解体屋A

解体屋A

若干の暴力的表現がありますので、ご了承の上でお読みください。

近頃私の町では、猟奇的な殺人が巻き起こっている。
それは子供ばかり狙ったもので、既に警察が認識している範囲で、五人の子供が殺害された。
その猟奇殺人者は「解体屋A」と呼ばれている。
殺害の方法は至ってシンプルなもので、遺体からは心臓の辺りに刺し傷がある。
しかしその後の行動が猟奇的とされる。
解体屋Aは殺害した子供を頭、胴体、右腕、左腕、性器、右足、左足、と上手くバラバラにすると言われている。
それで解体屋と呼ばれるようになった。
Aとついているのは、今の警察の捜査では殺人犯が一人なのか、それとも複数犯なのか見当が付いていない為、最初の事件を起こした第一人者をAと仮定した事から、解体屋Aと呼ばれるようになった。
僕が解体屋Aを知ったのは、意外にもネットの掲示板だった。
そのネット掲示板はオカルトチックな話題について討論される様な掲示板だった。
僕はその掲示板の常連でもあった。
そして偶々上がっていたスレッドに解体屋Aについて書かれていたのだ。
初めは解体屋Aが出回り始めた、という事しか書いてはいなかったが、解体屋Aが次々犯行を起こし始めると、その事件のあった現場が全て僕の家の近所であることが判明した。
最初僕は恐怖したが、スレッドには色々な人が居た。
人間は十人十色だというが、解体屋Aに賛同し崇拝する者もいれば、もちろん否定的な常識の意見だってある。
賛同し、崇拝している人間はこう言った。
例えば「近所の子供がうるさい。人の家の壁にボールを当てたり、車にボールを当てたり、子供だからと言って許される行為ではない。それでいくら大人が注意しようと、その子供の親からはキチガイ紛いの扱いをされる。そんな子供はそうなっても当然だ。人の物に損害を加えておいて、うちの子供は悪くない、終いには常識外れな事まで言い始める。そんな親子に常識を分からせるいい方法である」なんて意見だ。
勿論それはそうかもしれないが、それを理由に人を殺していいなんて事はない筈だ。
僕が言うことは恐らく解体屋Aについて否定的で常識的な考えであると思う。
そんな中で、また一人の子供が犠牲者となった。
次の犠牲者は小学校高学年の男子児童である。
少年は近所でも有名な人の家に迷惑ばかりかける悪戯な子供だった。

その日、僕もその少年の被害にあった。
家の窓ガラスがその少年によって割られたのだ。
僕は相手が子供だという事もあり、優しく言い聞かせ、二度とこういう事が無いように少年に言った。
その時の少年の態度は、腹立たしかった。
こちらの目も見ずに、早くしろよ、と言う様な態度である。
私はその少年に電話を貸して母親に電話を掛けるよう言った。
少年は渋々電話を掛けたが、到着した母親はとても怒り狂っていた。
それは勿論、人様の家の窓を割って置いてそれが弁償となれば、親は子を怒るのが当たり前だ。
ただ僕は潔く謝罪されれば弁償なんて、まして子供の遊びでそこまで追い詰める様な事をしようとは思っていなかった。
しかしその少年の母親の怒りの矛先は、自分の息子では無く僕の方に向けられた。
「子供が清々しく外で遊んでいると言うのに、親まで呼び出しておいて、一体何のつもりなんですか?」
これはさすがの僕も怒った。
「人様の家の窓を割って置いて、その言い草はオカシイのではないですか?幾ら子供だと言え、やって良い事と悪いことがあるでしょう。失礼ですが、家庭での常識が欠けているんじゃありませんか」
少年の母親は暫く黙った後「弁償はしませんから」とだけ言って、子供を車に乗せて帰っていった。
僕はその後ため息をつきながら一人割れたガラスを掃除した。
正直怒りを通り越して呆れてしまっていたのだ。

僕はその晩、その出来事を思い出し、怒り狂っていた。
思い出すだけで腹が立ってくる。
そんなとき携帯であの掲示板を見た。
すると、今までには無かった異様な書き込みがそこにあった。
投稿者の名前は、解体屋Aだった。
「本日、また常識の知らない子供により、多大な迷惑を被った方が居ます。どうなるかは明日のニュースでお楽しみください」そんな内容だった。

