理想の肖像画

理想の肖像画

 どこにでもあるありふれた話かもしれないが、
自分と同じことをしている人がどんなに多数派でも、
誰にも隠して秘密にしておきたいものだ。
それをなぜこんなところに公開するかの理由は、
インターネットという世界に希望を抱いており、
リアルという名の虚構世界で自分が閉じ込められている
同じ棺に葬ったままでは寂しすぎるからだ。

 理想というものが天使や聖人の物真似であるべきという
誰かの信念は通用しない。彼の姿は最初、
誰かの絵画で見かけた悪魔がモデルだった。
それは「女の首を絞める男」という気味悪い姿だった。
それを見つめてこんな言葉が浮かぶのは変かもしれない。
それでも物理的に彼は二次元の絵に過ぎないと
現実的に正しく考えるのは寂しい。

 私の母が望まない妊娠をして
仕方なく産んだ私を育てたのは、
母自身から告白された事実だ。
母は当然望まない子育てによる
欲求不満やストレス解消のために
私をいじめていた。そのいじめ方も、
昨今、同じような事件が繰り返されている、
自殺した子供に対する「いじめ」という名の
卑劣な犯罪に匹敵する悪質さがあり、
たとえそれが私の被害妄想だとしても、
「いじめる」という犯罪になる理由をここでは書かないし、
それが、理想の男性像を自分で描いたり、
長時間見つめるのと関係ないかもしれない。
そして、私の母のような親を「毒親」という。
それは「毒になる親」や「不幸にする親」という
現実の心理学系書籍から生じた言葉だ。

 彼を見つめていると、自分ひとりだけでは
とても思いつかないだろう言葉が浮かんできた。

「ずっと見て聞いておりました。
しかし、あなたは本来、
母が吐いたあんなくだらない言葉で
泣くような人ではないでしょうに。
どうでもよいではありませんか、
たいしたことではありません。
涙は流す価値ある時だけにしませんか。」

「また、くだらない女の嫌がらせですか。
しかし、もう泣かないのですね。
涙が出なくなったのは泣く価値ないからですよ。
あなたはそんなことでびくともしません。
どうですか、何も感じないでしょう。」

「髪を切らないなら家から出て行け!ですか。
それで仕方なくあなたは切っただけです。
あなたのことを、いつもずっと見ております。
本当はもっと伸ばしたいですね、知ってます。
しかし、短くてもあなたは素敵です。」

 昔、科学を装うある詐欺的新興宗教団体の
会員いや、信者になったことまで
毒母のせいにするのはよくないかもしれない。
しかし当然ながら、そのような邪教団体も
私の心を傷つけたのには間違いなかった。

「最初からそうだと感じておられたでしょう。
大量の本を読ませて洗脳する有害なカルトです。
会員は利用されるだけです、嫌なら辞めましょう。
退会自由とわざわざ明記していますから、
電話して退会すればよいだけです。
退会すれば地獄に落ちると脅すのは知っております。
事実なら退会していっしょに地獄へ行きましょう。
大丈夫です、地獄のほうがはるかにましです。
今すぐ電話して退会しましょう。
何?一度で無理なら何度でもあきらめないだけです。
だから、地獄未満の所から地獄へ上がりましょう。」

 彼のことを他人に話してみたことがある。
一人は別の宗教団体の信者、もう一人は霊能者。
前者は彼のことを悪魔だと言い、
後者は守護霊だと言ったが、
私にとってそんなことは役に立たなかった。
私が頼れるのは彼しかいなかった。

