*星空文庫

If I Die Tomorrow

nanamame 作

If I Die Tomorrow

BTOB、イルンくんのお話。
最後ちょっとだけ気に入らない部分があったので、ちょっとだけ改変して再UPです。

***

雪が振りそうな白くどんよりとした空を見上げて、天国とはどんなところだろうと考える。
寒さに震える。
死にたい気分とはどういうものだろう?
寒さや痛みなどどうでもよくなるのかな。家族や友達のことも、ましてや仕事のこともどうでもよくなるのだろう。
ここから飛び降りたらどうなるだろう? 下を覗きこんでみたら、車も人もとても小さく見えた。即死だろうな、とぼんやりと考える。

「イルナ、何してるの? 寒いだろ。風邪引くよ」

チャンソプが部屋の中から、窓を少しだけ開けて言った。その隙間から吹き込む風に、身体を震わせながら、それでもイルンが部屋に入るのを待っている。
イルンは兄の言葉通り、部屋に戻り、リビングで温かく甘いコーヒーを飲んだ。

 ***

深夜の練習室。1人で机に向かって、ペンを持ち、真っ白なままの紙を見つめる。
何度も何度も聞いた曲はすでに終わっているが、リプレイしない。空調の音だけが聞こえる。誰の話声もない。
イルンはとりあえず、A4紙の上の方に「If I Die Tomorrow」と書いてみた。

もし明日死んでしまったら。

自殺か、交通事故か、殺人事件か。苦しい死か、安らかな死か。

僕がいなくなってしまったら、メンバーたちは悲しむだろうか。ウングァンヒョンは、顔をぐちゃぐちゃにして泣きそうだなと思って、少し口角が上がる。
みんな泣くんだろうな。みんなやさしいから。
家族は、お父さんは怒るだろうか。自殺だったら、怒りそうだな。お母さんもお姉ちゃんも、泣いてしまうのだろうな。
ファンたちはどうだろう。近いようで、遠い。遠いようで、近い。こんな僕を応援してくれて、いつもありがたくて、申し訳なくて、その上悲しませてしまうのは辛い。

イルンは交通事故で亡くなった女性グループの2人を思う。数時間前まで元気にいつも通りにステージで明るく歌って踊っていたのに、その帰り道で亡くなってしまった。みんなが回復を祈ったけど、叶わなかった。
自分たちもいつ同じ目に遭うとも限らない。メンバーの誰かが亡くなるのを目の当たりにした時、自分はどうなるのだろう? 悲しいとか、苦しいとかでは表現できない。絶望だ。それ以上かもしれない。それなら自分が死んだほうがましだと思ったが、自分自身が耐え難い思いをメンバーに架してしまう想像なんて、ただ死を想像するより不毛だ。

自殺した芸能人のことを思う。テレビで明るく振舞っていたのに、表情も豊かに演技をしていたのに、名声も未来も捨ててしまうほどの苦しいこととはなんだろうか。

世の中に溢れかえる不条理、逃げ場のない暴力、果てしない不安。追い詰められた果ては、死しかないのだろうか。

目を閉じて、机に伏せる。
自分で歌詞を書こうと思ったけど、まだ1行も書けていない。

 ***

仕事を終えて、みなで宿舎に帰った後。風呂あがりにイルンはミニョクに呼び止められた。

「なぁ、何か最近悩んでる?」

ミニョクは鋭いなと思う。だがイルンはそれを表面には出さず、悩みなんてないよ、と答える。実際に特にこれと言った悩みはない。書こうと思っている歌詞が書けないことは、相談したところでどうにもならない。

「ないなら、いいけど。1人で悩むのはダメだよ」

ミニョクはにっこり笑って、テレビゲームをしているウングァンの隣へ行った。
イルンは自分のベッドにうつ伏せになって、ミニョクの言葉を考える。そんなに、深刻そうな顔をしていたのだろうか。もしかして、ウングァンも僕が何か悩んでいるのかと気にしていたのだろうか。

