*星空文庫

Glitte

AXIA 作

Glitte

 揺れが体に気持ちいい。ガタゴト、と音に合わせて体が揺れる。
 ぼんやりとした思考がだんだんハッキリしてくると、自分が電車の中で寝てしまっていた事に気がついた。
 日々の勉強や部活うやら何やら、テスト前で気を張っていたせいでもあるだろう。
 ふう、と一息ついたときガタンと大きく車両が揺れて体もつられて傾いた。
「……あれ」
 そこで初めて自分が隣に座る人物に寄りかかっている事に気がついた。
 ヤバイと思い、慌てて隣をみると、文庫本を読む見知った姿がそこにはあった。
「起きたの?」
「……うん」
 なんでもないと言うふうにペラ、とページを捲って文庫本に視線を落としたままの麻里は薄っすらと笑っていた。
「随分、よく寝てたね」
「ちょっと寝不足で……」
「まだ駅は先だよ。もうちょっと寝たら?」
 そのまま、また拠りかかって電車に揺られる。
 けれど、もう眠気はやってこず、隣にいる彼女の事を考え始めていた。普段、電車で座れた時にはスマホで動画などをみたりSNSを更新したりしているのに、今日は本を読んでいる。
「……外国語の本だ」
「貸そうか?単語でひろい読み出来るくらいの本だよ」
「あ、絵本ではでは読んだことあるやつだ」
 日本語の翻訳絵本を昔によんだなぁ、と思いながらぼんやりとしてる。
 彼女がかわいらしい物語を読むなんて、本当に可愛い!!と思って嬉しくなってしまう。
 笑っていると、不思議そうに思ったのかこちらをちらっと見た彼女が私の額に軽くデコピンしてきた。
「そういえば、今どの辺なんだろう。もうすぐ降りる駅かな」
「うーん、ここからだと、だいぶ前だったかな?」
「……え」
 慌てて周りの景色を見ると、見知った景色だったが、どう見ても家の辺りの景色じゃない。
「叩き起こしてくれたら良かったのに!」
「だって、幸せそうに寝てたから」
「……」
「まあ、天気もいいし、海を見てから帰ってもいい気がしない?このまま貴女も一緒に行こう?」
 何も言えなくなって、そのまま彼女を見つめる。
 慌てて向き直った自分が見たのはパタンと文庫を閉じてにっこりと微笑む美しき、きらきら輝く笑顔だった。


「まだ、人はいないね」
 春の海には人影はなく、冷たく感じる海風が吹いていた。
 浜辺に立って全身でその風を受けていると、羽織ったカーディガンだけではもの足りないようにも感じる。肌寒い中、靴を脱いで裸足になって歩けばザクザクと軽い音が後から付いて来るかのようで思いのほか面白かった。
「寒いね」
「そりゃ寒いわよ。裸足じゃ」
 結局、言った通り二人で海まで出てきた。ここへ来るまで特に会話もなく、二人でぼんやりと車窓から景色を眺めていたりした。
 気がつけば手を繋いでいたのだけれども、どちらから触れてどちらから握ったのか、それすら判らずにただひたすらぼんやりと。
 途中で買った飲み物を飲みながら歩く。荷物を置いてある場所まで戻って靴もそこに放り投げ、腰を下ろすと彼女と共に並んで海を見た。
「本当に人が居ない」
「そりゃぁ、こんな春の初めに海ってなかなか来る場所じゃないし」
 そう言ったきり、また会話が無くなる。
 私の視線はいつの間にか無意識に海よりも彼女へと向いていた。ゆっくりした瞬きまで見つめて…ふと、会話は無くても構わない、と思った。
「どうかした?」
「ねえ、……遊ぼっか、海で」
「え?」
 きょとんとした彼女の靴を鷲掴みで取って、靴下も奪う。
 慌ててもう片方を脱ぐのをまって立ち上がらせると、波打ち際まで引きずるように連れて行き水の中へと入っていった。
「わ、スカート濡れてる!」
「平気だって。まだ日高いし。雨も降らないし。ところでスマホとか持ってないよね?」
「え、それは勿論向こうに……」
 そのまま、進んで脛が半分浸かる位置まで来ると、思い切り彼女に向かって海水を掛けた。
「きゃぁああ!」
 避けようとした彼女は案の定、ばしゃん、と尻餅をつく。素直に受けたほうが被害は少なかった筈なのに。
 ぽかーんとした表情で私を見上げる彼女に向かって今度は控えめにだが顔にも掛けた。
 きらきらと滴が宙を舞って一つ一つに彼女の顔を映し出していた。
「貴女!!やったわね!!」
「キャー!冷たい!!」
 彼女からの反撃で私もびしょ濡れになった。
 綺麗。本当に綺麗。
 夕方前のひと時の時間。二人の思い出はまた一つ増えていた。

『Glitte』

『Glitte』 AXIA 作

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-05-03
Copyrighted

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