ねこになる

くうきを、たべる、
ひとが、いる、
せかい、
で、
あたしは、
ねこになる、

くうきをたべる、ひと、
というひとは、ひとで、
主食は、くうきである、
米ではない、
パンでも、
麺でも、
生まれたときから、無意識に、
あたりまえのように体内にとりいれている、
くうきである、
くうきをたべるひとがあつまる、せかいに、
あたしはやってきた、
たまごかけごはんとか、ハムチーズトーストとか、たべない、
ことをしったとき、あたしは、
このひとたち、なんかかわいそう、
とか思った、
思っただけで、ことばにはしなかった、
のは、
かわいそう、ということばを、
だれかに投げかけることは、
あまり、好きではないから、
もしかしたら、そのひとにとって、
かわいそう、なことでは、
ないかもしれないから、
くうきをたべるひとたちにとって、
たまごかけごはんを、たべたことがないことも、
ハムチーズトーストの味を、しらないことも、
べつに、ひとに同情してもらうほどのことでは、
ないかもしれないから、
そんなもんより、くうきのほうが、うめえや、
と、
思っているかも、しれないから、
だから、思っただけ、

あたしは、ねこになる、
くうきをたべるひとのなかで、西の方言を、
つかうひとがいた、
ほんまに、おねこさまやな、と、
あたしのあたまを撫でながら、わらうひとだった、
ねこ、
といういきもののことを、このせかいのひとたちは、
神聖視、
していた、
だから、
おねこさま、
と呼ぶ、かみさまみたいに、

おねこさま、
あしたもどうか、
おいしいくうきがたべられますように、
と、
このせかいのひとたちは、
各家に一匹いる、らしい、
ねこの銅像に、祈っているのだけれど、
さいきん、西の方言をつかうひとは、あたしに、
あたまを、さげるようになった、
正座をして、
ひたいがこすれるくらいに、祈った、
あたしたちのせかいにとって、
おいしいお米が、
たべられますようにって、
五穀豊穣を願うのと、
おなじように、
くうきをたべて生きているひとたちにとって、
くうきは、
からだのなかにとりいれても安全で、
栄養価の高いうちに、たべられて、
そして、ありあまるほどに、存在していること、
(くうきを、存在する、と表現するのは、おかしいか)
が、
たいせつである、ことを、
あたしは知った、
このせかいには、
あたしの知らないことが、
まだまだたくさんあって、
いろんなひとがいて、
いろんな価値観をもつひとがいて、
いろんなたべものがある、
のだから、
たまごかけごはんの、あの、たまごにしょうゆをちびちび足して変える、絶妙な味加減を、
ハムチーズトーストの、とろけるチーズがとろりと溶けて、パンの耳をつたい、トースターのあみにこべりついたときの香ばしさを、
知らないひとがいるのも、あたりまえだよ、
ということ、
ねこを、かみさまと崇めたって、いいじゃない、
ということを、
あたしは、かんがえる、
かんがえながら、西の方言をつかうひとのあしに、
すりよる、
西の方言をつかうひとは、あたしを、やさしく抱きかかえる、
それから、こどもを甘やかすような声で、

きょうは新鮮な魚が手に入ったから、
おいしく料理したるさかい、
待っとってや、

と言って、あたしのあごを、くすぐった、
魚はあんまり好きじゃないから、肉がいい、肉くれ、
とあたしは訴えてみたけれど、聞き入れてくれなかった、
だって、
あたし、
ねこになったから、
にゃあ、
にゃあ、
としか、鳴けないもん。

ねこになる

ねこになる

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-04-16

CC BY-NC-ND
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