Into The Game World!!

プロローグ「ゲームのやりすぎにはご注意ください」

 どこだここは。
 早くゲームの続きをやらせろ。

「貴方は死にました。」

 は? なに言ってんだ。
 頭おかしい格好して頭おかしいこと言っているぞ。

「死因は…オンラインゲームのやりすぎによる過労死だなんて」
「現代の闇のような人ですね。八尋柚木やひろゆずきさん」

「ていうか、貴方パンツ一丁でいつもゲームを為されているすか?」
「面白いですねぷぷぷ」

「まあ、せめて次の世界ではその無駄に時間を費やしたスキルを活かせるといいですね」

 だからこの真っ暗な空間と無駄に光輝いてるこの変な格好(女神モチーフか?)をした外人女は誰なんだよ。

「私の担当でこのような理由の死因の方は前例がないので次の世界選びが難しいですね」
「こんな時はダーツで決めましょう!」

 おい、ふざけるな。
 たとえ信じるとしよう。
 俺は死んだ、
 そしてどうやら死んだその後は前世の行いや死に様によって次の転生先が決まる。

 この女の話からそう、仮定できる。
 正直何言ってるんだって話だが、もし、もしも本当なら、

「ふざけんなよ! 女神様? 
かなんだか知らんがダーツで転生先選ぶなんてお前絶対俺たちの世界のテレビの影響受けてるだろ!」

「しっかり選べよ、仕事しろこの野郎!」

「えー、一回やってみたかったんですー」
「貴方のような変な人以外にはこんなことしないですよ?全能神様から怒られたくないし」

「ていうことで、私ダーツ投げます!」

「や、やめろ!っておい、お前の標的ほとんどの面積地獄じゃねえか。
考え直してくれ!」

「考え直しません!」
「あ~わくわくする! えいっ!」

「ああ~」

 女神もとい糞女が投げたダーツは放物線を描いて8割が地獄マスの標的目掛けて飛んで行った。

 それはそれは今までにないくらいスローモーションのように感じた。

 ……しかしさすがにダーツをキャッチするには柚木の身体能力は追いつかなかった。

「っちぇ、よかったですね! 地獄には奇跡的に当たりませんでしたよ!」

「なんて書いてあるんですか、当たった先のマスが小さくて分かりずらいですねー」

「お、おいお前今、ちぇっって言ったか? 言ったよな? ふざけるなよ?」

「いや、とにかく地獄じゃなくて助かった・・。どこに行くんだ俺は、早く教えろや!」

「そんなに急かさないでくださいよ~。今見ますから」

「……ぷぷぷ。貴方にとってある意味地獄よりも地獄かも知れませんね」

「えっえっ、どこ? どこなの?」

「それでは新しい世界で貴方に祝福のあらんことを! ……っぷ」

「お前笑いやがったな!こんな奴が死後の女神だなんて間違っているだろ!」

 まだまだ罵声を浴びせようとしたその瞬間、
 突然大きな光に包み込まれ意識が遠のいていくのを感じた。

『FPS』 World!!


「そして今に至るのか……許せない……。
 あの女神絶対いつか復讐してやる……」

 柚木はそう呟きながら廃墟施設のような所で目を覚ました後、
 死んだときに着ていたであろうパンツ一丁の姿で
 (オンラインゲームをやるときは大体この格好なのである)
 どこを目指すわけでもないがその一帯を歩いていた。

 どこなんだここは……。
 なんだか世紀末のような世界だな。
 俺がやっていたFPSゲームの世界にちょっと似ているぞ。

 プシュン……。プション……。

「ん……なんだ? このどこかで聞いたことのある、まるで弾丸が空を切るような音は……?」

 ははは、嫌な予感がしてきた。

 この何万回、いや下手すると何億回も聞いてきたこの音、
俺はゲームの中でしか聞いたことはなかったが意外に現実と酷似しているんだな。

 いやー、技術の進歩ってすごいね。ここまで変わらないとは。

 カチッ……。

「あ、今の音は誰かが手榴弾のピンを開けた音だ!
 音の方向から大体、32m後方の物陰ってところかな?」

 冷静に判断してニコニコしていた次の瞬間、
ものすごい爆裂音が一体に鳴り響いた。

 柚木は何とかその場の物陰に伏せ爆裂破を回避した。

 うおおおおお!!! やべえええ!! ここ地獄だろ!
 あいつ、地獄は回避できたって言っていたのに、絶対嘘だろ!
 なんでパンツ一丁で戦場に身を置いてるのおお!

「おい、やったか? ここ一体の敵は排除したはずだろ。
 あのパンツ姿の奴は一体誰だったんだ? とにかく、死体を探せ!」

 なにか物騒な言葉が聞こえますな。
 だが残念だったな、一兵卒よ。
 俺は17年間の人生の半分以上をFPSゲームに捧げてきた男。
 例えパンツ一丁で突然の事態であっても、このような戦場を掻い潜れるのである。

 (ふふ……俺は生きてるぜ……? 俺を殺せるのはゲームのみだ)

「って、あ……」
「発見したぞ! こんな物陰に伏せてやがった。武器は持っていない模様、どうする班長?」

「あんな軽装備でこのS級危険地域を生きていた奴だ!躊躇したらお前がやられるぞ。殺れ!」

「ちょ、ちょ、ちょーーとまった!!」

「待ってください。えっとですね私、先ほどこの世界に転生させられまして、何も分からないんですよ。
 だからですね、痛いやつは簡便してもらえませんかね?」

 (ち……ちびりそう……)

「転生……?転生なわけないだろう」

「転生者は最初各地の教会からスタートすることは基本だろうが。
 そもそもこのFPSワールドには転生場所なんてないんだよ。
 自分の知識不足を恨みな。死ね!」

「っち……」

 相手の銃口先と手の動きから予測して間一髪の所で相手の弾丸を躱す。
 そして銃の反動で握力が下がった所を蹴り上げる。

「なに……!?」

 相手のハンドガンが宙に舞う。
 それを素早く柚木はキャッチした。

 そしてそのまま躊躇なくその引き金を三度引く。
 乾いた音が鳴り響いた。

(動く……!この世界では今までゲーム中に考えていた身のこなしが思うがままだ……!)

