ねむる

 晴れやかに、うた、をうたう、女の子、と、かろやかに、リズミカルに、おどり、をおどる、ねこ、と、ねずみ、がいるのは、学校の、教室の、教壇の上、であり、黒板、を、左から、右まで、みっちりつかう、日本史のせんせいの、足を、うまいぐあいによける、流れるように、おどりをおどり、気持ちよさそうに、うたをうたう、二匹とひとり、はどうやら、ぼく、にしかみえない、まぼろし、で、幻覚、ともいう、けれど、幻覚、というとなんだか、かわいげ、がないので、まぼろし、ということに、しておくとして、春、が、早々と、過ぎ去ろうとしている、夏のような暑さの、四月、も半ばの、木曜日、ぼくは、気づけば、あくびばかり、している。
 春は、ねむいよね。
 ねむいものだよね。
 ねむっても、ねむっても、ねむいよね。
 ねむっても、ねむっても、ねむっても、ねむいものだよね。
 ねむっても、ねむっても、ねむっても、ねむっても、ねむっても、ねむっても、ねむいんだよね。
 クラスのみんな、には、みえないものがみえる、のは、どうしようもなくねむい、から、なのかな、女の子は、さくらの花を想わせる、淡いピンクのスカートを、揺らし、ねこは、二本の足で、よたよたとおどり、ねずみは、ぴょんぴょん、飛び跳ねて、いる、ねこ、と、ねずみ、は、意外と仲良し、と、日本史のノートに、書きつける、春なのに、夏みたいな、日、せんせいの、ことば、なんてものは、きこえない、きこえるのは、女の子の歌声と、ねことねずみの、ステップ、足踏みをする、音、それから、ときどき、くすくす笑う、声、かすかに、
「ねむいなぁ」
という、つぶやき、は、おそらくとなりの席の、ひと、にんげん、です、あたりまえ、だね、この教室は、にんげん、が大半を占めている、女の子も、中身はにんげん、ではないかもしれないけれど、すがた、かたちは、にんげん、なので、にんげん、に、カウントし、ねこ、と、ねずみは、どうぶつ、で、それから、もしかしたら、ちいさな、虫、目にはみえない、微生物、が、だれかのふでばこや、通学かばんのなかのスポーツタオルや、教科書の表紙や、机の天板や、うわばきの中敷きや、せんせいのおなかのなか、なんかで、うようよ、しているかもしれないけれど、でも、にんげんからすれば、ここは、にんげんの支配下、である、きゅうくつだ、生きているものが、ひしめきあっている、表面上は三十三人、ぼくにとっては、三十三人と、ひとりと、二匹、宇宙に存在する、すべてのもの、すなわち、万物、的にいえば、きっと何千、何億とうごめいているだろう、生命。
 そういえば、クラスメイトのことや、学校のせんせいのことを、にんげん、と呼ぶと、なんだかぼくが、とくべつな存在であるように、思える、選ばれし者、の気分、ぼくも、にんげん、である、が、ぼくは、みんなとはちがう、にんげん、なんだぞ、ってね、アア、ねむたい。

ねむる

ねむる

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-04-19

CC BY-NC-ND
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