恋音

身勝手なラブソングが流れているこの部屋で、私は彼に、この2年間のさよならを、いや幼馴染としてのさよならを告げることにした。

「別れて欲しいの。他にずっと好きな人がいる。」
「…うざ、なにそれ。」

あぁ、出ました。いつものお決まりのセリフ。
貴方のその、語彙力のないとこが嫌い。
言葉を丁寧に扱えない、そんなとこが嫌い。

「ごめんなさい。」
「謝られても無理だけど…何なの?」
「…別れて欲しいの。」
「どうして?今まで浮気しとったってこと?」
「浮気なんかじゃない」

…貴方じゃあるまいし。
浮気を怖がる私に何度も何度も「寂しくさせたら仕方ない」なんていう貴方をどう信じろと?
何度も何度も吐こうとして飲み込んだ私の言葉をもう一度飲み込んだ。

「好きだった?本当に本当に本当に俺のこと。」
「逆に聞くけど貴方は本当に本当に本当に私のことが好きだった?」

貴方自身のことじゃなくて?
握り締めた拳に全部包んで吐き出しそうになる。貴方は貴方の事が大好きでしょう?

昔から私のことなんて見ていなかったくせに。
私がズタズタになっていくその過程を見ながら、あれは俺の好きな「私」じゃないなんて言っていたのを知らないとは言わせない。

「寒気がするから、エアコンをつけていい?」
「大して寒くないだろ」
「…。」

こうやって私は何回言葉を飲み込まなきゃ行けないのかな。
貴方を思いやらなきゃいけないのかな。
…あぁ、私の好きなあなたはもう、なんて。

言いたくないのよ。

「ひとりにしないでくれよ。お前が居なきゃ生きていけない」

はいダウト。

「お前が好きなんだよ。離れたいなんて言うなよ」

半分くらいは本当だね。考えて喋ろうとするときの君の癖だよ。その少し斜め下を向いてしまうところ。

「…貴方のことが好きだった。でもどこが好きとか言えなくなった。だから私の長い長い片思いは終わったんだと思う。こんなに人を好きになることを教えてくれてありがとう。」
「…過去形にすんなよ、なぁ!!」

振り上げられた手を見ながら、ああきっとそういうのが「怖い」って言ったことも忘れたのだろうなと、何となく思う。
大事じゃないなら触れないで。例えそれが暴力だろうと。

頭の中で彼の声がする。
「そー、まぁ、ほら、好きだよ?」
「私も、す…」
「そういうのいいから。」

今思えばきっと、彼はあの頃から私のことなんか、好きじゃなかった。「好き」を伝える自分自身が好きだったんだろう。
途中で泣けるくらい強かったら、私こんなにならずに済んだかな。

軽いパシッて音が頰で響く。
これが私の恋の終わる音。

恋音

恋音

  • 小説
  • 掌編
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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-05-23

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