うひひひ
作り話に見える実体験が多々混じっています。
1.食い物
冷蔵庫の奥に追いやられて
存在を忘れ去られたコンニャクゼリーは
賞味期限が切れる瞬間、
誰にも聞こえない小さな声で密かに
「きゅー」と泣いた。
ブロッコリーをレンジで加熱して数日後、
レンジに入れっぱなしだったことに気付いた時は、
すでに腐っていた。
和気あいあいとしたコンピュータメーカーの職場で、
青白い顔の痩せた男がマヨネーズだけを食っていた。
あの絞り出す形の容器に自分の口を直接付けていた。
小カブの葉だけ先に食って、
残りを保存容器に入れて冷蔵した。
帰宅した夫が冷蔵庫を開けて
「ゆで玉子作ったの?」と嬉しそうに言った。
私は一瞬なぜ?と思ったが何のことかわかったので
「それはカブよ」と答えたら、
夫は「なんだ、カブか…」とがっかりしていた。
後日、玉子をゆでて冷蔵庫に入れておくと、
帰宅して冷蔵庫を開けた夫は、
「またカブか…」と言いながら酒のつまみを探していた。
2.実在するに違いない
スイッチを入れると「死ね!死ね!死ね!」と、
スイッチを切らなければバッテリーが切れるまで叫び続ける人形がある。
その形は目つきが凶悪な少年で、首を切り離せる。
本体は首だけで、それ以外は中身のない土台だ。
その髪は黒くて短く、顔の色は青っぽい灰色だ。
下あごがカクカク動くが、そのタイミングが
発音とわずかにずれていて嫌な気分を増す効果抜群。
疲れて人生どうでもよくなったとき、
ますます落ち込むことができる。
うまくいけば心が行き場を失って笑えることもある。
ある男は自分の妻の正体が蜘蛛だと知った。
どういうつもりか彼は、
妻が蜘蛛の姿に戻ったらそれを食おうと考えた。
しかし、彼の正体も蜘蛛だった。
こういう小説か昔話みたいなのあったような?
たとえば親は、厄介な子を害虫として退治するため
正義の武器で、死ぬまで、いや
二度と生き返らないよう叩きのめす。
彼の部屋に入った時その異様さにめまいがした。
天井も壁も床も赤一色で、
天井からいろんな長さの鎖が垂れ下がり、
壁には悪趣味な絵画やフィギュアの類が張り付けてあり、
床に毛虫がびっしりいるような感じの模様の絨毯が敷いてある。
「あなたの趣味はすばらしい」と私が言うと
彼は、人をかみ殺しそうな歯を見せて微笑した。
大学の授業中に眠すぎて、
教授の話をノートに書きながら目を開けたまま眠っていた。
目が覚めた時、自分のノートを見ると
見たことの無い文字が並んでいた。
3.増殖する内臓
金魚を飼っている水槽に寄生虫のようなものがいることに気付いた。
それは日に日に大きくなり、
脳みそや腸のような内臓の形になってきた。
金魚はいつの間にか全部いなくなり、
こいつが食ったとしか考えられない。
翌日には水槽にこいつの体がぎっしり詰まっていて、
次に水槽から出てきて人を食い始めた。
そして、大きくなりすぎて陸地では動けず、
やがて海に入り、巨大なヒモムシになり、
海水を吸って膨張し過ぎて溶けてしまった。
4.幼い時の思い出
草木も眠る丑三つ時、
人の寝顔をのぞき込みにやってくる
ギョロっとした眼を一つ持つ
白いひょたん型の化け物と
目が合ってしまったら
ショックで突然死してしまうのだ。
どびん!ちゃびん!はげちゃびん!
これは差別用語であると同時に恐ろしい呪文だ。
差別された人たちの怨念がこもっている。
私はこの呪文にかかって死にそうになった。
なぜか無性に面白くて笑い過ぎて呼吸困難になって
腹の筋肉がつるのだ。
幼い時に住んでいた長屋では、
近所のいろんな歳の子らと毎日のように遊んだ。
ある日、かくれんぼをしていると、
左手にふわっと何かか触れる感じがして、
そこを見ると真白い毛虫がうごめいていた。
初めて見たその姿が怖くて、
必死で振り払った。
それで鬼に見つかったのかどうか
そんなことはどうでもよくて、
毛虫の気持ち悪さで頭が一杯だった。
幼い時、近所の子らと飯事遊びをしていた。
何かを取ってきておかずを作れと言われた私は、
ミミズを平たい石で切り刻んでいると、
周囲から誰もいなくなった。
私は最初それで嫌われたなどと思いもせず、
嫌われたのだと言われても平気だった。
幼い時、家の近所に田んぼがあった。
ある日、近所の悪ガキどもとそこで遊ぶことにした。
遊びの内容は田んぼの生き物を集めること。
私はビニール袋一杯になるまでアマガエルを集めた。
それは収穫だったので一度帰宅して、
カエル入りビニール袋を玄関に置いて
再び外へ遊びに行った。
夕方になって皆帰り私も帰宅すると、
母が家の中にあがれずに困っていた。
その理由は、ビニール袋からカエルがほとんど出ていて、
部屋の中に無数のカエルが散らばっていたからだった。
男の子一人と二人の女の子(私含む)が遊んでいた時
男の子がふいにこんなことを言いだした。
「百の数字まで先に言えたほうが僕と結婚しよう!」
私がキョトンとしていると、
もう一人の女の子が真剣に一から数え始めた。
一、二、三、四、…
当時の私は百まで数える練習していたことがあり
競争心をあおられた私はそれより数倍の速さで
一から百まであっという間に数え終えた。
しかし、彼女は十以上の数も言えずに泣き始めた。
まさか泣くなんて思っていなかった私は、
悪いことをしてしまったと後悔したが、
彼が将来私と結婚するのだと高らかに宣言して、
私は彼女をどうやって慰めればよいのかわからず当惑した。
確か彼は小学一~二年年で、彼女と私はまだ幼稚園児だった。
小学校で飼っていたオシドリ。
そのつがいはいつも仲よく寄り添っていた。
雄が水浴びをすると雌も水浴びを始める。
そんな感じで雌がいつも雄の真似をして、
雌が雄の後をいつもついてまわっていた。
それを私はオシドリ夫婦だと思い込んでいた。
あれから十年いや、二十年経っただろう。
動物園でオシドリのつがいを見た時、
私は自分のとんでもない勘違いに気付いた。
小学校で飼われていたオシドリは雄だけで、
雌のほうはカルガモだったのだ。
小学校で飼っていた動物の
当番制の飼育係がまわってきて、
私は家畜用の餌ではなく、
給食室からもらってきた未使用の残飯を与えていた。
鶏たちはトウモロコシやキャベツを喜んで食った。
その中にマーガリンがあって、
それを一度与えて以来、
マーガリンの箱を見せただけで
飛びついてくるようになった。
それで何度もマーガリンを食わせていると、
鶏の頭に出来物ができた。
マーガリンをやめると出来物が治った。
ある日、鶏をいじめてやろうとして
ほうきを逆さに持って飼育小屋に入った。
私がほうきを振り回す前に、
一羽の雄鶏が首の周りの羽毛を逆立てて
あっという間に私の頭の上に飛び乗り、
私の頭をつつき始めた。
その運動神経は非常に俊敏で、
私は人間の運動神経がいかにとろいか思い知った。
家畜だと思って鶏をなめてはいけない。
豚も喧嘩に強いのだ。
格闘家が豚相手に練習しようとしたところ、
怒った豚に惨敗して自信を失ったという。
そして、鶏と猛犬を闘わせると鶏が勝つのだ。
しかも、闘鶏ではなくチャボ並の小さい奴だ。
幼い時から実家で金魚を水槽で飼っていた。
ある日、金魚屋に行くと赤いマリモみたいなのがあって、
多数の毛がウネウネと動いていた。
何だろうと思って見つめていると、
店主が「金魚が喜ぶ」と言うのだ。
それで私は確か三十円でそれを買って帰り、
金魚の水槽に入れたら、
弱っていたはずの金魚まで急にピチピチと泳ぎだし
皆すごい勢いで赤い糸を食い始め、
あっという間になくなった。
その様子が面白くて何度も思い出す。
5.陰鬱な風景
