雪が降る日、君を思ふ

雪が降る日、君を思ふ


 羽のように舞い落ちる雪は優雅ささえ感じさせる。寒さは時間がたつにつれて増していく。
 冷えきった手は思ったように動かない。ポケットに手を入れるが効果は雀の涙ほどだった。
 田舎にある小さな寂れた駅で1人、彼女を待ち続ける。



 彼女ーー藤岡ふじおか 凛りんはかつては僕の恋人だった。小・中・高と学校が同じで家も近く家族のように、いや家族以上に仲がよかった。

 付き合い始めたのは中学3年の夏。地域の花火大会で彼女に告白したのがきっかけだった。

 しかし、付き合ったはものの周りの冷やかしもあってろくに話すことすらせず、高校一年の夏休みに入る頃には自然崩壊してしまった。

 別れたあと、最初は気まずかったが、付き合う前のように楽しく話し合える"友達"に戻った。それが一番いい関係だと思った。


 待ち合わせの時間は午後の6時。今の時間は7時。きっと雪の影響で遅くなっているのだろう。そう思い、イヤホンをしラジオでニュースを聞く。

 面白味のないニュースが流れ続ける。新法案についてや教育問題。さらには連続通り魔の事件まで。これは二ヶ月前から続いていて、今朝も女子大生が1人ナイフで刺され、意識不明の渋滞だそうだ。

 しかし、どれもどうでもいいことに思えた。人間、自分が一番可愛い物だ。自分に関係のないことなど興味がわかないのだ。

 そんなことを考え終わりふと時間をみる。8時だ。雪はカーテンのように視界を遮る。きっと雪で遅れているのだろう。電話をしてもでない。きっと電源がきられているんだろう。


 高校を卒業すると彼女は都会の大学に入学した。歯医者さんになりたいと笑顔で語っていた。清楚で可愛らしい顔立ちで、子お人好し。そんな彼女にはぴったりだと思った。

 僕は大学にはいかなかった。高校を卒業してからは家の手伝いをして暮らしている。良くいうと安定した暮らし。悪くいうと夢のない暮らし。毎日が作業のように思えてくる。

 そんな時、ふと沸いたのが彼女に会いたいという感情だった。すぐに連絡をとると、次の土曜日ならいいよ。と返事がきた。そして今日にいたるわけだ。


 もう終電の時間は過ぎていた。駅員さんに促され駅をでる。雪の降るなか、しんしんという足音をならしながら家に向かう。彼女に会いたい。そう思うのだがなぜか現実味が沸かなかった。


 次の日の朝、いつも朝早くに大声で起こしてくる母の声はなく、時刻はすでに朝の8時をまわっていた。

 リビングへ行く。ーーそこにはいつもの元気からは想像できない両親がいた。嫌な予感がする。そう直感した。

「おちついてきいてね」母が口を開く。父は無言だが辛そうな表情をしている。

 やめてくれ。聞きたくない。声にならない声が込み上げる。わがままで、自分を守るためだけの考えが沸いてくる。


「昨日、凛ちゃんが連続通り魔に刺されて亡くなったの……」


 静かに涙が自分の頬を伝うのがわかった。好きだった。頭から離れなかった。君が大学にいったあとも。伝えたかった。好きだということを。後悔が頭を巡る。

 昨日のラジオ。心の奥で僕はわかっていたはずだ。彼女と連続通り魔のニュースが関係あると。でも否定したくて関係ないと思い込むことにしたんだ。

 涙で視界がぼやけ、足に力が入らず、その場に崩れ落ちる。


「凛ちゃんがあなたのこといつも凛ちゃんのお母さんに話してたんだって。大好きって。でも素直になれないって」


 それを聞いて、僕は大声で泣いてしまう。僕も好きだった。素直になれなかった。伝えたかった。心のどこかで人は死なないと思っていた。

「凛ちゃんはあなたのこと大好きだよ。今も。これからも」

 母の言葉にさらに涙は流れて行く。普段なら、こんな状況じゃなかったら馬鹿にしてるの?と思うだろう。しかし、本気でいっているのがわかる母のその言葉に僕は救われた。


 こんなに泣くのはいつぶりだろうか。いや、今まで一度もなかったはずだ。そしてこれからも。


 雪が降る日、君を思ふ

雪が降る日、君を思ふ

小説家になろうでも投稿させていただいています。そちらの方もよろしくお願いいたします。

雪が降る日、君を思ふ

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更新日
登録日
2017-06-17

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