僕の生活/私の生活

三題話

お題
「夜の仕事」
「付箋」
「応援」

 もぞもぞと、何度か寝返りを打ってから身体を起こした。
 午後九時過ぎ。寝室を出てリビングに来ると、テーブルの上には畳まれた洗濯物と何枚かの付箋紙があった。

『あなた宛の手紙と荷物があった』
『余ったごはんはタッパーに入れて冷蔵庫へ入れてある』
『食料が少なくなってきたから、可能なら補給をお願いしたい』
『質問の答え:私はテレビをほとんど観ないが、契約してもいいと思う。視聴料は折半にしましょう』

 洗面所で顔を洗って、水を一杯飲んでから洗濯物を寝室へ運び、服を着替えてリビングへ戻った。
 タッパー入りのごはんを電子レンジで温めて、ふりかけで味付けをして食べる。面倒だし時間もないからおかずは無し。
 同居人がいる寝室の扉をちらりと見て、僕は携帯電話とサイフをズボンのポケットへ突っ込んでキーケースを手に持ち玄関へ向かった。
 しっかりと戸締りを確認して、歩いて数分のバイト先へ向かう。
 こうして夜の仕事をしていると昼夜が逆転してしまうからやっかいだ。遊ぶ友達はいないからいいようなものの、こんな生活をしていたら独りぼっちになりやすいじゃないか。
 友達のいない、バイトと買い物以外は家にいる僕にはお似合いの仕事だ。
 家から近すぎてこんな戯言を頭に思い浮かべただけですぐにバイト先へ到着してしまう。
 ゆっくり考え事も出来ない。
 まあ、考え事なんてないからいいんだけどさ。
 午後十時、バイト開始。

       …

 午前六時、バイト上がり。
 二十四時間営業のスーパーで適当に買い物をしてから家へ戻った。
 買ってきたものを冷蔵庫にしまってからリビングにあるテレビの電源を入れると、午前七時を過ぎたところだった。
 それから食事を摂り、パソコンでサイト巡りをしつつ洗濯も済ませて時間を消費した。
 午前十時前になってあくびが多くなってきたところで、パソコンの電源を落として付箋紙とペンを手に取る。

『荷物の受け取りありがとうございました』
『ごはんはいつも通り冷蔵庫です』
『適当に食材を買い足しておきました』
『では視聴料は折半ということでよろしくお願いします。詳しいことはまた後でお知らせします』

 テーブルに付箋紙を貼って、連絡完了。
 これでもう寝ようかと思ったが、少し迷いながら僕はもう一枚、質問を加えることにした。

『一つ質問です。この生活、大変ではないですか? あなたは嫌になったことがありませんか?』

       ◇

 携帯電話のアラームで目を覚まして体を起こす。
 午前十時。寝室から出てリビングのテーブルにある付箋紙を横目で見ながら冷蔵庫へ向かう。
 起き抜けに冷えた牛乳を一杯。高確率で下痢を引き起こすがこの日課はやめられない。
 次にタッパーのごはんをレンジで温め、目玉焼きとベーコンをおかずに朝食とする。
 テーブルの上に貼られている付箋紙のメモを読むと、気になる文章があった。

『一つ質問です。この生活、大変ではないですか? あなたは嫌になったことがありませんか?』

 もうすぐ二年になろうとしている二人の共同生活。生活時間が真逆で顔を合わせることもないけれど、こうして大きめの付箋紙を使った交換日記のようなもので意思の疎通を図っている。
 最近は彼がいろいろと質問してくることが多くなった。今日のように、直接二人の生活とは関係ないような、なにか思想を探るかのような質問。
 初めのころは応援や励ましの一枚があったものだが、いつの間にかそれはなくなっていった。
 この質問に対する私の答えは『何も考えていない』というのが実際のところだ。
 大変なのかもしれない。でももう慣れたものだし、今更やめようとも思っていない。お互いに友達も恋人もいないのだから、家賃を折半するということだけでこの生活が成り立っている。
 嫌になったことは、ないわけではない。でも今は何も不満はない。
 だからこのままでいいのだと、私は思っている。
 食後に胃腸薬を飲んで、パソコンのメールをチェック。
 そして午前十一時半、仕事へ向かうため家を出た。

       …

 午後七時前に帰宅したが家の中はひっそりとしていた。同居人はまだ寝ているのか。
 食事を済ませてから洗濯をして、寝室へ向かう前に付箋紙を手に取る。

『質問の答え:私は、特に不満はない。あなたには不満があるのだろうか?』

 午後九時過ぎ、私は眠りに付いた。

僕の生活/私の生活

僕の生活/私の生活

自分以外の誰かからいただいた3つのお題を使ってSS

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-03-13

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