月のアライグマ

アライグマのゆううつ

海辺に住んでいるアライグマは、いつも動物たちや魚たちの洗い物をするのが、いやでいやでしかたありませんでした。

あるとき、アライグマは神さまにお願いしました。
「どうかわたしを、近くの農家に勤めさせてください。そこでわたしは、食事をつくりたいのです」
神さまは、農家を紹介してくれました。アライグマは、バッタやカエル、ヘビなどを料理してお百姓さんに出しましたが、お百姓さんは、気味悪がって、食べようとしませんでした。

アライグマは、がっかりしました。
「こんなおいしいものはないのに」
カエルだって、料理次第ではおいしくなるんです。でも、人間とアライグマでは、やはり好みが違うのです。
 
あるとき、白浜でカニを追いかけていたアライグマは、ふと海を見てこう思いました。
「海はいいなあ、なんの文句も言わない。わたしは、海になりたい」
 

するとどうでしょう。アライグマは、海になっていました。
海になったアライグマは、さまざまな魚たちを懐に抱きしめ、一生懸命、岸辺に波を打ち寄せました。

ざばーん、ざばーん。
太陽が出てきて、じりじりと海を照らします。魚たちは、とても活発です。昼にエサをとる魚。夜に狩りをする魚。プランクトンを食べる魚。
毎日、毎日、波を岸辺に打ち上げているうちに、だんだんアライグマは、飽きてくるのでした。
 

東の空から、太陽が昇ってきます。今日がまた、はじまるのです。
考えてみると、太陽ほど動物や魚たちを暖かく見守ってくれるところはない、とアライグマは思いました。
「太陽はいいなあ。みんなが感謝している。海だったら、これだけ一生懸命つくしても、当り前って顔する魚もいる」
 

と、アライグマは思いました。
するとどうでしょう。アライグマは、太陽になっていました。これでもう、だれにも文句は言わせません。
「神さま、ありがとう」
アライグマはそういうと、がんばってみんなを照らし始めました。
春の日は、ぽかぽかと照りわたります。
きらきらと、海の波がきらめきます。
ぴんぴん、魚がとびはねます。
太陽になってよかった。
アライグマは、胸がいっぱいになりました。
 
 
ところが、季節が変わると、いつまでもぽかぽかと照らすわけにはいかないのでした。動物たちからは、「もっと照らしてほしい」「いや、暑いのはいやだ」と注文をつけられます。魚たちは、「卵を産むから、夜を長くして」という注文も来ました。アライグマは、つらくなってきました。
 

しずしずと、月が海から昇ってきます。その表面には、くっきりと湖が見えています。
「ああ、久々に洗い物がしたい。勝手かもしれないけど月の湖に行って、思いっきり洗濯物をしたい」
アライグマは思いました。
するとどうでしょう。アライグマは、月の上にいました。

月の湖に、数え切れないほどの洗濯物が置かれています。

それは、魚の着物や、獣の洋服などでした。

魚たちと獣たちが、月の湖岸に立っておじぎしました。
「いままで、わがままいってごめんなさい。どうか、わたしたちの洗濯物を、洗ってください」
「いいですとも!」
アライグマは、張り切って腕まくりしました。
 
 
いまでもアライグマは、月の湖で、動物たちの洗い物をしているそうですよ。

月のアライグマ

月のアライグマ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-03-13

CC BY
原著作者の表示の条件で、作品の改変や二次創作などの自由な利用を許可します。

CC BY