*星空文庫

役者とドッペルゲンガー

ドライアドの本棚 作

役者は人々の不満を娯楽に変えるのが仕事だから。
日々のそこそこの理不尽には我慢をしている。
私は過去にスタントの練習もなく階段から落とされた事もある、
劇場の階段のセット、その演目専用のもので、かなり高い階段だった。
私の名前はボストス、俳優だ。
「急がないと人生にも流行にも乗り遅れる、そんな人間に待っているのは悲惨な未来だけだろう」
ノルタルジックな感じをにおわせる木製の椅子に腰かけて、その電車で今日の新聞に目を通す事にする。
人殺しの記事はどうしても遠ざける。
何か自分の人間性を疑われるようで、気が気ではない。
そもそもどんな物書きもそれが足かせとなる、読みてにとっては好き嫌いを生むのだ。

最近、自分に似た人間をよく混雑の中に見る事がある、
人込みは嫌いだが、彼はいつもこちらをふと覗いている、
ふと気づいたときにそうなのだ
経験はある方がいるだろうが、ふと顔をあげた時に、その拍子に目が合う人間がいるのだ、
それがもし、自分だったら?と考えると気が気でいられないはずだ。
それがもう1か月も続く
だが不思議な事に1か月も続くとむしろ何か安心してくるのだ、
まだ、何もして来ないぞ、と。
危機が訪れても、日々の重要な物語が多ければ多いほどその対処にもエネルギーを使ってしまう。

私は大学に在学中から見習いの役者なのだ、教員免許は持っているがやはり人と接触をするのは極力避けていたい性分だ
なぜなら責任のない事をぽろぽろ吐きだしながら生きるのはとてもつらい事だからだ。

この国の有数の人口密集都市イース、その名の通りの駅を降りるとそこは開けた広場に時計台、
人に関心がないので、タクシーに意味もなくむしゃくしゃする。
何もかも面倒な本日、そこについた頃時刻は9時をまわろうとしていた。

今日の歩道は混雑していなかった、おかげであいつに合わなくてすむ。
「何かが素晴らしい代わりに、何かが汚らわしい、そんな欺瞞を先生とは呼べない」
今日の舞台はスクールドラマ、自分に似合わない青春の話。
台詞回しは覚えた、アレンジをするのが今日の自分だ。
昨年から私はそれなりの人気に火がついてたまにテレビを呼ばれるようになった。
といってもマニアの間でだが。
すでに30代を超えていたが地道につくってきた劇場、舞台での役者の下地が地道につもってそれなりの演劇批評雑誌での演技の評価もある。
少しばかりの人気とその中と半端な幸福に満足していた。
彼は確かに去年調子にのっていた、その自覚もあるほどには。
喉が渇いて喫茶店に入る。
稽古は10時からで得に焦る事もない、早すぎるくらいだ、
今朝から喉の調子を整え、ひととおりの軽いトレーニングも終えた、
緊張する時ほど毎日の習慣が役にたつという持論も持つ。

ふと自分の評判を語る雑誌が目に入る
表紙ほどではないにしろ、最近は地元の小さな雑誌社にマークされている。
(女とあっている、というくだらない関心)
既婚者である私は、子供もいるし、なつきはしないが可愛がってはいるのだ。
窮屈さや退屈さはない、
ただふとしたときに不安に襲われる事がある、
人込みでふとしたときに顔をあげるといつも目があうも一つの自分
あの瞬間の気分と同じだ。
雑誌社やテレビががなり立て叫ぶ自分の評判は、次第にうさんくさくなってきた。
心の支えは家族や子供だった、
家内はとても静かで謙虚で、少しの失敗は許してくれるだろう。
問題は子供だ、この子はいつも自分を疑っている。
というのも最近不思議な女が付きまとっている。
健気に脇役から始めてどんな仕事設けてきた
テレビでもそれなりに有名になったところでこんな出来事だ
それまでは女性ファンなど多くなかったのに、だ。

一日の仕事を終えたあとも、気まぐれにその喫茶店にはいった、
その繰り返しの行動が幸運を運ぶ気がしていたのだ、
だがその時、コーヒーが運ばれてきてウェイトレスがはにかんだ笑顔を見せたあと
えくぼがきになった後、失礼だからと目をそらした先、自分の正面に奴がいた、
瞬時に目をそらし、コーヒーをすする、
だが瞼の裏に刻まれたやつは
にやにやとうすら寒い笑みをうかべこちらをみていた
姿勢がやけによく、てもあしもピンと伸ばしてテーブルの上に水もなにも運ばれていない座席に腰を掛けていたのだ、

