らな…っ!?」

右腕をするりと握って、見せつけるようにぺろりと手首に舌を這わせた。
解きたいのに解けない、甘く痺れる。
食べるみたいに、甘く歯を立てて舐められてびくりと体が跳ねた。

「何、してんの、やめ、」
「ん…っ…は、ぁ」
「ね、グク…ね!や、め…っん…」

声をかけても、目線で黙っててと訴えられる。
ちくり、と噛まれた痛みのあと、 ジョングクの手首と同じ位置に同じ赤い痕がくっきりと浮かぶ。
気持ち良さに悦ぶ大人の目がこちらを見つめた。

「こういうことです。」
「な、んで…嫌じゃ、ないわけ?お、とこだぞ…?」
「嫌?嫌だと思われるくらいならしてないですよ。」
「え、は、うん?」
「もう知ったのに、知らないふりができますか? 」
「僕の事、見たんでしょ?男なのに…感じたでしょ?」

僕の事、その言葉が引っ掛かる。
知らないふりなんて、できない、したくない。
今この状況も必然、起こるべくして起こったのか。
分からないけれどそう思うほかない。

「教えてくれんの?知りたいっていったら全部。」
「テヒョン先輩なら全部教えます。」
「…え」
「俺、ちょっと変わった趣味、あるんです。」

そういって携帯を取り出す。
そうして見せられる画像や動画。
それはどれも、自慰行為における快感に溶ける顔であったり自分の精液で汚れる手。
またどくんと痛いほど体が疼く。
見ているだけじゃ、足りない。もっとその先が見たい。あの時と何ら変わらない欲が騒ぎ始める。

「自分のこういうの撮影してあとで見るんです。」
「…あ、」
「すっごい興奮しちゃうんです。撮るのも見るのも。画面越しに誰かが見てるって想像しただけでもたまんないくらい、ぞくぞくする。」

わずかに色を失くした目、それでいて恍惚とした顔。
その顔を見ただけで、体が熱くなる。
人に言いにくいことを口にしているはずなのに、ひどく嬉しそうなのが怖い。

「俺、見ちゃったのに…ひどいとか恥ずかしいなんて思わない?」
「テヒョン先輩に見てほしかったし、どう思われたって嬉しいです。」
「何それ。もう、好きみたいじゃん。」

目を合わせたら、視界を奪うようにネクタイがするりと解けて落ちてきた。

「そうですね。好きみたいです。誰かに見てほしいなんて初めてかも。」
「それが、俺なの。」
「先輩は?…俺のこと、気になってくれてますか?」
「気にならないほうがおかしいって。」
つうっと人差し指が胸の中心をなぞった。
足がびくりと浮いて、息があがる。
知らない、人の指でこんなに感じること、目だけで奪われる錯覚に陥ること。
この少年は危険だ。
そう思うのに視線を外せない、否定の心理が働かない。


「ね。テヒョン先輩…俺で遊んでみませんか?」

好きになって、その意味も存分に含んだ甘い甘いお誘い。
若さゆえなのか。
そこが図書室なんて、考える余裕は皆無。
理性が音をたてて崩れた瞬間だった。
気付けば夢中でその唇に触れて重ねていた。
まだ日の射す真昼の出来事、それが本当の 2 人のおかしな関係の始まり。

4.

学校外で会うのは初めてだ。
7 限目の終了時間に合わせて校門で待つ。

「あ!テヒョン先輩っ!」
「何、走ってきた?めっちゃ息切れてる」
「当たり前です、先輩に早く会いたかった。」

そういうことを恥ずかし気もなく堂々と口にするから返事に困る。
人目をはばからずに手をとって、笑う姿を見ると無邪気な子どもにしか見えない。

「俺の家、行きましょ。」
「え?だって今日…おわっ!」

ふふ、っと含み笑い。小悪魔が、背後に見えた。




***



特別おかしなこともない殺風景な部屋だった。
そんな中で、ネクタイを解いて床に座り込む。

「はい、これ。」
「…ビデオカメラ?」
「手に収まるサイズだし、軽いでしょ。」
「いや、これ、どうするわけ?」

それからあっという間に、空気が支配されていく。
にやりと笑うその顔は、学校では見せないであろう色気をまとった大人すぎる顔。
手にそれを持たされて、じわりと近づき密着した。
「今からエッチなことするから、撮影しててください。」
「は…い!?」

