ピアス

プロローグ

その場所に
なくてはならない
人となれ

誰かに本気で必要とされた事は
ありますか?

私は実在する。ユウもヒロもこの世にいるということ。そしてユウとヒロの間に隠し事は一切ない。
これは私がヒロに宛てたラブレターでもあり、自分に問いかけるツールでもあり、前に進むための乗り物である。
どうかこの想いが届きますように。
お願いだから、どうか二人を離さないで。

2/26 嫉妬

僕は彼女にキスをした。僕は僕じゃないし、彼女は彼女でもない。僕は私、彼女は友達。でもあのキスをした時の私は僕だった。

2017年2月26日 ラブホで女子会
日々の生活に不満を抱え、いつも何か新しいモノを求めアツい不倫を繰り返すルミ、波瀾万丈な過去をなかったことにしたかのように平凡な主婦のヒロ、対照的な二人。それに破天荒なユウがこの私。露天風呂、広いお風呂、岩盤浴、ダブルベッドが2つ設備された、プレミアムスイートなラブホで、たくさんはしゃぎ、たくさん写真を撮る。ホテルが貸してくれたチェキは10枚。カップルっぽく撮ろうと、お風呂の縁に座って写真を撮ろうと言い出す。ルミと私との写真は普通のカップル。ヒロと私の写真は恥ずかしそうに初々しいカップル。なぜかルミとヒロのカップル写真は無い。その後、いつも通りお酒を飲みながら、仕事の話、家庭の話、気になる男の話をしていた。
ヒロはルミが羨ましいみたいようだ。このまま女として枯れたまま生きていくのは嫌だと嘆いていたヒロは、天秤座だけど何かを天秤にかけるのは苦手。不倫相手を作るとかパパを作るとか、今まで散々聞いていたのに。今日だけは聞いていると心がざわついた。致命傷与えたのは私の友達マナとならHしても良いと言う発言だった。もう何年も前から何度も聞いていたいつも通りの会話だったのに。私は嫉妬する。今までは少しイラっとしただけだった。でも今日だけは違う。話が聞いていられない。おしゃれなラブホは部屋がとてつもなく広くて逃げ場はたくさんある。2人用の岩盤浴と露天風呂までついたスイートルーム。私は2人が話している場所から遠く、用もない洗面台やお風呂場に行ってみる。その後、時間を流れ、それぞれ自由に過ごし始めた。ヒロと私は2人で岩盤浴の部屋に行く。何事もなく昔の話をしている。少し経って様子を見に来たルミ。なぜかドアを開ける時は、ものすごく気をつかって、いきなり開けるのではなく、ワンクッション入れ、さらにソーッと開ける。ルミはヒロと私の二人はいつか何かあるであろうと思って疑っているのかもしれない。
それから、また時間は立ち、今度はルミは岩盤浴の部屋で寝ている。また、さっきの嫉妬が込み上げてくる。でも、気にしないように心を落ちつかせる。何をしても、それでも治らず、私は体からこみ上げてくる衝動を抑えるべく部屋をウロウロと歩いてみる。マッサージチェアに横たわって気持ちよさそうにしているヒロを見て、上に乗ってキスをする。見るんじゃなかったと若干の後悔。
「どうした?何があったの?」と言われたが私の答えは「別に」だった。別になわけもなく、嫉妬したと説明できるわけもなく、思わずキスしてしまった自分の行動に頭が追い付かず、頭の中はグルグルしている。ただ、強く思ったのは取られたくないという感情だった。
その後、カラオケに移動して、いつも通りの時間が流れる。ラブホで撮った写真を見て、みんなで分ける事に。ヒロと私の写真を私にあげるとヒロは言った。「どーせなくすからいらない」と私は言う。でも、本当は見たくなかった。見始めたら、ずっと見ていたくなってしまうから。

ヒロとの出会い

運命を信じますか?
永遠を信じますか?
無償の愛を信じますか?

1995年4月
行きたくもなかった私立の女子高に通う。仲の良い友達は3人ともスポーツ推薦で他の高校に行ってしまった。毎日はつまらない。
ある日。突然、背が高くて香水が香りそうなロングの髪をなびかせた女が廊下の向こうからやってくる。「ユウかっこいーっ!」とすごい勢いで近付いてくる。私は友達の背中に隠れた。まるで不審者扱い。やっぱり尻軽そうなギャルで友達なんてなれるわけないという最悪な第一印象。私はこの不審者ヒロに追い回される日々をこれから送る。
私は部活に入部してみた。友達が出来て、どうにかやる事も出来て、充実しつつある。私のテリトリーである部活にヒロ登場。なんであいつか私の部活に??と思いながらも、ヒロはものすごく運動音痴で見ていられない。でも、どうにかがんばって努力している姿は見られる。私を好きだから一緒に部活の入ったヒロは不純な動機な上に運動音痴の為、4日で退部した。
毎日のように「ユウ好きーっ!」とまた追いかけられる。逃げまくる私。なんなんだこいつはと思いながらも、ヒロの優しさを感じて行く度に距離が縮まり、不審者ではなく友達になっていく。電車で送ってくれる日もあった。そのうち、私の家にも遊びに来るようになる。
生きているのが辛くて、忘れたくて1995年9月
記憶を消したくて仕方ない日がやってきた。酒でも飲むしか手段は見つからなかった。飲めもしないビールを大量に飲む。電車が止まってしまう程に台風は強くなってきていた。ヒロに電話する。「淋しいから来て欲しい」と甘えた。私の事を好きなヒロは即答で来てくれると言った。悲しくて悲しくて仕方なかった。淋しくて淋しくて仕方なかった。それでも飲むしかなかった。台風のせいで最短距離で来れなかったヒロは時間をかけながらも到着した。保育園で待たされて、やっとお迎えに来たママに会えたこどものように安心した。この人といると心地よいと思った。台風の中無理してでも来てくれるヒロだからではなく、その日はヒロじゃなきゃダメだった。私は雨で濡れてしまったヒロの唇にキスをした。でも、私はヒロの想いを利用した。淋しさを埋めるためだけに。でもその頃、私には好きな人がいた。だから、ヒロの気持ちには答えられなかった。