「ぐあああああ!って俺には当たっていない……?」

「その身のこなしにビビっちまったが射撃スキルはFランクみたいだな。
 それではどうせこの世界では生きていけない。ここで楽になりな」

「それはどうかな。
 何故銃声がこれだけ鳴り響いてもお前の仲間は助けにこない?」

「な……まさかお前……」

 この場面で目の前の武器を奪った者を倒したところで柚木は助からなかっただろう。
 
 前方、後方、左方に足音と声から味方が潜んでいることは分かっていた。
 奴らを先に倒さないと次の盤面で柚木は詰みであったのである。

「信じられない……。いつの間に位置を特定した? 
 いや、位置を特定したところで潜んでる相手にこの距離から急所に三連続ヒットさせるなんて。
 クソが……相手が悪かったようだ。ひと思いに殺してくれ」

「いや、殺さないよ。その代わりこの世界のことを教えてくれ」

 俺はマジで今さっき転生してきたんだよ。
 こいつはあり得ないと言っているがそれは変わらぬ真実である。

「頭おかしい女神がダーツで場所決めやがったせいでたぶん、ちゃんとしたところからスタートできなかったんだろうな」

「え、そんな女神いるの……?」



 そして俺はその兵士に案内してもらい、
 街、といってもスラムみたいな場所だがそこでこの世界について色々教えてもらった。

 ここは前世のゲーム文化に基づいて形成された比較的新しい転生場所ということ。
 今いる場所はその世界でも極悪地帯と言われているFPSワールドで、
 頭のネジが飛んだやつらしか足を踏み入れないこと。
 ゲーム文化に基づいて形成されただけあってルールに縛られているのがこの世界の特徴で、
 例えばFPSワールドでは街に設定された場所ではPK(プレイヤーキル)はできないこと。

 他にも……、と心で復唱している時だった。

「ん? なんだあいつ、あの変な服装の外人女まさか……」

「びえーん、びえーん、ひどい。ひどすぎます全能神
 この華憐でかわいい私をたった一人適当にダーツで転生先決めただけで、
 罰といってこんな世界に引きずり落とすなんて~」

 あの外人女、俺をこの地獄に叩き落しやがったダーツ女神じゃねえか!
 ざまあみろ。あいつも罰を受けたようだな。

「何が修行して一からやり直してこいだよ~。
 せめて女神スキルはく奪しないでくださいよ~
 ねえどこかで聞いているんでしょ全能神、ご慈悲! ご慈悲を~」

「あー、どこかで聞いていらっしゃる全能神さん? さっきのご慈悲とやらいらないですよ。
 俺は死にかけました。転生先でさっそく二度目の死を体験するところでした。
 この! くそみたいな女神が適当にダーツで転生先を決めたせいで!」

「あー!! あなたは私が地に落ちることになった悪の根源であるパンツ一丁ゲームオタク!」

「貴方のせいで私はこんな目に合っているんですよ!
 貴方からも全能神に頼み込んで下さい!」

「だれが頼むか!」

「さっきも言ったが俺は既に二度目の死を被るところだったんだよ!
 お前も俺と同じ道を歩んでもらうぜ」

「な……なんて外道、女神であるこの私に死の恐怖を体験しろと……!」
 許せません。地獄送りにするべきでした」

「ふん、もう後の祭りだぜ、なんとでもいいな」

 もう地獄のような体験は経験済みだがな。
 しかし俺はこの世界を生き延びる術を持っているみたいだ。

「どうやら俺はこの世界で生き抜くにはいいスキルを持っていたらしい。
 お前はせいぜいどこかで野垂れ死にな」

 ここがゲームの世界ならば、
 ゲームの概念があるならば、
 どこかを探せばまた俺の気に入るゲームがあるはずだろう。
 自分が実際に動くなんてそれはもはやゲームではない。
 俺はクーラーの効いた部屋でモニターを通して自由自適にゲームに没頭したいんだ。
 その地位を手に入れるためがんばってやる。

「じゃあな」

「ちょ、ちょーとまってください」

「私を一人にする気ですか?
 お互い困ったもの同志になったわけですから、ここは協力しましょうよ~」

「ちょ、お前! しがみつくな!」

「お前女神スキル消えたとか言ってただろ。そんなお前はどうせポンコツなんだろ。
 なんとなく分かるぞ。そんなやついらん!」

「お願いです~。
 一人にしないでください~。心細かったんですよ」

 涙目で必死にしがみついてくる。まじで鬱陶しい。
 悪いが俺は今までのゲーム生活でもうまいやつとだけ組んできた。
 例えどれだけ可愛かろうが、良い奴であろうが、
 そんなのは実力と比べたら糞だ。

 俺はこのスタンスを変える気はない。

「……分かりました。
 それでは私がこの世界でなんとか認められ、女神の地位に返り咲いたその暁には、まず貴方を元の世界に戻してあげます!
 本当は元いた世界に戻って文字通り死ぬほどはまっていたゲームをしたいんでしょ?」