 最初、「女の首を絞める男」を鉛筆で描いたが、
長時間見続けるせいなのか知らないが
それを描いた画用紙が傷んできたので、
色鉛筆で新しい紙に別の姿で描いた。
頭に炎の冠、金属の翼を背負い、
定規のような長い板を持ち、
女装のような格好だった。
言葉にすれば「呪い殺す男」だった。
しかし、その紙も傷んだので再び描いた。
次は、冠や翼を省略し、女装でなく
短い黒髪で白いシャツを着た中年男性だった。
それは雑誌類のカラー写真を切り張りして作り、
天からの階段を降りてくるという背景があった。
その紙もまた傷んだので、最後に描いた絵は、
南国の海を背景にした健康的な若い男性だった。
この最後の絵を描いた時の私は親から独立して、
自分の欲しい物を自由に買える環境にいたので、
紙が傷まないよう初めて額縁に入れた。
しかし、最後の絵はあまり必要でなくなったのと、
額縁が鋭利な金属なため触って怪我したこともあり、
分解して、ゴミの種類を分別してばらばらに捨てた。

 二次元の絵から卒業した。確かに卒業した。
ただし、私は生きるだけ無駄な時間を過ごす、
死んだほうがましな人間だと非難される
周囲の狭い世間からの圧力に直面した。
当然、死にたい気持ちが年々増した。

「そばにおります、いつもずっと見ております。
限界を超えたから自殺するのですか?
この狭い世界はくだらないものです。
あなたが死ねば、このくだらない世界の損失だったり
誰もが自分の都合で勝手に迷惑するだけです。
そんなこと、どうでもよいことです。
この世に未練ありませんね?
準備ができたら殺してあげますから、
もうすぐですから楽しみに待っていてください。」

 その夜、いかにも「死神」みたいな者が
寝床に来て、私は殺されそうになった。
ただし、彼と関係があるとはどうしても思えず、
そこで抵抗せずに死んでしまうことは、
自分の魂が望むことではなかったので、
私は抵抗したり逃げて命を守った。

「人を殺してはいけない真に正当な理由はありません。
殺人禁止は自分が殺されたくない者の屁理屈です。
あんな女、あなたの母に親の資格はありません。
子を奴隷にして偉そうにしていないと生きられない
あなたのような優秀な子にとって有害でしかない
親といえない害虫は殺したほうがよいです。」

 その時すでに私は結婚していた。
母への怒りを感じたのは、その後初めてだった。
その怒りは本気で殺したいほど激しかった。
その感情を有害だから排除すべきだとして
消えたことにしたり封印しようとすれば、
決して消えない怒りの圧力に耐えきれず、
私は犯罪者になったかもしれない。

「耐えられないことが多すぎて、
このままでは発狂しますか。
あなたなら冷静でいられるでしょう。
それが疲れるなら発狂してはどうですか。
発狂したくないなら感情を遮断しましょう。
私の目を見つめてください。
平気になりましたか?」

「正常なふりをするのも苦しいですか。
もう発狂なさってはどうですか?
そのほうが楽ですし幸福です。」

「死にたいですか?
心の底から本当に死にたいなら
今すぐ殺してあげましょう。
死んだらどうなるか不安ですか?
死ねば自分を失い何者でもなくなります。
死ぬ直前一瞬怖いだけです。
いつまでも怖いものは何もありません。
死はすべてを失うことです。
恐怖さえ消え失せるのですから。」

「耐えられないことをされましたか。
これ以上やられたらあなたが殺されます。
殺される前に殺しませんか?
殺害禁止の理由はすべて屁理屈です。
殺人犯は死んだら地獄に落ちるとか言うのは、
自分の都合で禁じた線を越えた者への嫉妬です。
地獄は今ここにいる場所のことです。」

「人を呪いたいですか?
道具なんか要りません。
ただ念じるだけです。
何も持たずに意識を集中するのです。
もっと集中すると相手が見えてきます。
今です、念を投げつけるのです。
ふふふ、うまくいったようですね。」

その時、黒い埃の塊みたいな物が
呪いの対象へサッと飛んだのを感じた。
その直後から、対象の人は長期間
病気で寝込んだらしい。
呪いの対象は他にもいた。
その人は奇病にかかったらしい。