虫が這うように、くすぐったさを残す触り方。
唇にたどりつく人差し指が唇をふにっと押さえた。
無意識に開く口、ちゅっとその指に舌を絡める。

「グク、え、ちょっ…!」

ぐっと服越しに押さえつけられる自分のもの。
そうしてすぐに衣服をずり下げて、広い両手に包まれる。

「だから撮ってて。ちゃんと、見てて。」
「ん、ぁ…っあ…いや、これ…ッあ!」
「あっ…へへ…先輩の、おいしそ。」

すでに溶けそうな目で、こちらをちらりと見ては触れただけで硬さを増すそれを握って息を吹きかけた。

『ここね、ぎゅってしたら…』

あの時の声が耳に蘇って、無意識に腰が揺れる。
先走りで濡れる手を、嬉しそうに見つめてカメラに笑いかけた。

「あ、っん…ふ、う…ぁ…ッんぅ…」
「っん、あっ、グク!…はな、し、…っひぁ、」
「ん~?ん、ぐ…こ、こ…はぁ、っふ…」

それでも、カメラ越しに見るその顔があまりにいやらしくて気持ち良さに拍車がかかる。
こんなかわいくて大人な彼を今独占できているかと思うとたまらない。
そして口いっぱいに頬張る姿が、必死で舌を絡めて漏れる息が、
自分も知らないスイッチを押した。

「っん…ん゛!」
「はあ…っあ、グク…もっと、奥まで…んッ」
髪をつかんで頭を押さえつければ、喉の奥に届く。
カメラを顔に近づけて、苦しそうな顔を映した。
(何これ、やばい)
気持ち良さでめまいを起こしそう。
それに加えて、ひどく犯したくもなる錯覚に陥る。

「っはあ、お、いひ…い」
「撮られてんのに、恥ずかしくないの?」
「ん、もっと、恥ずかしいとこ、撮ってて、ほしい…」
「変態なのな、グクは。」

体も心もすごく興奮して、ひどいかなと思う言葉にも嬉しそうに笑う。

「グク、ほら、こっち見て…これ見た人がすっごい興奮するようなこと言ってみて。」

そろそろ限界が近い。
ぐっと堪えて、前髪をつかんでこちらを向かせる。
かわいらしい丸い目が、色っぽく潤んでいた。

「僕の顔と口に、せーえき…いっぱい、かけて?」

カメラの先にいる誰か、そしてその姿を撮影する自分を愛しい目で見つめる。
かわいいとかいじめたいでは表現しきれない、艶めかしいその姿態。

「そんなに美味しいの、これ…っあ、ぁ…!」
「はぁ…ッう…ん、ん…!」

どくん、ひと際体が疼いて跳ねる。
顔を引きはがして、気持ち良さに陶酔するその顔に白濁液がびゅっとかかった。
頬に口にかかるそれを舌を出してすくう。
まるで甘い蜜を舐めとるようにゆっくりと。
あまりに色っぽくて、目が離せない。

「ちゃんと撮って。手、揺れてる。」
「っ、いや、ほんと、エロい…グク、」
自分から溢れたものを舐めとるその仕草、たまらないほどきれいに見える。
それだけで、また自分のものが反応する。
また、この顔が見れたら。もう期待しかなかった。

「まだ、する?」
「…してくれないと、嫌いになっちゃうかも。」

甘くべたついたその唇が頬に触れて、じれったくて唇を重ねた。
その息ももったいない。熱がもっと欲しい。
初めてだ、誰かをこんなに欲しいと思うなんて。
性的興奮が、自分の知らない自分を見つけ出した。
またちらりとのぞく小悪魔の影、翻弄されていく体。

「いっぱいしたい。…次はテヒョン先輩が、して?」

彼の知らない一面をまたひとつ知ってしまった。

5.

たぶん映画だった、きれいな男女が目合いあう場面を初めて見た時。
体が1つの器官みたいに疼いたのを覚えている。
どくん、どくん、と熱く脈打つ自分の体が恥ずかしかった。
でも、1人遊びを覚える中で気付いた。

『見られているかも』『聞かれているかも』
そんな危機感を想像すると、気持ち良さが倍増する。
誰かに触れられたいわけでもない。
かといって、自分の欲は吐き出したい。
疑似的にでも、見られている感覚がほしかった。
高校生になってからは、毎日のように携帯なりビデオカメラを手にして行為に耽った。

見ていてくれている。興奮してくれている。
もっと欲しいと思ってくれている。
そう考えるだけで、ぞくぞくした。
カメラのその先にある視線を想像しては、乱れた。

『…ジョングク?』

運命なのかもって、思いたくなる瞬間だった。
たぶん、あの時を待っていた。
この人に触れられたい、見られたいと、本能で思った。
それが誰でも、たとえ自分の素性に辟易とされても、この人だと思った。

すごく、きれいな人。見惚れてしまう容姿だった。
(…見つけた。)
手に握った小さなきっかけをカバンに潜めて、あの人を待ったんだ。
(絶対、この人は僕のものになる。)
その形がどうであれ、結末がどうであれ、この感情だけは純粋なもの。