 なんだって……? 
 さきほど実力のあるやつとしか組まないと言ったがあれは嘘だ。
 俺に利益をもたらす者とは嬉々として手を取り合おう。

「その話、本当だろうな……?
 嘘だったら全能神とやらにお前を詐欺師として提訴するからな?」

「それは絶対やめてください。地獄に行かされかねないです……」

「お前の言う通りだよ
 俺は本当は日本に帰ってあのFPSゲームがやりたいんだ。
 それが叶うならお前のような元女神のダーツ女とも手を組もう」

「元女神も、ダーツ女もやめてください……。
 私はサハクイェル・ポンドと言うんです。以後お見知りおきを」

「よろしくお願いしますね? 佐倉 柚木くん」

「まあ、よろしく頼むわ。ちゃんと働いてくれよサハポン?」

「サハポンはやめてください!!!」

 ―こうして俺とサハポンとのゲーム攻略が始まったのだった。



「さてまず始めに必要となってくるのが」

「私へのご褒美であるケーキですね!」

 とりあえず俺はサハポンこと、このポンコツを蹴った。

「いったあ! 信じられません。こいつ女神を蹴りましたよ!」

「元だろ。ポンコツは黙って聞いてろ!」

「ぐぬぬ……」

「いいか、FPSの世界の必要なものと言えば何と言っても武器と装備だよ」
「食料よりもまずはこれだ。パンツ一丁は嫌だしな」

「それが一番の理由の癖に」

「ちげえよ! 俺はさっき思い知ったんだよ
 この世界、力なき者はすぐ死ぬと……な」

「ひゅー。かっこいい、中二病ー!」

「お前もう黙れよ。いい加減にしないとまた一人だぞ」

「ひいいい、ごめんなさい!」

 本当に心細かったんだなこいつ……。

「まあいいよ……」

「……でもどうやら武器と装備は売っているみたいですが、
 私達この世界のお金もってないですよ?」

「大丈夫、危険地域に行けばNPCを殺るとランダムドロップが、
 そしてプレイヤーを殺るとなんとそいつの持っていたもの全部がゲットできるらしい」

「そして俺はさっき三人のプレイヤーを殺った。
 それ、拾いに行くぞ」

「え、危険地域にいくんですか?  力なきものは死ぬって……」

「大丈夫、さっきのおっさんのハンドガンはあるから」

「あ、そうですか。じゃあお気をつけて、私はここで貴方の無事を祈っています。
 柚木さんに幸あれ!」

「お前も、行くんだよ」

 俺一人だけがまた死にかけるのはごめんだ。道連れだ。

「い、いやだ行きたくない、怖いのは嫌です」

「チャンス or ロンリー ?
 ここで生き延びるチャンスを得るか、孤独死するか選びな」

「くそー! 行けばいいんでしょ、行けばー!」

「素直でよろしい」



 そうして俺達は先ほどの危険地帯に向かって歩いていた。

「なあサハポン、なんか使える魔法とかないのか? 一応元女神なんだろ」

「サハポンって言うな! ……うーん。女神スキルは没収されましたからね。
 あ、でも私の一番練習した得意技ならまだ使えるかも!」

「お、まじで! やってみてよ!」

「よーし、行きますよ!」

「……汝、我は光導く者。汝、我は祝福をもたらす者。今ここに神の奇跡を至らしめん」

 おおお! なんかすごそうだぞ!
 どんな奇跡を起こすって言うんだ?

「いでよ! エターナル、ライトー!」

「うおおおお、眩しいいいい」

 サハポンが詠唱を唱え終ると
 辺り一体は一瞬、ものすごい光に包まれた。

「ふう……。やはり私の後光がナンバーワンですね。
 女神スキルを没収されたので一瞬しか光れませんが。」

「って……。光るだけかよ!
 とんでもない魔法攻撃とか回復魔法がでると思ったよ!
 このポンコツ! 光り方だけ練習してたのかよ!」

「ポンコツじゃないです! 私は女神の中でも一番の光なんですよ !」

「それで、どーやって敵を倒すんだよ!」


 そうやっていがみ合っている時だった。

「うわあああ、にげろおお」
「また一人死んだぞ! 全員武器を捨てて逃げるんだー!」


「なんか前方からたくさん人が走ってきますね」

「ああ、しかも怯えきった顔でな」

 皆、武器を捨てて一目散に街を目指している。
 一体どういう状況なんだ。

「お、おい ! そこの兄ちゃんと姉ちゃんも逃げろ!」

「どうしたって言うんですかー?」

「湧いちまったんだよ。S級NPCのランホーがな!」

「この先の奴らはほとんど全滅だ……!」

 まじかよ。俺、また死地なの……?



「私達も早く逃げましょうよ」

「お、おう。そうだな」

 とその瞬間、後方から大きな炸裂音が鳴り響いた。

「ぐあああああ」

 大の男がうめき声を上げながら俺達のすぐ側に吹き飛んできた。

「ひっ」

 慌てて爆破音の先を見つめる。

「おいおい、なんだありゃあ
 映画のランホーをモチーフにしているのならちょっとでかすぎだろ」

「グオオオオ、ココデハオレガ、ホウリツダアア」

 そこには、
 上半身裸。
 筋骨隆々。
 そして3メートルを優に越える男が
 多数の武器を携え、吠えていた。

「だめです……。私はここで終わりです……」

「おい、諦めるな、全力で逃げ……」

「グオオオオ」

 ランホーは吠えながらこちらへ突っ込んでくる。

「って速ええええ」

 ランホーは驚異的脚力で5メートル先まで迫った。
 その瞬間ナイフを取り出したのが見えた。

「危ない!」
「きゃふん!」

 ギリギリの所でサハポンを突き飛ばした。
 その反動で柚木もランホーのナイフを回避する。

「あぶねえ……。ってサハポン気絶してる!?」

 勢いで数メートル先まで突っ込んだランホーがこちらを振り替える。

「さて、これはさすがにやばいな」

 しかし、その瞬間思わぬ援護射撃がランホーへ降り注いだ。

 プシュンッ。プシュンッ。プシュンッ。

「グオオオオ…………」

 (この音……サプレッサー付きのスナイパーライフル……!)