考えすぎなのかな? よく言われるから、もう少し気楽に構えようとするが、何事も慎重になってしまう。
本当は、歌詞を書き換える必要などないのかもしれない。原曲のまま、歌ってもいい。だけど、他人の人生を歌うより、自分のことを歌いたい。自分だけの言葉で、いつも周りで支えてくれる人たちに向けて。
選んだ歌に間違いはないはずだ。不思議と耳を離れず、これだと感じた。

If I Die Tomorrow

これは決して絶望の歌じゃない。

 ***

数日後。
練習室に1人でいるヒョンシクを見つける。ドアをノックして、部屋に入れてもらった。

「ねぇ、ヒョン。歌詞を書いたんだ。読んで、感想きかせて」

歌詞を渡して、曲を流す。
歌が終わってからも、ヒョンシクは何度も歌詞を読み返していた。

「いいんじゃない。うん、いいと思うよ」

ようやく顔を上げて、ヒョンシクは歌詞を肯定してくれた。
何度も書きなおして、書きなおして、曲にも合うように、言葉を吟味した。

「…何というか」

ヒョンシクが戸惑ったように、ためらいながら、言葉を選ぶ。イルンは彼の言葉を静かに待った。

「嬉しい、というか。イルンの言葉が聞けて、よかった。歌手の道を選んだのは自分たちだし、いろんな辛いことは我慢しなきゃと思うけど、でもやっぱ辛いのは大変だよね。
1つ、絶対って言えることは、たとえイルンが明日いなくなってしまっても、俺たちは絶対、お前のことを忘れたりしない、ってこと」

にっこりと笑ったヒョンシクにつられて、イルンも笑顔になる。その言葉が嬉しくて、ハグをして感謝を伝える。

「けど、いなくならないでくれよ」

「ならないよ!」

***

無事にレコーディングが済んだ音源をメンバーみんなに聞いてもらった後が大変だった。
ウングァンが大げさじゃないかと思うほど、泣いてしまったのだ。曲の出だしから、もうすでに涙ぐみ、サビに入るところでは号泣だった。
イルンだけでなく、メンバーたちもびっくりするくらい。

「ヒョン、そんなに泣かないでよ」

イルンが慰めるが、ウングァンは泣いたまま、イルンに抱きついて、なかなか離そうとしない。

「うぅ~だってぇ~、イルンがいなくなったらなんて、想像したくないよ~! うあぁぁ~」

「だから、いなくならないってば! 僕まだ死にたくないよ!」

そうだ。僕はまだ死にたくない。やりたいこと、たどり着きたい場所が、まだまだたくさんある。歌手の夢はかなったけど、その後の道のりはまだまだ半ばにも達していないと思う。

自分の選んだ道は間違っていないと確信している。間違っていたなどと思いたくない、ということが本音だが、すばらしいメンバーたち、すばらしいファンたち、スタッフにも先輩たちにも恵まれている。

If I Die Tomorrow

それは、絶望を想像することではない。
たとえ、明日死んでしまっても、この人生が有意義で幸せなものであったと思いたい。そのための毎日で、そのための選択だ。

「ねぇ、ヒョン。僕はさ、死にたいわけじゃないけど、もし明日死んでしまっても、後悔しない人生を送りたいんだ。死にたくないと思ってても、死んじゃう時もあるでしょ。その時、死ぬのは残念だけど、良い人生だったなと思えるように、生きていきたいんだ」

ようやくウングァンを引き離し、正面で向き合い、落ち着いて話をする。
ウングァンはきょとんとしているが、イルンは構わない。

If I Die Tomorrow

歌ってよかったと思う。聞いてもらえて、よかったと思った。



End.

『If I Die Tomorrow』

『If I Die Tomorrow』 nanamame 作

BTOB、イルンくんのお話。K-Pop、FF。 https://youtu.be/aC3c2jdGozY

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-07-04
Copyrighted

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