「グク?今、何考えてた?」

ぼんやりと初夏のやわらかい風をまとって、夕日が沈むのを見ていた。
そんな中、心配そうに揺れる目。

「テヒョン先輩のこと…やっぱりきれいだなって。」
「そういうこと平気で言うよな…恥ずかし。」
「思ったことを言っただけですよ?嬉しいでしょ?」

顔をのぞきこんで微笑めば視線が絡まって、自然とキスになった。

「外じゃ見られるかもだけど?」
「俺のこと分かってるなら、杞憂ってやつですね。」
「いつもグクのペースだよなぁ。う~ん…」

両手が頬を包んで、甘く唇を噛んだ。
それだけで、どくんと体が熱くなって両腕で体を引き寄せる。
もっと、一緒にいたい。
もっとくっついていたい。
わがままが一気に溢れだす。

「だ、め…だって、口開けて。」
「っん、んぐ、…テヒョ、ぁ…せ、ぱぃ」

唾液が絡まって、ぽとりと口から流れ出た。
熱がおさまりきらなくて、首筋に噛みつく。
執拗なくらい舐めて、吸いついて、きつく抱きしめた。

「テ、ヒョン先輩も噛んで…痕、つけて。」
「ほんとエロいんだけど…っも…やばい」

抱き合ったまま、その場に倒れこむ。
2人以外の足音はない、風が吹く音だけの世界。
次第に暗くなる中、影が背景に溶け込む。

「グク、その顔、撮ってもいい?すごい好き、それ。」
「ん…ほん、と?」
「ほんと…かわいい」

息を整える最中も止まない愛撫。
溶けそうになって、シャッター音がまた興奮させる。
シャツを捲って、そっと胸に舌が伸びた。

「っん、ぁ…草、ちくちくする、っあ」
「え、草でも感じんの?…ほんと、変態。」
「はあ…あ…気持ちいい…っん、ぁ」

胸元にあるその柔らかい髪の毛つかんで、わずかに頭を起こした。
ぱちりと目が合って、にやりと笑う。
好奇心いっぱいのくすぐったくなるような表情がかわいらしくて
たまにこの人は自分より年上なんだよな、って笑っちゃいそうになる。
この人に恥ずかしいことをされて、すごく幸せ。

「先輩?…ね、」
「ん、ん?っは…何?」
「今日は、キスいっぱいしてください。…それが、いい。」

視線で訴える。
嬉しそうに唇がまた重なってやんわりと肌を優しい手が撫でた。
心地が良い。
人の目も気にはしているつもりだけれど、そんなもの今重要じゃない。

「じゃあ、いっぱい痕つけとく。」
「ん…いっぱい、噛んで?」
「痛いのも好き?」
「った、ぁ…ん…もっと…ッあ…」

もっと、自分のものっていう証が欲しい。
こんなにちゃんと自分自身をあげるのはこの人だけ。
抱きしめた体から、じんわり熱が伝わる。
暑いけど、これは違う熱、幸せの熱さ。
だから、自然と口にできる。

「テヒョン先輩…好きです。」
「…好きだよ、俺も。」

こちらに向ける全部の声も、手の動きも、表情も1人占めできるんだ。
(今日は声だけでがまんがまん。)
ずっと、眠りにつくまで愛しい声に包まれていたい。
そう思いながら、日が完全に沈みきるまで2人抱き合ってキスをし合った。

6.

『テヒョン先輩?見てる?』

見てるよ。ちゃんと、見てる。

『今日は、何してほしいですか?』

気持ちいい顔が見れれば、それでいいよ。

『声、聞きたい?いやらしい声、聞きたい?』

うん、早く聞きたい。 そんな焦らさないで、早くしてみせて。

『へへ…今、うずうずしてませんか?』

確信犯だね、そのアングルもカメラの距離感も。

『早く、テヒョン先輩のおっきいの、ほしい。』

わがままだ。
触れられないのに、何て残酷でかわいらしいことを平気で口にできるんだろう。

体がびくりと震えた。
思った以上にその沼は深く、足がつかない。
溺れても、息ができず苦しくても、頃合いを見て甘い毒を含んだ酸素を供給してくる。
だから、離れられない。

「グク…っあ…ぅ」

怖いんだ。もう、完全に中毒といっていい。
触れられない時間が、自分の知らない自分を引きずり出す。
口に含んで、体内に吸収されたとしても、乾きが収まらない。
(なんで、1 人にするんだよ…)
あの感覚がないと、もう生きていられないんじゃないか、そんな不安が全身を襲う。
それほどに飼い慣らされてしまったんだ、体も心も。
あの時、出会ったことが必然だったらこの先どんな関係でもつながっていられる。
もう、秘密は手に入れた。
思うがままに愛して愛されている今が幸せ。