「いいぞ、さすがにこれならランホーも撃ってきている場所が分からず何もできない! ヒャッハー! やっちまえ!!」

 プシュンッ。プシュンッ。プシュンッ。

 連続的に弾丸がランホーを襲っている間にサハポンを担いで物陰へ隠れる。

 (さて、この物陰からランホーの死に様でも覗きますか……)
 (あいつ、どんだけ弾くらったら死ぬんだよ)
 (損害受けてるの体に埋まっている水晶がひとつ割れただけじゃねえか)

 ……ってん? ランホーが銃を担ぎ出したぞ。

 (いや……。お前の持っている銃全部マシンガンだろ!)
 (場所も分からないし、分かったところで当たるわけないだろ…)

 ドドド!

 ランホーは

 たった三発だけマシンガンを打ち放った。


 そして、その後スナイパーライフルの弾が飛んでくることはなかった。

 (おいおいおいおい、嘘だろ! さすがに俺でもその距離マシンガンは無理だぞ)


 さて、どうする。

 相手は超耐久、とんでもない索敵力と射撃スキル。
 そして超越した機動力。

 これがS級か……。

 しかし、右肩だけ埋め込まれた水晶が割れている。
 頭、両肩、心臓部、両足首に付いている水晶、あれが弱点か…?

 いや、違った時も想定しなければ……。

 と、色々思案していたときだった。

「んあー? ここどこですかー? あ、地に堕とされたんだった……」

「ばか、いきなりしゃべんな!!!」

 その音に反応して、

 ランホーはギロリとこちらを向いて突撃してきた。

「ああ、もうママよ……!」

 バンッバンッバンッバンッバンッ

 俺は祈る気持ちで素早くハンドガンを5連射した。狙うは奴の残った水晶。

「グオオオ!!!」

「くっそ、一発はじきやがった! 銃弾をナイフではじくなんてチートだろ!」

 4つの水晶の破壊に成功するも心臓部を狙った銃弾だけは弾かれてしまった。

 くそ……リロード……!

 しかし……ランホーの脚力の方が一歩勝る。

 瓦礫の物陰から撃っていた柚木だったが体当たりでその瓦礫を破壊する。

「ぐあああ!!!」

 柚木は瓦礫ごと吹っ飛ぶ。

「イヤアアア!」

 ランホーの方を振り返るとサハポンが胸倉を掴まれていた。

「助けてください! 柚木さん……!」

 そしてランホーはサハポンを盾に銃を構えだした。

「あいつ、サハポンを盾に心臓を……! サハポンごと撃つか……!?」

「えええ! やめてくださいよこの鬼畜!」

 やばい、絶体絶命……。ってそうだあいつにはあれがあるじゃないか。

「サハポン! 光れー!」

「わ、分かりました! えいっ!」

 サハポンが光った瞬間、ランホーは引き金を引いた。

 その引き金を引く指の動きに合わせ柚木は前方へ目を庇いながら飛ぶ。


 間一髪柚木は弾丸を交わす。
 そして至近距離で無駄に眩しいサハポンの光を受けたランホーは

「グオオオオ!!!!」

「効いてる……!今だ……!」

 柚木は素早くハンドガンをリロードしサハポンの手にハンドガンを投げた。

「ほら、サハポン受け取れ! そして心臓を打ち抜くんだ!」

「了解、隊長!」

 サハポンはハンドガンをキャッチし心臓部目掛けて引き金を躊躇なく引いた。

「終わりです! ランホーさん!!」

 バンッと乾いた音が鳴り響く。

 ランホーの最後の一つの水晶が弾け飛んだとその同時に

 ランホーは消滅した。

「さすがに今回はまじで死ぬかと思った……」

「私って……天才……?」

「いや、お前気絶してただろ」

「でも怯ませたのも、止めを刺したのも、私ですー」

「お前があの時喋り出さなかったらもっと簡単にな……!」

「うるさいですねー。私の功績を認め……って何かランホーさんの消えた後から箱がでてきましたよ」

「うおおおお! 噂のNPCドロップ!」
 
「S級なんだし絶対いい物、入っているんじゃないですか……!?」

「よっしゃあ! 開けるぞ!」

 そして…。そこに入っていたものは……。


「なんだこれ……? 本……?」

「なんて書いてあるんですか? 見てくださいよ!」

「そう急かすなって。なになに……? ゲームクリア、次のゲームへ……?」

 その、瞬間

 柚木とサハポンは違う世界へと瞬間移動していた。

「うわ、ビックリした! って、目の前にいるのは……スライム?」

『MMO』 World!!

「おいおい、スライムじゃん」

「かわいいですね。うわ、ぶにょぶにょしてますよ」

 いや、そういうことじゃねえよ。
 どうなってんだ? ドロップアイテムの本を開いたと思ったらわけわからん森に飛ばされちまったぞ。
 しかも謎の生物までいるし。

「残念ですね。ぶにょぶにょしているせいでクッションとしては使えません」

「いやいやいや、お前まずこの状況に驚けよ。なんか突然変な森にきちゃったんだぞ」

「えー、もうさっきのランホーさんの襲撃で驚くことに飽きちゃいました」

 こいつ、大物だな。
 俺は驚きっぱなしだよ。

「ていうか、なんかサハポンの頭の上に緑と青のバーとLV1っていう文章が浮いてるぞ。
 元女神のなんかの技か?」
 
「わ、本当だ。でもこれ女神関係ないですよ。ていうか柚木さんも全く同じのが浮いていますよ」

「え、まじ? うわ本当だ。バーになんか数値も書いてあるな。緑が50で青が10……」

「うっわ~。柚木さん低いですね。私、200と3800ですよ!」

「べ、別に、こんな意味の分からん数値で負けた所でなんも悔しくないし!」

 本当だもん。悔しくないもん。
 ……でも、本当に意味のない数値だったらな。
 
 『ゲームクリア、次のゲームへ』と書かれた本を見た途端この変な生物が生息する森に飛ばされた。
 そしてこの緑のバーと青のバー、LV1という表記ってまさか……。


「きゃあ!」

 突然サハポンが衝撃音と共にこっちに吹っ飛んできた。

「どうしたサハポン!」

「いたた……。スライムとじゃれていたら突然体当たりしてきました……」

「確かに、なんかスライム怒っているな……。迫力ないけど」

「騙されてはいけません。結構痛かったですよ!」

 まじか。さっきのランホーに比べて余りにも弱そうだから油断していた。
 って、サハポンの緑のゲージが減少している?