掲示板では解体屋Aの大胆な登場で、騒ぎとなったいた。
「やばい、これ本物かな」
「解体屋A様!お待ちしてました!さあ一思いに」
「これ警察に連絡するべきじゃないのか」
「解体屋A様、まじ神」
色々な意見が飛び回っている中、僕はギクリとした。
解体屋Aはこの近所にしか出没していない。
そうとなれば、その被害者はまさか僕の事ではないだろうか。
もしそうならば、今日会った子供は、明日死ぬのではないだろうか。
冷や汗がどんどん沸いてきた。
解体屋Aはあの現場を見ていたというのか。
一体、どこに居たんだ。
その時静まり返った部屋に、インターホンのチャイムが鳴り響いた。
時間は既に夜中の二時を回っていた。
僕は恐る恐る玄関まで行くと、除き穴から外を確認した。
そこには配達員風の男なのか女なのか分からない容貌の人物が立っていた。
僕はチェーンを付けたまま、扉を開けた。
「どちら様ですか」
「お届け物が来ております。判子をお願いします。サインでも大丈夫です」
配達員は変な声をしていた。
それはやはり男なのか女なのか分からない、声を何かで変えているかのような声だった。
「頼んだ覚えはないのですが」
配達員は明細を見た後「やはりこちらで間違いはありません。送り主は」配達員がそう言った後僕は漠然とした。
「送り主は、解体屋A様からとなっております」
「・・・は?」
「もしも貴方がご本人様ではないのであれば、受け取りは後日と言う事でも大丈夫ですが」
「あ、いや本人です。今、受け取りサインします」
僕は所詮誰かの悪戯だろう、と半信半疑でその荷物を受け取った。
あまり大きくない箱、しかしズンとした重みがあった。
「それでは失礼いたします、またのご利用お待ちしております」
配達員はやり取りの際、終始顔を伏せたままだった。
帽子を深くかぶり、顔が影で見えない様になっていた。

僕は受け取った荷物を部屋に運んだ。
やはり重かった。
そこで僕はあることに気が付いた。
そもそもこんな深夜に配達なんてやっているのだろうか、それも相手は解体屋Aという殺人犯からだ。
僕はゴクリ、と唾を飲んだ。
まさか、この箱の中身は。
僕は震える手を落ち着かせ、段ボールを開いた。
「ヒッ」
僕は声にならない、吐息が漏れた様な悲鳴を上げた。
そこに入っていたのは、少年と思われる頭、胴体、性器、右腕、左腕、右足、左足だった。
僕は大きな悲鳴を上げた。

その悲鳴で僕は目が覚めた。
時刻は朝七時を回っていた。
辺りを見回すと、段ボールなんて物は無く、枕元に携帯が落ちており、あの掲示板が開かれてあった。
勿論、解体屋Aからの書き込みなんてありはしなくて、僕は安堵した。
僕はホッとして、シャワーを浴び朝食を作った。
そしてテレビの前のソファに腰掛け、テレビをつけた。
そのとき、僕は目にしたのだった。
「速報です。今朝、○○県○○市の○○さん宅の二階の子供部屋で、子供のバラバラ死体が発見されました」
「え?」
僕は硬直した。
テレビの前で泣きじゃくっていたのは、昨日の少年の母
親だった。
「この事件は、解体屋Aによる物だと推測され、現在警察による家宅捜索が開始されています。この近辺にお住みの方は、注意をし、本日は○○小学校が集団登校する様、声掛けています」
アナウンサーが頭を下げ、ニュースが終わると、僕は顔面蒼白のまま、あの掲示板を見た。
「また解体屋Aが現れた」
「やばい、これで六人目だぞ」
僕は心臓がドクドクと音を立てているのが分かった。
そのまま携帯を投げ、布団に籠っていると、インターホンのチャイムが部屋に鳴り響いた。
あれは夢だと分かっていても、インターホンのチャイムが無性に怖かった。
僕は恐る恐る玄関へ向かい、除き穴から外を見た。
そこに立っていたのは郵便局の顔見知りのおじさんだった。
僕は玄関を開けた。
「朝早くにすまんね。これ速達できてたから」
僕の手にポンと一通の手紙が乗った。
そのままおじさんは帰っていき、僕はベッドでその手紙の裏を見た。
差出人の名前と住所は書かれていなかった。
僕は親しいおじさんのおかげで完全に安堵していたのだ。
手紙を手軽に開くと、そこには異様な文字が書かれていた。


――ご利用ありがとうございました。またのご利用、お待ちしております。

解体屋A

解体屋A

子供ばかり狙う猟奇殺人犯「解体屋A」が、僕の住む近所に出没し始めた。

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • ホラー
  • 成人向け
  • 強い暴力的表現
更新日
登録日
2017-04-04

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