ユウとの出会い

偶然という名の必然
縁という名の運命
出会うべくして出会う人

1995年4月
ケバ高と呼ばれる、私立の女子校に通う。勉強なんてしなくないけど、バカだからこの学校にしか入れなかった。この学校の制服はかわいい。都内でベスト3に入るくらいの人気で雑誌に載ったりする子もいる。この制服があるから仕方なく通ってやろうかと思って、学校生活が始まる。でも、たいして面白い友達もいない学校はつまらない。
6/4ユウを好きになる。
「ユウめっちゃカッコいーっ!」と毎日のように追いかける。
女子校なのに、めちゃくちゃカッコいい男子みたいな女子。いつも真顔でクールな人。八方美人ばかりの、くだらない上部だけの友達とは違い。ユウはいつも一定の常温、いやっむしろ低温をキープしていた。でも、たまに笑う笑顔は太陽みたいに明るく、こどもみたいに無邪気だった。でも、滅多に笑わない。
6/8ユウの部活に入部
クラスが違うユウと仲良くなるためには、同じ部活に入るしかないと思った。運動音痴なのに、ハードな運動しなきゃいけないのは辛い。でもユウの近くにいるためにはと、とりあえず頑張ってみた。
6/21 4日間で部活を退部
がんばってはみたものの、やっぱり私に運動なんて無理だった。カッコいいユウの姿を近くで見れなくなるのは辛い。
7/8 ユウと友達になる
部活のかいあってか、ユウと仲良くなる事が出来た。ポケベルでやりとりしたり、電話もするようになる。
8/1 バイトを始める
この頃からユウの家に頻繁に遊びに行くようになる。バイト先の先輩から告白され、付き合うようになる。でもそれは、ユウには秘密だった。
彼氏は出来たけど、ユウの事は忘れられなかった。
9/17 酔ったユウから呼び出し
珍しく酔っぱらったユウからどうしても今すぐ来て欲しいと連絡が来る。台風の中、親に止めらたが、完全シカトで向かった。早く行きたいのに、いつもの電車は止まっている。やっとの思いでユウの家に到着。まさかのキス、でも、この人は酔っている。酔った勢いとは言えども、嬉しいもんは嬉しい!
11/7 退学しようか悩んでいる
すでに退学したタミに時間をとってもらい、会いに行く。人間関係がうまくいかないと相談した。それでも解決はしない。ユウに誕生日プレゼントを渡していなかった。いや、会う口実が欲しかった。ユウの家に行く、いつも通りベッドに並んで座り、少し遅れたプレゼントを渡した。ユウには学校の悩みを話していなかった。タミに話して来た帰りだと伝えて、言えなかった悩みを全部吐き出した。この人なら何でも話せると思った。ユウは静かに優しく話しを聴いてくれた。話していると涙が溢れてきた。見られたくないからベッドの上から下に降りて涙を見せないようにした。そんな私を見て、ユウは黙って後ろからタオルを渡し、拭き終わると抱きしめてくれた。女子にはない安心感と包容力を持っていた。この人になら、全てを預けられると思った瞬間、キスされた。この時、ユウは酔っていなかった。

3/3 ゲーム

ミイラ取りがミイラになる。想定外の事はたまに起こる。刺激は人の心を活性化させ、やみつきになる。
枯れ木に花を咲かせましょう。

2017年3月3日【ゲーム】
若干モヤっとする気持ちを抱えながらヒロのうち、松本家にお邪魔する。優しい旦那と2児が住むステキな家。上の子が幼稚園にいる時間。下の子は家にいた。
ひな祭りだからケーキを買って来たと言って可愛いケーキを机に置く。
本当はヒロが食べたがっていたスイーツを探そうとコンビニに寄ったけど、そのスイーツはなく、仕方なくかわいいケーキを買っただけだった。下の子は自分の部屋で遊んでいた。普通にいつも通りの時間が流れた。話しても話しても話題はなくなかった。でも、いつも通りの一日にはなるはずはなかった。
今日は企んでいた。ヒロをドキドキさせてやろうと思っていた。ヒロは前から女同士のSEXに興味があった。色々とどんなプレイなのかとか、突っ込んで聞かれて困った事もある。そこで、枯れ木に花を咲かせましょうと考えついたゲーム。ただ5分間お腹と背中にキスをする。私が調子に乗ると困るので、手は使ってはいけないというルールを勝手に設けていた。
下の子は自分の部屋で遊んでいる。もうすぐ上の子を幼稚園にお迎えに行く時間が迫る。意を決して「ゲームしよう」と私はヒロに言う。まあまあとにかくどうぞと1階のトイレにエスコート。とてつもなく狭い。簡単にルールを説明し、時間で終了出来るように5分間で終わる音楽をかけてゲームスタート。恥ずかしいというので、目隠しをヒロにする。服をめくり、キスをする。一瞬にしてゲームを始めた事を後悔する。なぜなら、この肌は私の肌と合ってしまうと解ってしまったから。調子に乗ってブラを外さないように、手で触れないように細心の注意払いながら続ける、キスの嵐。「恥ずかしいから止めようよ」と言うヒロ。「ダメ、やめない」と言う私。恥ずかしいと言われると私まで恥ずかしくなる。それでも時間はまだ3分ある。そもそも、私がヒロに触りたいだけだった。ただそれに理由をつけたかった。お花を咲かせる爺さんになるはずが、お花が咲いてしまったのは自分の方だった。音楽が終わる。「どうだった?」と私が聞く。「恥ずかしかった」とヒロが答える。今のはフルコースのうちの3%、全部してしまえば恥ずかしいどこの騒ぎではない。不完全燃焼の気持ちを抱え、トイレのドアを開ける。上着を来て上の子のお迎えに付いて行く。玄関で下の子の靴を履かせるヒロ。また込み上げて来た衝動に負け、下の子を挟んでキスをした。「あんた!?なにやってんの!!」と怒られる私。ここが松本家の玄関だと一瞬忘れてしまっていた。

心の居場所

家は安らぐ場所であるべき。
親はこどもを守るべきもの。
人はもらった事があるものだけを
人に与えることが出来る。

1995年9月
バカ高に通う私とルミとフミ。同じ痛みを抱えたもの同士絡まらずにはいられなかった。みんな家が大嫌いで帰りたくなかった。家庭環境が最悪なやつらが理由もわからず、ただ引き寄せられるように仲良くなった。
私は家の近くのコンビニでバイトをしていた。そのバイト仲間とよく飲んでいた。飲みまくっていた。そこへ、ルミとフミを連れて行くことにした。記憶がなくなるまで、ありえないくらい酒を飲んだ。悩みを話すわけでもなく、ただひたすら飲んで騒いでいただけだった。ただ仲間と時間を共有しただけだった。
飲んでしまうと、嫌いな人と以外キスしまくっていた。酒に飲まれても嫌いな人を見分けられる力は素晴らしい。私は酒が大嫌いだった。こんなもの世の中からなくなってしまえば良いと思っていた。そう思っていても、記憶をなくす為に、辛い事を忘れる為に酒を飲んだ。父と同じだった。
私の父はアルコール依存症だった。酒に溺れ、暴力を振るい、家はめちゃくちゃだった。自分が生まれた意味も分からず、自分が女を好きだということも認められず、とにかく苦しんでいた。独りでなんていたくなかった。父に負けたくないと男っぽくしていた。強さは男らしさだと勘違いしていた。複雑な感情を知られたくなかった。真顔でいることが常温だと思っていた。涙を流さなかった。泣くのは弱いからだと勘違いしていた。すべての感情と欲求を、いつもいつも抑制していた。そして、心にはものすごい怒りを抱えていた。
酒と仲間との時間。それは心の居場所であり、辛い事を忘れられるかけがえのない時間だった。