「もしもし?テヒョン先輩?」

1 日のがまんが、こんなにつらい。
どうして、こんな体になったんだろう。

「どうしたんですか?…体調、悪いとか?」

声がやけに楽しそうだった。
ああ、分かってわざと心配している、そう思っても嬉しい。

「グク…っ、助けて、グク、」

見上げる天井がぼやける。
瞳からぽとりと涙がこぼれた。

「俺、変になっちゃたじゃん…」
「え?」
「グクのせいで、おかしいんだよ…全部、ほんとに、ッ」

気持ちがぐちゃぐちゃで、よく分からない。
好き、恋をしてる、それだけは確かなのだけど何かが不安だ。

「俺がいないと、だめですか?」
「だめ…グクがいないと、だめ。」

感覚が麻痺してきているのかもしれない。
彼の前では正常に息ができている気がする。
早く、触れたい。
体全部、彼で満たしたい。

「1 週間待ったごほうびです。今から会えますか?」

くらりとした、体が興奮を思い出して震える。
時間を費やしすぎた、もうこの心臓に刻み込まれて離れない。

「会いたい、…グク。」

夜が近づく。
もう 10 分だって待てない。
早く触れないと、早くこの目で見つめないと、もう息が止まりそう。
ごくり、溢れた期待と興奮を何とか飲み込んで気付けば家を飛び出していた。


____



息を切らして家へ向かえばそこはもう天国じゃないかと思うほど。
カーテンを開けて、月明りで照らし出されるシルエット。
絵でも見ているようにきれいだった。
少し悲しそうに笑って、誘うようにわざとらしくゆっくりとシャツを脱ぐ。

「そういえば、ちゃんと脱ぐの初めてですね。」
「すっごい、きれいだ。」
「嬉しい。…もっと、見たいですか?」

肌が直接触れて、きつく抱きしめる。
体温が伝わって、流れのまま体を預けてキスをする。

「ん…も、っと見たい。」
「っんぁ…はい、全部…あげます。」

髪をかき分けて、頬を少しつねってみる。やっぱりまだあどけなさがあるその目元。
かわいくて、もっとその先のいやらしい顔も見たくて唇を重ねた。
侵入する舌を甘く噛んでは絡めて、息ごと飲み込む。

「んあ…っふ、ぁ…んッ…」
「グク、触りたい。もっといろんなとこ、触りたい。」
「全部テヒョン先輩のものですよ?遠慮しないで。」

押し倒される形になって、首に、胸に、少しずつ唇が下へと這っていく。

「っあ…グク、くすぐったい」
「ね、先輩の上でしていい?1 人でするから、見てて。」
「え、う、うん」

わずかに腰をあげて、下衣をおろした。
ほの暗い中、はっきりとは見えない。けれど次第に声が色付くから想像をかきたてられる。

「っあ…んゃ…ッふ…あ、ァ…」
「それ、いい?」
「ん、気持ち、いいっ」

ぐちぐちと濡れて絡む音がする。
それだけで自分のものも硬くなるのを感じた。
手に包む自分のものをぎゅっと握って、腰を揺らす。

「テヒョン…っせ、ぱ…っあ…ッ、!」

愛しそうに名前を呼んで、腹部に生温かい体液が吐き出される。
肌に広げるように撫でて、自分の精液を口に含んだ。
直視すれば、瞬時に変わる目の色。

「これ、舐めてください。」
「あ…っん、んぁ…っは…グク、の味、する…」

キスで、きれいに中も手もきれいに拭き取る。
苦いようで甘い、不思議な味がした。
首に手を回して引き寄せると、鼻と鼻のくっつきそうな距離で笑う。

「先輩のこれ、もう濡れてる。1 回出しますか?」
「っう、ん…いいよ、好きにして。」
「へへ…分かりました。」

腰をすり寄せて、両手で 2 人のそれを握りこむ。
くち、と粘液のまじわる音が響いて、溢れる。
漏れる息が耳に届いて、つま先まで麻痺していく。

「グ、ク…っあ、っと…っひ、あ…ッん!」

手の熱で、体が発する熱で、溶けあいほぼ同時に果てる。
肩が上下するその動きだけでも十分に気分は高揚する。
向かい合ってキスを繰り返す中、あどけない目が誘う。

「テヒョン先輩…今日のわがまま 1 個だけ聞いてくれますか?」
「ん?何?」

体を密着させて、甘い声がまとわりつくように肌の上をすべった。
びくりと肩が跳ねて、もう一度何?とたずねる。
柔らかい唇でまぶたや唇、いろんな所にキスされる。

「先輩のイく顔を撮っておきたい。すっごくきれいだから。」
「え…俺まで撮んの!?」
「恥ずかしいですか?俺しか見ませんよ?1 人寂しい時に見る用として^^」
「む…やっぱり変態だなグク。」
「それでも好きなんでしょ、俺の事。拒否する理由がないですね?」
「んっ…わ、分かった。ただあんまし至近距離ではとらないように。」

