恐怖の睡眠

恐怖の睡眠

覚醒と睡眠の境は生死の境に似ている。

1.銭湯で母が死んだ夢
 母と銭湯に行っている夢を見て、
浴室の壁に恐竜のような影ができて、
脱衣場で母が死んでいた。
その夢を見て目が覚める時、
金縛りになって体が動かなかった。
夢から覚める時に金縛りになるのは
その時が初めてだった。

2.幽体の手
 確か高校生の時だった。
霊魂というものが存在するのかしないのか
本当のことを知りたいと思っていた。
ある日、一度眠って途中で目が覚めたと思ったら
金縛りになっていて起きることができなかった。
しかし、なんとかできないか考えていると、
自分の体が一つではなく、
もうひとつ別の体が重なっていて、
別の体だけはゆっくりと動くことに気付いた。
それで、その手を自分の顔の前に持ってきた。
最初は何も見えなかったが、
目を凝らしていると半透明の手が
すでに見えていた。ことに気付いた。
その手は現実の自分の手よりも痩せていて
光が透過している分だけ反射しないせいか、
色が暗く見えた。

3.父に似た人
 日曜日の朝早く目が覚めたが、
平日のように起きる必要なく眠気が強くて
布団の中でじっとしていると、
父が隣の部屋でいつものように
髪をとかしている音がした。
やがて部屋の扉が開く音がして、
父の足音と気配が近づいてきた。
私は眠っているふりをしていると、
父の手が私の頬に軽く触れた。
私はてっきり父が起こしに来たと思い
起きようとすると金縛りになっていた。
そして、本当の父はまだ眠っていた。

4.不可解な文字
 アルミサッシに漢字に似た黒い筆文字が
びっしり並んでいるので読もうとすると、
自分が消えてしまうような感覚がして怖いので
読むのをやめると金縛りになっていて、
金縛りを解いたらその文字が見えなくなった。

5.寂しい女
 古い貧乏アパートで暮らしていた時、
どんな夢を見たのか忘れたが、
目が覚める時に金縛りになっていて、
そばに髪の長い女の影があって、
「さみしい…」と一言発した。

6.便所を掃除する妖怪
 トイレに行きたくなったが、
眠くて起きれないまま寝ていると、
寝室から見えないはずのトイレの、
ドアを開けていないのに室内が見えてきて、
そこになぜか自分自身が入っていたが、
白髪の老人が私と同じ服を着て掃除していた。
彼はこちらを振り向いてニヤリと笑ったが
その顔は人というより妖怪だった。

7.河口湖の化け物
 河口湖の県営無料駐車場で車中泊していた。
夏の夜、駐車場は花火を楽しむ人たちで騒々しかった。
それでも私は強い眠気でうたた寝していると、
カエルのような鳴き声がして数が増えてきて
ついに一匹が私の左手に触れた。
とても怖くて振り払おうとすると
金縛りになっていて身動きできなかった。
湖の闇に引きずり込まれる恐怖だった。

8.レンタカーに無数の乗員
 北海道をレンタカーで観光旅行した。
どこか忘れたが、道の駅で
車中泊していた深夜、目が覚めたと思ったら、
車の内壁に一匹の大きな蜘蛛がいた。
しかし、蜘蛛だけではないと感じたその時、
無数の虫が内壁をびっしりと埋め尽くしていた。
驚いて起きようとすると金縛りになっていた。
 そして数年後、北海道在住の人が
こんな話をしていたと家族から聞いた。
駐車したとき窓を閉め忘れて車に戻ってくると、
車の内壁が無数のハエにびっしり埋め尽くされていて、
追い払ってもなかなか出て行かなくて大変だったらしい。

9.熱い手
 いきなり両足首を熱い手で捕まれた。
抵抗しようとすると、すでに
金縛りになっていることに気がついた。
私はとっさに自分の幽体の上半身を起こし、
顔を近づけて熱い手に噛み付いた。
すると、その手は初めから何も無かったかのように消えて
金縛りも解けた。

10.少年の首
 洗面所で顔を洗っていると、
背後に気配を感じて
気にするほど恐怖感となり、
その気配は強さを増し、
恐怖が我慢の限界に達した時、
思い切って後ろを振り向いた。
すると、そこには
凶悪な目つきをした少年の生首が
空中に浮かんでいて、私は気絶した。
 その後、眼が覚めたが金縛りになっていた。