「おいサハポン、緑のゲージがちょっとだけど減っているぞ」

「わ、本当です。5だけ数値が減っていますね」

 おいおいやっぱりここってまさか……。

「これ、MMOの世界なんじゃないの……?」

「はい? えむえむおー? 」

「知らねえのかよ。MMOってのはな」

 説明しようとしたその時だった、

「グルルル……」

「かわいい……オオカミさんですね」

「いや、全然可愛くねえよ! めちゃくちゃ狂暴そうだよ!」

 ははは、こいつはヤバイ。そういえば俺はまだパンツ一丁のままでこの状況。
 
「サハポン、そーっと逃げよう。そーっと」

「そ、そうですね」

 そうやって足音を立てず、刺激しないようにオオカミから距離をとろうとした。
 しかし、FPSワールドから俺たちが何も食べていなくてお腹が空いているいるように、オオカミさんもまたお腹が空いていたのであろう。
 「いただきまーす」と言わんばかりに口を開きながら走ってきた。

「ギャアアアア! きたあああ!」

「サハポン、いつものやつ!」

「あ、はい!」

 サハポンは例のごとく、唯一の得意技である『ただその場で光る』を発動した。
 彼女曰く『後光』らしいが、残念ながら女神スキルの没収の弊害で一瞬しか光れない。
 しかし、なんとかこの場を潜り抜けるには効果ありだったようだ。
 
 オオカミは突然の光に目をやられ、その場で悶えている。

「ナイス! サハポン! いや、フラッシュバン!」

「誰がフラッシュバンですか! とにかく、逃げましょう!」

 
 俺たちは逃げた。
 
 森の中にはたくさんの獣や、謎の生物が潜んでいた。
 足跡や木々をかき分ける音、鳴き声などを柚木が捉え、なるべく敵の近くに行かないように進んだ。
 しかし、その数が多すぎてどうしても遭遇してしまう。

 その度にサハポンの出番だ。

「いまだ! サハポン、フラッシュバン!」

「はいっ!」

「次、右から十秒後に飛び出してくるぞ。 3、2、1……今!」

「それきたっ!」

 サハポンは光る。光り続けた。
 その光のせいで敵が寄ってきているような気もしたが、これしか手段がないので仕方がない。
 そして、俺たちは行く当てもなく森を歩き続けた。


「お腹が空きました……。いつまで歩けばいいんでしょう……」

「俺もお腹ぺこぺこだよ! しかも、パンツ一丁だから日が落ちてきて寒いし!」

「光るのにはカロリーがいるんですよ! その分私のほうがペコペコです!」

「そういう仕組みなのかよ。なんか神秘的なやつじゃねえのかよ」

 お互い空腹や疲労、精神的な疲れもあるだろう。
 そのせいでピリピリしている。

「餓死なんて死に方だけは嫌です~」

「縁起でもないこと言うなよ……」

 本当にその死に方だけは嫌だ。
 こうなったらさっきのオオカミをなんとか捉えて食べるしかないか?

「柚木さん! あっちの遠くの方見てください! 木の上に家がありますよ!」

「うお、マジ! どこだ!」

 本当だ。しかも一軒なんてもんじゃないぞ。
 よく見るといっぱい建物が木の上やその周りに乱立している。

「助かった! 街っぽいぞ!」

 柚木一行はなんとか森の中にある街にボロボロになりながらも到着した。
 しかし、あまり歓迎はされなかったようだ。
 
 彼はパンツ一丁なのである。

「きゃあああ! 変態よー!」
「魔導士さん達、この変態を捉えてー!」

「ま、まってくれ! これには深い訳が! それよりも飯を食わせてくれ!」

「変態乞食がいるわよ! しかもいたいけな女の子まで捉えているわ!」

「ぷぷぷ、柚木さん。……いえ、変態乞食さん熱烈な歓迎ですね」

 突然わけわからん森にワープさせられて、死ぬ思いで辿り着いた結果がこれかよ。
 神は俺を見捨てたようだ。

「これはなんの騒ぎだ? ……むむむ、なんで君はパンツ一丁なのだ!」

 絵に書いたような魔法使いの恰好をしたおっさんがこの騒ぎに駆けつけてきた。

「いや、これにはそれはそれは深い訳があるんです」

「ていうより、君たちレベル1じゃないか! 何故こんなところにいる? どうなっているんだ?」
「とにかく、色々聞かねばならないようだな。 そんな恰好でここに居られても困るのでとりあえず魔法聖堂まで来てもらおう」