承諾をすれば嬉しそうにいつもの小さなビデオカメラを手にして、渡された。

「まずは俺を撮って。あとでもらいます。」
そう言うと、視線を下に落としてはあと息を吐く。
顔だけに焦点を合わせていると、そっとまだ硬く主張するそれを握る。

「え、何、すんの。」
「え?…今までしなかったコト。」
「グ、ク…~ッ、あ…!?」

ゆっくりと腰を下ろした先、知らない感覚に声が上ずる。
自分の上で痛みに顔を歪めながらも、嬉しそうに笑っているジョングクがきれいで感覚にモザイクがかかる。
開いた片手で腰を支えれば、ずぷっと奥まで沈んでいく。
ゆらり腰を揺らせば、生温かいその中で擦れる。

「っはあ…全部、入った。」
「ん、ぁ…入った、って…ッあ…!」
「カメラ、貸してください。」

するりと手から奪われて、じっとカメラ越しに見られる。
恥ずかしい気持ちが勝って、どこに視点を置いたらいいか分からない。
声も、無意識に抑えこんでしまう。
彼はといえば、気持ちよさそうにゆったりと腰を動かす。
またびくりと震えて、小さく甘い嬌声を漏らした。

「っあ、ん…先輩?気持ちいい?」
「ん、よ、く分かんない…けど、いいッ、」

見られている恥ずかしさに心臓が落ち着かない。
見ているのは目の前のジョングクだけのはずなのに、カメラがあるとどうしてもその他の目を想像してしまう。
いけないことをしているような妙な背徳感に近いものを感じる。
これがぞくぞくしてたまらないって、そういうことだったのだろうか。

「テヒョン先輩の、顔っ…すんごい、やらしい…ッあ」
「ん?…グクも、溶けそ、だけど?」
「あ、んまり、奥ッ…だ、めっ…んぁ、や、あッ」
何となく、下から突いてみたらひと際かわいく鳴くからいっそう深く、奥に留まっていたくなる。
知らなかった、誰かの中がこんなに気持ちいいなんて。
2 人が 1 つになる行為、溢れる体液がわずかな痛みが実感させる。
夢中で快感に浸りながら、ジョングクは中途半端に肌蹴たシャツにしがみついて腰を揺らし続ける。

「ん、っ…も、いきそ…グクっ」
「っあ、ん…ッ、いい、ですっ…イって…っあ、ァ!」

ことりとカメラを手放して、そっと体を離す。
まだ触れていたくて、キスを繰り返しながら汗ばむ髪を梳いた。

「グク…はぁ…っん…好き。」

ぽつり呟くと、ふんわりと笑って横にごろんと並ぶ。
視線が重なって、その頬に触れるとくすぐったそうに首を横にふった。

「テヒョン先輩が離さない限りは離れません。」
「グク見てるとたまに怖い。」
「何でですか?何かしました?」
「そういうところも全部。まあ、かわいいに尽きるけど。」

頭を撫でると、こちらにすり寄って丸い目がじっとこちらを見る。
心臓がどきりとして、また息苦しさが増した。
だから、息ができるように何度もキスをする。
甘い毒であり媚薬が体内に溶け込んで、またすぐにでもつながっていたい。

「ね、グクともっとしたい…」
「先輩も言うようになりましたね。」
「誰かさんが全部こんなにしたんだけどね?」
「ははっ…思惑通りだ!」

くしゃっとした笑顔の後で切り替わる甘ったるく大人びた色香を放つから困る。

「俺の事、好きですか?」
「何回言わせる気?好きすぎてどうにかなりそう。」
「聞きたいんです。先輩の好きは聞いても飽きないから…ね?」
「好きだよ、大好き…ジョングクの事、大好き。」