11.幽体離脱の次
 ゴールデンウィークで会社も休みでのんびりしていたが、
毎日のように金縛りになった年があった。
昔からよくあって慣れているが疲れていて
「もう死んでもよい」とあきらめた瞬間、
振動しながら肉体から抜け出た幽体が粉々に爆発した。

12.死神
 寝床で目が覚めると金縛りになっていて、
そばの床に三本の棒が立っていた。
見上げるとそれは一本は杖で、
二本の棒を両脚の代わりとした者がおり、
片手で私の腕を押さえて
別の手で私の命を絶とうとしていた。
しかも、その両手は腐敗していた。

13.青い光
 深夜に目が覚めたと思ったら金縛りになっていて、
寝室の天井にぶらさがっている青い電球から、
ひもが自分の方へ伸びてクネクネ動いていた。
 その光景の異様さが嫌で、
必死になって金縛りを解いてから、
もう一度その青い電球を見つめたら、
先ほどまでの幻覚の異様さよりも、
現実のクリアな美しさにほっとした。

14.暗黒の渦巻き
 旅行で泊まった宿で寝ていると金縛りになり、
異様な気配のするほうに意識を向けると、
頭より大きな黒い塊が渦巻いていて、
それに強く引っ張られて死にそうな恐怖を感じた。
 その時感じた渦巻く黒い塊と同じ感じのするものが、
自分の体内に存在していたこともあった。

15.振動
 眠気に襲われて横になって寝ていたら、
両側に誰か何か存在していて、
自分の体が振動していた。
何とも不気味な振動。
幽体離脱する時こうなる。
左の存在を見ようとしたが
首を動かせなくて見れない。
今回はいつもと違っていた。
現実の自分の部屋ではない、
どこか知らないわけでもない別世界だけど
自分の部屋であり、しかし、
いつも必ずある恐怖が無かった。

16.幻の声
 うたた寝状態の時、覚醒と睡眠の境。
夢を見ている状態に近いが、
意識は覚醒時よりはっきりしている。
突然そばで存在しない人の声が一瞬
「あっ」とか「うん」とか言う。
家鳴りのように現実に発生している音とは違う。
幻覚の音は当然だけど感覚器官を通っていない。
感覚器官を通ってくる現実の音には余韻がある。
たぶん感覚器官の中で響くからだ。
しかし、脳内だけの音に余韻は無い。
その音が「おはよう」とか意味のある声だった時、
もっとびっくりする。

17.体内の振動
 横になって目を閉じて休んでいると、
最初遠くで鳴っていた家鳴りが、
だんだん近くへ移動してきて、
すぐそばの空気だけしかない空間で鳴り、
最後に私の体内で鳴ったことが何度かあった。
まず喉のあたりが勝手に振動した時、
何かの物理的原因で声帯が音を出したと思ったが、
その次は脳の内部が振動して音が鳴った。
私は無知だし調べる気もないが、
電磁波みたいな自然現象だとしても
その時はさすがに怖かった。

18.添い寝する気配
 寝入りばな、ベランダのアルミサッシを誰かが開ける音がした。
鍵をかけていたので怖くなったが今度は閉める音がした。
しかし、私が寝ている布団の上を誰かが踏みしめるのがわかった。
しかも、その人がいるだろう場所を見ても姿が見えなかった。
その気配は、私の足元を横切って布団の左側に横になろうとした。
こういうことは初めてではなく、
このままでは命に危険を感じるほどろくなことがないと予想して、
私はとっさにその肩を強くつかんで攻撃した。
相手の肩をつかんだのは金縛りで動かない肉体ではなく、
私もまた霊であるからそちらの体だ。
その直後、頭上で「ピシッ」という大きな音がして気配もなくなった。
 その日は眠くて間もなく眠り、こんな夢を見た。
夢の中だけの家から外を眺めていると、
喪服を着た男たちが家のすぐ外で仕事の打ち合わせをしていた。
リーダーのような男が「明日も午前四時に出勤だ」と言った。
自分の手帳を見ていた男は「×××××(悪魔の名称)
だったら倒せるのに」とつぶやいた。
 そして別の夢を見た。
家も服も食物も何もなくて、
海岸で死ぬのを待っている病気の子供や、
飢えて奇形になっている子供の折れそうに細い腕を見ていた。
その後、三つの宗教に属する天使を見ていた。
一人は姿が無いが、二人は古風な若い女性の姿をしていた。

19.あの世の目覚まし
 目覚まし時計が鳴った後、
眠すぎてぐーぐー眠っていたら、
上から落ちてくる水滴が金属の板に当たって鳴る
大きな音が異常な速さで連続して聞こえた。
少し目が覚めたが、
それでも眠気が強くてまた眠り始めると、
アルミサッシをドンドンと叩く音がした。
少し驚いて音の鳴ったほうを見たけど誰もいなかった。
それでやっと半分眠ったような状態で起きた。

20.要らない霊感
 あの霊能者の話では、
金属のアクセサリーを身につけていると
何も感じなくなるということだったから、
金属のブレスレットをはめて寝たら金縛りになって、
部屋に霊がウヨウヨいるのを感じて怖かった。
金縛りを解くのに時間がかかり、
その間に一体がいつものように添い寝しようとしてきた。

 なぜか悪とか闇の力の恐ろしさを主張する
ウェブ上でしか知らない、いかにも怪しげな
ある人に遠隔治療してもらって霊感がなくなる予定だったのに、
何度依頼しても失敗したというメールが何度も来た。

21.昼寝の恐怖
 昔読んだことのある、立花隆の「臨死体験」上・下を
再び読んでいたのは関係ないかもしれないが、
私が昔から患っている幻覚のことが書かれてあって、
近頃本を読む時よくこうなるが強い眠気に襲われ
コタツに入って横になっていると金縛りになった。
そして、今回は隣の部屋であるキッチンに
何かが確かに存在する気配をはっきり感じた。
その気配は正常時には感じることのできない種類のもので、
空気中に漂う何かが明らかに違う。
私はその気配が自分を殺しに来ると確信するしかないほど怖くて、
金縛りを解こうと頑張ったがコタツが熱いのもあって苦しくなり、
動かす必要のある肉体ではなく、
幽体離脱した自分の手がコタツの調節ダイアルを
「切」に何度回しても失敗するのを繰り返した。
コタツのダイアルは肉体の手の届くところに存在しておらず、
伸ばした両足より遠い位置にあった。
しかも、そのうちラジオ体操をすると決めていた時間になり、
タイマーで電源の入ったラジオから体操の音楽が聞こえてきたが、
金縛りを解いた直後で体が鉛のように重くてそのまましばらく寝ていた。

22.立ち去った幽霊
 深夜、目が覚めたけど
眠気が強くてたぶん金縛りになっていた。
そばに女性の影が座っていた。
いつもは男性なので珍しいと思っていた。
恐怖感もなかったが息苦しいので
なんとかしようともがいていた。
しばらくして女性の影は立ち上がり、
部屋を出て行った。いつもそうなんだが、
誰にどんなに幻覚だと言われても、
私にとってそれは確かにそこに存在した。
女性の影が部屋を出て行った直後、
私は何かから解放されて体が楽になった。
あー、何もなくてよかった。
しかし、いったい何だったんだろう。

23.不気味な音と声
 いつも通り寝床について間もなく眠ったが、
深夜に目が覚めて、
エアコンの稼働中ランプの色が、
寝ぼけている間は本来の薄緑でなく
真っ白に見えるのはいつも通りだった。
ただし、起きてずっと見つめていると、
だんだん色が見えるようになるはずが、
その時なぜかいつまでも真っ白だった。
そして、床のどこからか「カサカサ」という
小さい多数の音と、何か後悔するような感じで
呟いている男の声が聞こえてきた。
「カサカサカサ」という音が近づいてきて、
数もさらに増えてきた時、恐怖を感じて悲鳴をあげた。
 私はその日、些細なことで激怒してしまい、
いつものように死にたくなり、
今度こそ、お迎えが来たら抵抗せずに
死なせてもらおうと思っていた。
実はとっくの昔から寿命が尽きているが、
死が怖いし嫌なので、ずるずると今まで
生きてしまっている。自分で書くのも変だけど、
心の底が自分でも嫌なほどポジティブなせいで、
どんなに苦しくても楽しく笑って生活してしまう。
だから、外見上健康そうに見えるようだけど、
心身ともにボロボロで病院通いが増える一方だ。
しかし、これ以上死から逃げられない時は必ず来る。
Lucy

恐怖の睡眠

恐怖の睡眠

軽い睡眠障害の幻覚

  • 随筆・エッセイ
  • 短編
  • ホラー
  • 青年向け
更新日
登録日
2012-08-08

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