 魔法聖堂ねえ……。やっぱりここはMMOの世界で間違いなさそうだ。
 まあ、そんなことよりとりあえず、服と飯が欲しいなあ……。
 
 俺とサハポンはその魔導士を名乗るおっさんに付いていき何やら神殿みたいな場所に通された。



「何から聞いていけばいいのやら……とりあえずその魔導服を着てくれ」

「ありがとうございます。あと、聞くもなにも、俺たち何も分からなくて」

「とりあえず、エリニア……といっても分からんかな、この街に辿り着くまでの経緯を教えてくれ」

「そうですね、どこから話しましょうか。まずはこのふざけた元女神のダーツ事件からですかね」

 俺はゲームが原因の過労死からこの街に辿り着いた所までの経緯を話した。

「信じられん……。一日でこのムリゲー世界の1つのゲームをクリアするなんて……。でも確かにこれはゲームクリアの書だ」

「それでレベル1でこのエリニアに異動してきたということか」

「やはり、ここはMMOの世界なのでしょうか?」

「その通りだ。そしてプレイヤーはレベル10になり職業につくまで初心者の街を抜けることはできないシステムになっている」

「ここはエリニアといって、魔法職に就いた者が学びにくる場所なのだ」

 グルルルルル……。

「お腹すいたあ……」

「サハポン! 今、飯よりも大事な情報を集めているときだ! 黙れ!」

「ハッハッハ、今夜は私が夕飯を奢ろう。食べながらでも話はできるだろ。
 でも、これからどうするんだい? お金もない、装備もない、レベル1だからスキルもない。
 ピンチだね、君たち。いや1日で他のゲームを攻略した者だから余裕かな?」

「確かに、そうかもしれませんね。柚木さん、転生前はゲームばかりやってたそうですし、この世界でも、うまくやれますよね!」

「いや俺FPSゲーマーだから、MMOはやったことないわ」

「え……じゃあこの先どうするんですか!!?」

 どうするんだろうね。本当に。



 とりあえず、集めた情報を整理しよう。
 ここはMMOの世界。
 つまりここの世界の死はHPゲージがゼロになること。
 そして俺たちは初期状態で何故か中盤マップにいる。
 
「これからどうすればいいんだ……」

「しっかりして下さいよ。柚木さん!」

 柚木達は昨日の親切な魔導士のおじさんにお世話になり一日だけ魔法聖堂に泊めてもらった。
 しかし、この先どうしたらいいのだろう。 

「すまないな。ここは魔導士のための宿泊施設だから君たちを泊めるのは一日が限界だ」

「いえ、ご飯だけでなく宿まで用意してもらって助かりました」

「とりあえず、魔導士だけでなく冒険者が多く集まる集会所に行ってみるといい。
 もしかすると、初心者の街へと逆走してくれる物好きもいるかもしれん」

 なるほど、そんな場所があるのか。そこに望みを託すしかない。

「おじさんが付いて来てくださいよ~」

 お、サハポンいいぞ。言い出しにくい事を簡単に言ってくれる!

「あ、それは無理。まじで面倒くさいから。そんな人絶対いないわ。
 それじゃ」

「…………」

 おっさんは突然手の平を返し去って行った。
 そんなに、逆走することって面倒なのか。

「サハポン、落ち込むな。いい人はきっといるさ。集会場へいこう」

「そ、そうですね。きっといるはずです!」



 


 柚木達は今いる街、エリニアの案内板を確認しながら集会場に向かった。
 しかし、現実はとても厳しい。

「はあ? 初心者の街? いくわけねえだろ」
「お前らレベル1じゃん。どうなってんの? 介護とか無理」
「いくら払ってくれるん? は、ない? 帰れよ」

 なんて冷たいんだ。これが現実か。
 結局、人というものは自分に利益がないやつとは組まない。
 分かっていたことじゃないか。まさに俺がそうだしな。

「サハポン……。この街で一生乞食として生活するのも悪くないよな」

「そんな生活嫌です~!」

 レベル10になったら職業に就けると言っていたが農家とか商人なんてものもあるのかな?
 もしそうだったら、アルバイトとかすれば生きていけるのか?
 
 ……そんな風に、悲しい未来を思案していると、なにやら騒がしい声が聞こえてきた。

「みんな~今日もこの時間がやってきたわよ~! フラワープリンセス様のヒーリングタイムー!」

「ウオオオオオオオ! フラワープリンセスー!」
「姫~!」
「今日も俺たちにフラワーヒールを~!」

 な、なんだあのやばい集団。絶対関わったらいけないやつだ。

「すごい、盛り上がりですね。何かのイベントでしょうか?」
 
 サハポンは興味あり気にツインテールの女の子を囲んで大盛り上がりしている開場を眺めている。

「違うぞ、よく見ていろ。あれは『姫プレイ』とやつだ」

「姫プレイ?」

 ツインテールの15歳くらいの女の子は、まるでアイドル張りの愛嬌を男共に振りまいている。

「みんな~。今日も強い強いモンスター達との闘い、お疲れ様! 
 そんなみんなに、今日も私のかわいいお花パワーの回復魔法をお届けするわ!」

「ありがとう~。姫~」

「いくわよ~。花の女神フローラよ、私に癒しの力を授けん。
 フラワーヒーリング~!」

 そう唱えると彼女の持つ杖から花が咲くようなエフェクトが発生し周りに群がる男共のHPを回復させた。

「ああ~。気持ちいいんじゃ~。ありがとう姫~。
 今日も少ないけどこれを受け取ってくれ~」

 回復魔法を受けた男共はフラワープリンセスを名乗る女の子にこれでもかとプレゼントを贈る。
 そう、この構図こそまさに「姫プレイ」である。

「みんな、今日もありがとう。また明日ここでヒーリングタイムを行うから絶対くるのよ。
 じゃあ今日は解散!」

 そうして男共は解散していった。

「な、分かっただろサハポン。ああいうのは絶対に関わるな……って、ん?」

 男共が去っていき、その女の子の顔が段々見えてきたがあいつもしかして。
 いや、久々で声も大分忘れていたが間違いない。
 なるほど、それでフラワープリンセスね。単純だな。

