赤いレンガの大学

赤いレンガの大学

小さな書店の角を曲がると、赤いレンガに囲まれた大学がある
今、君はその前を確実に歩いている
百年以上経るその建物は、それだけで君を魅了するだろう
私も遠く東に思いをはせながら、その前を何度か通ったことがある
あの頃の私を、今の君に逢わせてみよう
それは少し無謀なタイム・リープと知りながら

向こうからくる君に、私は何と声をかけるだろう
「やあ、久しぶりだね、調子はどうだい」
―――ちがうな、そんなはずはない
「はじめまして」
―――いや、これも変だ
「君、どこから来たの」
―――これならいけそうだ、ただし当時の私にそれだけの勇気があればの話だが
それから、道路をはさんだ反対側にある大きな庭へ、君を案内するんだ
君は落ち葉に埋もれた庭を見て驚くだろう
でも君に見えるだろうか
その枯れた落ち葉の下に十年も前の青葉が、たった一枚、まだ色も失わずに眠っているのが
あまりに広すぎる庭の中、君は独りでその場所を探し当てることができるだろうか
私には判る、正確にその位置が
でも、やめよう
私が掘り出してみたところで、君は決して信じはしないから
「この青葉はね・・・」
私が説明し始めると、君は頼りない顔つきで、少し首を左に傾けながら、いつものようにこう言うんだ
「でも、どうして」
だからやめよう

そして再び、私は大学通りを歩いている
今度は君に声をかけることはないだろう
見知らぬもの同志として、すれ違ったことすら記憶にとどめず、君は君の道を西へ、私は東へと先を急がねばなるまい

赤いレンガの大学

赤いレンガの大学

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-03-28

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