リルとアンナが疾走するアムール

リルとアンナが疾走するアムール

   







   
   







 
リルとアンナ



リルとアンナ



眠れなかった明け方の



朝焼けに溶けてゆきながら



名前 呟く





リルとアンナ



リルとアンナ



昼下がりの頭痛が終わったら



僕はきみに電話する



真夜中を待って



きっときみに話しかける





リルとアンナ



リルとアンナ



僕はきみと話したいんだ



きみは素敵な声をしているんだ



すべてのマジノ線を飛び越える



すべてのトーチカを駆け抜ける



死ぬことを怯えずに 



君との運命に向かって衝突するのさ





リルとアンナ



リルとアンナ



人々は みな



ほんの子供



道行きは混んでいて



なすすべがわからない



たった一日の過ごし方さえ



だれも分からず街で消える





リルとアンナ



リルとアンナ



だれかが だれかを愛した季節に



愛した だれかは だれかを見失って



愛された だれかは どこにもいなくなる



そんな時代





リルとアンナ



リルとアンナ



僕はずっと前から



この最前線で生き延びた脱走兵のようで



きみは生まれたときから



子宮にいなかった孤立の胎児のようで





リルとアンナ



リルとアンナ



きみに向かって走る



眠る空と山かげ



予告だらけの動かない日々



目を瞑って走る





リルとアンナ



リルとアンナ



きみは微笑んで歌う



無力に痩せきった子供だけど



ぼくらはこの先を感じてる



一秒ごとに抹消される真っ白の言葉の世界で



あの言葉を 口にしよう





リルとアンナ



リルとアンナ



僕がおもわずハンドルを壊して



おもわずきみは笑い出した



すべてを僕らは試すだろう



まだどこへ向かえるか



考えている





リルとアンナ



リルとアンナ



きみはナイフを愛してて



僕は石器をかざしてる



これで切り抜けようと信じてる



とっても一生懸命だけど



本当はまだナイフを見たことがない





リルとアンナ



リルとアンナ



きみを連れ去って逃げる



目抜き通りに冬が降りる



またしても



あの頃と同じ息が戻ってきた



静かに



見届けていくんだ





リルとアンナ



リルとアンナ



僕は きみのことを祈る



きみの視線の先に僕がいて



世界の終わりが来ようとも



きみのそばにいられれば



命さえ惜しまない





リルとアンナ



リルとアンナ



たとえ世界全体が



自転を逆に終わりを迎えたって



かまやしない



焼けつくような気持ちで



追いかける



そんな時間が訪れた





リルとアンナ



リルとアンナ



きみは僕に



「あなたを狙った」と囁いた



僕はきみに



「生きていくことを知った」と告げよう





リルとアンナ



リルとアンナ



風が優しくきみの髪を彩色していく



予感と



言葉と



不安をさまよって



きみは僕の



僕はきみの 生を知る





リルとアンナ



リルとアンナ



アンナは リルを見つけ出した



リルは アンナを選び出した





リルとアンナ



リルとアンナ



僕ときみは ここにいて



きみが僕に微笑みかけて



僕にはなにができるだろう



きみは名前を呟いて涙をこぼす



僕の名前をただ呼んでくれ





リルとアンナ



リルとアンナ



どうか空虚にならないで



どうか恐れないで



ここまで来たと信じながら



どこかへ行くんだと願いながら





リルとアンナ



リルとアンナ



僕がここで生きてることが



僕がここに生き残ってることが



「なにもない」って寂しげに呟くきみにとって



きみが信じられるような



きみを生きさせるための



永久の救いにはならないのだとしても



僕はきみにここにいてほしい





リルとアンナ



リルとアンナ



きみに伝えたい



きみと一緒に生きていることが



僕の人生を賭けた命題なのだと





リルとアンナ



リルとアンナ



銃剣の上を歩くように



きみへ伝っていく



きみを伝って



苦しみながら



八つ裂きになったって



血の温かみを感じながら



思うだろう



何一つ悔いはないと



命がけの戦闘なのだと





リルとアンナ



リルとアンナ



生きていく生涯の



ありったけの長さと



過ぎ去っていく一日の



まばたきほどの短さが



同じくらいの長さに感じられるよ



生涯のありったけと



まばたきほどの瞬間を



いまこの時に集めて 僕たちは壁を砕いて走り過ぎる









リルとアンナ




僕は向き直り



きみに



いま



話し始める。


   







   
   







 

リルとアンナが疾走するアムール

デビッド・ボウイの“Heroes”をモチーフにした

作者ツイッター https://twitter.com/2_vich
先端KANQ38ツイッター https://twitter.com/kanq38

リルとアンナが疾走するアムール

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-05-28

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted