*星空文庫

一途とは言えない何か。

AXIA 作

一途とは言えない何か。

「貴方が、好きです」

友人がが前触れも無く、いきなり愛の言葉を切り出した。
これには流石に謎の奇行で定評のある別の友人も肝を潰されたようである。
持っていた箸をポロリと床に取り落とした。
言われた当人に至ってはその場に石の如く固まってしまっていた。

「ア、はは。なんだ、今年はもう雪が降らないと良いな。」
「そうだよね、寒いのも嫌だしね。地滑り被害も出てるようだし」

周りは何とかその場を立て直そうとフォーローする。
どうやら耳無し芳一にでもなるつもりらしい。聞かなかった事にしたいようだった。
……流石は仲間、と言えるだろう。大概の事は瞬時に疎通出来ると見える。

「僕と結婚して欲しいんです」

しかし今回ばかりは相手が悪かった。

流石はダダスベリ王子、「奴のスベリ芸は、もはや神の域」である。
せっかくの計らいを一撃で撃破した。
聞こえなかったふりという、最初で最後の切り札を無くした彼らは仕方なしに友人に向き直った。

「まず聞くけど正気?気が振れた……いや、熱でも出たかな?」
「何を。正常そのものですよ?英語でシェイクスピアでも暗誦しましょうか?」
「いや、いい……。まあ、ちょっとおかしくてもABCくらい暗誦できるし…」

友人はは少々むっときた様子である。
確かにシェイクスピアとアルファベットの同格扱いはないだろうと思ったのか、問答に苛立ったのかどうかはわからない。

「ちょっと黙ってて下さい。僕は彼に話があるんです――どうか僕の気持ちをわかってください。僕と結婚してくれませんか?」

友人が甘い言葉と共に彼の手をがっちりと握る。
彼がもし、妙齢の御令嬢ならそれこそ、歓喜の舞(かもしれない)だろうが悲しいかな彼は紛れもない立派な成人男性である。
可哀想に彼の顔は青く、追いつめられた鼠の如く震えているように見えた。
ああ、あれは間違いなく悪寒だろうな。

「お、おい、俺は男だぞ。それにお前には、いい人居た…んじゃ? 」
「あはは。そんな事は何の心配も無いですよ!貴方に首を縦に振って頂けるなら、僕は今直ぐにでも清算できる関係しか持っていません!」

友人は酷い事を笑顔で言いながら、ちゃっかり性別の事は横に流している。

「まぁ、まあ……そう性急にならない方が。恋は盲目って言うし、うん!先人は上手く言うよね!!」
「ほら、どんなに君が良くても、彼の事情ってものがあるんだし」
「ほら!もしかしたら、既に心に決めた人がいるって事も、さ……」

周りは真っ当な、しかし一応としか取れないフォローをかけ、奇行で定評のある友人までが珍しく常識人な事を云う。

「そ、そうだ……俺にはもう決めた……」

彼は影を帯び、俯いたままゴニョゴニョ言う。
……全く友人も何故こんな急に言い出したのか。
もしかすると周りの言う通り本当に気が振れてしまっているのかもしれない。

「そうですか。……それって恋人なんですか?奥さんですか?」

友人は彼の手を握ったまま何やら思案し始める。
彼は、目線を泳がせながらどうにか逃げ出そうとこちらを向いて渋い顔でしかめっ面になった。

「分かりました。僕はもっと稼ぎます。僕が貴方の一家を養えるくらいの収入が稼げれば、そうすれば僕が同居しても大丈夫だ」
「はぁ?!え?一家って何?なんだ?」

友人は、決まりとばかりに立ち上がる。

「そうと決まれば早速仕事入れます!直ぐにでも大きな屋敷でも土産に伺います!白いタキシード着て。それじゃ今日は失礼しますね!また連絡します!」

言うが早く、友人はまるで脱兎の如く飛び出して行った。
後に残された彼は事の展開について行けていない。
ぽかーんと口をあけている。そらそうだ。
今まで無言を貫いていた一人はといえば、何事もなかったかのように、憐れみの視線を湛えたまま食事を再開し始めた。

「おい、どうする。普段からかっているけど、あれは中々優秀だったりするし、直ぐにガッチリ取ってくるかも知れんよ?」
「……何、大丈夫さ。あんなの冗談に決まって……ほら、疲れが溜まって戯言でも言ったろう。しばらくしたら馬鹿な事を言ったって飛んで来……」

周囲の面白がる声に答える彼の勇ましい言葉。だがそのの割に顔は蒼白い。

「……やっぱりしばらく、お前の家に泊めてくれ」
「いいけど……なんで俺ん家なのさ」
「あはは!あの様子じゃ、きっと血眼になって君を探し回るに22穣4101禾予(じょ)103垓9302京1000兆旧ジンバブエ・ドル!!」
「それ今、1ドル無いと思いますよ」
「……おい、お前同期だろ!どうにかしてくれ、るよな?ね?」
「……無理ですよ?ね、先輩」
「そうだぇ~」

俺はあくま無関係を貫きたいと、にこやかに笑って首を傾げておいた。
で、友人が本当に屋敷を土産に迎えに行ったのかは知らない。
ただ、今も彼の後ろを子犬のようについて回る友人が健在であるということは、一命をとりとめたということに違いは無いから、まぁめでたい。
しかし友人も毎日土産を携えて彼を追い回すエネルギーを何か他に利用できないか、と思って止まないこの頃である。

『一途とは言えない何か。』

『一途とは言えない何か。』 AXIA 作

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-05-05
Copyrighted

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