煙草屋とジーンズ

短編です。

  ため息と一緒にやる気を吐きだした午前10時
「はあ~」
5月1日の金曜日、私は長い髪を後ろで結んだ。
昨日読んだモデル雑誌に書いてあった、よくあるキャッチコピー、ジーンズは使うだけ使用者に合う雰囲気が出る。
なんて、そんなものか?
ただの色おちとキズとも言える。
そんなとがったした持論を持ちつつ私は店頭に立つ。
いつも通りポーカーフェイスで、店頭の窓口(会話口と呼んでいる)で前面に広がるオシャレな商店街の
ショーウィンドウに並ぶマネキンのモノマネをした。
家の中を見渡せば、奥にはさびれたキッチンに、誰もいない、お姉ちゃんも、
二階に続く階段を上るのは、時々あそびに来る親友とその猫くらいのものです。
 お客さんは午前中それなりには多かった、
だって今日は金曜日だから、お客さんだって適当な時間にに家路につく。
暇つぶしにみる窓の内側の、コルクボードには親友の落書きとイラスト、かわいいデザインの洋服。
ため息を吸い込んだ深呼吸は、息苦しいけれど、たばこを吸うような気分かな。
外から見れば分からないけど、本人はそれでいい。


昨日は大雨であとの臭いがひどかった、
ゴムが焦げたみたいな土の匂い。
この煙草屋はせまくてやたらみじめで、都市には似つかわしくない。
 ビル群に挟まれたこの店にわざわざ尋ねてきてくれるお客さんは、物好きか
郷愁を求めた常連客くらいのものだから。
うさんくさい張り紙は、うさんくさい人間を遠ざけるために張っている。
「モシモシブラザーズ」
誰も知らないバンド。
窓口の枠、年輪に意味はない、だって木材じゃない、ただの柄。
もっと遠くからみれば誰だってわかる、この部分だけ木のわけがない、他はレンガ。

昨日の夜から電話がきた。
「弟の相手をしてよ」
叔母からの短いセリフ、そういう事なんだろうと思っていたけどやっぱり少し面倒だ。
準備はしてきたけれど。
癒えない出来事で揚げ足を取られるのは嫌いだ。
癒えない傷。
祖母がなくなってずっと。



 今日も毎日の退屈にうだうだと悲観している。
やればできる事もあるけれど、まだ二年だし。
こういう時に揚げ足をとりにくつ奴がいる。
嫌な思い出が目を光らせているよ。
これまでの人生はとりとめのない平凡で変わりにそれなりに全うしてきたつもり。
本当はごまかし。
周りに合わせるのも得意、自分を隠すのも得意。
初めて付き合った人は、最低最悪の人間で1週間で見限ったけど、社会勉強になったし。
退屈を埋め合わせるにはそれなりの趣味に没頭するのもありかな。


 店の会話窓の裏側にかかる懐中時計は、外のお客からは見えないんだ。
左側にあるからたまに触るとゆれて、さびた秒針が時代を感じさせる。
祖母がなくなってから、1年後にとまったけど、私は電池の管理をしない。
こんな時代だってのにデモやらホームレスやらはよく見かける、
私には分からないんだ、分からない事は、口に出すと痛い目をみる。
これらの原因はひとつの糸でつながるのではないかって。
それは間違いないし、知ってる、多分考える事を放棄した世界だから。

懐中時計には爺さんの名前が刻まれている、私にはろくでなしだったけど、戦争じゃ英雄だったみたいだ。
それこそ私には遠い記憶で、たまにくるおじいさんだと思っていたし。
それよりも、英雄じゃない顔が気にかかる。


午後11時までこんなことを考えながら過ごしていた。
気にかかる事を忘れる為に、いつも空を見上げては雲の数を数えたりする、
そうすると落ち込んだ時も少しはましになる。
……姉に謝るべきだっただろうか?それともさっきと同じく昨日の天気を嘆くのが楽か?
すまし顔でいると友達のアンリが尋ねてきた。
「やあ。ソフィー」
要らないっていうのにいっつもスケッチブックの絵を店に来る、デザイナーだから。
「私、また新しい絵をかいたの、見てくれる?」
「私はいらないよ」
困った顔をして時がとまるアンリ、会話窓に少しだけ顔をだすわたし、
体をひねる気分さえおきない。
「え?」
傷付いた顔だと思った、だけど傷つかなかった、
私は体をひるがえし、椅子を左むきに回転させて、人間の正面に向き直る。
だって私が懐中時計を目の前にぶら下げながらしゃべったから、だから彼女は、傷つかなかった。
彼女にだって見せた事はない時計だ。
「……それ、おじいさんの」
「冗談、魅せて、あなたの洋服」
そして私は人の冗談とくだらない自慢話をきいたあと、
何故かそれなりに気分がよくなって
部屋の整理を始めたんだ、
店をしめて、本当は用事がこの後あるけど、昼過ぎからだし、あの人らの相手はかなり面倒だし。