毎夜、マンションの最上階にある自分の部屋の窓から見える運河を見つめていた。
その運河はマンションのすぐ横を流れており、
底はヘドロが厚く堆積し、
たまにヘドロを取り除く作業が行われ、
時々死体があがる。
その運河の水面に映って揺れる街灯の光は、
夜の闇をいっそう暗く感じさせる陰鬱な色をしていた。
私は永久にその風景を眺めなくてはならない気分だった。
6.デジタル時計
1:11、2:22、3:33、4:44、5:55
その日なぜか時計を見るたびゾロ目になっていた。
そして次に見たのは、6:66
あり得ない数字だ。
夢でも見ているのだろうか。
本当に不吉だからか。
もしかして今日死ぬかもしれない。
だんだん怖くなってきた。
ここで目をそらすと死ぬのか、
それともここから逃げるほうがよいのか
悩みながら時計を凝視していた。
そして次の瞬間、記憶がなかった。
7.子猫救出作戦
底の薄い板が体重で割れそうな汲み取り便所で
遠くの方から猫の鳴き声が聞こえてきた。
それは深い便壺の底から聞こえてくる。
その声の発生源を探したら、
便壺の中に落ちた子猫がもがいているのが見えた。
長いロープを探して見つけて
子猫が見える板の穴からロープを垂らした。
やってみて初めて気付いたが、
子猫は怖がって逃げようともがくだけだった。
どうしたものかと他人を呼んで騒いでいると、
一人が名案を出した。
親猫を縛ったロープを子猫の位置に垂らすというのだ。
そして、その通りにやってみたら、
子猫が親猫にしがみついて難なく救出できた。
しかし、それから後が大変だった、
糞尿まみれの猫を洗うのが。
8.痴漢未満
満員電車でよくあるパターンかもしれない。
隣に立っていた男の下腹部に
私の腰の出っ張りが押す形になっていて、
彼の股間がなんだかもっこりしている感じなのだ。
それ以上の何かが出てくれば初めて犯罪になるかもしれないが、
「なんだかもっこりしている」それだけだった。
別の満員電車で目の前に立っていた男の手に、
私の胸が密着している状態で身動きできなかった。
彼は犯罪がばれたかのような表情をしていたが、
その男の顔が好みのタイプだった私にとって不快ではなかったが、
彼の顔をぼんやり見つめていた私の目が怖かったかもしれない。
9.姿のない家族
右で寝ている男の陰茎を握って寝ていたら、
左手にも別の陰茎があった。
左のはもちろんこの世のものではない。
就寝時に同じ布団に入ってくる男の気配があり、
私は最初、家族としか思えないが、
手触りだけで姿が見えず突然いなくなるし、
家族は誰も私の寝室に入らなかったと言う。
ある日、母が家族の人数より一人分多く飯を作って並べていた。
全身白くて痩せた小柄な妖怪とセックスしてアクメに達してしまった。
10.幻覚だけど実体験
タクシー営業所のプレハブ小屋の階段の最下段に
しょんぼりした運転手が座っているので、
どうしたのかと思って直視するとそこに誰もいなかった。
別の日に再びその場所を通った時
また運転手が座っていたが直視すると誰もいなかった。
事故で車と命を失った運転手がいたのかと私は思った。
家で昼寝をしていると金縛りになり、
当時の悩み事を解決するのに充分なものが
そばに存在していることがわかったが、
それは闇の中にある見てはいけないもののようであり、
自分の内側で膨大な記憶を含んで黒く渦巻いており、
それを知ろうとすると自分が吸い込まれて
無くなりそうで怖くなって逃げようとしたが
全力でも勝てないほど強い力で引っ張られ、
もうだめかと思いつつあきらめないでいると
金縛りが解けて助かった。
空いているバスに乗って座っている時、
人とは少し違う顔が前方の天井に見える感覚がするが
直視してみると顔なんかどこにもない。
しかし、まっすぐ見ないでいるとやはりそこに顔がある。
顔のある場所を何度も見直していると、
それが常に同じ箇所にあることがわかった。
自分の実力では合格しないはずの大学の入学試験場で、
数学の問題が解けないとあきらめて
何も書かれていない黒板を眺めていると、
高校卒業後に亡くなった数学の先生が
「ほら、教えたじゃないか」と言いながら
黒板に数式を書いている光景が浮んで
入試の問題を解くことができた。
その大学に合格したので入学したが卒業するのに苦労した。