「サハポン、ちょっと、俺あの女の子と話してくる。待ってて」

「え? 今、関わるなって言ったばっかりじゃないですか」

「まあまあ、もしかしたら初心者の街まで付いてきてくれるかも」

「マジですか! それは、行ってきてください。ナンパに!」

「ナンパって言うな」

 俺は貰ったアイテムをせっせと鞄に詰めているフラワープリンセス様。
 いや、橘 姫花(たちばな ひめか)の元へ歩いて行った。

「いや~。フラワープリンセスさん。今日も最高のヒールでしたね」

「なに? 今日はもう終わりよ。ルールは守って。時間外は話しかけないこと」

 偉そうに。
 アイテムを詰める作業も中断せず、こちらも見ないで返答してきやがる。
 こいつも俺の声忘れちゃったようだな。
 
「そんなこと言わないで、ちょっと付き合って下さいよ。姫花さん?」

「え、あんた誰? なんで私の真名を? って……柚木!?」

 突然本名を呼ばれ、ツインテールを揺らしながらこちらを振り返ってきた。
 なんだ、顔を見ればちゃんと覚えているじゃないか。

「よう、お前死んだと思ったら、こんな所で姫プレイしてたんだな」

「え、え……? なんであんたがここにいるの……?」

「まあ、俺も死んじゃってな。色々あって今ここにいるんだよ」

「そ、そう……。ねえ、もしかしてさっきの……見た?」

 こいつ、顔真っ赤にしやがって。
 なんでばれて恥ずかしい事をやっちゃっていたんだよ。
 ……まあこんな所で知り合いに会う訳がないと思うのは自然か。
 でも、こいつは面白い事になりそうだ。

「見たぞ~。フラワープリンセス様の、フラワーヒール~。
 お前、自分の名前が姫花だからってフラワープリンセスは安直だろ」

「う、うるさい!!! よくも、よくも……」

「そうだ姫花、俺さ今困ってるんだよね。レベル1でこんな所に連れてこられて。
 よかったら初心者の街まで付いてきてくれね?
 いや~、お前いて助かったわ。フラワーヒールで俺のこと守ってくれよ」

「………」

 って、あれ? 
 なんか俯いて喋らなくなっちゃったぞ。
 こいつもしかして泣いてね?

「柚木には見られたくなかった……。ぐす……」

 その瞬間、俺の肩に明らかに憎しみがこもった力を感じる。
 さっきの男共が掴んできやがった。

「なに姫様泣かせとんじゃあ、われえ?」
「一回死んどくか?」

 こ、怖えええええ!
 これはやばい。目がマジだ。怒らせてはいけないやつらを怒らせてしまった。

「す、すみません! そんなつもりではなかったんです!
 姫花もごめん! 俺はもう去るから泣かないでくれ」

「待って」

 このやばい場所から一刻も早く逃亡しようと、回れ右をした俺を姫花は服をひっぱり引き留める。

「ど、どうしても……」

「な、なんですか姫花さん。いや、姫」

 これ以上、この男共の火をつける発言はやめてほしい。
 そんな事を思っていたら予想外の言葉を姫花は俺に言い放った。

「ど、どうしてもって言うなら、付いて行ってあげなくもないんだからね!」

 

【後書き】
いやー、趣味全開の小説を書くのはこの上なく楽しいですね!


「え? 付いてきてくれるの?」
 
 怒ってたんじゃないのかよ。

「どうしても、付いてきてほしいならね! 仕方なくよ。私は優しいからね」

 なんか、少し悔しいが、構っていられない。
 他に宛てなんてないので、ここは姫花の気が変わらない内に引き込んでおこう。

「あーもう、是非お願いします。姫花が付いてきてくれたら俺、めちゃくちゃうれしいぜ」


「へえー、そんなに私と一緒に行きたいんだ? 全くしょうがないわね」

「よし、そうと決まれば早くこっちこい!」

「キャッ! なんて強引なの……そんなに私が……」

 俺は姫花の手を取り、サハポンの所へ強引に連れて行った。
 何か姫花は呟いているが、今は周りの姫花ファンが茫然としている内に逃げるに専念だ。
 正気を取り戻すと何をしてくるか分からんからな。

「ということで、こいつが俺たちの新しい仲間、橘 姫花だ。通称フラワープリンセスらしい」

「わあ! 姫花さん! よろしくお願いしますね」

「よろしくね! ……じゃ、ないわよ。この女は誰よ柚木!」

「ああ、こいつはサハなんとかポンド、通称サハポンだ。一応元女神だぞ」

「サハクィエル・ポンドです!」

「そんなことはどうでもいいわ。どういう関係なのって聞いているの!」

「どういう関係って言われてもな。協力関係だよ。この世界を攻略してこいつが女神に戻れたら生き返らせてもらうんだ」

「はあ? あんた正気!? ムリゲーよこの世界」

 皆、口を揃えてムリゲーって言うな。
 そんなに厳しいのだろうか?

