*星空文庫

怪物狩りの刀剣

星空トクマ 作

 こだわりはない、あるのはなけなしの金貨くらい。
貧乏なのでしょうがない。アツナは貧乏な鍛冶屋、もっと貧乏な師匠の弟子だ。
このご時世、このシャングリラの世界が平和になったせいで、こういう血の気のするものは売れるためしがない
もちろん買いに来るものがいるから続くのだが、そもそも扱えるものもいない。
若い子らは、経済の発展とともに、不必要なものから目をそらし、必用なものだけで社会を回し
やがて大人になると、退屈そうな顔で人の揚げ足を取り始める。

最近のアツナもそんな感じだった、
師匠を見る目がかわってきた、師匠のケドウはとてもうだつの上がらない人間だ。
そもそも彼が役にたった所を見たところがない、彼の作品は芸術作品としての価値はあるかもしれない
ただ、用途があるかは微妙なのだ
何を打たせても奇妙にねじまがったよれよれの刃物になってしまう。
まるで雷のようにジグザグの形だからだ。
そもそも本人がなよなよしているから威厳がこれっぽっちもない
彼がどういう過去をもっているかも興味がなかった。

旅人はこのサク村に三日前に尋ねてきた、彼は巨匠を探しているという
何の巨匠かは聞きそびれた、三日前村長が出迎えたらしいがこの貧乏な鍛冶屋にはきっと来ることはない
さっきまではそう思っていた、

「さ……さわやかな風が」

「こんにちは」

好青年が入口のドアの前に立っていた、そのドアだけをみても取ってや蝶番はさびていてとてもじゃないが毎日掃除しているような
オシャレな鍛冶屋には見えない、だから嬉しさと同時に恥ずかしくも思った
「いらっしゃい、私アツナ……じゃなくて、何か御用ですか?」

「この辺に巨匠は、いえ、有名な刀鍛冶はいませんか?レイ・ストロークさんとおっしゃる方ですが」

「そんな奴は知らん!!!」
突然目の色を変えたように、今の今までなよなよしていた毛むくじゃらでしわくちゃのあごひげとくちひげと長髪の我が師匠が
叫んだ、こんな様子は見た事がなかった。
「先生、何をそんな息をあらげているのですか?そんなに怒る必要はどこにも……」
ふと彼女は考えた、
そういえば、今日離れの工房で新しい作品の設計図を考えていたとき、先生がそれをみにきて、ただ、私の右の手のひらに
少し先生の左の手のひらがふれただけで叫んだ……
たとえば思春期の娘がオヤジを嫌う用にとても執拗に叫んでしまった。

少しまた恥ずかしくなった。

「わしはな、その名前はすてたのだ、今の何もない事が幸せなのだ」
テーブルの向こうに先生、そこから出口は一直線だった、見つめ合う二人が真正面にたって、
二人とも譲らぬ信念をもったようなまっすぐな瞳をしていた。
まるでそれが自分に訴えかけているようであり、出口から降り注ぐ真昼の厚い日差しから、私の知らない外のもっとひろい世界を見つめているような
自らを誇ったような静寂だった。

「先生、なんなんですか?私は先生が巨匠じゃない事をしっています」
「何をおっしゃるお嬢さん!!」
ずかずかと中に入り込んできてこの好青年が両手のひらをにぎったので、思わず私はビンタとともに叫んだ
「変態!!」
先生意外にも男性には容赦がないことをいま思い出した。

夕方になるちょっと前には、うなされていた好青年は起き出してきた、
彼はどうやらやとわれの兵士らしかった、
この国のワルキューレは強い、大体女の方が強いのだ、それは、神のつくった槍をつかうのが彼女たちだから
その精密な神の作った槍、えりすぐりの鍛冶屋たちが、何か月もかけて、特別な鉱石と特別な配合で作る。
「そうです!その話、この近くにその作成にかかわった巨匠がいるはずなのです」

ぐうう……
食べ物はなかったので、彼のお腹を満たす事はできないとつげると
彼はすかさず店はないかと聞いてきた。
「すぐ前がパン屋です、黄色い雨よけのある、とてもおしゃれで、少しかび臭い所です」
(余計な事をいってしまった)
「カビ!!カビといえばチーズ、チーズもありますか?」
「ええ、ありますけど、かび臭いのはその家の私と同じくらいの意地の悪い娘が原因だと思います」
初めてそのポジティブな好青年が嫌な顔をした、靴下をかいだときのような顔だった。
「ええい、なんでもいい」
のっしのしと買い物に出かけて行ったので
その内に彼のおいていった身にまとっていた鎧について少し調べてみる事にした

何も気づく事はなかったが先生は何かさとったようだった
「こいつは、まぎれもなく戦場をいくつも経験してきたものだ、そしてこの鎧も、巨匠のものだ。並大抵の技や技術じゃない」
いつもと違う先生の様子に少しとまどっていると
お腹をふくらませてさっきのやとわれ兵が帰って来た。
「おい、あんた、波の戦士ではないな」
「はい、何をかくそう、英雄エーリトとは私の事です」
「えええ!!あの伝説の英雄!?この平和な世界で、邪悪な怪物をほとんど亡ぼしてしまうとすら言われている
精鋭の戦士」

先生は少し黙りこくっていたが、椅子に腰を掛けると話はじめた
「わしはな、ここに住み着く事を決めてから、弟子を一人つくって身分を隠して生きていこうときめているのだ
だから、頼まれたとしても、とても重要な仕事でなければ本気の鍛冶はやらないと決めている、
だからわざと奇妙な剣ばかりつくってきた」
「奇妙ではないですよ」
男はそういってテーブルの上のでたらめな雷型の剣を手に取ると
はっと大きな声をあげ、中の空気を切ってみせた、
するとさっきまで充満していた、鉄の嫌な臭いが、まるで綺麗に掃除したあとのように何の匂いもしなくなった。

「うぬ、いいだろう、お前は特別じゃ、そのかわり、他の人間には黙っていろよ」
そういうと師匠はこっちをみて、自分に気付かなかったようにぎょっとした顔をした
「演技じゃ演技じゃ、あはははは」
何が真実か私にはわからずその日は床についたが
三日後に作られた師匠の剣はとても平均的な形をしている形に
切れ味は異常なほどで
私はそれで爪をきったあとに彼の英雄に渡してやったのだった、
「ちなみに大儲け」

『怪物狩りの刀剣』

『怪物狩りの刀剣』 星空トクマ 作

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-06-08
Copyrighted

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