気にかかったのは少し散らかった部屋、どれほど片づける事ができれば、心の整理ができるだろう。
最低男のプリクラが出てきたのですぐに捨てて
机の上の本、3ページ目の押し花の中に姉との思いでを重ねる。
 ツバキ、姉はいつも私を外へ連れ出すとき、にとってもおいしいものがあるっていいながら手を引っ張った。
5歳くらいの小さなころにその蜜をたべさせた、
親はよくとめたけど、2年後には蒸発した。
だからそれが病気の原因になるかどうかははっきりとわからない。
私は店の窓口にもノレンの一つでもつけたいんだ、花柄の香水の匂いのする
だって、姉みたいに、うっとおしいくらい髪も伸ばせないし、香水なんて臭いとおもうから
でも男はうっとりするけどね。
その顔をみて、私もそれがあこがれだと知るわけで、あのまどろっこしさとしつこいまでの女らしさのどこがいいのだろう。
オマケに中身はサバサバしてる。

小太りのオヤジさんが閉まっているっていってるのにタバコを買いに来た、この人は哀愁屋。だ
(哀愁買います、ください)
数年前の流行のバックをいまだに愛用している、ものを大事にする人
いつもここいらの昔話を聞かせるけど、正直飽き飽きしているって態度で追い払う
本当は飽きてないよ、態度で示さないと帰らないから。
しまいには奥さんと別れたときの話で泣き出すから。
「私はねえここの前のレストランでよく食事をとっていたんだ、けむたがられてねえ、なつかしいなあ」
これは思い出の片方マ〇ボ〇
いつだってもくもく煙を出せるよ、怖いのは法律だけ。
燃えるような恋をしたこの人は、私のような半端物の人生を知らない。
だからその全容を、惜しげもなく人に話すのだ。


適当に大学をでて、適当に家業をついで、まだ過去に縛り付けられて
社会に抵抗もできない。
とがらにもない事を考えたので、自分はもう少し戦略的だなどとよくわからない自信を抱えてまた店を閉める。

二回に上り部屋の左奥
突き当りの棚の上から段ボールを下す、記憶の棚だ。
ここに確か、大事なものがあった。
宝箱。
祖母の写真が出てきたのでふと、また現実逃避、
祖母はサッカーもしらないのに無理やり遊びを覚えさせようとして
サッカーボールをその年、6歳の年に私にくれた。

ついでにでてきた、植物のタネ、これは。
たしか大事な宝箱の中にいれておいたはずだ。
箪笥の上、整理に取り掛かった段ボール箱のおいてあった場所を見上げると
そこにふたの空いた宝箱だ、ふたはタンスと壁との間にころがっていた、
後で取り出す事にしよう。
(覚えていれば)
だらしなくあけっぱなしの宝箱は
いまの私みたいだって、少しわらって、火のつけないたばこを咥えてみた、これは一番人気のないタバコ、うれのこり。
味はツンとしてる、
あの普段は天然ボケの、のほほんで、言いたい時は言いたい事をいう姉みたい。

その植物のタネは、祖母の故郷の、こんな都市部じゃなくもっと田舎の手工芸品で
作り物なんだけど、かなり精工、緻密に作られていて、私はいつも感心していたんだけど、
半分ずつ分けて作られているみたい、黒いひまわりの種。彫刻みたいな模様が細かくついている。
透明なかざりつけも多少ある、きっと何かしらの石がうめてある。
その表面に何か文字がかいてあった、
そういえば祖母はこういう細かい事が得意だったねって思って
眼鏡を取り出して文字を見つめる。
目が悪いし、良く見えなくていらいらしたけど、
気付いた瞬間、迷ったけど耐えられなくて、
トイレにかけこんだ。
思い出したくない事だらけで、吐きそうだった。

そのあとめんどくさかったけど
食事も適当につくって
また店番をしてた。
昨日の残りと適当にサラダをつくれば過ごせる。
アルバイトは雇わないし、こうやって雲を眺めるのも面白い、
いつのまにか3時になってる。
ひつじだって数えられるのも飽きてるから、私は雲を眺め数える事にした。
警察官は犯罪者の数を数えて、
ホームレスは残飯の数を数えている。
有名人はラジオテレビの出演数を数える
私を批判する人間は、私の落ち度を数えて、自分の過去の成功を数えている。
白々しく知らない振りをして、私はニコニコしているわけだ。