この時、ヒロはルミとフミに焼きもちを焼いていた。とにかく、ものすごく怒っていた。

3/15 半分の告白

恋をすると景色が鮮やかに見える。
恋をすると言葉が溢れてくる。
恋をすると心が切なくなる。
恋は人生のスパイス。

2017年3月15日
私は昨日タイから帰って来た。いつもの友達と3人で行ってきた。温かく陽気な国でも、私はヒロの事を考えていた。本気でヒロを好きになってしまったんだと改めて感じて帰ってきた。どうやって伝えようか携帯にメモまで取って。下書きは完璧に出来ていた。そして今日は、お昼からヒロとルミと松本家でホットケーキパーティーとネイルレッスン。また、毎週のように松本家にお邪魔している。文字通り、邪魔していると密かに思いながら…。ヒロとこども2人を連れて買い出しに行く。ルミは遅れるらしく、話す時間が出来た。こどもたちはテレビの前で遊んでいる。ソファーにヒロと二人で並んで座る。肩が触れるくらい近い距離で私は話し出す。
こどもたちに聞こえてしまうとマズいから、キスはCと言う言葉に変えて話し始めた。
気持ちに答えなかった後悔、マナへの嫉妬、所有欲、独占したい、他の誰かとHするのを聞くのが絶対に嫌、ドキドキを与えたい。最後の夜は看取って欲しい。
嫉妬からのキス、今までも少しはイラついたけど、2/26ラブホで女子会で大きく変わってしまったこと。ドキドキさせようと思った3/3のゲームのせいで、私がドキドキしてしまったこと。好きになってしまったこと。ヒロは私の話を真剣に聴いてくれていたが、半信半疑でしかないようだった。とにかく納得いかない、分からない、そればかりが頭にあったみたいだった。ルミが遅れて登場した。話は、ものすごく中途半端なカタチで終わってしまう。
この時のルミは、うちらに何が起こっているのか、まだ何も知らない。今日はルミのネイルレッスンの練習台。その前にハンドマッサージを私がルミに教える。それを利用して、どさくさに紛れてヒロにもハンドマッサージをした。また理由を作った。正当に触れる理由を。ヒロの手は冷たい、足も冷たい。そこへハンドクリームと私の体温を擦り込んでいく。ヒロの手は身長に比べるとかなり小さい。こんなに手が小さかったのかと改めて感じながら、ハンドマッサージも終わってしまった。もう、触れる理由がなくなってしまった。次にネイルレッスンが開始される。ルミの向かいにヒロ。ヒロの隣に見てるだけの私。別にネイルが見たかったわけではなく。ただヒロの隣にいたかっただけ。いつもヒロはパーソナルスペースを広く取っていた。いつでも人との間にテーブルを挟み、ある一定の距離を保っている。その距離感が淋しくて仕方なかった。私はヒロの心にも置いてあるテーブルをどかして、もっと近付きたい。さっき座っていたソファーのように、せめて肩が触れるくらい近くに、ずっといたいと想っている。

生まれた意味

なぜ私はここにいる?どうして女に生まれたの?どうして女に心奪われるの?女が女を好きになることを、私は私に許してはくれなかった。

1995年9月
私はいわゆるレズビアンである。気付いていたのは15歳、認めたのは20歳。その間の5年間、リオの事を死ぬほど好きだった。でも、リオは私の友達のマナと付き合っていた。いや、正式に付き合ってはいなかったが、それも何ら変わりはなかった。リオは人見知りのひの字も知らない、誰からも好かれる人だった。心優しく、温かく、この人に優しさを教わった気がする。私の父はアルコール依存性。家の中を包丁が飛び交った事もあり、警察を呼んだこともありの、劣悪な環境だった。殴られる度に、私なんて生きている意味なんてない、必要となんてされてないと思っていた。心はいつもハリネズミのようにトゲを抱え、何かあれば刺す準備は出来ていた。家に居場所がなかった私に、私が過ごす場所も心の居場所も作ってくれたリオ。でもまだ、私のリオに対する思いがLOVEだとは気付いていなかった15歳。リオの彼氏にも、同性の友達にも嫉妬していた。心が辛くて仕方ない日は、自宅の屋上でタバコを吸った。この煙に乗せて嫌なことが飛んでいってくれないかと思っていた。悪い事をしていると罪悪感で自分に歯止めをかけられる。いけないことをやっている事実が必要だった。その頃の心はいつも暴れたくて、暴力的で、淋しくて、痛くて、屋上からアイキャンフライして飛んだら楽になるかなと、ふとよぎった事は何十回もあった。そのうち酒も飲み始める。仲間みんなでキス魔になって、楽しく飲んでいた。私は酔った勢いでリオとキスをした。酔っていたからという理由が欲しかった。本当は前からしたいと思っていた。酔った勢いでしたことにしたキスが続いた何ヶ月、ある日「酔ってないと出来ないんでしょ?」とリオに言われた私は、ものすごくムカついた。だって、本当は酔った時しか出来ないから、もどかしかった。こんなに我慢してるのにと思っていた私は「いやっ全然出来るし!」と言った。私はシラフでリオにキスをした。心に雷が落ちたみたいだった。心臓が止まるかと思った。息が出来なくなっても良いと思った。心臓が張り裂けるくらい鼓動していた。今まで抱いていた気持ちはLIKEではなくLOVEだと確信した瞬間だった。それから二人で会う時はキスするようになっていった。それでも女子を好きになった事実は、私はまだ認めたくなかった。
でも、別にいつ死んでもいいと思っていた人生は、この人と生きていたいと思うようになり始めていた。
それでも、人生上手くは行かず。独占欲の強すぎた私はリオを傷付けてしまう。自分のモノでもないのに、強く冷たく当たり、関係は壊れていく。もう、耐えきれず、リオから離れていく。それでも、まだリオが好きだった。会えなくなっても、ずっと好きでいるはずだった。

