*星空文庫

雪のお姫様

桐原歌子 作

女子校出身なので、女子校の話を書きました。
女の子は精神攻撃が得意です。←

雪のお姫様+序章+ 

 雪が降り始めた。
 座席の下のヒート熱がまた上がった気がした。後ろの窓に、ヒュオォォ……、と真冬の風が吹きつけてきて、その音だけで身の毛がよだつような悪寒が走った。
 静まり返った車両の中、南柚子(ゆず)はスマホを固く握りしめていた。
 次の駅で降りて。
 メールには新たな命令と、棺桶のような透明の箱に詰め込まれた友人の画像。
 これで九人目。
 ぐっ、と手に力がこもる。怒りと恐怖にまみれた感情のせいで、頭がどうにかなりそうだった。いっそ殺してやろうか。やられたら、やり返さなければ。
 こんな暴力的な気持ちを覚えさせやがって。
 はっと気づくと、指示された駅に着いていた。柚子はあわてて降りる。
 その駅はとても静かで、人の気配がなかった。ホームは綺麗に掃除されており、ゴミも汚れも一切見あたらない。
 急に不安になり、柚子はあわてて出口へ飛び出した。

   +

 あそこの家、やばいんだよ。アイスに毒を入れて売っているんだって。みんな中毒症状を起こして死んじゃうって話だよ。
 学年中で話題にされているその生徒は、柚子と近いクラスの子だった。
 女子中学生にとって噂とは、自分たちの枠にはまらないものを異端だと分かっていて、わざと楽しむ道楽だ。怖い場所に自ら入って怖いと言いながら出て行く、肝試しみたいな感覚に似ている。
 彼女は、確か親族みんなが大企業の経営者だと言われている子だ。
「雪原さん」
 白く曇っている窓ガラスを、じっと見つめながら廊下に立っている雪原(あい)に、柚子は話しかけた。
 藍がこちらを見る。
 ガラス玉のように繊細に揺れる瞳が、柚子の目に入った。
 制服もスカートの裾も、何一つ問題ない。顔立ちは目立つ方ではないが、よく見ると一つ一つのパーツが非常にバランスよく配置されている。
 綺麗だ。
 でも何か「違う」。
 柚子は正体不明な違和感を抱きつつも、藍に笑顔を向けた。
「新発売も美味しかったよ。雪原さん家のアイスは外れがないね」
 藍は一瞬きょとんとした。
 そして、少し照れ臭そうにはにかんだ。
「ありがとう」と。

   +

 大通りをまっすぐに突っ切って。
 駅から出ると、よく整備された小奇麗な道が続いていた。素朴なアーケード街を通り過ぎて、住宅が立ち並んでいる坂道へ向かう。雪が積もってきて、いよいよ本格的に寒い。
 柚子は指示されたとおりに歩いた。右を行き、左に逸れて、まっすぐ歩かされてはまた曲がり角を行かされる。坂道の勾配の高さに驚くが、それより汗が出てきて暑い。でも雪のせいですぐに冷え、疲れのあまり息が上がる。こちらの体力を奪う作戦だったのか、やっと目的地にたどり着いたときには完全に消耗していた。
 スマホが鳴る。
 最後はあなた。
 メールはここで終わった。
 柚子は家を見上げた。坂の上に立っているため、家の大きさにも、その存在感にも圧倒される。あの家と隣接している鉄筋コンクリートの倉庫が、例の部屋だろう。
 友人たちの声が一人一人思い浮かぶ。
 もう雪原さんと会わないで。あの人の気持ち悪さが柚子ちゃんに伝染しちゃう。
 柚子は文章を打った。
 どうして、私から大事な人たちを奪うの。こんなひどいことは嫌だよ。
 返事はすぐに来た。
 奪うことが愛だから。私のモノになれ。
 雪が吹きつけた。
 柚子は、坂の上にあるその住宅を、強く見上げた。
 陰鬱な、暗い気配の家だ。人の生きている温もりが何一つ感じられない。藍はどこで育ったのだろう。
 ――愛とは、奪うことだ。 
 握り込んだ拳に雪片が当たる。冷たい。痛い。でもそれだけじゃ生きていけないでしょう。
「――愛は、捧ぐためにあるんだ」
 鉄の門扉に手をかけ、柚子は勢いよく開け放った。

   +

 その日、関東は記録的な大雪だったという。

   (続く)

『雪のお姫様』

続きます。
三部作で完結したい。(願望)

『雪のお姫様』 桐原歌子 作

恐ろしく孤独な少女、雪原藍(ゆきはら あい)。みんなの人気者、南柚子(みなみ ゆず)。二人はやがて近づくが、現実の女の子たちは容赦がなくて……? サイケデリックな女子校ホラー。

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-06-10
Copyrighted

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。