幻の楽園 Paradise of the illusion(一)

幻の楽園 Paradise of the illusion(一)

幻の楽園
Paradise of the illusion

音楽を十四曲選曲して、一曲に一話づつ短編を書きました。

十四話全て合わせると、一つのストーリーになります。
十四曲全て話の順番に集めると、一つのオムニバスのアルバムが出来ます。

曲を紹介するのは、架空のFM局 Ocean Bay FM の女性DJ達です。いわゆる憧れのラジオガールです。

幻の楽園 Paradise of the illusion

(一)プロローグ冬 真夜中の海岸

僕は、幸せを探していたんだ。

そう、幸せとゆう名の楽園を探していた。

そして、それは幻である事に気がつかずに夢を見ていた。

冬の始まったばかりの頃だった。

今は、もう真夜中だ。

僕達は、真っ暗な海岸にいる。

夕暮れの頃、この場所に僕達は来た。

明るいうちにキャンプのテントを設営した後、一緒に夕食を楽しく作った。

それから、焚き火を囲んで乾杯して食事をした後、夜の遅い時間までお酒を飲みながら話をしていた。

今、僕は何杯目かのビールを飲みながら焚き火を見ている。隣に座っている神田隆一は、ウイスキーの角瓶をマグカップに入れてロックで飲んでいる。向かいに座った。南沢遥は、ホットワインを飲んでいた。

誰もいない冬の海岸。

真夜中の冷たく張り詰めたような寒さの中で、吐く息が白い。

海の方は真っ暗だ、
潮風の海の香りだけがその辺にあった。

穏やかに波の音だけ聴こえてくる。

こんな時は、音楽は要らない。
焚き火と波の音だけあればいい。

穏やかで特別な時間が流れていく。

冬の夜空を見上げてみると、星がいつもより輝いている。

なんて贅沢で穏やかな時間だろうと、僕は思った。

僕達は、大学一年の春に出逢った。大学の同じゼミで一緒になったのだ。初めて出逢った日に、意気投合し仲良くなった。

「川崎君、コーヒー持ってきているの」

南沢 遥が、僕を見て言った。

僕は、缶ビールを一口飲んで答えた。

「コーヒーか、飲みたいね」

隣にいる神田 隆一が

「眠くなってきた所だ、酔いざましにいいね」

と、僕の後に答えた。

隆一は、ダウンジャケットのポケットから煙草のパッケージを引っ張り出すと、一つ取り出した。

彼は、焚き火に当てて煙草に火をつけて咥えた。

辺りに、彼の煙草の香りと煙りが漂った。

時折、焚き火のパチパチと木の破裂する音が心地よい。三人が囲んだ焚き火の周りだけが暖かい。

ふと、顔を上げると凛とした冷たい潮風の香りが、闇の向こうから吹いて来て頬をかすめていく。

遥は、キャンプ用のガスバーナーでお湯を沸かした。

僕は缶ビールを飲み干して、空っぽの缶ビールを足元に置いた。

すかさず隆一が、缶ビールの飲み口に煙草の灰を落として言った。

「慶。お前さあ、大学出たらどうするの?」

「さあ......どうするかな」

僕は、漠然と応えた。

「就職は、大丈夫なの?」

「......」

僕は、明確に答え無かった。まだ迷っていたからだ。

「俺は、広告代理店の会社に内定したよ。」

「そう、よかったね。おめでとう」

「春から、平凡なサラリーマンだよ。子供の頃は、宇宙飛行士になりたかったのにな」

「まあ、誰もそうじゃないの。僕は、ロックスターになりたかったよ」

「ロックスターか、いいね」

「子供の頃の夢なんて、そうそう現実にならないよ」

「まあな。けど、不思議だね。平凡なサラリーマンに絶対なりたいなんて言う子供はまずいない気がする」

「まあな。遥はどうなの」

「私?」

「うん、何になりたかったの」

「私は、子供の頃から同じよ」

「何」

「え、言うの?」

「うん」

「子供の頃から、素敵な男性のお嫁さんになりたいて言ってたわ」

「えぇ。普通なんだな。遥は、美人で可愛いしさ。えっと.......。うん、例えば、女優になりたいとか......」

それを聞いた遥は、短く微笑した。それから、アンニュイな雰囲気で呟くように応えた。

「普通でいいのよ。平凡でも幸せであれば」

「幸せか......」

会話は、そこで途切れた。静かな沈黙に、焚き火のパチパチと木の破裂する音と波の音が聞こえる。

しばらくしてお湯が沸くと、遥はコーヒーマグを鞄から取り出して、コーヒーを入れた。

コーヒーのいい香りが広がり漂ってくる。

「川崎君、コーヒーが出来たわ」

彼女が、僕にコーヒーの入ったマグを二人分渡した。

僕は、コーヒーを受け取るとマグをひとつ隣の隆一に渡した。

三人はコーヒーを飲みながら、出逢った頃からの色々なエピソードを語り合った。

ひとしきり話をすると、会話は途切れた。
三人は、静かに焚き火を見つめ続けた。

沈黙の中に、焚き火の弾ける音と波の音だけが聴こえていた。

慶は遥の方を見た。

「僕達は、これから先も幸せかな?」

「少なくとも。今の私は、幸せだわ」

遥は、慶を見つめてそう答えた。

慶は、黙って遥を見つめた。

遥は、隆一に悟られないように言葉を続けた。

「ね、ねぇ。ラジオ聞かない。持ってきてるの」

「真夜中のラジオか......」

「いいね。退屈してたところだ」

隆一もすかさず応えた。

「うん、よく聞くFMラジオ局の番組があるの」

遥は、そう言うと自分のバックパックからラジオを取り出してスイッチを入れた。

Welcome to the midnight lounge. Ocean Bay FM.

皆さん、今晩わ。

葉月 夏緒です。

今日と明日が出逢う時間になりました。つかの間の夜の時間に、音楽を添えてお送りします。

それでは、一曲目。

真夜中のドア/Stay with me 松原みき

曲紹介の後、音楽が流れ始めた。

" 恋と愛とは 違うものだよと
 昨夜言われた そんな気もするわ
 二度目の冬が来て
 離れていった貴方の心
 ふり返ればいつも
 そこに貴方を感じていたの

 Stay with me...
 真夜中のドアをたたき
 心に穴があいた
 あの季節が目の前"

真夜中のドア/Stay with me 松原みき

Songwriting 三浦徳子 林哲司

幻の楽園 Paradise of the illusion(一)

このストーリーに出てくる登場人物達は、何処にで

もいる。ごく平凡な人々です。

時には、傷つきやすくて繊細。

時には、一人で孤独な寂しがりや。

時には、誰かと恋をして愛し合い。

時には、誰かを傷つける。

時には、生きている意味さえ分からぬまま、何と無く生きている。

時には、過去を振り返りながら、未来に不安や希望を持って生きている人々です。

これは、私が初めて書いたストーリーなのです。

何処の知らない、素敵なあなたが読んでくれれば幸いに思います。

遥か彼方の記憶のオマージュ。

「ほら、大瀧詠一が歌ってたじゃない。

あの頃の輝きが懐かしいてさ」

幻の楽園 Paradise of the illusion(一)

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-04-02

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted