*星空文庫

十人と電波

星空トクマ 作

ハムドシティ地元テレビ局では、それなりの賑わいと人気を博している、地元アイドルがいた
数人が仮面をして顔を出している、全国的にも地味に有名。

「メモリーズっていうグループ。」
確かそんな名前で、
サトルはそんな曖昧な記憶を自室で振り返る。
20代のサトルから言えば、友人の間でさえ、そこそこという知名度でしかなく
そういう意味では、
同じく地元で有名なラジオパーソナリティであるマッド・マイが言ったセリフに共感する。
«ラジオ番組に出演依頼をするまでは知らなかった、その時はその子は来ていなかった、他の三人がきていたが、その子の強烈さの話だけで
 一時間がすぎたよ»
サトルはマッド・マイのファンではあった、ただ、それなりに
それなりにファンだったマッド・マイがそれなりの関心を持っているようだったから、
サトルもそれなりの関心をもつだけだった、あんな事があるまでは。


 「確か名前は、アビー」
そうなのだ、おっとり天然ボケのキャラクターで、そのくせ構わなければ、一番おとなしい人という事でテレビに取り上げられる事はよくある
そしてサトルにとってはもうひとつこの記憶には、ある情報が連鎖的についてくる。

 高校の頃の自分の友人でもあり、友人の彼女でもあったチヒロ、彼女はいま頃どんな生活を送っているだろう……。
サトルが左手につけた時計は9時をさしていた。
数時間前まではまだ同僚はすぐそこにいたのに、虚しい無音がいつのまにか人がいない事を告げていた事にきづく。
 仕事を終えて帰らなければいけない、自分の回りのデスクには人がもういなくなっていた
まだ早い時間だと思ったけれど、仕事は持ち帰ってこなす事にする、これくらいの自由はまかされている、パソコンの電源をきるために操作をした。
室内の電気を確認するとエレベーターへ向かう。
エレベーターの中でサトルは回想する。
この時計は友人のアツシにもらったものだ、彼は都会に出て行ってしまったらしい、
全国的に有名な企業に就職したが、忙しくて休む暇もないと連絡がたまにある。
今ではまとまった時間で話をする機会もあまりない。
サトルも他人事ではなく、毎日が息を切らしたマラソンのように、ぎりぎりで呼吸を整えて生きながらえているようなものだった。
そもそもサトルにはおとなしそうな綺麗なたれ目の顔だちにはふさわしいほどの落ち着きなどないのだが。

家につくとシャワーをあびて、すこし思い立ったように、スマートホンの確認をした、チヒロから数件メールがきていた。
昨年の頃だった、サトルが久々にチヒロに連絡をとったのは
「なあ、ひさびさにあわないか、食事でもおごるよ?」
「どうしたの?何か企んでいるの?下心?」
こういう冗談はよくふっかけてきた、なれっこだ、
むしろひさびさにきいてもキンキンと耳にひびくような彼女のエネルギッシュな声にすこしひるんでしまった。
「仕方なくだよ、アツシなんか連絡とれないからさ、同級生と会えないかと思って、もう3年になるだろ」
アツシは忙しいから、地元にもあまり帰らない。
「で?」
「で?」
少し近況報告でも……いいかけたところでチヒロはへんな笑いをたてたので思いっきり切ってやった、
ブチッ
そのあと30分後に謝罪の電話とまともな日時を決めた。
それは2月のはじめの事だった。

彼、サトルはなぜ突然に連絡をとったのか?……。
むしろ、それが、彼への、アツシへの償いになるかもしれない、その時はそう思ったのかもしれない。
チヒロと厄介な事になったのは自分のせいだ
チヒロの友人とアツシをくっつけたのは俺たちだった。

