セラピー


「どうしてだろう。どうしてなんだろう」

「なんだい」

「いつも、同じ夢を見るの」

「つづけてごらん」

「最初はスクランブル交差点のど真ん中に立ってるの。
そのことがわかった瞬間に、人人がこっちに向かってきて、私はその人の波に飲み込まれるちゃうの。
もう駄目だ、って思った瞬間に、次にわたしは海の中に漂ってて、ずんずんと海の底に飲まれていくの。」

「すると、どうなるんだい」

「私はどんどんと海の中に飲まれていって、底の底に沈んでいくの。
つぎは底の底。
こんどは底の底の底。
どんどんと底の底の底の底の底に沈んでいくの。」

「それで、きみはどうなった」

「底の見えない底に向かっていくの。
するともう考えるのも馬鹿らしくなっちゃって、気づいたら自分の首を締め上げようとしてたの。
でも全然苦しくならない。
力をどんどんどんどん加えていっても、どうしてか苦しくないの」

「それで」

「なぜだか知らないけど、いつの間にか私は、泣いてたの。
涙が溢れて止まらなかった。
そしたら本物の海の底が見えてきたの。
ああ、やっと地面に体をつけられる。
やっとたどり着くっておもってたら、目が覚めたの。
先生、私はなんで泣いたんだろう。
なんで自分のことを自分で殺そうとしたんだろう」

セラピー

セラピー

セラピー患者と先生のやりとりの一部を抜粋したような作品です。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-02-17

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