3/10 ユウの想い

灯台下暗し
大事なものは意外と近くにある
大切なものは手を離してはいけない
想いは溢れてから気付くもの

2017年3月10日
私の中でヒロは元カノみたいな存在だった。男脳の私は付き合った彼女たちを名前を付けて保存する。世の中のノーマルな女子は新しい彼氏が出来ると多くの人が上書き保存できる。元カノに対しても、たまに嫉妬がある。
今回もそうだと思っていた。大したことではないと。だけど違っていた。他の人に取られるのが死ぬほど嫌だと感じた。私以外に絶対に触られて欲しくないと強く想った。
ヒロと出会ってからの約22年間
、私はこの人に支えられていた。同じように私もヒロを支えていた。ヒロといると心が安らぐ。ヒロと話しているといくらでも何時間でも話せる。一緒にいると楽しい。ただそれだけだと思っていた。
でも違っていたんだ。気付いていなかった。ヒロがこんなにも心に染み込んでいたなんて。一滴ずつ溜まっていった想いの水は、心のコップに満たされてた。そして、溢れるまで気付かなかった。
私は愛している人がいた。オトは私に無償の愛をくれた。私はオトに心を溶かされた。この人以外に愛する人はもう一生現れないと想っていた。でも、違かった。気付いたら私に染み込んだヒロの優しさは胸いっぱいに広がっていた。いつもいつでも、ヒロは優しかった。そして、厳しくもあった。いつも裏表なく真っ直ぐストレートでモノを言う。
ヒロは何回か手術をしていた。死ぬほどの大きなものではないが、私はものすごく心配だった。いなくなったら困るんだよ!それは大切な友達だからじゃなかった。あって当たり前なモノに、失くす前に気付けたんだ。本当に必要なモノで、本当に大切なんだと感じたんだ。
もしかしたら、過去の想いに答えられなかった後悔も含まれているかもしれない。あの時付き合っていれば良かったと。
私は16歳の自分が大嫌いだった。
でもヒロは16歳の私が好きだった。
ヒロは今の自分に自信がないけど。
でも、私は今のヒロだから好きなんだ。
言葉で説明するのは難しい。一生この人の側で生きていたいと。この人を今好きになったのは必然だと。この人が運命の人だと。例え誰かのモノであっても、側にいたい。愛してるって言いたくなる。

もう、止まらないんだよ。
気付いてしまったから。

必然

一目惚れをしたことがありますか?この人に出会うためにここにいると感じたことはありますか?縁が結ばれた瞬間を感じたことはありますか?

1999年4月
大学の後輩オトに出会う。私からのオトは可愛い後輩でしかなかった。
オトは気付けばいつも、私の隣にいた。優しく温かく、毛布みたいに包んでくれていた。
どんどん仲良くなっていく。メールをし、電話をし、家に来るようになった。オトと電話をしていたある日。電話を切ろうとしたら私の頭の中にヒマワリが見えた。その事をオトに伝えると、なんとオトの机にはヒマワリの写真が飾ってあったらさい。もう、これは偶然でも運命でもなく、ただ必然だと想った。この頃、私は週6でアルバイトをしていた。遊ぶ暇はほとんどなかった。疲れていた私はよく昼寝をしてからバイトに行った。そのうちオトも一緒に寝るようになる。オトの体温とまとっている空気は心地よくなっていった。私はリオを忘れられずにいた。苦しい日々を忙しさで誤魔化していた。でも、それは溶かされつつあった。オトは私の言うことを何でも聞いてくれた。どうしてこんなにも優しいのか、分からなかった。本当に良い子だなとしか思ってなかった。
1999年9月
私はオトにキスしてしまう。あまりに無意識にキスしてしまった為、自分からしたくせにオトをドーンと突き飛ばした。自分で自分のしたことに驚き、理解出来ないでいた。オトにはいい迷惑である。ここから自分の気持ちに向き合い、オトが好きになってしまったことを認めていく。
1999年10月
20歳になる前にやり残したことはないかと考えた。そして19歳最終日、リオに好きだったと告白しにいく。ずっと好きだったこと、耐えきれなくなったこと、すごくとてつもなく大切だったこと。それから、私に好きな人ができたことを告白した。リオはあの時の事は墓場まで持って行って一生話すことはないと思ってたと言っていた。生まれて初めての恋は終了した。
1999年11月
オトと秘密の関係が始まる。隠さなきゃいけない恋は楽しい。私はいつも安心していて、いつもドキドキしていた。
2000年2月
彼氏を作ったくせに、オトを手放せないでいた。離れて行こうとしていたオトの手を、どうしても離せなかった。本当は何が大切か解っていたのに。
2000年10月
彼氏に別れを告げる。それからオトに付き合って欲しいと告白した。オトとの関係は元から恋人のようだった。でも、告白はしていなかった。
そして、オトは私の初めての彼女なった。
2000年11月
幸せだったオトとの関係が私の独占欲の強さをきっかけに壊れていく。ケンカばかりして、会わなくなるようになっていた。
2000年12月
ソウとキスしてしまう。この時点でもう二度とオトを傷付けないと誓ったのに破ってしまった自分が許せなかった。散々好き勝手やって、傷付けてきたのに、もうこれ以上は傷付けられないと想った。
2000年12月24日
オトに最後のクリスマスプレゼントを贈り、別れを告げた。