 その少女、もとい、これらの彼女ら出来事と
もっと深く関わりを持ったのは、その2日後だった、去年の事だった。
チヒロが、彼女、アビーの知り合いだと聞いていた、彼女の仕事が芸能関係のマネージャーだという事もしっていた
だが、久しぶりに会ったその日にその事実がむすびついて、彼女の口から告げられたのだ。
「まったくそういう、有名になる事に興味がないアイドルがいるんだけど」
マネージャーのチヒロはよくしっていた、
活躍ぶりは耳に入ってこなかったことはなかった、何やらすごい業界では噂になっているらしいと
右から左にながれていくようなものだったけれど、
チヒロはとてもうるさい、自分にとって彼女の声は悲鳴にも近い、それは自分の耳のせいかも知れなかった。
活躍しようが活躍してなかろうが
うるさいんだろうなと思っていた。

チヒロはやっぱりうるさくてでたらめだった。
長い髪をまとめていたし、綺麗にウェーブがかけられていたし、化粧も綺麗になっていたけど。
ひさびさに会ったとき、もちろん、その機会をもうけたのはサトルのほうだったのだが。
ついでに«お願い»をされた日だ、カフェで店員が転んだ
サトルとチヒロは向かいあう長椅子にテーブルをへだてて座った。
チヒロは長椅子の上やではなくサトルからみて右に隣接する壁がわのテーブルの下ではなく、
廊下の椅子の左側面側にバックをおいていて
(そのときにせめて座るとき注意すればよかっただろうが、ひさびさに会ったのでそれなりの喜びはあった)
それの紐状のとってがあまりにながく、廊下側にのびていたので、あまり非がのない店員がひっかけたのだった。
 一回目店員を注意して店員も申し訳なさそうに誤っていたが。
二回めしかりつけたのが老人だったのでうるさいチヒロもどうやらひるんだようだった。
二回めはチヒロはまたさっきの店員だとおもってよく見ずに、またか、というような叫び声をあげようとしたら
今度は老人からつっかかってきた。
 そこへサトルが助けにはいったのでもっと厄介な事になった
どうやらその老人の男性は、いっぱいのんでいたようで、奇妙な形と青色のキラキラしたサングラスごしに
キッっとこちらをにらめつけ、サトルに絡み始めた。
おちついたスーツのチヒロと対照的に、南国で着られるような派手な柄のシャツをきたオヤジだった。
「こんなにわかいおじょうちゃんをひっかけてえらそうに、だいたいあんたが叱らないからおじょうちゃんがこんな騒がしいんだぞ」
「……そりゃあんたにも言えるだろ」
サトルは思わず騒がしいおやじの事を指摘した。
なにい!?とオヤジつかみかかったところで
それまで顔を赤らめていたチヒロは二人の間に割って入った
「おじいさん!このチケットあげる、これ、いいチケットよ、いま流行のアイドルなの」
「アイドル!!?何!?アイドルだとお!?そんなもんはの!!?ああ?アイドル……ほほう、若い子はええの」
チケットをにぎりしめ、何をしに来たかもわからないままおじいさんは通路から続くひとつむこうの右のテーブの目の前にあった出口側へむかった。
サトルは出口側にすわっていたので、その位置からもぎりぎり珍妙なおじいさんの様子はみえていた。
その後に二人で前述のアイドルの話になったので、
その上、サトルは彼女の相談に乗ってくれそうだというその場の流れになってしまった。
だから、一度会った事がある、サトルはその時の事は全く覚えていないが。
どうやらアイドルの彼女のほうがそれを気に入ってしまったらしい。
その時の想いでを。

