深海魚

深海魚

 自分の身の回りや街中って、案外、何もない。
 完全に何もないわけではなくて、未知であるとか、不明なものっていうのが、何もないと歩いていて思う。どの街も、やはり何かに守られている気がするのだ。
 そういった意味で、私は幽霊や宇宙人の存在を信じているし、この地球上にいるまだ見ぬ生物・生態が未だよく分かっていない生物に思いを馳せているのだ。

 私が特に好きなのは、深海魚である。
 深海魚って、調べてみれば意外と面白い顔をした生き物が多い。怖い顔や、顔すらどこにも見当たらないような生き物だってたくさんいる。
どんな風に生きているのか調べようと、持って帰ろうとして地上に近づけば近づくほど、彼らは息ができなくなる。圧力で押しつぶされる。
 海の中全体という大きなくくりではなく、深海でしか、ほとんど生きられないその儚さも、彼らの魅力だと思うのだ。
 
 あるとき、大好きなクラゲを見に地元の水族館に行った。深海魚とか関係なく、クラゲは大好きなのだ。あのふわふわゆらゆらしている姿を見ると、心が洗われる。
それで、館内を移動中、熱帯魚とはまた違った、ビビッドで変な魚たちをちらっと見かけたので、近寄ってみたら深海魚だった。感動した。
深海魚コーナーがあることを知らなかった。
 いつもは、ほんとうにクラゲ目当てでよく行っていたので、あまり他に興味がなかったのだ。だから気付かなかった。
 あれ、なんだ、深海じゃなくとも生きられるのか?もしかして、水圧をコントロールできる設備があったりするのか?とその当時は首を傾げていたが、彼らの中には、浅いところに行って産卵する種類もいて、その魚たちは水圧の変化にある程度耐えられるのだという。水族館ではそういう深海魚を飼育している。
 それはそれは驚いた。私は彼らの容姿とその儚さに夢見ていたために、そういう情報はあまり知らなかったのだ。にわかだと怒られそうだ。
 けれど、やはり元々は光も届かないところに住んでいるものだから、館内や水槽内の照明がどれだけ弱くても、目がやられて死んでしまう子も少なくはない。
 また一つ深海魚の儚さを知った。
 これにもまた驚いた。やはり飼育が難しいのだ。
 よくよく見たらほんとうに生きているのはほんの少しの種類で、大体は、剥製が展示されていた。
剥製でも、リュウグウノツカイなどは見ていてすごく心臓がどきどきしたのを覚えている。あのお魚、すっごく長いのだ。名前に見合ったからだをしていて、ほんとうに、竜宮城からやってきたのかと思うような、そんなロマンスを感じさせてくれる。
息が詰まるような感覚を覚えながら、魅入っていた。

彼らのいる世界を頭に浮かべてみた。真っ暗で、深い深い、海の底にひっそりと息づいている。地上や、彼らにとっての浅瀬にある煌びやかさなどつゆ知らず、彼らなりに楽しく生きているのだ。そこになんとなく人間味を感じてしまって、それはそれで面白かった。
思い浮かべては、胸がきゅんとする。まるで花のように儚く、弱く、それでいてどこかに美しさを備えている深海魚に、私もなりたいとさえ思った。

深海魚

深海魚

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-06-12

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