もうすぐ目覚まし時計が鳴る前に、
ふと自分の最古の記憶を思い出そうとすると、
何もかも理解できそうなほど頭が冴えてきて自分のことを、
こんな所で何を愚かなことをしているのだろうと思うとともに、
それまでの人生を迷うだけで浪費してしまったと思った。
そして、はるか昔から膨大な記憶が並んでいる
とてつもなく長い空間を最古の記憶に向かって高速で遡るが、
かなり時間がかかりそうで、
このままでは会社に遅刻しそうだし、
必要ならいつでもまた思い出せると思い、
「ストップ!」と念じたら、
たちまちもとのぼんやりした意識に戻ってしまった。
11.実体験
那智の滝へ深夜、合宿の大学生約十人が肝試しに行った。
輪になって座って話していて誰もが無口になって沈黙が続いた後、
宿に帰ろうということになり、
宿に戻った後、滝の音が流れる水というより
大勢の人が雑談している声に聞こえたと話すと、
他の人も同じように聞こえたと答えた。
古い貧乏アパートで家鳴りが頻繁に起きるので
「うるさい!」と言うと、
そばにあったTVのリモコンが
バンッ!と音を立てて勢いよく跳ねた。
東京への帰り道、東北自動車道で運転手が
ウインカーが利かないと言い出した。
周囲の車が皆、左車線を走行していて
速度が落ちてきたので追い越そうとしたのだった。
しばらくそのまま走行していたが、
周囲の全ての車が左の走行車線だけに並ぶのはあまり見ない光景だった。
しかも、変わらない車間距離で速度が少しずつ落ちてくる。
もしかして他の車も同じ状態で、他の操作も利かない。
数分間だけのことだったかもしれないが、
一台の車がふいにウインカーを点滅させて
追い越し車線に移り速度を上げた。
その時自分の車も正常に戻り、
他の車も次々に追い越し車線に出ていった。
12.最古の記憶
もうすぐ目が覚めようという時に、
ふと、最古の記憶を知りたくなった。
いや、思い出そうと思った。
その瞬間、自分の記憶があっという間に
生まれてから間もない時期にさかのぼり、
その次に別の次元に移ったかと思いきや、
無数の人生が並んでいる記憶の格納庫を
どんどん加速して長い時間が経過した。
そしてついに、どこにも何も存在しない時代になり、
「どこにも何も存在しない」状態を長い間
保っていた何かが間違いを起こした。
その瞬間、無から無限の存在が生じて
爆発するかのように大きくなっていった。
しかし、それはどんどん膨張するばかりで、
ばらばらに遠く離れて散らばり分散し、
再び「何も存在しない」時代が来る。
寂しさが悩みだった孤独な神様はある日、
最初から存在しなくてよかった物を発明した。
それを作ってみると、実に楽しくおもしろく、
孤独の寂しさを忘れることができた。
どんな変な物でも作ることができるから。
ただし、それは実在しない幻覚だった。
何も存在しない世界にはやはり何も存在しないが、
あたかも存在しているかのように見せたり、
見ることができる、それがその発明だった。
そして、嫌になったらすべてを取り消すこともできる、
存在していたものを殺したり消したりするかのように。
簡単に消せるのは、本当は最初から何もないから。
本当に存在するものを消すのは簡単ではない。
13.未来の記憶
子供の時から人類滅亡を見たいと思っていた。
それがどういうものになるか、どうでもよくなってきたある日、
アイデアがふと頭に浮かぶような感じを覚えた。
人類滅亡が突然やってくるとするなら、こうなる。
その瞬間、人類に関わるすべての物が消え失せる。
ただし、地球上からだけ消えるのであり、
まるでゴミ箱に放り込まれるように
どこか知らない遠い時空に捨てられる。
地球で人類を開発してきた研究者が、
失敗と判断して、やり直すかあきらめるかで、
ゴミを遠い場所に移すだけのことだ。
そこはブラックホールかもしれない。
ところが、人類は消滅に気付かない。
急病や事故で突然死した人が
自分が死んだことに気付かないのと同じだ。
消滅に気付かないまま人類の世界は、
死んだまま「ゴミ箱」の中で続いて行く。
そしてその材料は、新しい世界を作る資源として
分解され再利用されるかもしれない。
14.生首男
彼は首をわずかにひねって頭を引っ張り上げると、
首が胴体から離れ彼の手でテーブルの上に置かれた。
こういうものは目のやり場に困る。
