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めがねをかけたしろくまがいる。
コーヒーをのんでいる。
わたしは、パソコンの前にいる。
動画をみている。
めがねをかけたしろくまは、わたしのとなりにいる。
いつのまにか、いた。
(そこに椅子なんて、なかった)
思いながら、わたしはパソコンの画面と、コーヒーをのんでいるしろくまを、交互に見やる。
パソコンの画面には、テレビゲームの一場面が映っている。
そのうえを、白抜きされた文字が右から左へと、流れてゆく。
テレビゲームをやりながら、しゃべっているひとたちが、いる。
そのひとたちのことを好きなひとたちが、パソコンの前にいる。いた。
そのひとたちが操作するゲームのキャラクターを、観る。
そのひとたちの会話を、聞く。
ゲームや動画の内容について、そのひとたちの会話について、そのひとたちのことを好きなひとたちが、あれこれと思う。
思ったことを、キーボードで打ちこんで、言葉にする。
言葉が文字となり、右から左へ流れてゆく。
「ひどいことをいうひとが、いますね」
めがねをかけたしろくまが、しみじみと言った。
はやく進めろよ、という言葉が流れてゆく。
つまらない、という言葉が流れてゆく。
前の方がおもしろかった、という言葉が流れてゆく。静かに。
音もなく、流れてゆく。
しろくまの手にある、コーヒーのはいったマグカップは、わたしのである。赤と白の、ボーダーの。
「面が割れていたら、みんないいませんよ、こんなこと。特定されないから、できることなのです」
わたしは言った。
しろくまの座っている椅子が、みし、みし、と音を立てる。
「そういうものですか」
と、しろくまが言う。
そういうものだと思います。
わたしはうなずく。
(ふつうにしゃべっている、見知らぬしろくまと)
外は、いいお天気だ。
きょうはおでかけ日和ですと、朝、天気予報の女の子が言っていた。
わたしは、おでかけの予定なんてありませんよ、と女の子に向かって答えた。
テレビに話しかけてる、と思った。
でも、そういえばパソコン画面にも話しかけるとき、ある、と思った。
正確には画面の向こうにいる、ひとびと。
そういうひとたちに話しかけたい気分のときって、あるよな、と考える。会話が成立しなくとも。
相手はまぎれもなく、生身のにんげんだ。
けれども、画面のなかにいる、というだけで別次元のキャラクターと錯覚させてしまう、にんげんたち。
「ところで、あなた、きょうはいいお天気ですよ」
しろくまが言った。
コーヒーをごくごくのんで、それから、パソコン机に置いてあった漫画を、おもむろに開いた。
そうですね、とわたしは言って、めがねをかけたしろくまの横顔を、じっと見つめた。
パソコンのなかは、盛り上がっている。
白抜きの文字が、画面を真っ白に染めてゆく。
窓の外から、こどもの声がきこえる。
車の走っている音も。
自転車がブレーキをかける音も。
「いいお天気の日は、外に出た方がいい。暗くて狭いところにずっといては、見えなくてもいいものまで、見えますよ」
暗くて狭くて悪かったな、と思いながら、わたしはパソコンのキーボードを叩く。
小文字のwを、たくさん打つ。
打って、送る。
パソコンの画面にわたしの打ったwが、だれかの打ったwと重なり、右から左へと流れてゆく。
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