私はオトを愛してしまっていた。この人以上に好きな人は一生出来ないと。「愛してる」という言葉はオト以外には一生使わないと決めていた。
でも、それはもう過去の事。

3/19 最後のキス

体温は心を溶かす。想いは人を動かす。身体は正直。言葉で嘘を付くのは簡単。身体は嘘はつけない。

2017年3月19日
今日は高校の同級生の飲み会。とは言っても、私とヒロとルミに、タミがプラスされるだけ。ヒロは体調が思わしくないとのこと。話もあるからと迎えに行く事にする。私は翌日の予定に備え酒は飲まないことにしていたから、松本家に車で迎えに行った。時間もあるから、約1時間の道のりを下道で向かうことにした。7割たわいもない話で終わり、さすがにまずいと《半分の告白》の続きを話す。ヒロは、私がヒロを本気で好きな事に未だ半信半疑のようである。LIKEではなくLOVEな想いを説明しても、質問で返される。20年も友達だったのに、いきなり好きだと言われて意味が分からなくて、理解できないようで、LIKEとLOVEの違いはどこなのか?女子同士でHするってどうゆうことなの?なぜ、こんなにも枯れている今の私を好きなの?と告白の続きを話すというより、一つずつの疑問に答えていくという方式で想いは確認されていく。質問され続けること約20分、飲み屋の近くの駐車場に到着する。今日はヒロを膝枕させようと、昨日から企んでいた。信じてもらえないかもしれないが、私は生理痛以外の腹痛は治すことが出来る。有無を言わせず、「はいっ、後ろの席に座って」と私、「え?なんで?」と疑問を抱えながらもヒロは素直に後ろの座席へ移る。横並びで最初は話していたが、あと15分しか時間がなくなった。ヒロの肩を掴んで、半ば無理やり私の膝の上に乗せる。左ではお腹の痛いとこに置く。左手に全身全霊の力と念を込め、右手はヒロの頭を撫でる。まだ、質問は続いている。ヒロの頭は重くない。なぜならヒロは私に身体を委ねていないから。ヒロは心も身体も寄りかかるのが苦手というか嫌いで、今までしてこなかったであろうことは想定内だった。私に対してだけではなく、自分以外すべての人に対して、そうゆうスタンスで生きている人である。
もう時間がないのに、ヒロは未だ告白に納得し出来ていない。結局タイムリミットが迫り、飲み会へ向かうことに。3時間のいつも通りの飲み会は私には長く感じた。なぜなら、まだヒロと話さなきゃならない。時間が来て、店を出て、駅前でまだ話す。この辺は女子特有なんだろうか。話半分しか入ってこない私の頭は、違う所へ向かっている。やっと解散。ルミを送り、ヒロの家へ向かう。ほろ酔いのヒロは声がデカい。変わらず、質問責めにあっている。0時、松本家に到着。帰ろうとしたヒロに私はキスをした。旦那とこどもが待っている家の前で。衝動を抑える気が全くない私は、たまに理性が負けてしまう。さすがにここではまずいと近くの広い場所へ移動する。また質問責めにあうと思いきや、今度は友達に戻れないのか?という説得が始まった。私は無理だと主張し続け、ヒロは友達でいたいと主張し続ける。これを繰り返すこと3時間、私のことを嫌いじゃないならキスしてくれとヒロに言い出す。ある意味賭けだった。ただしてみて欲しかったという想いもあったが、そう言われてキス出来るなら、まだ私に可能性があると思いたかった。ヒロが自分からキスするタイプではないと知っていた。だからこそ、頼んでみた。いやっ、おねだりしてみたと表現した方が正確かもしれない。
キスされた。マジでヤバい。しかも、今まで完全に私からの一方通行だったキスとは違っていた。ヒロの唇がほんの少し求めているようだった。「なんで出来た?出来ないって断る選択肢もあったでしょ?」と突っ込む私に「最後だから出来たんだよ」と主張するヒロ。それでも、2人はまだ話す。今までの事は今日でなかったことにしようと説得され、しぶしぶ了解させられた私は、「じゃぁ本当に最後のキスしよう」と言う。「もうしない方が良いよ」とヒロはいう。もうすぐ4:00。いい加減帰らなきゃいけない。「するの?しないの?」とヒロ、「んーするけど」と私。まだ悩む私。最後、最後と言われて心が痛くなってきた。7年くらい人を本当に好きになれなかった。でも、やっと本当に好きになったのに、もうここで終わってしまうと思ったら泪が流れた。バレないようにしなければと必死にごまかす。なぜなら、ヒロは泪に弱い。そんな汚い手は絶対に使いたくない。
覚悟を決めた。後悔しないように、想いを身体全部に流し込む。
「わかった最後ね」と始めたキスは時間を止めた。求め合う唇は寄り添い温もりを感じ、激しく求め合う唇は1mmの隙間も与えなかった。そのまま、もっと先に進んでしまいそうになった。でも、真面目な理性と時間がそうはさせてくれない。

偽証

真実は心をクリアにする。
真実は時に人を傷付ける。
真実は人に気付きを与える。

2000年2月
私はレズビアンだと多くの人から疑われていた。それをその疑いを晴らしたかった。彼氏がいるという事実が欲しかった。そして、私の中での迷いを確認したかった。本当に女が好きなのか。ただ素敵な女性に出逢ってしまったから、惹かれただけなのか。ただ、素敵な男性に出会えなかったから、女性を好きになってしまったのか。試してもいないのに、分からないと思っていた。
バイト先のお客さんアキに出会う。野球しか取り柄のない、アツく、不器用な人だった。何か打ち込めるものを持っている人はカッコいい。試すなら、この人しかいないと思った。そして、私から告白して付き合う事になった。それを知ったオトは深く傷付いていた。離れていこうとするオトの手を私は掴んでしまった。
世の中の恋人に比べて、会う日は少なかった。アキは野球ばかりしていたから。淋しいと言った所で、「今日は疲れているから」とか「明日試合だから」とかアキの心はほぼ野球でいっぱいだった。
アキと初めてキスした日。カラオケに行っていた。時間がくると電気がすべてシャットダウンされるカラオケだった。時間が来て、バチっと暗くなる。やばいこれはキスされてしまうと思った。案の定、その展開はやってきた。女の人の方が柔らかいという印象だった。ただ、冷静にそれだけを感じていた。
初めて肌を重ねた夜は、それよりも酷かった。ジムで運動するようなスポーツでしかなかった。幽体離脱をしている気分だった。上から自分たちを客観的に見ているようだった。私の気持ちはそこに留まることなく、どこかへ行ってしまった。気持ち良いとか一体感とか、全くそんなものはなかった。100mダッシュを1位でゴールインした後のような解き放たれたアキの顔だけは今でもまだ覚えている。
2000年10月
私はアキと21歳を迎えるわけにはいかないと電話で別れを告げた。

結果、私は紛れもなくレズビアンだった。男性に感情移入できなかった。一瞬も一心同体になることはなかった。錯覚さえも起こさない。結婚なら、上手くやっていけるかもしれない。アツくもならず、急激に冷めることもなく、日々過ごせるかもしれない。
私は性別に関係なく、その人の人間性に惹かれる。そして惹かれるのは、ほぼ99%女子であることを認めざるを得なかった。

3/21 ヒロの想い

愛されると毎日が輝く
愛されると眠れない
愛されると心が熱くなる

2017年2月26日
20年来の友達ユウにキスされる。いやっ友達ではなく、むしろ親友。意味が分からない。元々、酔うとキス魔だったユウのことだからノリとか勢いでふざけているのだろうと思っている。いつもの事だと。

2017年3月3日
ユウがうちに遊びに来てゲームをしようと言い出す。冷え切った空気を漂わせたトイレに押し込まれる。下の子は自分の部屋で遊んでいる。時間は5分。ユウにお腹と背中をキスされる。いやっされまくる。お手入れしていないプヨプヨのお腹を見られるだけで恥ずかしい。「恥ずかしいから止めようよ」という私。「ダメ、あと3分あるから」と頭しか見えないユウは言った。恥かしさとユウの唇の温もりで頭はいっぱいだった。5分経過。冷え切った冷え切っていたトイレが体温でほんのり温まっていた。「どうだった?」とユウ、「恥ずかしかった」と私は言った。それを聞いたユウはつまらなそうに納得のいかない顔をしている。上の子の幼稚園のお迎えの時間が来る。上着を着て、玄関に行き、下の子に靴を履かせていた。そこへ、下の子に覆いかぶさるようにユウはキスしてきた。「バカ!あんたなにやってんの!」と肩を引っ叩いた。ユウは何事もなかったかのように玄関のドアを開け、外へ出く。