「あの、姫花さんと柚木さんはお知り合いなのでしょうか?」

 空気を読まず、サハポンは姫花に対する興味を抑えきれないようだ。

「姫花はな、隣の家に住んでいた幼馴染なんだよ。でも俺たちが15歳の時、交通事故で死んでしまったんだ。まさかこんな所で再開するなんてな」

「この世界に飛ばされたということは姫花さんもゲームが好きだったんですか?」

「そうそう。こいつ、ずっと家でネトゲばっかやってたよ」

「え、柚木知っていたの? こっそりやっていたのに」

「お前、ゲームやるときカーテン閉めろよ。俺の家から丸見えだったぞ」

「うう……。 で、でもそのお陰でこの世界では中々強いわよ!」

 どういうことだ? この世界では前世のゲーム時間に強さが依存するのか?
 しかし、それならば何故サハポンと俺にこれだけの初期ステータス差があるんだ。

「私、全然ゲームなんてやってないですけど、柚木さんより強いですよ」

「確かに。というかなんであんた達レベル1なの?」

「これは話すと長くなるんだが……」

 死因や頭のおかしいダーツ事件、FPS世界をクリアしたこと。
 そしてこの世界へ飛ばされたことなどのこれまでの経緯を姫花に話した。

「あ~なるほど。だから初心者の街に逆走したいなんて言っているのね……」

「お前は俺が1日でFPS世界をクリアしたことを驚かないのか?」

「まあ、あんたならねえ……。死ぬ前もFPSばっかりやっていたじゃない。
 でも、そのせいでFPS向きの力ばかり手に入れてそんなHPとMPになったのかしら。最低レベルよ」

 マジかよ……。最低レベルときたか……。
 しかし、この話からすると、俺が優れている能力もあるみたいだ。
 そっち方面で成長していけばこの世界でもなんとかなるだろう。

「まあ、仕方がない。攻撃なんて当たらなければHPなんていらないし、銃を利用すればMPなんていらないぜ! 俺はこの世界でもガンマンになるだけだ」

「このMMOの世界に銃なんて見たことないけど」

「嘘だろ……」

「これはいくら私があんたをサポートしても初心者の街まで辿り着くのは困難かもね。
 HP50って……下手すると一撃じゃない」

「ぷぷぷ~。 柚木さんザコですからね! 私はHP200でMPなんて3800ですよ! 最初から物が違います」

「でも、サハポンさん? あなたも初心者だからそのMP全く使えないわよ」

「………」

「やっぱり商人とか、そっち系になるしか……」

「ああ、プレイヤーは全員冒険者で商人とかそういうのは全部NPCよ。モンスター倒して稼ぐしか生きる術はないわ。まあ、私くらい可愛ければ別だけど」

 やっぱり乞食として生きていくしかないのかなあ……。




「それでも俺は蘇り、本物のゲームがしたいんだあああ」

 姫花が今まで姫プレイで蓄えた財産にあやかり、俺とサハポンは宿に泊めさせてもらった。
 その晩ゆっくり考えたのだが、この変な森に囲まれた街で乞食として一生を過ごすくらいなら、死ぬ気で職を掴みに冒険へ出る方がマシという結論に行きついた。

「いくぞ、サハポン、姫花! 俺たちは冒険に旅立つのだ」

「待っていました柚木さん! 私も女神に返り咲きたいです。乞食なんて嫌です!」

 サハポンは喜んでいる。
 辛く、危険な冒険になるどうが、この笑顔には救われる。

「いくぞ、例え危険や困難が多く降り注ぐ無謀な冒険であろうが、俺たちは超えてみせるぞ!」

「いや、冒険って私、来た道を帰るだけなんだけど……」

「そこ! 水をささない!」

 俺とサハポンは姫花のプレゼントコレクションからいくつか武器をもらい、
 (しかし、初心者がつけられたのは木の棒としょぼい剣しかなかったが)
 ついにエリニアから旅立った。



「いい? この辺りの適正レベルは60前後よ。 しかも本来は魔法耐性も必要なの。
 あんた達はレベル1。しかもどんな耐性を持っているのかも初心者の街でもらうはずのステータス確認書がないから分からないし、論外よ」

「ははは、さっそく挫けそうだぞ~」

 そういう大事なことは街を出る前に教えろよこのアホ。
 と、言いたい気持ちは山々だが付き添ってくれなくなったら困るので言わない。

「兎に角、敵を見つけたら逃げる! 私は攻撃魔法はそんなに得意じゃなくて、耐久勝負型だから戦闘になったらあんた達、その間に死んじゃうからね」

「ふふふ、大丈夫さ。俺たちには必殺フラッシュバンがある」

「は? なにそれ、レベル1で使える技なんてないわよ」

 呆れ顔になっている姫花。
 ふふふ、俺たちが今まで生き残ってきた術を舐められては困る。

「見せてやるぞサハポン、お前の磨き上げたフラッシュバンを」

「だから、フラッシュバンじゃ無くて、後光です!」

 むむ、そんなことを言っている間にこの祭囃子の音……。
 10秒後に右方の草むらから敵が! 

「今だあ! 右にフラッシュバン!」

「あ、はいっ!」

 怒っていたはずなのに、条件反射で光ってしまうのは、悲しい逃亡生活のせいなのだろうか。
 早速、その場で瞬く光を発した。

「え、何よその技。どうして使えるの?」
 
「こいつの元女神の残りカスだよ」

「え、本当に女神だったのね……」

「信じてなかったんですか!」

 って、今回のモンスターはすげえ弱かったな。
 初めてフラッシュバンだけで倒せちゃったよ。
 人型のモンスターが倒れている。

 ……ん? こいつ、なんかおかしいぞ

「うう……。ビックリしました。なんですかこの光」

 倒れたモンスターは起き上がりながらそう言った。

「なあ、姫花。モンスターってしゃべるのか?」

「いや、今までそんな経験はなかったわ」

 モンスターでないならば、こいつはプレイヤーということか?
 いや、でもこいつはそれでもプレイヤーってことはないだろう。
 だってこいつ、人間の姿をしているけど、明らかにおかしいところがある。
 
「耳、とんがってるよ。これ、エルフってやつじゃないのか?」

「私もそう見えるわ」

 やはり俺の目の錯覚ではないのか。
 姫花にもそう見えるか。

「あら、これは珍しい。エルフ族の方じゃないですか!」

 サハポンはそう言った。
 なんだ? エルフ族って?

Into The Game World!!

Into The Game World!!

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-06-28

Copyrighted
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  1. プロローグ「ゲームのやりすぎにはご注意ください」
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