松茸神社

松茸神社

 今日は家族でドライブを兼ねて秋のキノコ採りと栗拾いにと郊外の山へと車を走らせた。
 昨年も来ているので道は大体が見当が付く。昨年は運よく栗を沢山拾うことができ、茹で栗と栗ご飯をおいしく頂いた。そこから少し奥に入った所に「ナラタケ」が倒木に大量に群生しているのを発見して、栗拾いが一転して「キノコ採り」となったのである。
ナラタケは、白っぽい黄色や淡い茶褐色をしていて木々の隙間から射し込む太陽の光にキラキラと輝いていた。10分も採っていると手持のビニール袋が一杯になるほど群生していた記憶が蘇った。
『クックパッド』で調理方法を調べてみたが、結局は「味噌汁」と「鍋」に入れて頂いたが、徐々に飽いてしまい、大半はゴミ袋に捨てられてしまったのである。

 走り始めて1時間あまり、山道も中腹にさしかかり、いくつかの脇道を通り過ぎた頃、「うーん、確かこの脇道だったよな」とハンドルを右に切り10分ほど奥へと進んだ。

「よーし!ここだ!さて今年も栗から行きますか」と家族に声をかけ、リュックを背負って歩き始めた。ここはハイキングコースにもなっているようでそれなりに道も整備されていて歩きやすかった。10分ほど歩くと何となく見覚えのある木々の空間場所に着いた。
 高さがどのくらいだろう、自分の背丈を遥かに越えて伸びている。その大樹の周りには今年も毬栗(いがぐり)が沢山落ちていた。昨年帰って調べてみると、この栗は「有磨」という品種であることが分った。サクサクとして程よい甘味のある品物であった。

「よーし!みんなで手分けして拾おう!」と掛声を上げて近づくと
「???」「えっ!これは抜け殻ばかりじゃないか!」
「しまった先を越されてしまったか!」
 結局1時間近く家族4人で探し回った結果、20個程度の有磨栗しか採れなかった。
「残念だが栗は諦めよう。次はキノコ採りに行こう」と声を掛けたが、昨年の「ナラタケ」は今イチだったので別のキノコを探してみたいと思い、右の奥へ進むところを左の奥へと進んで行った。
 20分程歩いた辺りで「うーーん、どうも今年は外れみたいだな。どこか弁当でも食べて気分を変えて仕切り直しとしようか」
 元の道を帰り始めると、先ほどは見えなかった脇道が上に延びていた。何となく「第六感」と言うものが働いて、その脇道を上って行くことにした。

 暫くすると石段が見えてきた。そしてその上には古びた『社(やしろ)』が見えた。
「うーん、こんなところに神社があるとは。これは何か縁起の良い神社かもしれない」と一人勝手に思い込んで上がり始めた。
「お父さん!何か危ない感じがするわよ。止めた方が良いんじゃない」と長女が呼びかけた。
「大丈夫!お父さんには何か感じるものがあるんだ。きっと良い神さまが奉ってあると思うんだ。みんなもお参りしよう」と声を返した。
 石段を登り、狭い参道を歩くと正面に『お社』が見えた。屋根は瓦の様だが傷みが激しく変色して苔が方々に生えている。壁はところどころが剥がれ落ち通し穴の様に空いていた。見た感じ、今にも崩れ倒れそうなお社だった。
「やっぱりお父さん危ないからもう降りようよ」と不安げに長女が促した。
「まあ折角だから柏手の一つや二つ打って帰ろう」と拝殿に向い手を合わせかけた。ふと目下に小さなお賽銭箱らしき入れ物が目に入ったので、小銭入れから十円玉を取り出し投げ入れた。
 そして柏手を二つ打ち願いをこめる。
「うん?『二礼』をしてからだったような」
「まあいいや、信じること願う心が大切なんだし」と何とも軽々しい信心で『一礼』だけをした後になって、右手の柱に隠れる様に垂れ下がっている『鈴』が目に入ってきた。
「おかしな所にあるなー。普通は正面にあるはずなんだが。仕方がないもう一度仕切り直しだ」と右手にガニ股歩きで近寄って『鈴』を鳴らそうと思って麻縄を握ると、
「ガラガラガシャーーン!」と吊り下がっていた『鈴』の結び目が切れて、『鈴』は真下に落ちた後、右手の下り階段を転がり落ちて行ってしまった。
「えーーー!!うそだろう!!」「どうしよう!?」
 このまま放って帰るのはそれこそ『縁起が悪い』と思い、転がり落ちて行った『鈴』を拾いに追いかけて行ったのである。