2017年3月15日
こどもたちのいる前でユウから好きだと告白される。LIKEではなLOVEだと言っていて、キスしてきた意味も今初めて理解した。なぜ今の私を好きになるのか理解できない。高校の頃はユウを好きだったけど、それは終わった恋。とりあえず、好きになった経緯を聞く。ユウは本気で好きと言っている。気持ちは嬉しいけど、やっぱり分からない。噓でしょ?冗談でしょ?なんで今?なんで私なの?とハテナばかりが頭をめぐる。話は核心に触れずに終わってしまった。気になる。ものすごく気になる。もっと話さないと分からない。
2017年3月19日
ユウに後ろの座席に行けと言われた。肩を掴まれユウの膝に乗る。力を完全に抜くことは出来ないけど、ここにいるのは心地良い。ユウの左手は温かく、お腹が温まっていった。ユウといると安心するし、信頼もしてる。だけど、ユウの事は友達としか思えない。大事な友達を失いたくないし、ずっと仲良くしていたい。ユウのものすごく真剣な気持ちは痛いほど伝わっている。でも、私はその気持ちに答えられない。結婚していて、子供もいるから。好きとか好きじゃないとか以前に恋愛をしてはいけない。真っ直ぐで純粋な想いは素直に嬉しいけど、ユウの想いが伝われば伝わるほど胸が痛い。頭も痛い。
飲み会が終わってユウに送ってもらう。そして、自宅前でユウにキスされた。家の前でするなんて信じられない。これは話して説得するしかない!私は友達でいたいと伝え続ける。ユウは友達じゃダメなんだと、アツく主張している。話し合いは一向に解決しない。話す事3時間。今日で今までの事はなかったことに、忘れようと提案して、渋々了承しかけているように見えたユウ。キスしてくれとユウに言われる。これで最後にするならと私がキスする事で納得して諦めてくれるならと悩んだ。自分からすることなんて、滅多にないのに。気持ちに応えるなんて出来るわけないし、ユウは友達。でも、最後だと思うと少し切なくなる。意を決してキスした。唇が自然に動いてしまった。ただ軽くキスしようと思っていたのに。唇が求めるのを感じて、焦った。でも、心で封印した。これで最後、よくやったと。
それでも話し合いは続く。もう4時間も話している。いい加減帰らないとまずい。私には無理!出来ない!友達が良いの!私の勢いに根負けしたユウは頭を抱えていた。「じゃぁ本当に最後のキスしよう」とユウが言い出す。「本当に最後だからね?これで忘れるんだからね!」と確認した。「わかった最後ね」とユウは言った。長めの沈黙からのキス。止められなかった。心は決まっていたはずなのに、唇が勝手にユウを求めていた。もっとしたいと思っている。もっと先に進んでもいいと一瞬思ってしまった。心まで溶けてしまいそうだと。
帰ってからも、あのキスが忘れられず。頭の中はユウでいっぱいで眠れない日々は続いている。

森林浴

あなたに味方はいますか?
誰に何と言われようとも
守りたい人はいますか?

3/25 プロポーズ①

結婚とは温かい光ですか?
結婚とは渇きを癒す水ですか?
結婚とはこどもを育てる鳥籠ですか?

2017年1月1日
今年こそは結婚すると思いながらも、良い人は全くいない。私はこどもが欲しい。出来たら双子が良い。たくさんの痛みもたくさんの幸せも一気に味わえる。
ノブは職場の同僚。ノブはタイミングも悪いし、めんどくさがりやで、空気も読めない。正確には空気は読めるけど、読まない。人の気持ちを汲み取ることが出来ない。自分の予定を邪魔されるのが嫌い。なんか、ロボットみたいだ。だけど、素直で真面目。言われれば文句も言わず、なんでもやる。争いが嫌いな平和主義。幸せな家庭で育てられ、大きな家庭問題もなく怒られた事はほとんどない。妹とも仲良くて、友達も多くて、こどもも好きで、コミュ力も高い。太ってもいなくて、服もダサくない、酒グセも悪くない。
ある日、私が社長と言い争いしている時、他の人は何も言わなかった。でもノブは間に入り、私の怒りを平和に鎮めた。
このノブと秋くらいから、月1回のペースでラーメンを食べに行ったり岩盤浴に行ったりしている。知り合いとお風呂に入るのが苦手な私にとって異性のノブは何かと都合が良い。メイン活動は岩盤浴ではなく、漫画を読むこと。ノブと私は無言で何時間も漫画を読む。話しかけるとしたら、「岩盤浴行こう」と「どこまで読んだ?」くらいなもんだ。こんなにも無言でいられる事が自然に出来る人がこの世にいるのだろうか。この人と結婚出来たら、平和な日々が送れそうだと確信していた。熱くもならず冷めることもなく常に一定で、何でも相談して解決出来て、いつも普通に過ごせるのではないかと。年齢を重ねても岩盤浴に行ったり、食べきれない程のラーメンを食べに行ったりできるかもしれないと。最悪の家庭環境で育った私の深部の怒りを鎮め、大きな争いもなく、過ごせるのではと。
でも、関係はただの同僚でしかない。友達にさえもなれていないかもしれない。
2017年3月25日 AM2:00
私はノブに「結婚を前提に付き合ってもらえませんか?」と言った。考えてみるとのことで返事はまだもらっていない。

低迷

愛情は重さで測れますか?
愛されるよりも愛されたいですか?
価値観の違いは愛情で埋められますか?

3/25 プロポーズ②

絶対を信じますか?
永遠を信じますか?
死ぬまでずっとを信じますか?

2017年3月25日
人生最後かもしれないヒロとのデート。「一日彼女になってあげる♡」と言われた私は着々と準備を進めていた。もちろん本日のメニューはすべてサプライズである。準備をしながらも、2人で出かけるのは最後かもしれないと不安を抱きながら。back numberの「春を歌にして」を聴きながら、心を離す準備もしていた。
3/21ヘリコプターを予約要請。この時はまだ諦めようとしていた。3/22予約が確定した。やっぱり諦められないと気合いを入れ直した。テーマソングをONE OK ROCKのは「Wherever you are」に変更。こうなったらもうプロポーズしようと思った。指輪はあげられないけど、ピアスにしようと想った。ピアスをネットで注文。メッセージは「Wherever you are」
あなたがどこにいてもという意味だ。ヒロは新しい曲を覚えたいと言っていた。ヒロは20代から音楽をまともに聞いていない。これはチャンス。3曲くらいのオススメソングの中に「Wherever you are」を仕込む。自然にかつ光明に。

