またね。

手を振った
「またね」と言葉にして
それは 次があることの約束
それは また会えますようにというおまじない

ブランコに乗ってはしゃぐ君の小さな背中を
この小さな手で 精一杯押した
ケラケラと笑う君につられて 僕も笑った
地面いっぱいに咲いたシロツメクサ
一生懸命になって作った花冠
服が泥だらけになるのも構わずに 遊びまわった
僕らを包んでいた穏やかな空気も 優しい時間も
何年も経った今でも 昨日のことのように思い出せる

大人になるにつれて少しずつ 二人で過ごす時間が減っていった
君は僕よりも先に
「将来」という時間に縛られるようになって
僕とは違う世界に行ってしまったように思えた
僕は一人でブランコをこいで
一人でシロツメクサを摘んで
それでも 君のようにうまく花冠は作れなくて
服が泥だらけになることはなくなった
そのうち僕も 二人で遊んだあの公園で 遊ぶことは少なくなっていった

真新しいランドセルを背負って 真新しい制服を着て
そんな日々が 悔やむことも出来ないほどに
あっという間に過ぎていき
君がこの街を出てゆくことを知った
僕がようやく 真新しい制服に慣れてきた頃だった

あの頃より背もずっと伸びて 大人びた横顔を見て
僕は何も言えずにただ笑っていた
風にあおられて 君のワンピースの裾がふわりと揺れる
この風は あの頃と何も変わってないのに
僕たちの過ごしてきた時間は こんなにも違うんだね

「バイバイ」
ようやく口に出来たのはそれだけで 僕は小さく手を振った
そんな僕を見て 君はやわらかく微笑んで
「またね」

それは あの頃と同じ
また 会えますようにという 僕らのおまじない
また 次があることの約束
目のふちに暖かい雫がこみ上げるのが わかった
こんなにも 手離したくない時間があった
こんなにも 消せない思い出があった
今更のようにわかるなんて わがままだけれど
君が決めた未来を 僕が止めることなんて出来ないから

泣き出しそうなのを気付かれないように
また 会えますように
君の未来が 輝いたものでありますように
そんな願いを込めて
「またね!」
僕はそう言って 大きく手を振った

またね。

"別れ際に、バイバイって言われるのはなんだか寂しい"
知人がそう言っているのを聞いてから、別れ際には"またね"と口にするようになりました。
再会できる保証なんて本当はないけど、"またね"という言葉が希望になることもあるかなと思います。

またね。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-03-01

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