*星空文庫

雨模様の空

AXIA 作

雨模様の空

 昨晩から降り出した雨は昼過ぎになっても止む気配を見せない。
 七月にもうすぐ入る。
 梅雨の時期を楽しむかのように窓には手作りのすこしいびつな顔をした愛嬌のあるてるてる坊主がぶら下がっていた。
 自宅の窓にもこれと同じようなてるてる坊主が吊りさがっているが、ここにあるものと製作者は一緒で作った本人から貰い受けたもので独特の愛嬌を部屋中に振りまいていた。てるてる坊主を作った本人の家には大量に釣り下がっているらしく、顔見知り全てに配るのか知らないが大量に持ち歩いていたそれは俺にも渡された。
「大丈夫か~?」
 雑誌をを捲りながら伺うように声を掛けても、声を掛けた相手は湿気で蒸す部屋の中でぐったりとして机に伏せたままだ。
「全然、大丈夫じゃ…ないです」
 彼は今にも死にそうな沈んだ声で唸るように呟きながら、大きな溜息付いた。
 パーカーの帽子をわざわざ被るのは自分の世界に閉じこもりたいからなんだろう。その表情を覗き込めば、ゲッソリとした表情で俺の方を見た。
「辛そうだねぇ」
 心底疲れているうめき声を上げながら彼はのっそりと体を起こし、堅くなった身体を解すために背中を伸ばす。
「そりゃ、辛いですよ…完璧に振られましたし。……おまけに留めまで刺されたし」
「それに関しちゃ向こうは知らなかっただろ。まあ、落ち込むの判らなくはないけど」
「結構、自信あったんだけどなぁ……イケメンならまだわかるけど、アイツが持ってっちゃうとは思わなかった」
 身体を伸ばして同時に欠伸が漏れる。それを見て可笑しくて笑ってしまった。
「眠いんじゃなくて、酸欠になるまで考え込むの良くないよ?身体に来るよ?」
「……もう、来てますよ。たぶん」
 彼から出るのは唸り声と溜息の繰り返し。
「しゃーない。今日は俺が奢ってあげるから」
「……いいですよ。大人しく帰って寝ます」
「ふーん。想い人が作ったてるてる坊主見ながら?」
 バタ、と音を立てて彼がまた机に突っ伏せた。ゴンッと思い切り額をぶつける音がして、その後しくしくしくと泣き始めてしまう。
「あーごめん」
「皆して俺の傷口開く……ってかアンタは抉る!」
 顔を上げてこっちをキッっと睨むその目には涙があって、瞬きの度に揺れる瞳が自分には好印象だった。
「まあ、一人でいてもどうせ凹むならへこまされても一緒だって」
「酷い!本当にひどい!」
 今まで泣いていたのに、今度は本気で怒っている。
 ムッと口を尖らせて不貞腐れる彼を見るのは楽しかった。だが、今日はこれ以上いじめるのは可哀想だな、と思いなおして雑誌を閉じた。
「なあ!これ、なんでしょー?」
「え、チケット?」
「映画の招待券です。要る?」
「……欲しいですけど」
 にや、っと笑って、チケットを目の前でヒラヒラと振る。見せてください、と伸びる手をかわして胸ポケットに閉まって彼の手を取った。
「まあまあ、飯食いに行こうよ。ホント奢るよ?」
「……美味しいラーメンが良いです」
「そうだね。じゃあ、映画見てラーメン食べて帰ろう。それでウチきて猫に慰めて貰うと良いよ」
「ね、猫はちょっと」
「明日、休みなだろ。泊まってればいいよ。決まりね~」
 決めかねている彼に構わず勝手に決めてしまう。
 戸惑っているうちに彼の荷物を勝手にまとめ手に持たせ、引きずるように外に出るとわたわたと付いて来る彼に笑いかけた。その困惑した表情が面白くて、ついつい声を出して笑ってしまった。

『雨模様の空』

『雨模様の空』 AXIA 作

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-04-23
Copyrighted

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。