僕らは君を。

いつもの朝

また寝坊してしまった。

「急な腹痛で動けなかった」「困っていたお婆さんを手助けしていた」「ヒールが折れた」なんてよくある言い訳を考えながら無我夢中で支度し、会社へ向かった。
なんとかギリギリ到着。
息が上がり、乱れた髪のまま席につきパソコンの電源をONにする。起動している間、呼吸を整えていると横から
「今日は目覚まし時計でも壊れていたの?宮村さん」
と、同僚の中岡さんが髪の毛を耳にかけながらニヤニヤした顔で話しかけてきた。
「三回目ですよ、、、情けないです。」
自分で言っておいて悲しくなる。
私、宮村日向は社会人になって二年目、大学を卒業後にこの化粧品メーカーに就職した。
業務は人よりも早めにこなせる、ミスだってほとんどない。けれども朝は苦手で今日を含め三度もヒヤヒヤする羽目になってしまった。すると、
「そういえば宮村さん、聞きましたか?今日 会社にモデルさんが来るらしいですよ!」
「も、モデル?!知りませんでした、どう言った理由で、、?」
「さっき先輩たちが話してたんですけど、、」
少し小さめの声で中岡さんは話す。つくづく中岡さんは情報が早いと思う。
「今度うちの会社のCMに出演する広告モデルさんですよ。新商品の日焼け止めのCMなんですけど、透き通るように綺麗で白い肌の"イケメン"らしいですよ〜!」
「イケメンって、、、女性じゃないんですか?」
「最近は女性に限らず男性も肌に気を使ってますからね〜」
女性に負けないほど美肌な男、、、ぜひ見て見たいものだ。まあそのうちテレビで見られるだろうと この時の私はあまりモデルのことを気にしていなかった。

ピクニック日和

太陽が高く昇っている。

七月に入り、だいぶ夏を感じる季節になった。

ようやく仕事もひと段落し お昼休みの時間だ。
いつもは自分でお弁当を作ってきているのだが、あいにく今朝は寝坊したため 店で買おうと、オフィスから徒歩十分程度のコンビニへ向かった。

「定番のたまごサンド…ハムサンドも捨てがたい…」
と迷っていると、横にいた女の子達がなにやら嬉しそうに話している。周りにはお花畑が広がっているようにも見える。

「さっきすれ違った人って、絶対"ユキ"だよね〜!」
「ユキって、最近密かに人気になってきてるモデルの?」


ーユキ。懐かしいな…

「そうそう!帽子かぶってメガネつけてたけど、オーラが隠せてなかったわ」
「えー、声かければよかったね〜!」

きっと彼女達が話している人は今日、会社に来る予定のモデルのことだろう。
そんなことより今はどちらのサンドイッチを選ぶのかが私にとっては重要である。

結局、私にとって定番のたまごサンドを手に取り、レジで支払い、オフィスへ戻ろうーーと思ったのだが 今日はピクニックへ出かけたくなるほどの清々しい晴天だ。すぐ近くにある公園のベンチで食べるのもたまには悪くない。今日は公園で食べよう。

ベンチには木漏れ日が差し込み、優しくそよ風が吹いている。
朝からなにも口にしていない私は、サンドイッチに大きくかぶりついた。指と口についたマヨネーズをぺろりと舐める。
美味しい。これで午後からも頑張れる。

そう思った時、二つ隣のベンチに一人の男性が座った。
少し細身で、帽子をかぶり、メガネをかけている。あまりじろじろと見てはいけないと思いつつも、彼を横目で見てしまう。
「きっと、今日会社に来る予定で、さっきあの人達が話してた、最近密かに人気の、あのモデルさん…だよね…」
もちろん声をかける勇気なんてないし、話をする時間もない。今気づいたばかりではあるが、そろそろオフィスへ戻らなくてはならない時間なのだ。
サンドイッチをもっと早く決めていれば… そう後悔しながら、たまごサンドを飲み込んで、やや駆け足で戻って行った。

彼の視線にも気づくことなく。

僕らは君を。

僕らは君を。

ごく普通のOLー日向(ひなた)は平穏でどこか物足りない日々を過ごしていた。ある日 10年ぶりに中学の同級生「ユキ」と再会する。大人になり優しく魅力的なユキに少しずつ惹かれ、日向はもっと近づこうとするが拒むユキ。その理由は、10年前に隠されていたーーー

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-06-30

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