2017年3月25日 PM5:00
大さん橋のベンチで缶チューハイを飲むヒロ。防寒バッチリの2人は寒い中、観覧車の時計と夕焼けのグラデーションを見ていた。ヘリコプターの時間が迫る。これは早く言わなければと思い焦る。でも中々言葉は出てこない。ヒロが飲み終えたら言おうと決意して、ドキドキしながらひたすら待つ。飲み終えた感を地面に置く。
キレイに包装されたピアスを渡す。リボンを解くヒロの手を掴んで「いやいや、メッセージからでしょ」とツッコミを入れる。「Wherever you are」あなたがどこにいてもって意味だと教えた。「あとは歌詞みてください」時間がなくて青山本店に買いに行けなかったageteのピアスをヒロが手に取る。
「一生、私と恋しませんか?私を初めての彼女にしてください」と棒読みでのプロポーズ。残念ながら、ヘリコプターの集合時間があるので、そこで余韻に浸ることもなく、素敵な景色の大さん橋を後にする。ヒールがハマりそうな木の板のデッキをヒロの腕を掴み小走りに進む。ヒロの方が背が高い、まるで私から甘えて腕を組んでいる女子のような姿で。本当は支えてるだけなのにと思いながら。
急いでヘリコプターに向かう。車で15分、急いで駐車場に停める。ヘリコプターの音が凄すぎてバレると思いきや、ヒロは工事中の音だと思っていた。ヘリに近づき、ヒロは驚きながらもテンションがあがる。「マジで!?嘘でしょ!?」と鼻息の荒くなったヒロは言う。「マジです」と冷静な私。18:10集合時間ピッタリに到着して手続きを済ませる。名簿には旧姓で書かせた。今日だけは松本ヒロであって欲しくなかったから。フライトまで、あと30分もある。待ち時間は長い。他の客がいるから静かにしなさいと言われたヒロは興奮を抑えながらも、身体は落ち着かず、目から期待が溢れ落ちそうに見えた。
時間が来た!小さな救命胴衣を装着して、プレハブの待機所を出る。音がすごい。ヘリの乗客はは4人。他にカップルが乗る。4人は横並びで、ヒロを窓際に座らせる。機体を揺らしながらヘリコプターは上昇する。高いところが得意でないヒロは、ビビっている。背中に腕をまわして「大丈夫」と私は言う。この腕はこのままにしておこうと、やや下心を抱えた、私の気分もヘリコプターもどんどん上昇する。とにかくめちゃくちゃキレイ。言葉に表すのが難しい。キラキラし過ぎて眩しくて、横浜って最高だと改めて思った。しかも隣にはヒロがいる。サイコー以外の何物でもない。例え、このままヘリコプターが落ちて死んでも、後悔しないと想った。あっという間の10分。高度が下がるにつれて淋しくなってくる。ヘリコプターが降りたヒロの目は興奮と感動でキラキラしていた。
次は築地のすしざんまい。予約は取れなかったので、並ぶの覚悟で向かう。私はヒロがお寿司が食べたいのを知っていた。3/19の飲み会の帰りに女子特有の井戸端会議をしている時の言葉を覚えていた。その時「お寿司食べたい!」と言っていた。高速を飛ばして、雑念とヒロとの会話で、焦って道を間違えながらも無事に到着。奇跡的にカウンターが2席空いていた。電話で確認した本店は列が出来るほど並んでいるはずなのに。ついていた、追い風が来ていると思った。ここのお寿司は本当に美味しい。緑茶ハイを飲みながら上機嫌なヒロはどんどん声がでかくなる。あまりに美味しい美味しいと言いながら、食べている2人に板前のおじさんは「そう言ってもらえるのが一番だよ」と声をかけてきた。それくらい分かりやすかったんだと思う。お腹いっぱい美味しいものを食べた2人はヒロの家に向かう。話しているうちに相談相手がいないことを嘆いていた。いやっ、むしろ怒っていた。「ゆうには何人も相談出来る人がいるけど私には1人もいないんだからね」と酔っ払いのヒロは言う。「じゃぁルミに相談しなよ。あいつなら絶対分かってくれるから」とお勧めした。「無理、出来ない、どうしよう」を連発するヒロにいますぐLINEしろと私は言う。「ユウから告られた、どーしよー」と入れなさいと指示した。送信ボタンを押すかどうしようか数分悩みながらも、やっと押す。それから数分も経たないうちにルミから返信が来た。それからヒロとルミのやりとりは続く。つまらなくなった私は、携帯片手に文章を悩んでいるヒロにキスした。私は本当に嫉妬深くて淋しがり屋のどうしようもないやつだなと実感。さすがに30分続いたLINEのやりとりは私が一時強制終了させた。
22:00松本家到着
やっぱり話そうかと場所を移動。
土手添いに車を停める。いい加減恒例になってきた後部座席への移動はスムーズになってきた。キスしては話して、キスしては話して、それの繰り返しだった。話してもキスしても解決はせず、もどかしいだけの時間は過ぎていく。ヒロの答えがハッキリするまで、ピアスは閉まっておく事だけは決定した。2:00少し前、さすがに帰らなければならない。今日の収穫は右の首が感じるという事実のおみやげだけだった。それと、コンビニで買ってもらった大容量のガム。
前回の最後のキスは、最後から2番目のキスに降格した。

翻弄

心を鷲掴みされたことはありますか?
身体が求めるのを感じたことはありますか?
振り回されたいと思ったことはありますか?

3/29 偽りの常温

みんな無い物ねだり
隣の芝生は青く見える
本当に必要なものは何ですか?
あなたにとっての真の幸福は何ですか?

2017年3月29日
今日も私は松本家にお邪魔している。時間は12時。私は消さずに取ってといてもらっていたドラマを見て、ヒロは私の自分史を読んでいた。読み終わったらルミの家に行くことにした。私が書いた自分史には私が過去に付き合った人の名前が書いてある。それを黙々と読むヒロ。肩が触れる距離で2人はソファーに並んで座っている。私は触れているか触れていないか微妙な距離で、手の甲をヒロの足首に触れさせる。ただ手がたまたま当たってるだけにしか見えない手は温かく、ヒロの足首は氷のように冷たかった。でも、どこか触れていると安心して心地良い。ヒロに話していなかった過去が書いてあったらしく「へー知らなかった。あなたの生い立ちがよくわかりました」との感想。こどもたちを連れて、急いでルミの家に向かう。
バックミラーから見えるヒロの顔は母の顔。意を決してプレゼントしたピアスは付いているわけもなく。
心の中で今日の課題を唱えていた。
なるべく普通に
なるべく常温に
なるべく近付かず
なるべく触れない
さて、たこ焼きパーティーの始まり始まり。ヒロとルミは恒例になってきたスパークリングワインを飲む。私はジンジャーエール。普通にいつも通りの会話になるわけもなく、本日のメインテーマに移る。私の目の前でヒロが私に対する思いについてを語り出した。相手はもちろんルミ。生相談を生で視聴している。とても気まずかった。ヒロのボルテージも上がり、過去の恋愛、過去の失態、過去の事件、なんでも話し始める。レイプ未遂、監禁、DV、街宣バス乗車、ありとあらゆる種類の話が次々に出てくる。ヒロはヤクザの女にもなったことがある。さらにバツ1で、しかも旦那は元右翼。20代で2人の男しか知らないとか余計な事まで言っていた。今のヒロが好きな私の目の前で、過去のヒロがさらけ出されていく。ほとんどの内容は元々聞いていた。だけど、聴きたくない事は誰にでもある。知らなくて良い事もたくさんある。特に好きな人の過去は。ヒロは、静かに八つ裂きにされ血だらけになっていく私の心に気付くわけもなく。しかも、好きなひとが隣にいるのに、常温を保ち、普通にするのは、ものすごく疲れる。こどもたちは楽しそうに一日中、元気に遊んでいる。偽りの常温に耐えられるのは、どうやら8時間まで。20:00から私はしゃべる元気もなくなってきた。目も疲れてる。テーブルを挟んだ距離感も切なくなってきた。寒い、疲れた、淋しい、ということで、ヒーターのあるヒロとルミの間に行き、犬のように寝転がる。しゃべる元気もないので、ちょうど良い。距離が近い安心感、1人の時間を満喫して、余裕こいていた私に、上から手が伸びてくる。焦った。めちゃくちゃ焦った。ヒロは私の2ブロックにしている髪型が気になったらしく、犬を撫でるように私の頭を触った。正気を取り戻し、髪型の解説をする。酔っ払いのヒロは納得したようだ。でも、私に触りたくなっただけかもしれないと淡い期待もしたが、疲れてるので、また犬のように床に転がる。
早く帰りたい気持ちと今日が終わってしまう淋しさが混ざって、私の心は筋肉痛のように痛み始めている。