マネージャーの友人チヒロは
その後なんども彼ともう一度会いたいとなんどもいった、それが最近、先月の7月の事だった。
アイドルグループから一人メンバーが減るという事になって
どうやら感傷的になったらしかった、
サトルもその頃には詳しく思い出していた。
7月に、会う事になった、その頃の事は、二人ともよく覚えていた
遠くからチヒロもみていた事は二人ともよくわかっていた。
公衆の面前で30分ほど、公園の噴水の前で面会をした
そのとき、対面で話す事があまりにもなかったので、噴水の話のあとに
サトルはその話を出してしまったのだ。
「アイドル……でしたっけ!?」
「はい……」
そこが配慮の足りなかった所で
そこからアビーはほとんど黙りこくって顔をあからめてしまった
たまに全国放送のテレビ番組にも出る事があって、
しかも彼女はマスクをしている体裁をばらされてしまって、少しマネージャーの事をにらんでいたりした
チヒロ……マネージャーは電柱の後ろから不審者ばりに彼女の事をみていたが、少しひるんで隠れたりした。

方針転換をしたとき
「私よ」
勇気を出してアビーは告げた、
その代わり、他の人には言いふらさない事を約束して……
そこで彼は彼女の願いをきいた
「いったいなぜ、もう一度相談しようと思ったか?」
仮面、つまり
そもそもの彼女の迷いというものは何だったか?

ここからはチヒロの追憶だ。

1年前の2月だった。
彼女は電波に乗せる自分の姿が、とても有名であるとは思えずに迷っていた。
何しろ彼女は、突然に有名人になろうという覚悟をしただけの
ただの少女だったのだ
その上仮面をしていて、
だけど、それなりに人気には憧れがある
アイドルだとか女優だとか人並みには憧れる
だけど大抵の人には本物とは違う、そうではない、資質がない。
もっとも重要な資質は、«願望»だと感じる、渇望かもしれない。
そう感じていた。

洗濯もののハンガーがおちた
女のマネージャーが付き添いで自室にいた
そこへ例のマネージャーの友人、サトルがきた、
マネージャーが付き添いで、異性への相談だった、
それがなぜサトルだったか、サトルにはいまいちわからなかったが、
さわがしいチヒロから早く解放されたかった。
「ど……どうされたんですか??」

その時すでに問題は凝縮していたのだ
サトルは忘れていたが、実は少女はサトルのファンだったらしい。
そのやり取りが以下だ。
「サトルさん、ファンです」
「は!?一般人ですけど」
このやりとりを3回ほどしたあと、
「何がファンなのですか?」
「電波にのっている、電波にのらなくても、声が……」


実はお互いに秘密があったのだ
サトルはマッド・マイその人だった、声色を変えて、顔をださずに、自分ではない誰かを演じていたのは
サトルもだった、学生時代はアツシとチヒロの影に隠れて、厄介事から逃れていたのは彼だった
そしてその急激な変化をチヒロからきいたアビーは、その精神の拠り所を何か?その事がききたかったのだ。

片方は仮面アイドル
もう片方はラジオパーソナリティ

時間はもどってその時
それを教えたくない
知っている事を教えたくなかった。
声しか知られていない有名人だという事を、マネージャーのチヒロから知らされていたのだ。
そしてそれが、迷いをつくった原因で会った事を。
彼女は迷っていた、彼のある台詞をきいて、彼がアビーの事を忘れているときいて、もう一度聞いてみたかった
あのセリフの意味を、彼は、答えた、ある出来事を思い出しながら。

サトルは思い出していた2年前の自分がラジオで吐きだした言葉
まだ若い自分が、なけなしの勇気で威勢よくほえた台詞を
「根気があるもの、やり通すと決められない事には、手を付ける意味がないし手を付けない、満足なんてしないから。」
そしてあの日、彼女に助言をする4日前、チヒロがテーブルの横においていたバックのひもで

※余談だが
足をひっかけた人物が、3人のよく知る高校の教師だったとしったのは
彼が飲酒運転で捕まった後、サングラスの形を見てからだった。
「«星形のサングラス»今でも覚えてる!!」

彼は、アビーにいった。
「恩返しと罪滅ぼし、それが、仮面をつけて頑張る理由だよ。」

『十人と電波』

『十人と電波』 星空トクマ 作

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-06-10
Copyrighted

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