疲れて帰る家の玄関で
「ワンッ!!ワン!!」
子供より一回り大きくなった犬が出迎える。
名前はジョニー、子供のほうはボブといい、いつも嘘をいったりする
一番私の事を気に入っているのはこの家ではこの犬コロだろう。
ボブはいつも素直ではないので、今日も同じだと思っていた
食事の席では、喧嘩はしないが女房のクレアは最近週刊誌や何かの事でいつも怒っている
私の説明は聞き飽きたというのだが、私にはどうしてもあの女に引っかかる事がある感じがするのだ
週刊誌を読み、その情報が具体的でないと思ったときのうやむやのような
来週の雑誌を読む事を促されるような何かなのだ。
(あの女の人は悪い人だよ。)
小声で子供が言ったその言葉に一瞬たじろいだ
その女房も見逃さなかったので、同じように驚いていたようだった。
その日は喧嘩のひとつさえできなかった。
私はやっぱり確かめなければいけないと気持を整えて考えていた、
あの女に感じる違和感が何か?

この奇妙な女で自分の過去を知っている。
殴り合いのけんかや、女房との喧嘩の数など
なんでも知っている、なのでこいつが誰の差し金か、何が目的か、調べなければいけなかった
明日は丁度休日なので彼女に接触できるのならば、そうしようと思った、
いつも通るイース駅から、昨日の喫茶店まで探そうと。
名前はたしか、ヴィンテージイース
「あなたは私の希望よ」
初めてあった時にそう言われた、
彼女の面影に知り合いの、何かとても近かった存在の雰囲気を感じ取り
話を聞きたくなった。
その後気まぐれに食事をした、誰かに似ているきがしていたんだ
それが初めに週刊誌に取り上げられていたが
もともと特段有名でもないので頻度は下がっていった。
だがそんな関係の訳がないのだ、
丁度昨日の事だった、
舞台のリハーサル中に、ライトの一つが落下したのだ。
「女がきて、この線を切れって」
アシスタントはとぼけた顔をしていた。
「よしてくれ、これをきったら中刷りのライトがきれるんだぞ」
「えっ???」
怪我をしたものがいなかったのがよかったが、準備中でなければ被害がでただろう、
彼の仕事は奪われないだろうか。
妻の機嫌が悪くて、その日の収穫は一週間分の食料の調達に終わる。

そんな数々の不気味な出来事を体験したあと、
私はふとあの女の面影に似た存在の正体をつきとめた、
だがこれも妻には何気なく打ち明けられるようなものでもなかった。
複雑なのだ。

一か月後の5月
ある日家に直接電話があり呼び出される
「あの女……」
そうなのったと妻はいった。

数日前、あのヴィンテージイースに立ち寄った初めての日に子供が言った事がさらに奇妙だった。
「お婆ちゃんに母が危険だからと言われていた、探偵はスパイでその事を隠していた、探偵はあの女だよ、雑誌の人」
この子にとっての祖母は去年なくなった
流暢にしゃべるがこの子はまだ4歳だ

その女は自分の事を霊媒師であるといった
そして、[もう一人の女]に取りつかれていて
その女はあなたを天国に連れて行こうとしていたと、迷惑をかけたといった
「突然、そんな事を言われても信じる事ができない!」
「そう思われるのも当然です、訴えていただいてもかまわない、だけどあなたも感じていたでしょう、あの女の事を、私も親戚というだけで
小さいころの記憶をもっているだけですが、確実に未練をもっていますよ。」
その女は、あの女の影響でその力を得たという。

返りの駅の改札の人込みに彼、いや、彼女を見つけた
自分が目をそらしていた、自分に近い存在の影。
ドッペルゲンガーは自分ではなかった
10年前死んだ彼女に似ていた、彼女そのものだった。
僕は消えなかった。
「ドッペルゲンガーを見ると、自分はその数日後死んでしまう」
これは都市伝説だろう

『役者とドッペルゲンガー』

『役者とドッペルゲンガー』 ドライアドの本棚 作

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-05-06
Copyrighted

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