ぎゅっと抱きしめたら、腕が足が絡まる。
そのしなやかな腰を抱いて、「好き」と紡ぐ瞬間また色香を放ってくらりとめまい。





2 人が1つになった、初めてじゃないようで初めての夜。

もっとずっと、お互いに溺れて 2 人朝までどろどろに溶けあっていよう。
おかしくなりそうなくらい、どっぷりと浸かって何もかも君のもの。

距離が近いほど、つながるほどに好きになっていく。

そして 1 日も耐えられないほど、虜。

知るだけじゃだめ。 見ているだけもだめ。 触れていないと、だめなんだ。

一分一秒が惜しいほどに恋しくてたまらないなんて、こんな気持ち知らなかった。

そっと目を閉じて額と額をくっつける。

少しだけ、純粋でない恋愛なのかもしれない。

けれど、これが 2 人にとって何より純で幸せな愛し方。

明日も明後日も一緒だと誓うように笑い合ってキスを交わす。

この行為が気付かせたのは、もう離れられない運命だということただひとつ。

番外編

乗車率 200%に近いその時間を選んだのはもちろんわざと。
ドアが開いたら手を引いて押し込まれるその左側、角と面する約 45 度。
手すりにつかまる、背後から人が被さる。
押しこまれて圧迫される体、意図せずとも触れる誰かの手、足、息、匂い。
誰もが入り組んでしまって、確実に下は向けない状況。
(ッ…ね、ほんと、にすんの?)
車体が揺れる度、唇に柔らかい髪の毛が触れる。
同じシャンプーの匂いなのに、やけに甘い。
どきり、熱くなるのを押さえて耳に口を寄せたら
(ご、めんなさい)
知っているはずなのに知らない人、怯えた目、初めて会う 2 人のような違和感。

ガタンッ

その揺れに預けて、するりすべる手。
手探りでファスナーを下ろして手に馴染んだ感触、下着越しに熱くなるもの。
指先でたどっただけなのに、すぐにじわりと濡れてくる。
うつむきがちにひくりと震わせるから、かわいい、見せたくないけど見せてあげたい。

(ッぁ…ふ、ぁ…っく)
(声、出したら…っ、何、も…硬い)
(や、ぁだ…やッ…だ、めで、す…うゃ、)

2 駅分たっぷり愛撫したら、もう十分すぎるくらいに感じていて耳まで真っ赤。
こんな人だらけで密着するんだから、見間違いくらいどうってことない。
耳を噛んだ、見えないようぐいっと顔を押し付けて舌を這わせる。
思わず、抵抗する手。
「気持ちいいくせに嫌なの?」甘く囁いたらすぐに解けた。

(ほら、ポケットの中、とって。)
(は、ぁ…ぁっ…こ、これ?)
(気持ち良さそうな顔、後からじゃ見えないから…ね?)
(~ッん!…は、ぁや…ひぁ、ッ)
手に握るそれに力を入れて、先端に軽く爪を立てたらしゃがみこみそうになる。
腰を抱えて「大丈夫ですか?」知らん顔でたずねれば周りが少しだけこっちに注目した。

「す、いませ…大丈夫、です」

狭い中、体を預けながらゆっくりと立ち上がる。震える手で携帯を操作する、スワイプして映る自分の顔を見てはあっと甘い息を吐いた。

(自分のエロい顔見て興奮すんの?…エッチ。)
(だ、ぁって…さ、わって、ほしぃ…っあ…!)

顔を上げれば、座席側の人に真っ赤な恥ずかしい顔が見つかるかも。
背中から襲われるその人以外に誰かが気付いているかも。
それでも、触れられたらたまらなくて口は開く、涎が端から伝った。
耳元で「かわいい」そう言い続けられながら、きつく時に優しく撫でられては浮かされて手を汚す。

(どうしよ?…よごれちゃった…)

囁けばがくんとしゃがみこんで、自分の影に隠れる。
追い込むようにさらに近づき、見下ろせば溶けきって誘う小悪魔が一匹。
ドアが開いて、人の出入りがまた行われたその後。
背中を向けて後手に押し込まれていけば、すっかり彼は隠れてしまった。

(くすぐったい…)

ぺろり、指に感じる舌の感触。
ちゅぷ、唾液を含んで甘く一本一本丁寧に舐めてくれる。
両手をつかんで、まるで犬みたい。
舐めるその目を想像しただけで、泣くほど犯したくなる。
頭の中、汚い彼でいっぱいいっぱい。
口に入れたのを確認して、わざと舌や頬を内側から刺激すれば小さくむせこむ声がした。

服の裾がきゅっとつかまれた。
ずるずると立ち上がって、今度は背中から抱かれる側。
どきり、這う指があまりにいやらしいせいだ。
次の駅を示すアナウンスが聞こえた、そして舌っ足らずな声。

(降りよ?…お、兄さんと…も、っとしたい、です)

腰からじんわりわざとらしく指がまとわりついて懇願する。
その声も、その指も、同じはずの匂いさえ、媚薬。
もう、窮屈さも感じなかった。

腕を引かれる、開いたドア、流れに任せて飛び出す。
改札を抜けて、彼は子どもみたいに胸を躍らせて走る。
知らない手、知らない体温、ぜんぶ分かりきったはずなのに道化を演じるのが得意な彼、まるで別人だ。