『鈴』は「おむすびころりん」の様に下り階段を「ガラン、ゴロン、ガラン、ゴローン」と音を鳴らしながら階段から坂道へと転がって行った。
「おーーい!どこまで転がるんだ!もうそこらで止まってくれ!!」と思わず叫んだ。
 するとその『鈴』は、お父さんの言うことを聞いた訳でもないであろうが、数本生い茂っている『赤松』の前でハタと止まったのである。
 ようやく追い付いたお父さんが『鈴』を拾おうかとしゃがみ込むと、何とそこには見事な『松茸』が何本も生えていたのだ。
「うおーー!!マッタケじゃ!!マッタケが生えとるーー!!」と絶叫すると他の家族達が小走りに駆け下りてきた。
「うーーん、何とも香ばしい匂いだ!!」「これはあのお社の神さまのお導きだ!」と軽々しい信心のお父さんは大はしゃぎをしていた。
 根元を掻き分け優しく丁寧に摘んだ。他の3人も手分けして初めての「松茸狩り」をおどおどしながら摘んでいった。
「よーし、もうこれで充分だ。『鈴』を返して帰ることにしよう」と、片手に松茸が一杯になったビニール袋ともう片方には『鈴』を抱えながら坂道を上りそして石段を登って行った。
 10分ほど石段を登り切るとあの『お社』が見えてくる筈だ。
「???おかしい。あのお社はどこに消えたんだ!?」辺りは木が鬱そうと生い茂っているばかりで『お社』の姿は見えないのであった。
「お父さん気味が悪いよ!もうこんな松茸なんか捨てて早く帰ろう」と次女が震えた声を出した。
「そうだな、お父さんも冷や汗が出てきた。勿体ないが悪霊でも取り憑いていたら大変だから捨てて帰ろうか」と言って辺りを今一度見渡すと、一枚の古びた『看板』が立っていた。何か引き込まれるような空気に包まれて足を向けた。

 するとその看板には『松茸神社の由来』と言う文字が記してあった。
『この神社の御祭神は香茸山主命(こうじょうやまぬしのみこと)と申す。この神社に詣られ願う者に松茸を進ぜよう。但し願いは一度也。また此を他人に伝える事勿れ。もしこの置目を破った者には天罰が下ることを肝に命じるべし。また鳴り鈴はこの下に置きて帰るべし。』と記してあるのが判読できた。

「松茸神社か。するとあれは幻の松茸神社であってこの松茸は真(まこと)の品物か」
 喜ぶべきか、恐るるべきか。軽々しい信心のお父さんは
「よっしゃー!貰える物は貰って帰ろう!これだけあれば年中松茸三昧ができるぞ」と陽気に笑いながら山を下って行ったのである。

 その翌年、あの幻のお社辺りで「松茸」を沢山採って帰ったと言う話しを耳にした。そしてその人物は松茸を食べた後、重い食中毒で入院したと聞いた。
 信心は軽々しかったが、口だけは堅いお父さんは、一生分の松茸を堪能したのであった。

松茸神社

松茸神社

何となく「昔ばなし」にあったような題材をヒントに書き始めると長々となってしまいました。とにかく「面白く」そして「戒め」を含んだストーリーになるよう考えてみました。多分世の中には似たり寄ったりの作品があろうかと思いますが、自身のオリジナル作品として投稿しております。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 時代・歴史
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-03-23

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