30分後、曇りがちな空にあきて、押し花の本をもってくる。
この本は前半半分にしか押し花がないけれど、昔を思い出す。
姉はよく、祖母が私をひいきしているといった、私にはよくわからなかった、
でも随分大人になってから気付いた、そうだったかもしれないと。
姉は妙に男っぽいところがあって、髪型もショートが好きで、ジーンズも好き、
だから私は真似をして、たばこが駄目だっていうから、コーヒーを飲んでる、
今日はまだだけどね。
私は
姉が祖父ににてるとおばあちゃんもいってたのを思い出す。
だからきっと苦手だったんだ。
姉の事。


お婆ちゃんは、戦争にいってから祖父は変わったといった、
お婆ちゃんは物知りだった。
「心の変わってしまった人は、回りの人間には簡単には変えられない
自分自身でさえ、変わった事に気付いている事はあっても
変え方なんてわからない」
それでもまわりはそこに感情を重ねるのだ、
自分勝手に、
(昔のあなたに戻って)って。
私は、戦争の辛さがわからない。

私の知る
祖父は、少し壊れていた。
お婆ちゃんがしかるから。
それまではお酒もやらなかったのに、
遊びまわって。女もいっぱいつくって
いつの間にか帰ってこなかっくなった。
お婆ちゃんが言ってた言葉が、あれだっただろうか?



祖母の
姉と私のひいきと雑な扱いは、今にして思うと、顕著だった。
「おじいさんは私を捨てたから、男には気を付けな」
そうやって姉にいつも言い聞かせて、
私はその意味がわからないほうがいいって。
あんたはこの店をつぐんだって。

前回、あの箱をいつ開けたか?
祖母が死んだあとだったはず、
その時メッセージはなかった、
だとすればあの文字は、祖母のものではない。


文字が脳裏をよぎる、あれは誰の、どういう意味の、言葉か。
「誰でも同じ、人は本当に求めたものを決して手に入れられない運命を持つ、そしてその努力さえ見透かしている人間からみれば
 無駄な努力よ」
「あのメッセージ、バカみたい」
下品で汚い言葉、でもユーモアには、センスがある、
人々が抱えてきたものが全て表現で映し出されるなら、私は隠す必要がない。
どうせ私に興味を持つ人間は、私の全てに目を通さないのなら、目を通すつもりがある人間に語り掛けるのだ。
タネのメッセージは、祖母が姉によく投げかけていた、言葉。

弟がいつのまにか目の前にいた、
少し気持ちが悪くて涙ぐんでいるであろう私に気付かずに
キャンキャン何かいってる。
「モンジャマンがね!!モンジャマンが今日はかった!!」
(あーはいはい)
弟よ。
もっともこれは呼び名で、本当はいとこだ。
「3回まわってワン」
そう命令してみた、目の前にはニンジン、ではなく飴玉を右手でぶーらぶら。
「ジョークでしょ!お姉ちゃん」
ため息とわたし。
「ふう」
そういう態度をとると弟はくるくるとまわって。
「ワン!!グルルル」
私は爆笑してキャンディをさしだすと。
叔母がかくれていたのか上手の壇上からから顔をだして。
二人ともをぶった。
「何がいけないの!!」
わめくサム、弟の名
私の名前は。ソフィーだよ。

「1甘やかさない 2変な事をさせない」
結局私はよけい1回ぶたれた。

私はそのあと叔母に説得されていたが、ぶつくさ文句を言いながら懐中時計で身を守る。
嫌な顔をするのも見飽きたので。
しぶしぶついていく事にした。
「ディナー、お上品とか無理だなー、ガツガツいこう、弟」
ゴチン。


うさんくさいんだ、何もかも、誰もが生き方を自分で決めたわけでもなければ
人の事なんてわかるはずもない、
だけど生き残る人間は知ったかぶりをするばかり。
だからこそ私はは、自分に都合のいいように世界に自分の居場所を見つけて、自分勝手な名前をつける。
要するに最低な世界の一部。
あの煙草屋は鳥かごだし。


 こんな人形みたいな人生は嫌になる、でもいつか、お姉ちゃんみたいになりたい。
本当は焦ってるんだけど。
そんなこんなで気付いた、
吐き気がすることはよくあるけど
お婆ちゃんからじゃなく、母からタネをうけとった姉は
子供の頃にそれを落として壊してしまったんだ、
変わりをあげるという約束をして、結局果たせないまま母は死んでしまった。

姉は、母がすきだったな、そんな事を少し思い出した所で
面倒くさがりの私は、弟の腕をひいて
面倒くさい叔母さんの後ろをこそこそと歩く。
バラをもって歩く、母の日の日曜日は皆予定があるから、
死んだ母への感謝を届けるために。
日にちも、曜日も違う、適当に名前をつけた母の日に、

煙草屋とジーンズ

練習中です。

煙草屋とジーンズ

短い作品をつくって文章や物語の練習をしようと思ってできるだけ単純にしたつもりですが。 説明不足やら何やらは必ず出てくると思うので、まだまだ練習を重ねたいと思います。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-04-20

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