「はあッ…は…え?」
「早く、…もう、がまんできません…ね?」

喧騒から離れた小さな公園。
古びたあまりきれいとはいえないトイレ。
人気はまるでない。
むしろ、違和感が強いくらいに閑散としたこの小さな世界。


「は、やく…はやくテヒョン先輩の、ちょうだい…」

泣きそうな目で、か細く震えた甘い声で、
錯覚を起こすほどに男と思えないやわらかい表情で誘われる。
抱きしめられて、お願い。
腰がすり寄って、唇が触れたら理性がはじけ飛ぶ。
だめ、 そんな目やめよう。
だめだって。
すぐにだって襲いたいのに、手が出ないのは焦らしたいのと言葉を待ちたいから。
目尻にたまる涙、何回も何回もキスをして唾液まみれになって息も絶え絶え。
そんな中、抱きついたまま耳をかじられる。

「中っ…いっぱいに、して?…して、しよう?…先輩ので、ぐちゃぐちゃ、してほしっ…!」

犯して、死ぬほどイかせて、いっそ息を止めて。
冗談交じりにそんな怖いくらいに甘ったるいお願い。
あぁ、いつの間にこんな狂気ととれるくらいに好きになってしまったんだろう。

「グク」
「は、っあ…せ、ぱ…」
「グクがほしいだけあげるから…いいよ、好きに食べて。」


______



『痴漢するのとされるの…どんな感じか気になりませんか?』

何を言い出すのか目を丸くしたけれど、受け入れてよかったかもなんて思っている。
それくらいに興奮して自分で自分を煽る彼がかわいくて仕方ない。
下からのぞきこむ丸くて潤んだ目、それに反して食べられる恐怖を感じる口元。

「んんッ…あ、ぁふ…グクっ、ちょ、あ゛」
「あ、し…開いへ…?ふ、んん…っん゛!」

襲われるのはどっちなのか、妖しく笑ったのを最後に目隠しで視界を塞がれる。
膝に両手が触れて足を広げられる。
電車の中からずっと触られたくて、入りたくて疼いていた自身にその舌先が触れる。
びくり膝が跳ねたら、そのまま大きく開いた口に飲み込まれた。
唾液のぬるさ、ぴちゃぴちゃ音を立てて甘く吸いつく音。
ぐにぐに、握っては歯で甘噛みして知ったやり方とはいえたまらない快感。

「はっ…せ、んぱぃのっ…あ、ぐっ…おいひ、ぃ…ふ、ぁ…あう゛」
「だ、めっ…グク、も、入りたっ…!」
「ら、め…が、まん…んっ、ぐぁ…っふ」
「や、だって!…グクがっ、言ったんじゃ…ひぁ、ッ!?」

その口の中、溢れた体液が溢れて上下に舐めるたびにこぼれる。
がまんして辛いのはどっちも、そう言いたげにリセットするその噛み癖。
痛みでひきつれば、やわく握ってごめんねってまた甘く唇を寄せた。

「テヒョン先輩が好きにしてって言ったから…一緒にがまんしませんか?」
「が、まんって…何で?も、やだよ」

全部分かっていて自分にもおあずけを与えるあたりはやはり変わっている。
あれだけ今すぐにと懇願していたはずなのに。

「がまんしたらすっごい気持ちいいから…ね?」

衣擦れの音、ゆっくりと膝の上に座り込む。
冷たいローションの感触に震えたら、ゆるりと腰を動かし始めた。
互いのものが触れる、その後でまた少し位置を変えて密着する皮膚より薄いその粘膜。

「あっ…こ、すれてるの、分かります?テヒョン先輩っ、の…んぁ、」
「へ、んな感じっ…グク、っ…」

いつもなら受け入れるその場所をかすめるだけ、それでいて密着すれば体温がしみて心地いい。
テヒョンの手は彼の腰を抱く、ジョングクの両手は頬を包む。
ぺろり舌なめずりの後に、唇に触れてどちらからともなく差し出した舌が絡まった。
左手が腰から頭にのぼって離さない、
くらりとするほどに濃いそのキスで 2 人重なって擦れる場所が疼く。

「んゃ、あっ…は、は、ぁっ…テヒョンッ…せ、ぱぁい…」
「…ッ、なんつう声、出してんの…人来たらばれるっ…」
「ははっ…ここがどんな場所か分かんないの、先輩だけです…っくく」
「あっ…ん、…え?」

目の前にいるであろうジョングクの楽しそうな笑い声。
『もう、中ひくひくする』しがみついて腰を揺らす。
『テヒョン先輩…好きっ…!』
重なって溢れてこぼれていく、太腿から下へ体液が伝う。

「グクっ…お、れ…も、…むりっ」

耐えられない、これ以上はどうにかなりそうだった。
脳内で乱れて泣きそうになりながら欲しがるジョングクを想像しただけで苦しいのに。

もどかしさで、いつでもほどけたはずの目隠しをほどく。
一瞬、怯んだジョングクが視界に入る。
気付かないふりをして体を抱えたまま立ち上がって、壁に押し付けた。
すぐにぶつかった視線は火傷しそうなくらい熱い、そして何より欲情を煽る瞳。

