ふたり
ふたり、つながっている、ふたり。
ゆび、と、ゆび。
ゆび、と、ゆび、が、ふたりのほんとうの、ゆび、と、ゆび、とは、かぎらない。
花を燃やした、四月。
街は、砂の下に、ひとは、空に、夢は、地底に、ゆびわをなくした、女、が、なくしたものはしかたないと、諦めている。
となりで、地べたに這いつくばっている、男、を、観察しながら、アイスクリーム、三段重ね、を、たべる。
バニラ、チョコミント、ストロベリーが、くちのなかで、交わる、あの、バニラと、チョコミントはいいとして、チョコミントと、ストロベリーは、ぼく的には、なし、とか思っている、と、ともだちが、チーズケーキと、モカと、抹茶の組み合わせが、やばい、と言う。
やばい、というのは、やばいくらいにうまい、という意味なのか、やばいくらいにまずい、という意味なのか、わからんけど、ま、さいきんは、とりあえず、やばい、と言っとけばいっか、みたいな風潮が、あるような気もするし、チーズケーキと、モカと、抹茶の組み合わせは、ともだち的には、うまい、し、まずい、ということで、砂の下から、商店街でいつも流れていた、どこかの誰かがつくった、商店街のテーマソングが、きこえる。
雲の上では、人形になった、子どもたち、笑ってる。
「なんかつまらんから、あれは消そう」
チーズケーキと、モカと、抹茶の、三段重ねのアイスを、下層の、抹茶から、べろん、とモカ、チーズケーキ、の順で、舐め上げている、ともだちが、言う。
視線の先には、地べたを這いつくばり、ゆびわを探す、男と、男を見下ろしながら、スマートフォンで、誰かと電話している、女。
紅茶の香りがする、花の、花びらを一枚、ともだちが毟ると、まず、女が消えて、二枚目を毟ると、男が消える、三枚目を毟ると、誰かが消えて、四枚目を毟ると、誰かも消える。
ともだちは、やばい、やばい、と言いながら、上層の、チーズケーキに舌を、突き刺す。
チーズケーキに、穴があく。
地底では、もぐらと、地底人が、にんげんの夢を、ばりばり、むしゃむしゃ、くっている、という、うわさ。
空では、ひとが、かたまったり、とけたり、くだけたり、している、という、はなし。
世界中の花は、燃え、ともだちが咲かせる、紅茶の香りのする花だけが、世界にひとつだけ残っている、花、となる。
ともだちは恋人を、ほしがっている。
ゆびわをなくした女は、ブスだったと、ともだちは、ぼやき、中層の、モカの部分だけを、舐める。
商店街でいつも流れていた、どこかの誰かがつくった、商店街のテーマソングをきくと、思い出すのは、商店街で、焼き鳥屋をやっていた、おじさん、だ。
おじさんは、学校になんか行かなくていい、が口癖だったので、一部のおとなたちからは、嫌われているおじさん、だったが、ぼくは好きだった。
学校に行かなくても、こうして立派に商売ができる、と、鳥を焼きながら、おじさんは言った。
ぜんぜん関係ないけれど、焼き鳥、とは、鳥を焼いた、たべものであるが、鳥を焼く、という字面だけ見ると、なんだか、ものすごく、いけないたべもの、のように思える。
豚を焼く、牛を焼く、よりも、鳥を焼く、の方が、なんだか、変に生々しさが、ある、よな、なんて考えながら、おじさんの顔を、思い出そうとする、のだけれど、顔だけが、思い出せない。
焼き鳥をひっくり返す、手しか、思い出せない。
岩のようにごつごつして、ところどころ黒い、手、だった。
学校には行った方がいいことを、ぼくはわかっていたけれど、おじさんのような生き方も、なしではないな、と思った。
そのおじさんも、どこに行ったのやら。
商店街とともに、砂の下に埋まったか。
ほかのひとたちといっしょに、空に昇ったか。
紅茶の香りがする、花の、花びらを毟られて、消えることはまずないだろう。
春。
地球は、ミルフィーユ。
ふたり