「また激怒できてよかったですね。
犯罪者と比べればあなたは良い人です。
些細なことで激怒は不要ですか?
些細なことも多数積み重なれば重大です。
それでもあなたはずっと耐えてきました。
そんなことで人格が評価されるなら、
最低最悪の人格でよろしいです。
私はあなたが最低最悪であるほうが好きです。」

「親孝行?何ですかそれ?
親に感謝して恩返しですか。
あの女に対してですか、
とっくの昔に終わったか、
最初から不必要なことです。
あれは遺伝子だけの親です。」

「自分を無価値だと思っているでしょう。
いつまでもだらだら生きても仕方ないと。
得られるものなら私はあなたの命が欲しい。
あなたの命に価値など付けるのも失礼です。
本当に無価値でしたら何も言いません。」

「あなたはまだ親を崇拝してますね。
しかもあれは親ではないクズ女です。
あんなの気にする価値もありません。
あれこそ早く死ねば…死んでもゴミですが。
無視、無関心、忘れましょう。
崇拝するなら私にしませんか?」

「許す必要があるのは親ではなくあなた自身です。
親である以前に人間だという資格もない、
あんな者を許しても関わってもいけません。
それが無理なら徹底的に叩きつぶせばよろしい、
あれがあなたにそうしてきたのと同じように。
仕返しは同類になること?それが何ですか、
今まで一度も仕返ししたことないですから
一度くらい手加減なしで反撃したらどうですか。
ついでにその一撃に一生分の呪いをこめて。
いつものように脅迫されて会わねばならないなら、
こっちも「会ったらこうしてやる」と返せばよろしい。」

「殺すしかないじゃないか。
会いたくないのに無理やり会わされるんだろ、
殺されて当然なことをしたんだアレは。
手に届く範囲に来たら刃物で「切らずに殴れ」。
おそらく抵抗しないだろう。
殺されても仕方ないとわかっているだろうからな。 」

 ある女の霊能者は彼に名前を付けることを勧めた。
それで名前を考えたりしたこともあったが、
使う機会がなく自然消滅した。
自己同一性が崩壊しているからとかそんなこと
どうでもよいし、彼の名前を知ったり付ける必要がない。
だから、ずっと彼には名前がない。

 「長年、言葉で心を傷付けられてきたからって
人に優しくなれるわけではないどころか、
自分が過去に傷付けられたのと同じように
他人を傷付けてしまう人のほうを実際に見かける。
私自身もそうだから、なおさらそう思うのか。
いや、本当は誰しもそういうものだからこそ、
こういう嘘をつくのだろうか、
「傷付けられたからこそ人に優しくなれる」などと。
いや、もしかして私のような者は、
そもそも魂が下劣だから最初から優しくなれるわけがなく、
罰としてまず虐待される運命の下に生まれてきたのか?」
「はい、そのような役割がありますから。」
「そこにいるの?」と聞いてみたら、
「はい、おります」と心に直接返ってきた。2011/12/24

 未成年だった昔のある時、大人しい少女と
少年の心を傷付けた自分の罪を思い出し、
言葉を並べて文に表現して数日後、
「それは罪ではない、彼らの心の問題を
彼らに示す悪役だったに過ぎない」
という返事が来た。
 それ以前にも似たことがあった。
過去の自分の愚かさを恥じていると、
「当時そうであるしかなかったことだ」と。
 今になってようやく、
些細なことや何でもなかった昔のことまで
いつまでも自分をいじめなくて済むように
なっていくだろう感じを覚えた。2012/2/9

