カウンセラーと木ノ子

寝台の上に仰向けの女が一人。ゆったりとした呼吸に従い、張りのある胸が上下し、その吐く息に合わせ耳元で男が囁く。催眠療法である。この女ハルカは木ノ子に異常の恐れを抱き、その由を知るため此の心理療法士ワタベを訪ねた。

ハルカの瞼の充分に緩んだのを視たワタベは、ネクタイを整えつつ、耳打ちをした。その言葉を聞いて間も無く、ハルカは眉間に皺を寄せ、呟く。
「先生、思い出しました」
ワタベは軽く身を乗り出し、訊ねた。
「何なのです」
ハルカは押し黙っている。その瞼の紅く、何かに抗うように固く結ばれているのを認め、ワタベは静かに告げた。
「ハルカさん、私はあなたのような人を癒やすためにカウンセラーを志しました。人助けと思って、教えてくれませんか」
その言葉を聞いて、ハルカは閉ざしていた口を緩め、ぽつりぽつりと語り出した。幼いころ受けた仕打ちのこと。そのとき見た男のもの。やがて、言葉は途切れてしまい、きゅっと結んだ瞼の端から、冷たい涙が一粒、浮かんでこぼれた。

その雫の落ちる前、ワタベはハルカの手を取り、しっかりと握った。
「話してくれて有難う。きっと力になります」
ハルカは何も言わず、手を握り返した。二人の間に言葉はない。ただ、ハルカの涙は暖かな色を帯びて流れ、ワタベの一物はギチギチに勃起していた。

カウンセラーと木ノ子

カウンセラーと木ノ子

原稿用紙一枚半。三分で読めます。

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • コメディ
  • 青年向け
更新日
登録日
2017-04-08

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