砂漠の旅 21

気絶したのか、まどろんだだけなのかは分からなかった
目を開けた時、陽が落ちかけて、綺麗だったであろう夕日の残像が夜をやさしく迎えていた。
彼は彼女が言ったようにやはり、生きていた。
(生きている)彼は思った。

彼女を思った。会いたい、と思った。

彼は寝すぎた。長い夜になりそうだった。偶然にも彼女は沢山の薪と食料を残してくれていた。彼は心から彼女に感謝した。そして薪や食料を持ってきてくれたとき心の中で悪態をついたことを恥じた。思った通りに口に出さなければ良好な関わりは始まらないなあ、と思った。
程度は必要だけれども、今度会うときは思った通りにあっけらかんと悪態を口にしよう、と思った。

彼は少し楽になっている気がした。つくづく茶碗の力の凄さを思った。彼はずっと茶碗を握っていた。意識がなくても茶碗だけは握っていたようで、体温で茶碗が随分温まっていた。
真っ暗になる前に火を焚いた。昨日の夜彼女が座っていた同じところにあぐらをかいて、いつもより沢山の夕飯を作った。沢山食べたいと思った。
ぼんやりと火を見つめた。
自分にはどうしても変わらない偏りがある、と彼は考察を重ねてゆく。彼が完全な彼らしさを手にしたとき、恐ろしいことが起こる気がしていた。もしくは非常にめんどくさいことが。

自分らしくあることは無意識に行動することに近い気がする。自分らしくあることの必然性は誰かと互いに尊重し、支えあう関係性になれた時、楽に、フラットにその良好な関係を続けていくこと(いけること?)にあると思う。人生のゴールが幸せな日常を築くことなら、自分らしく生きれる、という能力は非常に大きなものだ。

誰だって自分らしく生きることはできる。しかしきっと本能はあまりに血の色がしすぎる。
特に彼は変に築いた砂の山と、遠い利益を見れないタガの外れた狂いがあった。脂質はきっとそれらを押しとどめるためにあった。長く生きるための苦肉の策だったのかもしれない。(自分が今、自分らしく生きた時、きっと、死ぬだろう。狂って、壊れて死ぬだろう)と彼は珍妙な顔で、本気で思っていた。
彼は彼らしさを手にする前に「獣」を十分に成長させる必要があった。(これは絶対必要なことだ)彼は思った。

次に彼は野糞をした時の最も効率の良いお尻の拭き方についての考察を重ねていた。彼女の胸のふくらみをぼんやり考えていた。喉が渇いている時のサボテンの内側の水分がなぜあんなに美味しいと感じてしまうのか考えていた。ムキムキになって怪獣を倒す自分を想像していた。ニッパー状の自分の爪切りを見ながら彼女のイケてる形の握る部分が畳める爪切りの利便性に感心した。あの爬虫類は不思議な奴だった、と思った。爬虫類の癖に多くの豊かな理性を内包していたように彼は感じた。時に小さな体なのにとても大きな存在感を放つ不思議を思った。自分が何か飼うなら何がいいかなあと思った。やっぱり猫だろう、彼は思った。昔から彼は猫が好きだった。様々なことを教えてくれた偉大な人は猫を尊敬していた。「猫を恋するのはいいが、愛してはいけないよ。虚無に食われてしまう」偉大な人がそう言っていたことを思い出した。ぽりぽり木の実をかじりながらどういう意味だったんだろう、と思った。「猫は最も獣に近い動物だ」という言葉を思い出していた。そもそも当たり前に獣と動物ってわかれてるけど具体的にどんな違いがあるのだろう?知性?関わりについて知っているかどうか?暗さを内包しているかどうか?「ピキン。」ピキン?
彼は我を忘れていた。茶碗が彼を再生させ続けていた。

はっ!と彼はぎょっとした目で茶碗を見つめた。
「ピキン」再び茶碗が鳴った

がばっと茶碗を手に取り間近で見つめた。
彼は気づいた。

茶碗に細かい貫入が入っている。

砂漠の旅 21

がんばって書きました。よかったらご評価よろしくお願いします。まだ未完で、ここまでしか書けてないですがだいたいどういう感じになっていくかは何となく考えたり、考えてるふりをしたりしています。一応ハッピーな感じで終わらせるつもりなのでハッピーな感じで閉じれるまでは残念ながら続けるつもりです。そうせねば、と思っているのでそうします。つまんねえ…、目に毒だ…ということなら書くのやめます…。賛否まっております!

あ 改めて読んでから気づいた。
無意識って怖え…もう、どうでもいいや。

砂漠の旅 21

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 冒険
  • 青年向け
更新日
登録日
2017-06-19

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