四月一日

 うつくしい、にんげん。
 あたしは、四月のこども。
 あのこたちは、にんげんのこども。
 のむのは、水。
 あたしは、さくらのジュース。
 うつくしいにんげんが、ひとり、またひとりと、あたしの目の前で消える、という現象。
 消えたと思ったら七日後に、また現れる、という現実。
 夢、ではなく、リアル。

 学校は、たのしいようで、たのしくない。
 たのしくないけれど、たのしいことも、あるっちゃある、って感じで、セーラー服を着て、きょうも、学校にいきます。
 ともだちは、多い方です。
 恋人は、いません。
 好きな先生もいるし、きらいな先生もいます。
 校長先生のなまえは、わかりません。
 きのうのテレビの話なんて、くだらない。
 アニメなんか、観てないし、野球もバレーボールも、興味ない。
 それからお笑いも、おもしろいひともいるし、おもしろくないひともいるなかで、あたしが、つまらん、と思ったひとが、人気者、という世界で、たぶん、あたしは、この世界に適合していない、ひと、なのだ。
 にんげんのこども、ではないから。
 四月のこども、だから。
 なんでもいいけれど、あたしがうつくしいと思ったものたちを、うつくしいと思わないひとたちのことを、あたしは歓迎している。
 あたしがうつくしいと思ったものを、ほんとうは思ってもいないのに、うつくしい、とウソを吐くにんげんは、どんなにおもしろくないお笑い芸人よりも、さらにおもしろくない、のですよ。
 はい。
 四月です。
 一日です。
 さくらのジュースをのむために、さくらの花びらを回収します。

 うまれる時代をまちがえた、と嘆くにんげんが、いた。
 うつくしいにんげんの、ひとりで、一度消えて、七日後に現れた。
 消えているあいだは、どこにいたの、とたずねたら、ピザ屋のピザ窯にいた、と言ったので、そのままピザになればよかったね、と冗談で言ったつもりなのに、ほんとうだね、と、シンケンに悩み始めちゃったので、あたしは、さくらの花びらをすりつぶす作業に、集中した。

「ぼくは、どうせうまれるのならば、恐竜のいる時代にうまれたかったな。恐竜が、好きだからね」

 にんげんが言った。
 あたしは、さくらの花びらをすり鉢で、ごりごりすりつぶしながら、ふうん、と思った。
 うつくしいにんげんは、憎たらしいくらい、うつくしかった。
 つやつやの黒い髪を生やし、アーモンドのような瞳を、くっつけていた。
 くちびるは、下の方がややぷっくりしていて、首は、噛みつきたいほどに、すうっ、と伸びていた。
 それから背中の、羽の白さも。
 ごりごり、ごりごり、さくらの花びらの、花びらのかたちがわからなくなるまで、すりつぶします。
 かたちあるもののかたちを、こわすということ、この手、で、この手が、なにかを、破壊する、ということ。
 消えたひとりめのうつくしいにんげんは、歌がうまかった。
 ふたりめはこどもと、お年寄りと、動物にやさしいひとだった。
 さんにんめは、王子さまのようにかっこいいひとで、さんにんとも消えて、七日後に現れて、ピザ屋のピザ窯にいたのは、よにんめで、あたしがうつくしいと認めたにんげん、六人いるうちの四人は、すでに消失と復活を経験していて、あたしは、消えて、七日後に現れたにんげんたちが、みんな、あたしの元を去っていくという、事実を、受け入れられずに、いる。
 四月一日。

四月一日

四月一日

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-04-02

CC BY-NC-ND
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