ノーマルタイプ

一人目

僕にはこれといった特技がない。
 学校の成績で5をとったことはないし、足が特別速いわけでもなければ、面白いトークや優しさ、リーダーシップが他の人より秀でていることもない。
 全てにおいて平均。真ん中であることにおいては僕に勝るものなどいないと思う。
 この無駄な自信だけは、人一倍優れていると思っているけど。
 だからこそ。自信だけがあったからこそ、僕は今の仕事が続けられていると思う。

 人を難しい悩みから逃れる手助けをする、この仕事が。

 「で、どう思うんだ。俺の財布がどこへいったのかわかるか」
 今日は探し物か。
 「君、確か、2年6組のサワダ君だよね。 部活動はサッカー」
 そう言うと、サワダ君は目を見開いた。
 「よく知ってたな俺のこと。なんだ、超能力者なのかー、お前」
 と、両手で僕の両肩を掴み、前後に揺さぶってきた。結構首が痛いんだけど、スクールカースト最上位のみなさんにとっては普通なんですかね。
 というか、ひょっとして俺忘れられてる?
 「体育の時間は5組と6組の合同授業でしょ。きみは運動神経がいいからよくわかる。僕は6組のタナカだよ」
 「あ、そうだったな悪い悪い。それで、俺の財布の場所はわかるか」
 全く、どこまでもマイペースな男だ。もしかしたら、これくらい自分勝手に人を引っ張っていくことができる人間ではないとリーダーなど務まらないのだろうか。
 「で、君のお財布の話なんだけど、やっぱり、さっきの君の話を     聞く限り、まだサッカー部の部室に置いてあるんじゃないかな。無くしたことに君が気がついたのは、昨日、帰りがけにコンビニに行ったとき。その直前までは部活動があったのだから、そう考えるのが妥当だと思う」
 そんな最も当たり前のことを言っただけで、サワダ君は感心したような顔で僕を見つめて、
 「ありがとう」
 と、まっすぐに言った。
 その後、サワダ君はサッカー部の部室に行き、自分の財布を見つけたそうだ。
 
 
 ーー直感タイプのスクールカースト上位者は、少し考えればわかることでもすぐに人を頼る。
 そう、今日の活動記録に書き込んだ。
 僕が立ち上げた部活動『カウンセリング部』は、表向きには、困っている人に助言をして人助けをすることを目的とする。しかし、本当の目的は、いろんな人と話し、データを集めて、将来的に、『ただの普通の人』を卒業することだ。
 この活動をするだけで普段は影が薄くて滅多に得られない人望も得ることができて一石二鳥である。
 なぜなら、僕は普通である自分が好きじゃないから。もっと特別な存在として見られたいからこんな活動をするし、それを研究して実行し、今より魅力的な人間になりたいとも思うから。
 
 僕の自信しかない性格に似合うだけの人間性が欲しい。


 ーーそう思うのも、きっと僕が普通の人間だからだろう。

ノーマルタイプ

ノーマルタイプ

普通な人間が必死になって普通じゃなくなるように頑張る物語です。初作品なので、多くの人に見てもらいたいと思います。よろしくお願いします!

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-02-25

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