「へへ…待ってました^^」
「…っへ?」

足を下ろす、ジョングクの両手がやわらかく頬に触れて唇が重なった。

「テヒョン先輩のそういう目、見たかったから嬉しい。」
「え、え?…グ、ク?」
「やっぱり…襲ってくれなきゃさみしいです。」

困ったように、それでいて早く、催促するその指と目。
背中から抱いて、もう十分すぎるくらいにぐずぐずになった中に沈み込む。
溶けそう、だった。
壁に手をついて、唇を噛んで待ちに待った感覚に声が無意識に漏れる。

「ッん…はぁ…中っやばい…何、これ…」
「うぁ、あっ…あ、ッ…せ、ぱいの…奥っ、当たるの…好、きぃ…!」
「グクっ…ちょ、っと…あっ、」

思わずその口を手で塞げば舌が手のひらをなぞる、指の隙間を這って噛む。
もう片手で腰を押さえつけたまま、何回も腰を打ち付ける。
どこもかしこも性感帯になったみたいで、何をしてもびくびくと震える体。

「ぁあッ…そ、こっ、そこ…こ、すって、や、ぁあっ…っう、ァ」
「グク、乳首触られると、っ…し、まるよね…んっ」
「ふ、ぁ!…うぁ、~っんぁ…き、もち…気持ちいぃ…」

うなじにキスを残して、耳にかじりついて「どう?」囁いたらうんうんと頷くばかり。
崩れ落ちそうな体を支えながら、欲しかっただけ中に吐き出す。
その度くすぐったそうに笑って名前を呼ぶから、幸せでしかない。

「ッは…ご、め…グク、俺っ…も、イっちゃった…」
「は、ぁ…はーッ…ん、い、いです…まだ…する、でしょ?」

向かい合ってずるずるとその場に座り込む。
ここがどこかなんて、2 人がいればどうでもよかった。

「ぐちゃぐちゃにして、って言った…ね、テヒョン先輩。」

底なしの彼がにやり笑ってキスをする。
指を絡めて、見つめ合ったら少しだけおかしくてくすくす。

「じゃあ…家、帰ろ。」

だから、同じようなにやついた。 ジョングクの意図をテヒョンなりに読み取った一言。
投げ捨てられていたバックの中、取り出したおもちゃを差し出す。

「ね、グク!せっかくだし散歩、して帰ろっか!」

足はもちろん、脱ぎかけた衣服まで白で汚れてシミになるほどびっしょり。
舌でぺろり舐めとりながら、まだ緩くひくつくその中にぐちゅ、押し込んだ。
肩を震わせて、目尻に涙をためて嬉しそうにテヒョンを見つめる。

「う、ん…散歩、して…帰ろ。」
「うん!」

テヒョン先輩に似合うよ、そう言って買ったはずのロングコート。
隠すにはちょうどいい。
…こういうつもりで?そう思うと少し切ない。

一息ついて、そのあたりを一通りきれいにしてまだ日の差す太陽の下へ。
公園の真ん中、誰もいないからとジョングクはそっと手を握りこんでキスをした。
気恥ずかしいながらも、幸せと愛情が溢れすぎて気にならない。

「いい天気ですね、気付かなかった。」
「…遠回り、する?」
「恥ずかしくなるようなとこ、歩きたい。」
「も~…俺気が気じゃないんだから…ちょっとは考えてよグク~!」
「だってそういう先輩かわいいから。」

くんっと袖を引っ張ってにっこり。
行こう、腕を引かれて歩き出す。
いろんな顔をした彼に今日も愛されて、またひとつ遊びを覚えた。何回好きと言っても足りない。何回抱いたって伝えきれない。
振り向きざま、やわらかい年相応の表情で名前を呼ぶ彼に心臓がときめく。

「大好き~…グク。」

ジョングクなりの愛し方にすっかり毒された。
きっとこの先ずっとこの甘い甘い毒に侵されて生きていく。

「テヒョン先輩、俺も大好きです。」

恥ずかしさもお構いなしに人混みの中で甘いキスをした。
やっぱり、これくらい堂々としてなくちゃ俺たちらしくない。

知りたい気持ちはいまだ膨張していく 。

知れば知るほど 、見れば見るほど 、触れれば触れるほどに もう君ひとりしか愛せないんだ。

知りたい?見たい?触れたい。

知りたい?見たい?触れたい。

  • 小説
  • 短編
  • 成人向け
更新日
登録日
2017-07-07

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
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  2. 2.
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  5. 5.
  6. 6.
  7. 番外編