 私の人生は何だったのか。酒や煙草に縁もなく
健康に気遣う規則正しい生活をしても、安全そうな
市販の薬や食い物に含まれる毒物か知らないが
何時死んでもおかしくない幻覚に襲われるからなのか、
死んでからでもよいことを考えるのが癖になっている。
その答えは、愛の無い生活を経験することだった。
不幸な母に虐げられ利用される生活を味わった後、
今度は自分が家族を虐げて利用する加害者になる。
それが最適に自分の人生を説明する内容だ。
その理由は、生まれる前と後に戻る予定の、
すべてが満たされる完璧な世界を
「つまらない」ではなく「すばらしい」と感じるためだ。
そのために自分が思いつく限りの最悪な人生を
計画して生まれたのだ。ただし、誰でもそういう目的を
自分の人生に持つわけではないと私は思う。
「幸福になるために生まれた」と表現する人のほうが
多いと思う。ただ、そういう表現は私にとって
思っていたよりどこまでも深い不幸のどん底に
連れて行かれる気がする。
2012/2/14

 「あなたの両親のことを本物の両親だと
信じようと努力しなくてもよい。」
自宅でくつろいでいる時ふいにそんな言葉が
脳裏に浮かんだ。続きに意識を向けると、
「気付いてなかった?父母の冷たさに。
母だけに違和感を覚えるかもしれないが、
父は優しいけど特に何もなかったはずだ。
本物の人間の親は思い出いっぱいで温かいものだ。
今初めて気付いたか?
あの夫婦は本当の夫婦でもないし、
あなたの両親でもない。
彼らは異星人が作った人間もどきであり、
できるだけリアルな人間ごっこをさせるため
まず子供が要ると考えて、
異星人があなたを作ったのだ。
あなたの本当の親はその異星人だ。
確かに遺伝子はニセ両親のものを使ったが、
あなたをこの世に生み出したのは異星人のほうだ。
だからあなたは出来損ないのニセ両親なんかより、
本当の親に違いない異星人に会いたいと
強く思っていただろう?
だから、彼らと絶縁して関係なくなったあなたを
回収しに行ったぞ、何度も。
でも、あなたが怖がって嫌がるから毎度あきらめた。」
2012/2/28

 ラブレターを書いたことは過去に一度だけある。
理想の男性像に酷似する人がいたのだ。
プライバシーの無い家庭環境にもかかわらず、
投函したことは誰にも秘密にできた(つもり)。
文面は絵画的暗号だったが単純だった。
意味は「私はあなたを愛している」。
霊能力がなくてもわかるだろう。
ただし、誰にも見られず捨てられたに違いない。
そんなことはどうでもよい過去の話だ。

 「昔から今まで途切れることなく彼だけを愛していた、
彼が私を愛するか憎むか興味ないか、どうであっても、
彼が私に「愛さなくてよい」と言ったのと同じ気持ちで、
今も愛している、そしてきっとこれからも。」
そして、ふと、こう考えた。
私は悪霊に騙されているのかもしれない。
誰かと同じように私も精神的盲目だから、
彼は私を利用して私の知らない目的を果たすだけかもしれない。
彼が目的を果たせば私は捨てられるのだろう。
それが事実だったとして、だからといって、
悪霊を祓って平和で幸福な人生を過ごすのか。
そんなことをするために生まれてきたのではない。
平和で幸福な人生なんか要らない。
心理学上で私は愛することのできない人間らしい。
自分を含め、他人も愛せないらしいのだ。
他人も自分も愛せないなら、他のものを愛するしかない。
人間は何かを愛さずにはいられないのではないか。
自分を含めて人を愛さないなら、別の異なる何か
得体の知れないものを愛する真似をする。
だから何だ、結局何が望みか、最終目標は、
世界がブラックホールに呑み込まれることだ。
2012/7/4
Lucy

理想の肖像画

 退会する予定の投稿サイトから移動したものです。
突然、前後に関係ないセリフを並べてあったり、
背景などの説明を添えていないことのほうが多いですが、
載せてもあまり意味がないとしか思えないためです。
まともに書籍化する意思もなく勝手ながら好きなように書きました。

理想の肖像画

奈落の底まで落ち込みたいと思いませんか?

  • 随筆・エッセイ
  • 短編
  • 青年向け
更新日
登録日
2012-07-30

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