リルとアンナのイデオロギー

リルとアンナのイデオロギー



   


  



   


  



早朝の

兆し

アンナの鼓動

リルのタイピングが

見守る



同じ地上 同じ時間の線

おまえ見守る まもなく日が昇る



「リル、ちゃんと寝た?」

「当たり前だ。だからおまえにがんばれよと言ってる」



傍らにおまえの寝息を残し

フレンチトースト焼いてやりたい



「リル・・・・・」

おまえの寝言

きっとおれがバケモノに食われる夢を見ている



おまえになんて言えるだろう

おれはおまえの代わりに朝を守るさ



おれとおまえの

伝記を書きたい

愚にもつかぬ日の入り前の夢



日の入り前の交差点で道に迷うなとすっとぼけた励まし



おまえの朝は早いから

おれはきっと掃除・洗濯・調理だな



官僚をめざすなら

おれ ヒモのスナフキンにでもめざすとするか



朝の陽が差してくる

眩しい

お前の街に

おまえの希望が差す



おまえの朝だ

おまえのためだけの朝だ

おまえを生かすこの朝だ



がんばれよ

おれの がんばれよは

誰よりもおいしい

おまえの 朝食



アンナ、

おまえがこの朝を生きるなら

俺はこの朝をおまえにやる



カフェオレより

エスプレッソ

おれが送る

アンナへの 朝のおまじない



朝焼けは幸福にたじろがないさ

アンナとおれが築く一日



内省的な朝のおれを

アンナ おまえが蹴っ飛ばせ

詩が降りるさ



「おはよう」が二回響きあう朝を夢見るいつかへの

 朝の願い



早朝に膨大に吐き出すおれの歌が

アンナのめざめを聞く



朝の陽への祈り

朝の光が

アンナ、おまえに優しければいい



昨日からの続きが

今日を創り

明日への贈り物になるんだ



インスピレーション

モズの声さえ

おまえの朝の呼吸に聞こえる



小さい朝の哲学を

朝の陽が溶かす

アンナだけが眼に届く



カフェオレにアンナのにおいを感じながら

ブラックコーヒーを混ぜる



アンナが走る地下鉄の音を

映画を見ているように聴いている



幸せへのシグナルを読み取り

おまえと分ける おまえとだけ分ける



犬が吼えてる

たぶんおまえが恋しいからだ

シクラメン香る道



おまえが見える街

おまえしかおれは見ないから

街の名は「アンナ」



一日ごとのほほえみが

おれたちにあればいい

果樹園を造る



キャンバスに

やさしさの水彩だけでいい

日曜 午前 陽だまり



寂しさも祈りもいらない

朝も 夕暮れも 夜も

分かち合う人



おまえだけ包んでいたいから

包み紙は 

虹色一枚でいい



昼への落ち着いた平和

風と光の傾き

おまえでまどろむ



おまえでまどろむ

乳房を感じる

きっとゼリーの柔らかさがいい



昼下がりの青葉

おまえへの想いのゆくてを

自転車が走る



午後の陽射し

「がんばれよ」の呪文唱え

納豆チャーハンを作る



おれがまどろみ

おまえがまどろむ

交差点交わるように

午後の陽



昼下がりの道筋を午睡のうちに描く二人

熱い白熱



この川べりからの風が

おまえの街に届かないかな

午後三時



午睡でよく眠る おまえのそば 詩を書く

よく眠れ 子供みたいに



曇り空なら抱き合いたい

薄暗い部屋の愛を求むおまえと



歌を刻み送る

おれを求めて時折寂しく思うおまえに



郵便受けの 鳴る音

おまえに手書きで詩を送りたい

夏日の陽



夕暮れ 寂しく想うな

猫にエサやりながらおまえ考えてる



猫のように媚びないおまえがおれを恋しく思う瞬間を知る



黄昏時のキス

たぶんラムネかオレンジのどちらか フレンチなら



口につけて何もかも吸いだせ おれのなかを

屁理屈も ポエジーも



「魂の愛なんて嘘よちゃんといつもセックスしてるんだから」



「エッチで感じあえたらなにもかもいい」

 リルとアンナのイデオロギー



「生理の日は不思議よー、エロエロエロなのよー」

「そっかー、おれ毎日だがなー」



夕立はリルとアンナが降る見込み

恋しく 

切なく

エネルギー切れ



夕暮れ 沈むころ ふたりの記憶 

心地よい一日なら合格



音楽がなくてもいい

音楽がなくても優しくしてやれるから



寂しければ短歌を書けばいい

寂しければ短歌を読めばいいさ



月を見つめてくれ

月へ

歌と柔らかいおれを送ってゆくから



おまえよりも

おれの寂しさが多かったらいいと思うときもある

おれの歌が

おまえの慰めになってくれたらと思うときがある



小さな光で深い熱量を放つ銀河にアンナを見る、空

寂しそうで強がりな光があればアンナと星を名づける、空



「おまえをわかってるよ」

歌はおまえに送るおまえへのおれの証




   


  



   


  

リルとアンナのイデオロギー

最近書いたものの中では『ミネストローネで待つ』と同等に好きだ。

作者ツイッター https://twitter.com/2_vich
先端KANQ38ツイッター https://twitter.com/kanq38

リルとアンナのイデオロギー

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-05-01

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