近江町コロッケ

金箔と兼六園が美しい雅を生む町、金沢。
その金沢には美味しいものを沢山置いている、近江町市場がある。地元の人々は店先で軽い会話に笑顔を咲かせ、観光客は物珍しい加賀野菜や海の幸に目を泳がせる、朝から活気溢るる場所。
今回私はここに友達と来た。寝坊を決め込んで朝ごはんを食べそびれたこと、もうお昼時だったこともあって、私たちのお腹はいい感じに空っぽだった。
奥には人が歩き回る近江町市場の入り口に立った瞬間、感じたのは磯と香ばしい油の匂い。左手の鮮魚店と右手の近江町コロッケ店からだった。
私たちはまず観光ガイドに載っていた、近江町コロッケを食べてみることにした。
列に並んでいる間にショーウィンドウを覗いて見ると、様々な種類のコロッケが自信ありげに腰を据えていた。甘エビ、たこ、枝豆、昔風、ウズラ、カレーパンなどなど。オーソドックスもあり変わり種もあった。名前を友達と読み上げるだけで耳の後ろが痺れて涎が出た。レジ前のおじさんを待たせ選び選び抜いて、私が選んだのは甘エビと枝豆、友達はタコとカニクリーム。
おじさんから渡されたコロッケは紙の袋に入れられていて、其れから優しく伝わる熱は私たちの募る期待をさらに大きくした。人の波が激しくなったこともあって数歩歩いた、その間でさえも頭の中は指先の温みと紙に擦れる衣の音だけ。
やっと落ち着いた場所で、友達が袋からコロッケを取り出すのを待ちきれず、どちらの味か確認もせず手に当たったコロッケにかぶりついた。

ジャクジャクジャクッ。

荒目の衣と程良く染みた油が、前歯と舌の間で弾けるようだった。思わず小さく唸る。それを見ていたのか、商品を並べていたおばさんがこちらを見て目を細めた。優しい笑顔だった。
おばさんに軽く会釈をしてまたコロッケに集中。
一つ目は「甘エビ」だった。白に近いピンク色が美しい海老と茹で卵が入っていた。すぐに飲み込んでしまうのが勿体無くて控えめに噛んでみると、プリプリの海老がほのかな磯の香りを口中に広げる。
私がいつも食べているコロッケはいつも冷えていて中身がモソモソしている。まるで水分を吸い取るクッキーのように。
だけどこのコロッケは違った。
トロトロとしていた。マッシュされ切っていない、確かなジャガイモの食感は残っている。イモ本来の甘味ととろみが調理の過程を経ても尚生きていた。
飲み込むのはもう惜しくなかった。次の一口が早く欲しかった。
隣を見ると友達も夢中でコロッケにむしゃぶりついていた。ザクザクと心地の良い音が私たちの間を一定のリズムで浮かんでは消える。
二つ目は枝豆。これも美味しかった。枝豆のコリコリな歯ごたえを残しつつ、香ばしい豆の風味を損なう事なく柔らかいイモが包んでいて、絶品。
あっという間に二つ食べてしまった。何も入っていない紙袋は寂しかった。
友達も空の紙袋を手に余らせていた。
何とは無しに視線がぶつかった私たちは、脇目も振らず食べたお互いに照れて笑った。
私たちが知っていた近江町は、まだ入り口近くであった。

近江町コロッケ

すごく美味しかった。皆さんも金沢に寄った際は近江町市場、近江町市場に寄ったら近江町コロッケへ。

近江町コロッケ

すごく美味しかったので。ただ食べてるだけの内容。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-03-13

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