今まで通り顔を見ようとすれば、
いつもと違って視線をかなり下げなくてはならず、
それだけで違和感は十分だ。
ある時、彼の首だけがテーブルの上にあって、
胴体や手足がどこにも見当たらなかった。
こういうのはどうしても慣れない。
彼の胴体や手足を捜して落ち着きなくうろうろしていると、
彼の首はニヤニヤ笑うのだ。
まったく、やはり、
人を怖がらせたり困らせて楽しんでいるとしか思えない。
「首から下をどこに忘れてきたんだ?」と聞いてみると、
彼の首は苦笑しながら
「首がここに置き忘れられたのだ、
でも間もなく見つけてもらえる」と言った。
彼の本体は首か胴体どちらだろう。
彼は首だけの生命体か、
誰かが作った人間そっくりの機械か、
地球人の姿を真似た宇宙人だ。
それとも本体が胴体なら、
そこに頭脳もあって、
頭部は無線端末とか子機みたいなものだ。
あるいは、
首と手足を含む胴体はもともと別々にあったもので、
ある時からいっしょになったとか。
もしかして、手足も別々だったかもしれない。
彼には彼女がいた。
彼女も自分の首を切り離せるのだが、
彼女の頭も体も妙にでかい。
二人を見ていて気付いたのは、
二人の体格が厳密に等しいのだ。
だから彼は逆に、男にしては小柄だ。
例外はあるにせよ、
たいてい男のほうが大きいのが普通だ。
二人は向かい合って座ると、
ほぼ同時に自分の首を切り離し、
互いの首を交換して相手の首を自分の体に取り付けた。
そうすると、男の体に女の首が付いており、
女の体に男の首が付いているという奇妙なことになるが、
実際見ているとそんなに違和感はないのだ。
事実、そんな感じの人は決して少なくない。
どう見ても完全に男みたいな女はいるし、
女装するとどう見ても女でしかなくなる男もいるが、
そういうのとは微妙に違う地味な違和感だ。
顔だけで性別を判断すると間違うことがある。
しかも、二人の間にはこういうのもある。
二人は左右どちらかの半身を捨てて、
互いの半身同士をくっつけられるのだ。
いや、捨てたと思った残りの半身同士もくっつけられるのだ。
それで二人は互いに酷似した別の二人になる。
生首男の正体を知る時が来た。
目的はまだ何か知らないが、
彼は地球人に紛れてしばらく滞在するため、
高度な技術で人間そっくりの姿に化けているが、
プライベートな場で彼と彼女が一体化した後、
常識的感覚では「奇怪な正体」でしかない
本来あるべき自然な姿に戻るのだ。
彼は男女一対で一個体というより一式とでもいう
奇妙な体を持つ異星人だ。
彼の完全な身体は男女合わせて
頭一つに顔二つ、目が四つ、手足が八本だ。
15.黒い引力と三人の男
その金庫室は全体が冷凍されていた。
しかし、その階下で大量の燃料が燃えていた。
金庫室の扉を開けるには、開ける資格を持つ身分と
パスワードが要る。私はその資格を持っていたが
パスワードを知らなかった。忘れたのではない、
実は開ける必要があった時初めて伝えられる。
伝えられる手段はテレパシーだと思っていた。
しかし、どうも違っていた。
私はただ、自分の好きな名前を入力した。
自分だけの意思で動いている感覚で。
厚くて重い扉を開けると室内は凍っておらず、
一基の柩が床に転がっていた。
フタに鍵などなく、開けると中にいたのは、
痩せ衰えた自分自身だった。
記憶はまるで関係ない別の場面になる。
冷たい金属で囲まれた部屋の中で、
冷たく硬い寝台の上で仰向けに寝ている。
枕元に得体の知れない異様な気配があり、
言葉に表すなら、渦巻くような黒い引力だ。
左側に短い黒髪の黒いスーツを着た男、
右側に長い金髪で厚化粧の女装した男、
足元に自分の首を持つ和服を着た男がいる。
私は過去に彼らを愛したことがあったが、失恋した。
しかし、枕もとの引力が私の体を乗っ取るのを許していた。
左の男は私の左手を彼の右手で、私の左足を彼の左手で、
右の男は私の右手を彼の左手で、私の左足を彼の右手て、
私が抵抗できないよう抑えている。
そして、足元の男は左腕で自分の首を抱えながら
彼の右手で私の首を絞めている。
首を絞められているのに私は苦しいどころか、
ただの快感ではない至福に酔いしれている。
得体の知れない彼らが自分の望みを叶えるためなら
すべてが破壊され崩壊すればよいと思いながら…
Lucy
うひひひ