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一つ一つが命

どこまでも深い闇の中で、小さな光が動いていた。
今にも消え去りそうな()だ。どこまでも深い闇のほんの一部を、その灯が照らしていた。

ここはどうやら“忘れられた記憶たちの墓”らしい。
年数とともに古くなった記憶たちの終着点。
中にはまだ蠢いているものがあるが、生きているとは言えない。
そんな場所を、灯は漂っていた。一つ一つとはいかないが、僅かな灯で美しかった日々を見ていた。

どうやらその灯には、意識のようながあるらしく、一つとして思考できるようだった。
「どうしてこんなに綺麗な記憶を殺したんだろう…」
漂いながら何度も思考した。

どれくらいの時間漂ったんだろうか、灯は終着点の出発点に来ていた。
灯で照らしても、分け与えても、うんともすんとも言わない記憶達ばかりがいた。
完全に死んでいる記憶は、それはそれで綺麗だった。
二度と見ることのない記憶について思考するのは楽しかった。
一体この記憶にはどんな物語があったんだろう。
きっと壮大に違いないと思った。

最近は、些細なことですら、すぐにこの墓場にやってくる。
いたってどうでもいい。言い方は悪いけど、確かに死んで当たり前みたいな記憶ばかりだ。

ただ、ここまで来てわかったことがある。
昔の記憶になればなるほど、記憶されている事柄は長く、一つの物語のようだった。
綺麗だった。純粋に。
そういうことがなくなったんだ。
いつかを境に。

膨大な数すぎて、探しきれなかった。
その境にたどり着ければ、何かがあるかと思ったが、見つけられなかった。
この灯はきっと、いろんな後悔が詰まった亡霊なんだろう。
探してくれたが、やはり見つからなかった。

ごめんな。

どうか安らかに。そしていつかまた、会えることを祈って。
そして灯は、消えた。

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そこは忘れられた記憶の墓

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-04-24

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