少年

 早く大人になりたい。
あの時の俺は、ただその事だけを真剣に考えていた。自らが選んだ希望の適職に就き、好きな女性と結婚をし12歳の僕には到底経験のできない卑猥な行為や、両親が美味しそうに飲みほす冷えきったお酒の味、ストレスが溜まっているからと周りに害を放出する煙草、何もかもがあの時の俺にとっては、魅力的な物ばかりに見え大人はずるい生き物だと勝手な先入観をしていた。
 
今となっては、もうじき三十路を迎えようとしてる俺は、公園で無邪気に遊ぶ小学生達を見て腹立たしく思う様になってきた。遊んでいる子供には、まだ今からは手遅れにもならない夢や野望があり、誰々があいつの事が好きだ何ていう初な思考回路もしている。馬鹿馬鹿しくて嘲笑いをしてしまいそうになり俺は、ただただ下唇を噛みしめ子供の前では、見せまいと笑いを堪えた。
 
 夢は、漫画家だと言ってたのは18歳の時までであり落選した新人賞の数は、はかり知れず俺にとって夢という物は絶対に叶わない無意味な妄想であったのだと気づかされる様にいつのまにかなってしまっていたのだ。夢を無くした俺がこれから向かう場所は、一体何処にあるのだろうか、それともただ息だけをするかの様に、なりたくもない安定とした職に就き、年齢を重ねて行くにつれ不仲になる嫁と結婚をし、父親という立場であるにも関わらず娘から毛嫌いされ距離を置かれるかの様に、遠退かれていく。
 
こんな未来ならばいっそ死ぬか消えてなくなりたいと大学を中退した21歳の俺は、今までずっとそう考えてきた。
 
俺にとって死ぬよりも怖い事が、意味もなく生きていくという事なのだ。
 
ゆとり世代だから、容姿が悪いから、学歴が悪いから、貯蓄がないから、人間とは何もかも己が決めつけた価値観を、他人へと強引に押し付け自分自身が優位に立とうと勝手な優劣関係を作ろうとする。
 
こんな世の中に、誕生した俺という存在が駄目なのかもしれない。俺は、生きることを諦めました。
 
どうせ大人になるのならば、他者から反感を貰おうが俺は、あの時の無邪気な少年の心のままでいたかった。

少年

少年

初投稿の小説になります。 夢というものを純文学に例えてみました。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-02-14

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