暴走

引き込まれる瞬間を感じたことはありますか?
身を削ってまで恋したことがありますか?
相手に自分を合わせてしまったことはありますか?

4/7 夢の時間

涙を流した分だけ強くなれる。
痛みを感じた分だけ優しくなれる。
後悔すればするほど成長出来る。

2017年4月7日
今日はヒロが家に来る。いまだかつてないほどキレイに掃除された部屋はヒロを心待ちにしている。なぜ、ヒロが来ることになったかというと、人の手料理を食べたいとリクエストがあったからだ。それと話さなきゃならないから。キスしない約束付きで。仕事帰りにヒロを拾う。部屋着に着替えさせ、「寝ててても、缶チューハイ飲んでてもどっちでもいいよ」と言って私は部屋を後にする。その間、私はシャワーを浴びて、夕食を作る。急いで夕食を作るために、濡れたまま放置された私の髪の毛は半分乾いている。
完成したパスタをテーブルに運ぶ。ヒロはベッドに座りながら、缶チューハイを飲んでいたらしい。20年前の部屋とは全く違う。家具もベッドも全て。それでも、うちの家は居心地が良いらしい。
実食。コメントは「上手いじゃん」とのこと。「もっと他のも食べてみたい」とコメントは少ないけれど、とてつもなく満足そうな顔でパスタを頬張るヒロ。その後、ヒロが買ってきたケーキを食べる。そこまでは普通だった。
咳き込むヒロはベッドに横になっている。連日の苦悩により、ヒロは、かれこれ一週間も風邪をひいている。私は、その隣にちょこんと座っている。せっかくなので、腕枕でもすることにする。横に寝ると布団をかけてくれるヒロ。首の下から腕を入れて近くなる二人。目が合うと「近いよ」と恥ずかしそうに、かつ嬉しそうにヒロは言う。シャンプーの香りと心地良い体温と、それと裏腹に上昇し続けている心拍すべてを二人の間に詰め込んで、包み込む。肌と体温を求め絡む足は、太ももの間に安定した。
「こんなことしに来たんじゃないの」と自分に喝を入れるヒロ。壁にもたれて座り、「うちら付き合わない方が良いよ」と語り始める。好きになりかけてること。一緒にはいたいけど、いられないこと。今ならまだ引き返せること。これ以上はもう出来ないこと。毎日、涙を流しながら悩んだこと。
「友達に戻れる?」と、もう普通の友達に戻れないと言い続けている私を悟すように聞いてくるヒロ。正直分からない。振られてもなお、一緒にいた人がいないし、自分が偽りの常温に耐え続けられるか分からない。また最後か。でも、予想はしていた。ヒロの気持ちのほぼ90%は分かっているはずだから。
もう最後なら、約束なんてどうでもいい。契約を継続するためのルールは私の中から消えてしまった。
抱きしめた右手でヒロのブラのホックを外す。もう、そこからは止まらない。止められない。邪魔になったTシャツを脱がした所で、アラームがなる。寝てしまった時の為にセットしておいた。ヒロはシンデレラのように帰らなくてはならない。
枕元に置いてあったガムを食べると言い出すヒロ。心を切り替えようとしていた。夢の時間を夢にするために。
振られる瞬間が来たら開けようと思っていた、必勝のダルマのような願かけをしていたヒロからもらったガムは、ヒロの手で開けらる。

ソウルメイト

愛され過ぎるとダメになる。
恋人と一心同体になれますか?
想いが重いと思ったことはありますか?

4/9 友達

香りは記憶を呼び起こす
音楽は記憶を掘り返す
温もりは切なさを倍増させる

2017年4月9日
私はヒロを愛してます。もっと愛したかった。もっともっと愛せたけど。私がいることであなたを苦しめるだけなら、今の私はいない方がいい。苦しめるだけの存在にはなりたくないから。ずっと、あなたの特等席にいたかったけど。あなたが友達でいたいと言うなら、友達になれるように努力します。最大限の努力をして友達になります。もう、悩まなくていいから。どうか、たくさん寝て身体を治してください。どうか、幸せになってください。

最後に

この二人は離れてしまっても、ずっと一緒にいられても、ハッピーエンドにはならなかった。
でも、たとえ人が認めるハッピーエンドじゃなくても、私は側にいると決めていたのに。私だけを見ていなくても、私がいつも一番じゃなくても良かった。でも、傷付けるのは嫌なんだ。苦しめるのは嫌なんだ。本当に必要なら、二人は離れることは絶対にないから。
たとえカタチが変わっても、どうか二人を離さないで。

ピアス

ピアス

これは私がレズビアンだと認め、歩んで来た道、そしてこれから歩んで行く道を描いた地図。 これは私が運命の人に宛てたラブレターでもあり、自分に問いかけるツールでもあり、前に進むための乗り物である。 さあ、過去を捨て、前に進もう。

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-04-05

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. プロローグ
  2. 2/26 嫉妬
  3. ヒロとの出会い
  4. ユウとの出会い
  5. 3/3 ゲーム
  6. 心の居場所
  7. 3/15 半分の告白
  8. 生まれた意味
  9. 3/10 ユウの想い
  10. 必然
  11. 3/19 最後のキス
  12. 偽証
  13. 3/21 ヒロの想い
  14. 森林浴
  15. 3/25 プロポーズ①
  16. 低迷
  17. 3/25 プロポーズ②
  18. 翻弄
  19. 3/29 偽りの常温
  20. 暴走
  21. 4/7 夢の時間
  22. ソウルメイト
  23. 4/9 友達
  24. 最後に